去年の英二の誕生日から少し経って思った事
来年こそは、誕生日プレゼントらしいプレゼントを渡そう
1年の時は、歯磨きセットとグリップテープ
2年の時は、リストバンドと救急セット
自分でもセンスないなぁ・・・って事には気付いている。
だけど、いざ渡すとなると何をあげていいのかわからずに、結局は使える物
実用的な物になってしまって、渡した後に自己嫌悪に陥っていた。
特に去年は、付き合って初めての誕生日だったのに、記念にもならない様な普通の物で・・・まぁリストバンドは英二が名前を刺繍してくれたおかげで
十分思い出深い物にはなったけど・・・
来年はこれじゃいけないって・・・
もっと恋人に渡すようなプレゼントにしようって・・・
そう思って実は、毎月少しずつ英二の誕生日プレゼントを買う為に貯金をしていたんだ。
後は、何を買うか・・・なんだけど・・・
ハァーー
これがやっぱり1番問題だよな。
「大石っ!」
「わっ!英二。どうしたんだ?」
ぼんやりと英二の誕生日プレゼントの事を考えながら過ごしていた休み時間
突然目の前に、その張本人が現れた。
「ちょっとね。英和辞書借りようと思って・・・ってそれより大石こそ何ボケッとしてたのさ?」
英二は俺の前の席の椅子に勝手に座り込んで、俺の顔を覗き込んでくる。
「えっ?あぁ・・・ちょっと考え事をな」
英二には誕生日プレゼントの事は内緒だ。
って言うより・・・随分前に一度聞いたんだけど、何でもいいよって言われたしな・・・
それにやっぱりプレゼントは秘密にして英二を驚かせたい・・・
「何だよ?まだ何か生徒会の方であるのか?」
「ん。まぁそんなとこかな」
咄嗟に濁した言葉を、英二は生徒会の事だと思い込んだらしい・・・
俺は少し罪悪感を持ちながら、その言葉に便乗した。
英二に嘘をつくのは嫌だけど・・・今回は仕方が無い。
それに実際文化祭を過ぎた辺りから、生徒会の方は役員の引継ぎやら卒業式への準備やらでまだまだ忙しいのは本当の事だ。
「ふ〜〜ん。大変だな」
「まぁそれも今年いっぱいの話だけどな。来年はもう殆どないよ」
「そっか・・・」
来年はもう殆どない・・・
この言葉に英二は卒業の二文字を感じとったようで、少し寂しげに首を傾げた。
青学はエスカレーター式だから、殆どの生徒がそのまま青春学園の高等部に進学する。
場所も同じ敷地内だから、殆ど変わりはないんだけど・・・
慣れ親しんだ校舎を離れるのは、やっぱり寂しいよな・・・
俺は雰囲気を変える為に、わざと英二の頭を英和辞書で軽く叩いた。
「ほら英二。英和辞書。これ持って帰って次の授業に備えるんじゃないのか?」
「ああ!そうだよー 俺、次当るんだよ!忘れるとこだった!」
英二は慌てたように、英和辞書を抱えて立ち上がった。
「んじゃ借りていくな!終わったらまた返しに来るからさ」
「あぁ。頑張れよ」
バタバタ出て行く英二に手を振って、やれやれ・・・と苦笑していると、不意に隣の席の女子の話し声が耳に入った。
「誕生日にシルバーリング貰うと幸せになるんだってー」
えっ?誕生日?
誕生日って言葉に反応して横を見ると、何人かの女子が集まって何かの雑誌を見ているようだった。
口々に『欲しいよねー』『貰いたいよねー』と言って盛り上がっている。
そうなのか?
やっぱり女の子は指輪とかアクセサリーが嬉しいのかな・・・
そっか・・・指輪か・・・英二はどうなんだろう・・・?
俺が指輪をプレゼントしたら喜ぶかな?
英二の指に指輪・・・
俺は少し目を瞑って想像した。
そうだな・・・英二なら似合うよな・・・
それにシルバーリングをプレゼントされると幸せになるって言ってたし・・・
俺。英二には幸せになってもらいたい。
休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴る頃
ずっと悩んでいた英二へのプレゼントがようやく決まった。
よしっ!今年はシルバーリングをプレゼントしよう。
プレゼントは決まったけど・・・
指輪なんて買った事がないもんな・・・
英二の誕生日を目前に控えた日曜日に俺は一人でプレゼントを買いに来ていた。
たくさんの人ごみの中を掻き分けて、クリスマスのディスプレイがされているお店の中を何件もはしごしながら、英二に似合いそうな指輪を探す。
今日1日あれば決まるだろう・・・・って思っていたのが甘かった・・・
なかなかコレっていうのが見つからない・・・
ホントはもっと早く買いに来る事が出来れば良かったんだけど・・・
普段からいつも英二が一緒だから、なかなか買いに行けなくて・・・
内緒にするっていうのがこんなに大変だとはな・・・
兎に角愚痴を言っても仕方が無い。
今日は英二に、家族で出かけるからと、わざわざ嘘をついてまで作った時間なんだから、気合入れなきゃな。
そう思った時に1軒の店が目に入った。
シルバーアクセサリーの店・・・かぁ・・・
今までも指輪を置いてそうな、可愛らしい店とかにも入ったけど、そういう店は女の子ばかりで、恥ずかしくて数分とその場にいられなかった。
だからチラっと指輪を見ては違う店へ・・・を繰り返して、はしごをする破目になっていたんだけど・・・
あそこならまだゆっくり見れそうだな。
俺は迷わずその店の中に入った。
そしてショーケースに並べられた指輪を1つずつ順番に見て行く。
英二の顔を思い浮かべながら・・1つずつ・・・
今までの店は、どちらかと言えば女の子って感じの指輪が多かったけど、ここの店は 男っぽい、少し厳ついものからシンプルな物まで色々揃っていた。
あっこれ・・・
その中の1つに目が留まった。
細すぎず・・・太すぎず・・・でも存在感があるシンプルなリング
英二に似合いそうだな・・・
「プレゼントですか?」
えっ?
声をかけられて顔を上げるとそこには女性店員さんが笑顔で立っていた。
「あっ・・はい」
「クリスマスのプレゼントですか?」
「えっ?あっいや・・・誕生日のプレゼントです」
「出しましょうか?」
女性店員さんはそう言いながら、俺が見ていた指輪を出してくれた。
「どうぞ見て下さい」
スッと差し出された指輪を手に取って見る。
うん・・・これがいいな・・・これに決めよう
指輪を眺めながら、英二の笑顔が浮かんで自然と顔が綻んでいた。
それを見ていた女性店員さんがクスって笑うのが目に入って俺は慌てて指輪を置いた。
「あの・・・これ貰えますか?」
「サイズは大丈夫ですか?」
サイズ・・・?
シマッタ・・・サイズなんて測ってない・・・
英二の指は俺より少し細くて、綺麗な指だと思うんだけど・・・
さっきのだと、少し小さいかな?
俺は思わず自分の手を見ながら考えてる事に気付いて、その手を引っ込めた。
「これと同じ物で、今あるサイズを出してもらっていいですか?」
「はい。いいですよ」
出してくれたのは3個・・・サイズは聞いてもわからないから聞かずに見せてもらう。
見た目は、大・中・小・・・って感じの3個・・・
大は俺でも十分入りそうな大きさで、中は俺には少し小さい気がする・・・
どうしようか・・・やっぱり中かな・・・
しかし・・・こんな決め方で、もし入らなかったらどうしよう?
不安もあったけど、指輪自体は凄く気に入ったし、英二の誕生日も迫ってる
俺は思い切って決める事にした。
「すみません。これで」
小さい箱に収められた指輪は、綺麗にラッピングされて俺の手元に戻って来た。
それを何度も何度も眺めては、英二を思い出して微笑んでいた。
そして家に着いた俺は、プレゼントを机の中にそっとしまった。
英二が俺の家に来るのは、27日
一緒に英二の誕生日をカウントダウンしようって事になっている。
カウントダウンしておめでとうを言って、この指輪を英二にプレゼントしたら
英二はどんな顔を俺に見せてくれるのかな?
驚くかな?
それともとびっきりの笑顔を見せてくれるかな?
両方だったら嬉しいな。
ずっと書きたいと温めていた指輪ネタ書きましたvv
楽しんで貰えると嬉しいです。
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