Happy Birthday Dear  Eiji 3






「英二。ちゃんと頭乾かさなきゃ駄目だろ?」


俺が風呂から戻ってくると、先に風呂に入った筈の英二が頭をろくに乾かさず、ベッドにもたれて雑誌を読んでいた。

俺は英二の後ろに回って、手に持っていたタオルで濡れた頭を手馴れた手つきで拭いてやる。

英二は気持ちよさそうに、されるがまま俺に頭を預けていた。

今日は27日

予定通り英二は俺の家に来ていて、我が家では英二の誕生日前夜祭が開かれた。

よく来る俺の親友として認識されている英二は、家族のお気に入りだ。

だから今年も誕生日を俺の家でも祝うって話をした時、妹は自分も何かプレゼントがしたいと喜び、母親も英二の好きなエビフライを作ると張り切っていた。

本当は親友でもあり恋人でもある英二

その事を家族に内緒にしている事に少なからずとも騙している。というような罪悪感はあったけど、今は本当の事を言える筈もない。

いつかホントの事を伝える日がくるのだろうか・・・

そう思いながら今は親友として心から一緒に英二の誕生日を祝ってくれる家族にただ素直に感謝した。



「ねぇ大石。もうすぐ28日だね」



頭を拭き終わると、英二が雑誌を床に置いて振り向いた。



「そうだな」



時計を見ると23時過ぎ、もう後1時間もしないうちに英二の誕生日がやってくる。

英二の誕生日28日

俺はプレゼントがしまってある机の引き出しを見て、小さく笑った。

あともう少し・・・



「だけどさ、まだ少し時間があるじゃん。寒いしさ、布団の中に入ってしゃべりながら待とうよ」



英二はそう言うと、そのまま布団の中に入ってしまった。

確かに暖房は入れてあるけど、少し肌寒い。



「早く大石も入れよ」



布団の中から手招きする英二を見て少し戸惑ったけど、結局寒さには勝てず英二の横に入り込んだ。

お互いの携帯を枕元に置いて、肘を突きながら横に並ぶ。



「暖かいな」

「だろ」



へへっと笑う英二を見ながら、俺は理性を総動員させた。

俺のベッドはシングルで、正直俺一人でも結構窮屈だ。

そこに二人で入るって事は、常に体の何処かが引っ付いた状態になるって事で・・・

大好きな可愛い英二をこんなに身近に感じて、ホントは冷静でなんていられない。

ホントいうと英二が泊まりに来た時は、一応はお客様用の布団も引いてある。

二人でシングルのベッドはキツイからって・・・

だから今だけでも別々の布団に入ればこんな思いはしなくてもいいんだけど・・・

一線を越えた俺達はお互いを求め合って、結局はお客様用の布団を使わずベッドに二人寄り沿うように寝ていた。

それがいつのまにか当たり前のようになっていて、英二はお客様用の布団を使わない。

別にその事が悪いって意味じゃないんだけど・・・

英二が魅力的すぎるんだよな・・・


俺はすぐに抱きしめてしまいそうになる衝動を抑えながら、カウントダウンを待った。

何とか気持ちを逸らし、世間話をして気が付くと24時5分前



「もうすぐだな・・・」



そう言って英二を見ると、英二は悪戯っぽく笑いながら自分の口をトントンと指した。



「ねぇ大石。14歳最後の俺にキスしたくない?」

「えっ?」

「もうすぐ14歳の俺とはお別れになっちゃうんだよ」

「そう・・・だな」



出会ったのは12歳

それから13歳の誕生日、14歳の誕生日とずっと一緒に過ごしてきた。

そしてあともう少しで15歳

これからもずっと一緒に過ごしていきたい。

そう思いを籠めて、深く優しくキスをした。



「これで思い残す事ないな」



唇が離れると、英二は照れてるのを隠すように頬を染めながらへへっと笑った。



「俺も思い残す事ないよ」



俺もつられて微笑んだ。



「あっ大石。ヤバイ・・・あと10秒!」

「あっホントだ・・・えっと・・・3・2・1・・・英二。15歳おめでとう」

「あんがと。大石」



『やばかったね』と肩を竦めて微笑む英二が、何か思いついたようにまた悪戯っぽく笑った。



「あっそうだ。15歳の俺にもキスしたくない?」



さっきと同じ様に、自分の口をトントンと指した。

俺は苦笑しながら、また深く優しくキスをする。

英二の何気ない提案に内心ドキドキしながら、キスだけで止めるのはかなりキツイんだけど、この後のプレゼントを渡すまでは、そうも言っていられない。

そっと唇を離して、英二にちょっと待っててと告げた。

英二はベッドから出て行く俺の背中をジッと見ている。

それがわかったから、なるべく英二には見えないように、そっと机から小さな箱を取り出して、英二に近づいた。

ギリギリまで見えないようにして、英二にプレゼントを差し出す。



「英二。おめでとう」



英二は起き上がってベッドの上に座りなおし、『あんがと』とプレゼントを受け取った。



「えっ?コレ・・・俺の?」



プレゼントをジッと眺めて、俺へと視線を移す英二。


やっぱり驚いてるな・・・いや・・・戸惑ってるのかな・・・?


今までプレゼントといっても、紙袋に入っているような、見た目もかなりプレゼントとは程遠いようなものばかりあげていたから・・・

だけど今、英二の手の中に収まっている小さい箱は綺麗にラッピングされて、可愛いリボンもついている。

英二が驚いて、戸惑うのも仕方が無いよな

俺が初めてあげるプレゼントらしいプレゼント



「英二。開けてみて」



俺が声をかけると、英二は『うっうん』とリボンを解き始めた。

丁寧に包装紙も開けると、中から小さい箱が顔を出した。



「大石」



英二が俺の方を見たから、俺は小さく頷いた。

英二はそれが合図とばかりに、箱の蓋を開ける。

俺はその姿を、心を躍らせながら見ていた。

英二の綺麗な指に似合うようにと選んだシルバーリング

何度も何度も思い描いた、英二の喜ぶ顔

英二に幸せになってもらいたいという願い

その思いを籠めた指輪を見た瞬間の英二の顔を見過ごさないように・・・



「大石・・・」



指輪を見た英二の顔が、みるみる赤く染まっていく。

そして顔をあげて満面の笑みを俺に見せてくれた。


思い描いた通りの笑顔

俺の大好きな笑顔



「凄いよ!大石。コレどうしたの?一人で買いに行ったの?」

「まぁな。凄く恥ずかしかったけど、何とか一人で買えたよ」



英二のプレゼントじゃなきゃ、たぶん男一人であんな店には入れないな・・・

俺は頭をかきながら、買いに行った時の事を思い出して苦笑する。



「それより英二。つけて見せてくれよ」



俺はまだ箱の中に入ったままの、指輪をさした。



「えっ?あっうん・・・」



返事をした英二は、箱の中からそっと指輪を取り出して、天井に向けてかざした。



「綺麗だな・・・」



そう呟いた後、英二は俺の腕を取って掌に指輪を乗せる。

俺がその行動に戸惑っていると、英二が左手を差し出した。



「大石がつけてよ」

「えっ・・・俺が?」



まさか指輪をプレゼントして、自分が英二につけるなんて事は考えていなかったから凄く驚いて英二の顔を見た。

英二はニッコリ微笑んで更に左手を俺に突き出す。


「いいじゃん。ねっ!」



そんな笑顔を見せられて、嫌だとは言えない。

少し緊張しながら、英二の左手を取ると、ゆっくり薬指に指輪を嵌める。



「何だか結婚式みたいだな」



英二が途中で、そんな事を言うから『えっ?』と指輪を落としそうになった。


そんな事言われたら、余計緊張するじゃないか・・・

だけど・・・んっ?アレ?


英二の薬指に嵌めようとした指輪は第二関節の所から先に進まない。

無理やり押し込んで、指輪が抜けない・・なんて事はしたくないしな・・・



「ごめん・・・英二」



俺はそれ以上指輪を嵌めるのをやめた。


やっぱりきちんとサイズを調べて買うべきだった。

後悔してもしきれない。


英二の指に中途半端に止まった指輪を見ながら、沈んでいると英二の小指が動いた。



「大石。こっちに嵌めてよ」



顔をあげると、英二が優しく微笑んでくれている。

俺は薬指から指輪を抜くと、そのまま小指に指輪を嵌めた。

今度は何の障害も無く、スッと英二の小指に嵌る。



「バッチシじゃん!」



俺に指輪が見えるように左手を顔の位置まであげる英二に、申し訳ないなって思いが込み上げた。



「英二。ごめんな」

「何で謝んだよ!俺凄く嬉しいよ!だからそんな顔すんなよ。

別に薬指に入んなくてもいいじゃん。小指に嵌めてる方がおしゃれじゃんか

それにほら、似合ってるだろ?」



ニシシと笑う英二に、救われる思いがした。

いつだって詰めの甘い俺をフォローしてくれる英二。

みんなは気分屋の英二のお守りは大変だろ?って言い方をよくするけど

実際はこうやって英二の笑顔にいつも俺の方が助けられている。



「うん。凄く似合ってるよ」



俺は、英二の左手を取って、小指の付け根を確認するように見つめて微笑んだ。



「それでさ、聞いていい?何で指輪にしたの?」



英二が興味津々な顔で聞くから、どう説明するか悩んだけど、あった事をそのまま話した。


英二の誕生日のプレゼントを何にするかずっと悩んでいた事

ちょうどそんな時に隣の席の女子が数人で雑誌を見ながらシルバーリングの話をしていた事

誕生日にシルバーリングをプレゼントすると、された方は幸せになる・・・らしい事

一通り話すと英二は、クスクス笑い出した。



「それで決めたんだ」

「まぁな。だって俺は英二に幸せになってもらいたいから」



いつだって英二には笑っていてもらいたい。

幸せになってもらいたいと思っているよ。



「大石さ。その話何処から聞いてたの?ちゃんと最初から聞いてた?」



えっ?それってどういう事だ?

英二の言ってる意味がわからなくて、首を傾げた。



「いや・・・最初からかどうかはわからないよ。

ただ聞こえたのは、誕生日にシルバーリングを貰うと幸せになるんだって話だけで・・・」

「それさたぶん誕生日の前に19歳のってついてたと思うよ」

「えっ?」

「だってさー姉ちゃんがよくその話すんだ。

19歳の誕生日に彼氏にシルバーリング買って貰って幸せになる!って」

「そうなのか・・・?」



知らなかった・・・シルバーリングは19歳の時にプレゼントした方が良かったのか・・・

サイズが合わないうえに、渡す時期まで間違えるなんて・・・



「あっ!大石勘違いすんなよ。だからって19歳じゃないといけないって事じゃないんだからな。

15歳だって貰えたら嬉しいし。俺、幸せだよ。

それにさ何で指輪にしたのかって聞いたのだって、ホントはその・・・ほら・・・

大石が俺とずっと一緒にいたいって思ってくれてる証なのかなって・・・

俺、何言ってんだろ・・・へへ・・・」



笑いながら誤魔化す英二が愛おしくて、その手を引き寄せて抱きしめた。



「大石・・・?」

「・・・・・・」



英二・・・

そうだよ・・・そうなんだ。

俺はいつだって英二を必要としているし、この先もずっと一緒にいたいって思ってる。

英二の笑顔が大好きで、ずっと守ってやりたいって思ってる。

ホントは幸せになってもらいたい・・・じゃなくて・・・

俺が幸せにしたいって思ってる。



「英二。結婚しよう」



俺は英二の耳元で囁いた。

15歳の俺が結婚だなんて、子供が何を言ってるんだって話だけど・・・

それでも言葉にして伝えたいと思った。

いつか大人になって、本当にそうなればいいと思った。



「おおいし・・・」



英二の声が震えている。

抱きしめているから、表情はわからない。

それが少し気になったけど、俺はそのまま今の思いを伝えた。



「英二。俺はまだ子供で、先の事なんて見えないけど、だけどこれだけは言える。

好きだよ。愛してる。ずっと一緒にいたいって、側にいて欲しいって思ってる。

だからもう一度19歳の時に、シルバーリングをプレゼントさせて欲しい。

一緒に幸せになろう」



全部言い切ってから、英二を抱きしめる力を緩めて、顔を覗きこんだ。

英二は今にも泣き出しそうな顔をしていた。

大きな目に涙を溜めて、だけど頬っぺたはほんのり赤く染まっている。



「嬉しいよ大石。ホントに嬉しい。俺もずっとそう思ってた。

これから先も、ずっと大石と一緒にいられたらって・・・

俺達は男同士で結婚なんて考えた事もなかったけど・・・

それでも何年経っても、何十年経っても一緒にいたいって、側にいたいって」

「英二・・・」

「俺。期待してるかんな19歳の誕生日。絶対忘れないでよ」

「忘れないよ」



俺は英二を包み込むように抱きしめて、ゆっくりとベッドへ押し倒した。

そして英二の左手を取って、小指にキスをした。



「この指輪に誓うよ。絶対に忘れたりなんてしない」

「大石・・・」



赤茶の髪をそっと撫でて、幸せそうに優しく微笑む英二の唇に、自分の唇を重ねた。




俺達は男同士で、ホントは結婚という形式からは、はみ出してしまうけど

愛し合ってずっと一緒にいる事が、結婚というのなら

俺達にだって当て嵌まる筈さ



だから英二

19歳の誕生日も一緒に祝おう

そして今日と同じようにおめでとうを言った後


もう一度プロポーズするよ



結婚しようって





                                                          END








英二お誕生日おめでとう!!


今年も無事お祝いが出来て良かった☆

novelの方は・・・・誕生日にまさかのプロポーズです(笑)

15歳にしてプロポーズ・・・大石なら有りですよねってもう書いちゃったけど・・・☆

まぁ兎に角、ラブラブの二人ですvv

2007.11.28