STEP(大石編)





「大石!悪いけど今村とこの本を図書室に運んで貰えるか?」


HRが終わって部活の準備をしていた俺に担任が声をかけてきた。



「あっハイ!」



思わず条件反射的に返事をして振り返ってからしまった・・・と思ったけど、それは後の祭りで・・・

たくさん積まれた本の横で図書委員の今村さんが立っていた。



「よろしくね大石君!」



笑顔で言われると断る訳にもいかず・・・



「ああじゃあ運ぼうか・・・ハハハ」



我ながら八方美人だと思う・・・

頼まれるとついそれに答えてしまう。だから担任に用事を頼まれる事も多い・・・

だけど今日はまずい!

本当は英二と一緒に部活に出る約束をしていたのに、俺は何故か本を運んでいる。

いや・・何故かは本当はわかってるんだけど・・・

どうにかして今の状況を英二に説明しなきゃ駄目だよな・・・

英二俺の事探してるよな・・・

そう思った時に背後から想い人の声が聞こえた。



「お〜い!大石!!」



ブンブンと手を振りながら、俺めがけて凄い勢いで走って来る。


英二!!あんなに急いで・・・・・・・・カワイイな・・・

って考えてる場合じゃなかった。取り合えず今の状況を説明しなくてわ・・・



「あっ英二!いいとこであったよ!この本を図書室に運んでから部活にでるからさ、少し遅れるって手塚に伝えといてくれよ」



ハァハァと息を整えながら、俺の顔と持ってる本と今村さんを順番に眼で確認すると英二はキッと俺を睨んだ。



「なんだよ!一緒に部活行く約束してただろ!本なんて運んでる場合か?もうすぐ関東大会なんだぞ!!」



英二・・やっぱり怒るよな・・・

だけど途中で投げ出すわけにも行かない・・・



「わかってるけど・・彼女一人じゃこの量は運べないよ」



俺が苦笑すると、英二はプ〜と頬っぺたを膨らませて拗ねたように言った。



「だけどさぁ・・・俺も大石がいないと困るんだけど」

「・・・英二」



その通りだよな・・ダブルスの練習は一人では出来ない・・・


俺が英二の言葉に困っていると今村さんが気まずそうに話に割り込んできた。



「あっあの・・・大石くん大丈夫だよ。私一人で出来るから。菊丸君と一緒に部活に行って来て・・ねっ!」

「いや・・でも・・・」



駄目だ・・そんな事は出来ない・・

この量を彼女一人に運ばすなんて・・・それに俺だって担任に頼まれてるんだし・・

ちゃんと英二に説明しなきゃ・・・



「もういいよ!それ早く運んできなよ!手塚には俺がちゃんと伝えておくから!!」



英二・・お前・・



「すまないな英二・・必ず後で行くから・・」

「ごめんね菊丸君・・」



英二の眼はまだ少し怒ってるようだったけど、一応は納得してくれたみたいだし・・・

俺は英二を残して今村さんと図書室へ向かった。



早く運んで部活に行かなきゃな・・・

早く・・・早く・・・

隣で歩く今村さんには悪いけど、今はもう英二の事しか考えられない・・・



気持ちが焦ってたからか、速足になってたみたいで思ったより早く図書室に着いた気がした。



「ごめん!じゃあ俺部活に行くから!」



本を置いて、そのまま来た道を戻ろうとした時に今村さんの返事に固まった。



「あっがんばってね!私はこの本片付けたら帰るから!」

「えっ!!」



振り向いて眼に入ったのは山のように積まれた本だった・・

うそだろ・・



「これを一人で片付けるのか?」



他に誰か来るなら部活に行っても大丈夫だよな・・



「うん・・私図書委員だから・・・」



やっぱり一人なのか・・・英二ごめん・・・



「じゃあ俺も手伝うよ」

「あっいいよ!菊丸君待ってるよ!」



そうなんだよ・・待ってるんだよ・・だけど・・



「一人より二人の方が早く片付くから」



ここまで来てほったらかしには出来ない。



「でも結構あるよ・・・」



その言葉にもう一度本の山を見て眩暈がしたが、怯んでる場合じゃない。



「そうだな。だから急ごう!急いで片付けて終われば部活に行くから」

「ごめんね・・ありがとう・・」



今井さんはそれ以上は何も言わずテキパキと本を分類ごとにわけて、俺はそれを棚に戻した。

単純作業だけど量が多い・・

なるべく集中しながら間違わないように、急いで本を戻していった。



「大石君これで最後だよ!」

「そうか!よし!」



最後の一冊を棚に戻してホッと一息つく。



「それより時間大丈夫?かなり時間かかっちゃったけど・・」



今村さんの言葉にハッとした。片付けるのに夢中で時間を見てなかった。

急いで片付けたんだけどな・・

と思いながら携帯の時計を見るともう部活の終わる時間だった。


ヤバイ・・・



「ごめん!今から部活行くけど、もう一人で大丈夫かな?」

「こちらこそごめんね。ありがとう。もう後は先生に片付けが終わった事を報告するだけだから大丈夫だよ!」

「そうか・・じゃあ悪いけど俺行くよ!じゃあまた明日!」

「うん本当に有難う!また明日ね大石君!」



本当なら最後まで付き合ってあげたいけど、もう既に時間がない・・

俺は今村さんに手を振って図書室を出てから、全速力でテニスコートに向かった。


英二怒ってるよな・・・


走って・・走って・・やっとの思いでテニスコートに着くとやはり練習は終わっていた。

英二は?と探してみたが、赤茶頭の元気な姿はなかった。



「遅かったか・・・」

「菊丸なら不二に連れられて、先に部室にあがったぞ」



うわっと驚いて振り向くとそこには乾が立っていた。



「いっ乾・・?」

「急げば間に合う確率50%!五分五分だな。不二しだいってとこか・・とにかく急いだ方がいいぞ大石」

「あっああ・・スマン!ありがとう乾」



びっびっくりした・・いつの間に乾の奴後ろに立ってたんだろう・・

しかも間に合う確率 50%って・・微妙だな・・とにかく急いで部室に向かおう。


今度は部室に向かい走り出した。そして部室に着くと勢いよく部室の戸を開けた。



「英二いるか?」



声をかけながら入った部室には英二の姿は無く、ロッカーにもたれかかって立っている不二だけがいた。



「不二・・」

「やあ大石・・思ったより早かったね」



不二はゆっくりロッカーから体を離し俺の方へ近づいて来た。



「英二は?」

「英二は先に家に帰したよ」

「そうか!じゃあ悪いけど、俺英二のとこに行くから!」



体を反転して部室の戸に手をかけようとした時に、不二に呼び止められた。



「ちょっと待ってくれないかな大石!少し話があるんだけど・・」



話?不二が?そう思いながら振り向くと眼を開けた不二がいた。


ヤバイ・・そうとう怒ってるな・・・

不二は普段はとても物腰の柔らかい奴で感情をあまり表に出さないが、怒るととにかく怖い。

特に誰も反論出来ないような、威圧感というか、なんというか、不二の後ろに黒いオーラのような物が見えるような気さえする。

そんな不二は英二と1年の時から親友で、必然的に英二に甘いというか、英二よりだったりする。

それは別に構わない事なんだけど、イヤあまり良くないな・・・

とにかく怖いというかキツイというか・・・俺の痛い所を確実に突くんだよな。


俺は覚悟を決めて不二に聞きなおした。



「話ってなんだ・・不二?」

「大石さぁこのまま英二のとこに行って仲直りしても、また同じ事の繰り返しだと僕は思うんだけど・・その辺何か考えてるの?」

「いや・・何も・・」



即答した俺の言葉にやっぱり・・と大きくため息をついて不二が俺を睨んだ。



「バカじゃないの・・いい加減君には呆れるよ・・こんなんじゃあ英二も報われないよ なんど同じ事を繰り返したら気が済むわけ?」



そんな・・バカはないんじゃないですか?

とも思ったが、確かに今までも同じような事が あったし英二に会う事意外は何も考えてなかったのも本当で言い返す事も出来ない。



「その・・スマン・・同じ事を繰り返すつもりはないんだけど・・・」

「そうだろうね・・だけど繰り返してるよね・・」

「はい・・そうです」



英二は不二に事あるごとに相談したり報告したりしている。

だから不二には俺達の間で起きた出来事が筒抜けだったりするわけで、それはあまり良くない事じゃないのかな?と思うのだけど、

英二が不二に話を聞いて貰った後、明るく『不二ってやさしいしホントいい奴だにゃ〜』と言っていたのを思い出した。

だけど英二・・・せめて相談するならタカさんにしてくれ!と目の前の威圧感丸出しの不二を見ながら思うのは俺だけだろうか・・・



「大石・・君の性格を変えるのは難しいと思うけど、英二をもう少し安心させてやる事は出来ると思うんだよね・・・聞いてる?」

「あっああ・・・しかし安心と言われても、不安にさせてるつもりはないんだけど・・・」

「本気で言ってるの?」



不二の眼が青白く光った気がした・・怖いよ・・



「いいっ!!いや・・あの・・」



俺が言葉に詰まるともう一度大きくため息をついて呆れたように不二が話始めた。



「君には言葉に出してちゃんと言った方が良さそうだね・・大石僕が言いたいのは、いい加減英二に好きだって言ってあげたらって事。

そうしたら英二だって多少の事で不安になったりしないと思うんだけど・・・」



それは・・出来るならそうしてやりたいが・・・



「不二・・悪いけど・・・」



俺が不二の言葉に答えようと話し始めるとすぐに不二の言葉に遮られた。



「大石!釣った魚に餌をあげないといつか逃げてしまうよ。それでもいいの?」



釣った・・というより釣られた気がするが・・

この際どっちでも同じだな。それより確かに今のままではいつか英二に愛想をつかされて、俺の前から去ってしまうかもしれない・・・

そう思うと眩暈がした。



「そうだな・・不二・・それは困る・・」



俺がそう言うと不二はやれやれっと笑っていつもの穏やかな顔に戻った。



「じゃあ僕はちゃんと忠告したからね。後は大石次第だよ」

「ああ・・そうだな」

「じゃあ気をつけて行って来なよ。英二も今頃家に着いてるんじゃないかな?」



そう言うと不二は俺の背中を押した。



「すまない・・ありがとう」



ニコニコ手を振る不二に礼を言って、俺はそのまま部室を出て英二の家に向かった。



英二待ってろよ!今から行くからな!





テニプリ見た時に、一番最初に好きになったキャラは実は不二だったんですよ〜。いつのまにか、大石が一番になってて


今に至るんですけど・・・。不二の二面性というか黒不二いいですよね〜。だから度々彼は出てきます。では次のページへGO!


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