最近気付いた事がある。
それは英二の事。
いつからそうなのか、今思えば初めて目にした時からすごく気にはなっていた。
だけどそれは、友達としてだと思っていたのに。
気が付けば、俺は英二を友達以上に見ている。
それがわかった時、すごく動揺した。
こんな事自分に起こるなんて、今まで想像もした事がなかったから。
同姓を好きになるなんて・・・
だけどもう自分の気持ちを止めることが出来なくて、英二の行動一つ一つが気になって 仕方がない。
英二に俺の気持ちがばれたら?
なんて考えると胃がキリキリしてくる。
そんな状況の中、英二の誕生日が近づいて来た。
11月28日
その日を知ったのは、英二が俺にダブルスを組んでくれるって言ってくれた日
俺達は、それまでお互いの事をよく知らなかったから・・・
ダブルスを組むって話になった時にコンテナの上で、お互いの事を色々話した。
その時に聞いた誕生日
あの時はまだ先だと思ってたけど、もう来週に迫っていた。
どうしよう・・・やっぱりプレゼント渡したら変かな?
自分の誕生日には、プレゼントは貰っていない。
というより仲良くなった時には、誕生日は過ぎていた。
それは他の部員も同じで、だからというわけじゃないけど、誰の誕生日にもプレゼントは渡していない。
誕生日を聞いて知っている人には『おめでとう』の言葉だけは、かけていたけど・・・
英二だけ渡すのって、やっぱり不味いかな?
英二と俺がダブルスの練習をしている事はみんな知っているし、少なくとも他の部員よりは親密な気はするけど・・・
ハァ〜
大きなため息をついて、カレンダーをジッと見つめた。
何かきっかけがあれば、渡しやすいんだけど・・・
そんなきっかけが、簡単に見つかれば、苦労しないか・・・
一人苦笑しながら、だけど答えはハッキリしていた。
英二に何かプレゼントを渡したい。
いろんな事を考えながら、結局何も買わずに数日が過ぎたある日
突然きっかけが、ふって来た。
「ねーねーみんな知ってた?11月って2人も誕生日の人がいるんだよ!」
練習が終わり、片づけをしていた1年生だけが部室で着替えをするなか、 英二の声が誰に向けてでもなく響く。
「へ〜そうなんだ」
最初に返事をしたのは、不二だった。
不二はクスクス笑いながら、『それで?』と話を促している。
「だから今月から誕生日会しようよ!ねぇタカさん!」
急に話をふられたタカさんがすごく驚いている。
「ええっ!!もう俺の誕生日は過ぎたけど」
「いいじゃん!まだ11月は過ぎてないんだし。祝ってもらおうぜ!!」
困り顔のタカさんの背中をバンバン叩きながら、英二はもう祝ってもらうつもりになっているらしい。
だけど部室の中を見渡すと、英二とは対象的に手塚は黙々と帰り支度をして、乾はなにやらノートを広げ、不二は相変わらず、クスクス笑っていた。
俺はどうしたものかと、頭を悩ませる。
そんな中、タカさんが申し訳なさそうに眉をさげて話し始めた。
「だけど英二、誕生日会をするなら場所が必要になるし。みんなに悪いよ・・・」
「そんな事気にしてたら駄目だって!場所なんか何処でもいいじゃん!なぁ大石!」
「えっ?えええっ!!」
俺はもう賛成の方に入っているのか?
英二がそう思ってくれるのはもちろん嬉しいけど・・・
いきなりの事で必要以上に驚いてしまった。
「なんだよ大石!俺達の事祝ってくれないの?」
「いや・・・そんな訳ないじゃないか・・・なぁ手塚」
俺は困って手塚に話をふった。その時、英二の顔が少し曇ったような気がしたけど、今はそれよりこの話をなんとかまとめる事の方が先決だ。
だってよく考えればこんなにいい話はないじゃないか。
堂々と英二にプレゼントを渡す事が出来る絶好の機会だ。
そう思った時、制服に着替え終えた手塚が振り向いた。
「なんの話だ?大石」
えっ?手塚・・・今の話聞いてなかったのか?
困ったな・・・
「いやっ・・・だから英二とタカさんの誕生日会の話なんだけど・・・」
そこまで話をした時に、ずっとクスクス笑っていた不二が話に入ってきた。
「今回は僕の家を提供するよ。だからタカさんも心配しないで。英二はもちろんいいよね? 乾と大石も問題ないよね?ってことだから手塚。ちゃんと来てよね」
「・・・・・」
「本当にいいの不二?迷惑じゃない?」
「俺はもちろん問題ないよ・・・いいデータが取れそうだ」
「やったぁ!!不二って話わかる奴だと思ってたよ〜〜あんがと!!」
「ハハハッ・・・こりゃ大変だな」
何も言わない手塚をよそに、みんな口々に返事して、あっという間に誕生日会の話が決まってしまった。英二は余程嬉しかったのか不二に抱きついて、また礼を言っている。 俺はそんな英二の姿を見ながら、顔では笑っていたけど心が酷く痛んだのに気が付いた。
こんなちょっとした事でも駄目なんだ・・・
英二は喜怒哀楽が激しくて、気分屋なんてよく言われてる。
それは半年間見てきてよくわかってるつもりなんだけど・・・
英二の事を友達以上に見ている俺としては、英二の過剰なスキンシップは見るたびに心が痛む。
あんまり不二に抱きつくなよ・・・
心ではそんな風に思ってしまう。
こんな気持ちは誰にも悟られたら駄目だというのに・・・
あくまでもいい友人でいないと、いけないというのに・・・
それなのに、胸の辺りで拳を握っている俺がいた。
次の日、俺は部活帰りに一人でプレゼントを買いに来ていた。
しかし・・・何を買ったらいいのか・・・
妹の誕生日には毎年プレゼントを渡してはいるが、よく考えたら友達にプレゼントを渡すなんて今まであまり無かった。 ましてや、好きな人にプレゼントをあげるなんて
初めてだし何にしたらいいか・・・
シマッタ・・・こんな事なら英二と一緒に来ればよかった・・・
俺はつい先ほど、交わされた英二とのやり取りを思い出していた。
「悪いけど英二。今日は明日の誕生日会のプレゼント買いに行くから、コンテナで練習はできないよ」
「ええ〜じゃあ俺も着いてく!」
「それは駄目だよ。一緒に行ったらプレゼントが何かわかるじゃないか。そんなの楽しくないだろ?」
そう言われて、英二も膨れていたが渋々頷いている。
「まぁいいや。今日は許してやるよ。俺の誕生日プレゼントの為だもんな!そのかわり期待してるかんな大石」
「ああ。わかった」
ハァ・・・・・
どうしよう・・・英二期待してるって言ってたな。
俺もわかった。なんて言ってしまったし・・・
余計な事を言うんじゃなかった。後悔先に立たずとはよく言ったものだな。
英二が喜ぶ物ってなんだろう?
ホントこんな事なら、英二に一緒についてきて貰って 英二が気に入ったって言う物を買ってあげた方が良かったよな・・・
色んなお店を回って、それでも決めれなくて、俺は途方に暮れていた。
そして、もう一度よく考えてから行動しようと、公園のベンチに座り、英二の事を思い出す。
英二・・・
英二の事を考えると、いつも笑顔の英二が浮かんでくる。
英二にはいつも笑っていて貰いたいな・・・
あの笑顔を守ってやりたい・・・
あっそういえば、今日の練習中、英二しきりにグリップを直していたよな。
英二の笑顔とグリップか・・・
よし決めた!これでいこう!
俺は鞄を担ぎ、目的の店へと走り出した。
誕生日当日、部活が終わってみんなで不二の家に来ていた。
誕生日会をするって事で、不二のお母さんと、お姉さんが色々料理を作ってくれていて、 それをみんなで、ワイワイと騒ぎながら一通り食べた後、プレゼントを渡す事になった。
「「「タカさん、英二おめでとう!!」」」
「どうもありがとう!!」
「サンキュー!!」
次々に渡されるプレゼントを、お礼を言いながらタカさんと英二が受け取っている。
俺も渡さなくっちゃな。とタカさんと英二の前に出て行く。
「おめでとう。タカさん」
「ありがとう大石」
「おめでとう。英二」
「あんがと。大石!」
やった!!自然に何事も無く英二にプレゼントを渡せた。
そう思うと、顔から自然に笑みが漏れてしまう。
英二も両手いっぱいのプレゼントに目を輝かせながら、弾けるぐらいの笑顔を見せていた。
「ねぇ!ねぇ!プレゼントあけていい?」
突然英二がそう言って、プレゼントを開け始める。
「まずは不二のから・・・えっと・・・あっマフラーだ!!しかもコレ俺が前にほしいって言ってたやつじゃん!」
「うん。英二が凄く欲しがってたから、プレゼントするならこれかなって思って」
「サンキュー不二!」
そうなんだ・・・英二マフラー欲しがってたのか・・・って関心してる場合じゃないな・・・
「次は・・・乾に貰ったやつ・・・あっマグカップじゃん!へ〜しかも俺好みの赤ベースにテディベアの柄かぁ。乾わかってんじゃん!」
「まぁ菊丸の普段の行動と好きな色、柄を合わせると、必然とプレゼントは決まってくる。 データは嘘をつかないよ」
「そっかぁ・・・データってのが気になるけど・・・まっサンキュー!」
マグカップか・・・そんな手もあったんだな・・・・
「次は手塚!!何かな〜って・・・これ何?」
「小説だ」
「本って事はわかるんだけど・・・英語しか書いてないじゃん」
「洋書の小説だ。菊丸でも読めるように、簡単な物を選んだつもりだが・・・」
「そっそうなの?まぁいいや、取り合えずサンキューな!」
洋書の小説か・・・思いもしなかったな・・・
「最後は大石!!」
えっ?俺?
そういえば・・・タカさんとはお互い祝ってもらう立場だから、プレゼントはお互い無しにしようって事になったって、部活の時に英二が言ってたな・・・
「大石は・・・えっと・・・なになに・・・歯磨きセットとグリップテープ・・・」
・・・えっ?あれっ?何だか微妙な空気が流れてる・・・?
「ほっほらっ英二よく歯磨きしてるし・・・その・・・グリップテープは、こないだから英二グリップ気にして、何度も直してたから・・・と思ったんだけど・・・
やっぱりもっと誕生日っぽいプレゼントがよかったよな・・・」
「そっそんな事ない!うれしいよ!大切にする!あんがと大石!」
ホントかな?英二ちょっと笑顔が引きつってないか?
こんな事なら、ホントにプレゼント買いに行く時、英二について来てもらえばよかった・・・
なんだか、プレゼントを渡した所までは、良かったけど・・・
みんなのプレゼントを見てしまうと、自分のセンスの無さに、滅入ってくるな・・・
こんな事なら、渡さなかった方が良かったかもって思ってしまう。
ハァ〜〜〜と心の中で大きなため息をついた俺に更に追い討ちをかけるように タカさんのプレゼント開封が始まった。
俺ってほんと、センスないよな・・・
プレゼント開封後も宴は続いたが、最初のテンションから考えると、俺のテンションはかなり落ち込んでいた。
もちろん英二とタカさんの誕生日会なのだから、顔では笑っていたけど・・・ なんだか、穴があれば逃げ込みたい・・・そんな感じ。
「じゃあそろそろ時間も遅くなってきたし、この辺でお開きにしていいかな?」
「あっすまない不二。気付かなくて。じゃあそろそろ片付けてお開きにしよう」
不二の言葉に我に返って、長居しすぎた事を反省しつつ、何処かでホッとしていた。
俺達は片付けを分担して、それをそれぞれがテキパキとこなし意外と早く方付けを終える事が出来た。
「それじゃ不二。今日は本当にありがとう」
俺の言葉をかわきりに、各々が不二に別れを告げて、不二の家を後にした。
しばらく5人で一緒に話しながら歩いていたけど、分岐点が来ると、1人、2人と人数が減って、最後は俺と英二だけになった。
当たり前のように2人になってから、気付いた事がある。
「あれ?英二の家ってこっちだったっけ?」
不二の家から出発したから、気付くのが遅れたけど・・・
英二の家に行くには、さっきタカさんと別れた場所と同じ所で曲がらないといけなかったのでは?
「そう?別にいいじゃん」
「よくはないだろ・・・」
わかっているのか、わかっていないのか、よくわからない返事に俺は足を止めて英二を見た。
英二はニコニコしながら、俺を見ている。
「それよりさぁ。大石」
それよりって・・・と思ったが、英二がニコニコしてるから、俺も思わずつられて笑みが漏れてしまう。
参ったな・・・
「なんだ。英二?」
「俺・・・大石からのプレゼントが一番うれしかった」
「えっ・・・?」
思わぬ言葉に、なんて返事を返したらいいかわからず、ただ英二を見つめた。
「大石俺の事ちゃんと見てくれてたんだな。グリップテープ今日帰ったら、すぐに巻いてみる。それに歯磨きセットだって、ちゃんと大切に使うかんな」
「英二・・・」
さっきまではあんなに恥ずかしく思っていたのに・・・
俺ってなんてセンスが無いんだって思っていたのに・・・
英二がこんなに喜んでくれるなんて、こんなに嬉しい事はない。
「英二・・・もしよければ、そのグリップテープ明日俺に巻かせてもらえないかな?」
「えっ?大石が巻いてくれんの?」
「うん。英二が良ければだけど・・・」
「いいに決まってんじゃん!約束だぞ大石。明日必ず巻いてくれよな」
「ああっわかった。約束する」
英二は俺の約束するって言葉を聞いて、少し顔を赤らめてニシシッと笑っている。
「じゃあ俺帰る」
「えっ?」
「俺も本当は、さっきタカさんが曲がったとこと同じとこで、曲がんないといけないから」
やっぱり・・・そうだったんだ・・・
英二わかってて、俺について来たんだ・・・
それって、ひょっとして、俺にプレゼントの礼を言う為に?
「じゃあな大石。また明日!」
「あっちょっと待って英二!」
「えっ?何?」
英二は少し走りかけて、振り向いた。
「お誕生日おめでとう!」
俺の言葉に大きな目がキョトンとして、その後満面の笑みを見せた。
「サンキュー大石!」
英二はブンブン手を振って、そのまま走って行ってしまった。
俺は英二の後ろ姿が見えなくなるまで、その場で立ち尽くして見えなくなってから歩き出した。
英二には、ホント敵わないな・・・
英二の事を考えながら、選んだプレゼント
渡せた事に喜んだり、みんなのプレゼントと比べて落ち込んだり
でもやっぱり最後は英二の言葉に、救われて・・・
プレゼント渡して良かった。
英二・・・好きだよ・・・
この言葉は一生英二には、伝えられないと思うけど、でもいつも側で英二の笑顔を守っていきたい。
その為なら、何でもしてやりたいって思う。
だけど、その第一歩が歯磨きセットとグリップテープじゃ・・・まだまだだな・・・
俺は澄み切った夜空を見上げながら、苦笑した。
一年生大石は英二の笑顔が綺麗なのは、白い歯も1つの要因だと思って・・・
笑顔を守る→綺麗な歯を守る→歯磨きセットになったみたいです。