漢会議3




「ちょっと1発ぶん殴ってきてもいいッスか?」

「まぁまぁ落ちつけっておチビ」

「そうだ越前。桃城のアホ面なんて今に始まった事じゃねぇだろ」

「アホ面ぁ?当たってるけど・・俺以外の人が言うと何かムカつくんスよね」

「はぁ・・?俺は本当の事しか言ってねぇからな」

「コラコラそこで始めちゃ駄目じゃん」


桃城が越前のモノマネをしてにやけている頃、教室の前では越前と海堂が睨みあっていた。

その間を菊丸が割って入る。


「不二も止めてよ。これじゃこっそり見てるのバレちゃうじゃん」

「えっ?あぁ・・そうだね」


ぼんやりと教室の中を見ていた不二が振り返る。


「2人ともそこまでにしとかなきゃ・・潰すよ」


鋭く開眼された目が二人を見つめる。


「えっ・・?」

「あっあの不二先輩・・?」


言葉を無くす越前と動揺する海堂。不二の顔がフッと緩んだ。


「なんてね。ほら次が始まるよ」


不二に促される様に3人の視線が教室に向く。

その頃教室の中では次の人物が話始めようとしていた。


「では次は俺の番だな」


桃城の発言が終わり、俺の恋人が1番可愛いと心の中でおのおの再認識した頃

乾が鞄の中から新たなノートを出した。

大石がノートを凝視する。


「乾。そのノートは・・・?」

「これか?これは別冊マル秘海堂ノートだ」


乾が大石と桃城に見える様にノートの表紙を見せた。

そこには大きく別冊マル秘の文字とその下に海堂No.11という文字が書かれている。


「別冊マル秘って・・・マムシの奴知ってるんスか?」


それを見た桃城は驚きを隠せないまま聞いた。


「そうだな。この別冊マル秘については知らないと思う」


別冊マル秘については・・・その言葉に大石は一抹の不安を感じた。

それってまさか・・・


「別冊と言う事は・・・他にもある。と言う事だよな?」

「ああ。もちろん。通常のデータ様のもあるが・・・」


何か?という顔をする乾に、桃城も大石が気にする何かを感じた様だ。


「それはマムシだけっスよね?」


恐る恐る窺う様に不安を口にする。

乾の眼鏡が光を反射した。


「ああ。そんな心配をしていたのか。大丈夫。もちろん大石の分も桃城の分もあるぞ。

青学に関しては個人用のデータノートを用意しているからな」


乾は口の端を上げ、ニヤリと笑う。

大石と桃城は目と目を合せた。


いやいやいや・・・そんな心配はしていない。


心の声が揃った。

乾がデータを取るというのは、今に始まった事じゃない。

それこそ入学した時、初めてテニス部で顔を合わせた時には既にノートを持っていた。

あれだけ普段から何かを記入しているのだから、海堂の話が出た時にもしかして自分のもあるのか?と思うのは自然の流れだと思うが、無ければいいな・・と思うのも本音だ。


「どうした2人とも、顔が引きつってるぞ」

「あっいや・・改めて自分のものがあると聞かされると複雑だなと思ってな」


だからほんの少しの希望にかけてみたくなったのだ。

俺達の個人用のノートまではないだろう。

無いと言ってくれ・・・・

しかし大石の希望は一瞬にして崩れ去った。

乾はやっぱり乾だったのである。

テニスをしている以上、仲間であってもライバルなのだ。

大石は苦笑するしかなかった。


「それよりマムシの別冊が11って凄いっすよね。いつから書いてるんスか?」


大石の苦笑する姿を見ていた青学1の曲者が空気を変えるがごとく話を戻した。

別冊マル秘・海堂11

自分達の通常のデータノートがあるという、衝撃はこの際横に置いておいても、

海堂の別冊が11っていうのはかなりの衝撃だ。


マムシの奴・・気の毒だな・・・


普段何かと競い合い衝突する相手でも、事がデータノートとなると複雑である。


俺だったらホント勘弁して貰いてぇよな・・貰いてぇよ・・・

一体別冊には何が書かれているってんだよ?

怖くて中身なんて・・・中身なんて・・・・


しかしこの場合データを取られているのは海堂で桃城では無い。

憐れみの気持ちよりも、最後は興味の方が勝ってしまうのである。


「11ってぐらいっスから、入学した頃とか?」

「いや・・これは海堂と付き合い始めてから書き始めたもので、

付き合う前のものは別にあるが・・そんなに凄いか?」

「えぇぇっっ・・?」

「マジッすか!!?」


大石は言葉を失い。桃城は体を半分浮かして思わず身を乗り出した。

てっきり入学当初から海堂に目を付けた乾がコツコツとストーカーのごとく海堂の様子をかきとめていたノートなのかと思っていたからだが・・・


「まだ半年もたってないじゃないッスか!」

「ああ。そうだが・・・あまり驚かれると照れるな・・・」

「いや・・そこは照れるところじゃ・・・」

「何か言ったか?」

「あっいや・・・何て言うか・・ねぇ大石先輩!」


って、俺に振るのかよ!


大石は心の中でツッコミつつもフォローした。


「あぁそうだな。何て言うか海堂が気の毒・・じゃなかった・・

 乾の愛が溢れたノートなんだな」


ハハハハハ・・・後はカラ笑いで誤魔化す。


「そうか・・わかってくれるか。仲間っていいものだな・・」


しかしそんな大石に気付かず乾は天井を見上げ、頬を染めながら感慨にふけった。

その間に大石と桃城は顔を近づけ、こそこそ話をした。


「何か俺、乾先輩の話を聞くの怖いんっスけど・・」

「そうだな。話が想像以上で俺も驚いたが・・ここはあくまで平静をたもとう。

 じゃなきゃいつまでも会議が終わらなくなる」

「そっそうっスよね。今は乾先輩の番っスもんね」

「ああ。そいうい事だ」


大石と桃城は改めて席に着いた。乾の方へ顔を向ける。


「じゃあ乾。話が少しそれてしまったけど発言を続けてくれ」


その声に我に返ったように、乾が2人を見た。


「ん?・・そうか・・そうだな。俺の番だったな。じゃあ始めるか・・・」


乾は別冊マル秘・海堂ノートを広げた。


議題:恋人の最近改めて可愛いな・・と思ったところ

ケース3.海堂


「まず最近改めて・・・という事だが、俺の場合逐一海堂の様子を記録していて

 改めてとなると数が多すぎる。だから2日前の日曜日に限定して話をしたいのだが・・」


乾がノートを捲りながら話す。

大石と桃城はあんぐりと口を開けた。

そして桃城が机から乗り出し大石へ顔を近づける。


「ホントに大丈夫ッスか?逐一記録とか言ってますよ。」

「まっまぁ・・・それは範囲内と言う事で、まず話を最後まで聞こう。なっ桃」

「・・・わかりました」


桃城は乗り出した体を戻す。


「あぁ。ここだ」


乾がノートから顔を上げた。


「日曜日の朝8時に河原に到着。俺と合流。

まず軽く柔軟をして川に入り手ぬぐいを2本繋げたものを川に漬し素振りをする。

これを1時間程したのちランニングしながら公園のコートへ移動・・・」


乾がデータを披露するように読み上げる。

大石は思わず口を挟んだ。


「ちょっちょっと待ってくれ乾。それは最近可愛いなと思ったところに繋がるのか?」


今まで自分と桃城が発言した時は、すぐに本題を話し始めた。

乾もてっきり同じ様に話し始めると思っていたんだが・・・

大石は桃城に最後まで話を聞こうと言った手前、いつもと変わらない乾の口調に不安を覚えたのだ。


「ん?あぁすまない。補足事項としてこの時の海堂はひたむきでとても可愛いのだが・・・

 そうだな。少し飛ばそう・・・この日は11時半で別れたんだ」

「えっ?別れたって・・?」


それじゃあ話が終わってしまうじゃないか・・・

という大石の心の疑問に桃城がすかさず質問した。


「じゃあ。その時に何かあったんスか?」

「いや。この時はごく普通に別れた」

「えっ?じゃあ話は終わりじゃないっスか!?」


しかしその疑問は更なる疑問に繋がり桃城の眉間に皺が寄る。


「まぁそう急かすな桃城。ごく普通に別れたが話が終わったとは一言も言っていない」

「それじゃあ・・」

「ああ。海堂は気付いていないが、俺はこの後海堂の後をつけた」

「あっ後をつけた!?」

「それってストーカーじゃないっスか!!」

「心外だな。恋人の行動を記録するのは、俺にとって至極当然の事。断じてストーカーでは無い」


乾は言いきった。言いきったが説得力は皆無である。

大石と桃城は目で語り合った。


ストーカーッスよね?

ストーカーだな。

犯罪ッスよね?

犯罪だな。


だが乾はそんな2人の心の声を置き去りにして、話を進めた。


「この日母親に頼まれて商店街へお使いに行く事になっていた。

だから俺は一端海堂と別れ、家へ変える様に見せかけ商店街へ先回りしたんだ」

「へっへぇ・・」

「それでどうなったんスか?」


もう2人は相槌を打つので精一杯である。


「海堂は予定通りの時刻に商店街へ現れた。

 時刻は11時46分28秒、本来なら魚屋へ行く筈が手前の肉屋で捕まったんだ」

「誰に捕まったんスか?」

「ご近所のおばさま達だ」

「おばさま・・?」

「海堂は『薫ちゃんお食べ』とコロッケを勧められ、はにかみながらそれを受けとり


それはもうこの世のものとは思えない可愛い表情でそれを頬張ったんだ。

あの時の表情。ビデオに録画しておくべきだったな」


乾は腕を組み天井を見上げた。

そして時折エヘへと笑みを浮かべている。

桃城はまた身を乗り出して、大石へ顔を近づけた。


「嫌な予感的中ッスね」

「そうだな。ここまで来ると注意の仕様もないな・・」

「つうか俺も実はこの時偶然海堂の奴を見かけたんスけど、おばちゃん連中に囲まれて

モテモテって言えば聞こえ言いッスけど・・正直かなりの惨劇でしたよ」

「そうなのか?」

「それがどうしたら、この世とも思えない可愛い表情になるんっスかね?」

「それは桃。言っては駄目だ。恋人には恋人にしかわからない表情もある。

きっと乾にはそう見えたんだよ」

「そういうもんっスかね?」

「あぁ。だからストーカー行為は気になるけど、乾の意見は尊重してあげよう」

「そうっスね。わかりました」


桃城が頷くと、それに気付いた乾が顔を戻す。


「どうした?何をこそこそ話しているんだ?」

「えっ?あっいやほら乾先輩のマムシへの愛は深いなぁ〜ってね。ハハハハハ・・・」


やべ〜気付かれたかな?


桃城は誤魔化す様に無理やり笑顔を作った。

その笑顔は明らかに不自然なものだが、海堂の話が絡むと日々データを取り続けている冷静な筈の男もその不自然さに気付かない。

それどころか海堂への愛が深いと言われた事に舞い上がって、訳のわからない事を言いだした。


「それは俺だけじゃないだろう。

桃城も大石も恋人を想う気持ちはマリアナ海溝より深いだろう」


乾は照れながらもどうだと言わんばかりに自信満々に発言した。


「マリアナ海溝?」


しかし桃城はマリアナ海溝を知らなかった。

それって何処っスか?と首を傾げている。

乾は少し肩をおとしつつも、いつも通り説明した。


「なんだ桃城知らないのか?

 マリアナ海溝とは、北西太平洋のマリアナ諸島の東、北緯11度21分、東経142度12分に位置する

世界で最も深い海溝だ」

「へぇ〜世界でもっとも深い海溝っスか!」

「そうだ。俺達の愛はそれぐらい深いと言っても過言ではない」

「なるほど深いっスねぇ」


桃城が感心していると、大石が立ちあがった。


「乾。感動したよ!俺達の愛はマリアナ海溝と同じなんだな!」

「あぁ。そうだ」


桃城との会話を聞いていた大石も、恋人を想う気持ちに反応したのかマリアナ海溝という

言葉にツッコミを入れるどころかいたく感動していた。


先程までの、乾ってストーカーだよね?っていうか犯罪者じゃね?


という雰囲気は愛の深さ、マリアナ海溝によって何処かへ行ってしまったのである。


漢会議・・・それはどこまでも平和な会議なのであった。



                                                  4へ続く



近藤くんお誕生日おめでとうーvvv

誕生日月間の最後・・・(月またいじゃうけど☆)

そんな近藤くんの誕生日を無事祝えて良かったですvvv

これからも近藤くんが近藤くんである限り応援し続けますvvvv

そして漢会議も残すところあと1話(手塚)です☆

今回も全く話すことなく終わりましたが・・・次こそは彼がメインです☆

またUPした時には是非覗きに来て下さいvvv

2012.11.1