2人でDOUBLES?







「なんだよなー大石の奴!」


「アイツ地味でたいした事ないのに練習試合の補欠に入ってるらしいぜ」

「手塚の金魚のフンめ!」



大石か・・・確かあいつ俺がテニス部に入るか迷ってた時に、入部勧めた奴だよな・・・

ずっと気になってたのに、あれからほとんど話す機会がなくて・・・

普通さぁ誘った方がなんか言ってきても、いいと俺は思うんだけど、あいつそんな素振りもねぇし・・・

いつも手塚と一緒だし・・・よし・・・



「この菊丸様のアクロバティックで成敗しちゃる!」



この機会に俺の存在を大石にアピールしてやる!



「おっ!エージがんばれ!」

「まかせとけって!」



そして俺と大石は部活が終わった後に試合をする事になった。

ほとんど強引に俺達が試合するようにしむけたんだけど・・・



「おおっ凄えエージ!!」

「どーだ!これがアクロバティックだ!!」



凄いだろ大石!へへんだ!



「ゲーム菊丸3−0」

「やーい!どうした大石」



凄いのは手塚だけじゃないんだぞ!どーだ!!

俺は得意満面でブイサインを作って大石に見せた。

それなのに大石は俺の態度に怒る事もなく、負けてるくせに爽やかに俺に答えた。



「君の動きほんと凄いね。全く予測出来ないや」



えっ?それって褒めてんの?



「君ダブルスはやらないの?」



はっ?ダブルス?負け惜しみか?っていうか・・なんでここでダブルスの話が出るんだ?



「何だよソレ?お前の動きは地味だし読めるよん!!」



俺はダブルスって言葉が気になりつつも、まだ試合で優位にたってたから、まっいっか・・ってその言葉を心の底にしまった。

だけどそれからじわじわ大石に追いつかれ・・・



「意外としつこいな・・一気に決めちゃうよ!!」



だけど気が付けば・・・



「ゲームセット ウォンバイ大石 6−4!!」



負けていた・・・ 



「うそうそ!今のは練習!これからが本番だからな!」

「えっ?別にいいけど・・・」



そう言って何どもやり直したけど、結局大石に勝てなかった。



「なんで?なんで負けたの?」



俺は悔しくて泣きそうで一人になりたくってみんなと別れた後、最近見つけた俺だけの秘密の反省場所・・・丘の上のコンテナへ行った。

ああっ!くそっ!なんであんな地味な奴に負けたんだろ・・

途中までは俺の方が勝ってるのに気付いたら負けてるんだよな・・・チキショー!ムカつく!!

そう思った時にコンテナがすごい音とともに揺れだした。

ドオオ〜ン!ドオオ〜ン!



「わわっ!?」



なっなんだ?どうしたんだ?

覗き込むとそこには大石がいて、コンテナめがけてボールを打ち込んでいた。

大石は俺には全然気付かずにそのまま壁打ちならぬコンテナ打ちを続けていた。

アイツ・・・こんなトコで毎日特訓をしてたのか?

ミスをしないはずだ・・・

コンテナの表面はボコボコと凹凸がある為に正確に打たなくっちゃ、ボールはとんでもない方向へ飛んでいってしまう・・・

大石はそれを見事にやってのけていた。



「大石!!」



俺はとっさに大石を呼んでいた。なんでそう思ったのかわからないけど、その時はとにかく大石とダブルスを組みたいって想いだけで叫んでいた。

大石は急に呼ばれてビックリしながらも、打ち込みを止めて俺を見上げた。



「あっ・・」

「お前を倒す日までダブルス組んでやるよ!!その間にお前の弱点いっぱい見つけてやるかんなー!!」



俺の突然の申し出に大石はあっけにとられつつも笑って答えてくれた。



「いいっーこりゃタイヘン」

「俺菊丸英二!英二でいいぜ!」



そう言いながら俺は大石に手を差し伸べてコンテナの上にあげた。



「えっと菊丸君じゃないや・・・その・・・えっ英二はここで何してたの?」



ゆっくりと俺の横に腰をおろしながら、わざわざ言い直してまで俺の名前を呼んで、照れくさそうにしている大石を見て俺もなんだか気恥ずかしかった。



「えっ俺?あーそのー笑うなよ!!さっき大石に負けた反省会をしてた・・・ここは俺の秘密の反省場所なの」

「へー偉いな英二は・・・このままだとすぐに追いつかれそうだな」



俺は正直驚いた。

素直に反省会の話をした自分にも・・

それを聞いて感心した後に平気で 追いつかれそうだなって言いながら微笑んだ大石にも・・

反省会の話なんて誰かに話したら笑われたり、からかわれたりすると思って今まで誰にも話さなかったのに・・・



大石って不思議だ・・・・



さっきまで地味で弱い奴で、なんでそんな奴に負けたんだって思ってたけど、本当は努力家で強いんだな・・・

そんな風には見えないけど・・・

それになんだろう・・・

人を疑わないっていうか、優しい雰囲気が伝わってくる・・・って俺何考えてんだろ?!



「そっそれよりさぁ大石は毎日ここで練習してんの?」



ヤバイヤバイ・・・こんな事考えてるなんて悟られたらやだかんな・・・



「ああっ実は最近始めたばかりなんだけど・・・練習が終わって時間のある時はここで打ってる」



大石は照れくさそうに頭をかきながら話した。



「そうなんだ」



やっぱりここでがんばって努力してるからうまくなるんだな。



「手塚君が・・・」



えっ手塚?

俺は手塚の名前を聞いて止まってしまった。

なんで急に手塚の名前が大石の口から出たのかわからなかった。



「英二も知ってるよね?」

もちろん知ってるけど・・・なんで手塚が出てくんの?

そんな事を考えて止まっていたら、大石が心配そうに覗き込んできたので俺は慌てて答えた。



「もちろん知ってるよ!!知ってるに決まってるだろ!!」



すると大石は嬉しそうにまた話始めた。



「手塚君が俺達の代では絶対に青学を全国に導いてやろうぜって言ったんだ・・・俺も聞いた時はビックリしたけど・・・

今は手塚君となら行けると思うんだ!その為にはやっぱり自分自身もうまくならないといけないだろ・・

そしてチームを強くする為にはシングルスだけじゃなくて、ダブルスも強くなければいけないと思ってたんだ!

だからうれしいよ英二が俺と一緒にダブルス組んでくれるって言ってくれて」



ふ〜ん・・・なんだよ・・・

俺はなんだか複雑だった・・・

だってまるで大石ががんばってるのって手塚の為みたいに聞こえたから・・・



「大石って手塚と仲いいよね」



なんで急にこんなに気持ちが重くなったのかわからないまま俺は大石に手塚の話をふった。



「そうだね。手塚君とは入部届けを出しに行った時に一緒になって、それからよく話をするようになったんだ。

それに手塚君って先輩達よりうまいだろ・・だから反感かったりしてるんだけど、手塚君はあんな調子だから・・なんか心配でほっとけないんだよ」

「ふ〜ん」



照れくさそうに微笑んでる大石を見て思わず気の無い返事をしてしまった。

不味かったかな・・・

そう思いながらも俺は急に俺のグループの竹本が言ってた話を思い出した。



「大石ってさーほんとなんでいつも手塚と一緒なんだろね?」

「あれっ?エージ知らないの?あいつらデキてるって噂だぜ!」

「え〜まじ?やばいじゃん!っていうか気持ち悪い・・変なこと言うなよな」

「ハハハッ!!まっ噂だけどな・・それだけ一緒に居るって事じゃないの?」

「ふ〜ん・・・」



・・・なんで俺こんな話思い出したんだろ?

それになんでこんなイライラするんだ?



「英二?どうしたんだ?ひょっとして俺の話つまらなかったかな?」



大石を見ると不安そうな顔をしてたので俺は慌てて否定して、笑顔を作って大袈裟に答えた。



「えっ!そんな事ないない!すっごくいい話だった!俺も俺達の代では必ず全国に行きたいって思ってるよん!

菊丸様のアクロバティック全国デビューなんてね!その為にも大石がんがん一緒に練習しようぜ!」

「そうだな!なるべく二人の時間を作って練習しよう!ダブルスを組むとなるとお互いの事もっとよく知らないといけないしな」



二人の時間を作って練習しよう!か・・・へへッ!!

たったこれだけの言葉なのに俺はすごく嬉くなって気持ちが軽くなるのがわかった。



何故だろう・・・



「そうそう!俺バッチリ大石の事研究するからね」

「俺も英二の事ちゃんと観察するよ!・・って観察って言い方はおかしいよな?

これじゃあまるで英二が動物みたいって・・・・・・・英二って動物にたとえたら絶対ネコだよな」



大石が俺の顔をまじまじと見るので、俺は少し動揺した。

大石って良く見ると男前だよな・・・ってだから俺何考えてんだろ・・



「ななっ何突然言ってんの?俺の何処がネコだっていうのかニャー・・・アレ?」

「英二・・・今ニャーとか言わなかった?」

「あわわっ!大石が変な事言うからだろ〜!ホントにもぉ〜!!」



俺達はそれから笑うだけ笑って、改めてお互いの話をいろいろした。

家族の事やクラスの事、もちろんテニスの事も・・・

俺は時間が経つのも忘れるぐらいだった。


「そろそろ帰ろうか英二・・」



大石がそう切り出した時にはすでに辺りは真っ暗になっていて、本当はもう少し話をしたかったけどそういう訳にもいかず・・・



「そうだね。また明日話をしよう」



そう言って俺はコンテナを降りた。そして大石も俺の後に続いて降りて来た。



「英二1つだけお願い事があるんだけどいいかな?」

「えっ?何?」



急に改まってお願い事なんて言うから、俺は少し緊張した。



「その・・これからはこのコンテナは二人の秘密の反省場所にして貰ってもいいかな?」

「ハァ?そんなの聞かなくてもいいに決まってんじゃん!これから一緒にダブルス組むんだろ?」

「そーなんだけど・・ここは英二の大切な場所なのかなって思って・・」



大石って・・・どおしてそんな事言えるんだ・・・

お前だってココで秘密の練習してたんだろ?

お前にとっても大切な場所だったんじゃないのか?

大石って・・・



「べっ別に大石ならいいよ。それより絶対二人の秘密だかんな」

「うんわかった。じゃあまた明日な!!」



そう言って大石は手を振りながら満面の笑顔で帰って行った。

俺はその後ろ姿を見送りながら明日から始まる大石との生活に胸を躍らせていた。



                              END





本を読んだ後に、ダブルスを組む約束をした時ってこんな感じなのかな〜


と妄想を膨らませて書きました。(妄想はいつもの事か・・・☆)