英二の家に着いて呼び鈴を鳴らしたが、何の応答も無い・・・
あれ?英二帰ってないのかな?
英二の家は大家族だから英二以外の誰かが出ても良さそうなのだが・・今日に限って誰も出ない。
うそだろ・・・ここまで来て会えないなんて・・・
そう思いながら玄関の戸を調べたら、鍵はかかってなかったみたいで簡単に戸が開いた。
どうしよう・・・勝手に開けて覗くのはマズイかな?
だけど帰っているかどうかは確認したい・・・
俺は結局玄関の戸を開ける事にした。
「すみません・・こんにちわ・・」
小さい声であいさつをしながら、中を覗くと脱ぎ捨てられた英二のスニーカーが眼に飛び込んできた。
なんだ・・英二の奴いるじゃないか・・・
そう思った時に二階から大きな声が聞こえた。
「大石のムッツリスケベ!!」
なっなんだ?英二?
誰も居ないだろうリビングに『お邪魔します』と声だけかけて、急いで靴を脱いで英二の部屋へ向かった。
そしてそっと戸を開けて中を覗くと大五郎に抱きついている英二の後ろ姿が見えた。
「誰がムッツリスケベだって?」
「うわっ!!!!」
急に声をかけられた英二は大五郎から体を離して俺を見て口をパクパクしている。
いや・・そんなに驚かれると・・困ったな・・・けどムッツリスケベは無いだろう・・・
「どっどうやって入って来たのさ?ここ俺の家だぞ!?なんで大石がいるんだよ!」
確かにここは英二の家で・・・
英二の声が聞こえたから、会いたくて勝手に入ってきたけど
やっぱり不味かったかな・・・
「あ〜すまない・・呼び鈴鳴らしたんだけど、誰も出ないし・・念の為玄関のドアを確認したら開いてたから中をのぞいてみたんだ・・・
そうしたら英二の声が聞こえたから、そのまま上がってきた。あっでもちゃんとおじゃましますって言ったぞ!」
なんとなく気まずい雰囲気にハハッと笑いながら説明したのが悪かったのか、英二はキッと俺を睨んだ。
「それで・・何しに来たの?」
何しにって・・英二に会いに来たんだけど・・とにかく約束を破った事は最初に謝らないとな。
「不二に聞いたら英二が帰ったって聞いたから来たんだよ・・その・・ごめん!!」
「なんで謝んだよ!!」
ええっ・・なんでって言われても約束を破ったから英二が怒ってる訳で・・・
だからこうして会いに来てるんだけど・・・謝り方が悪かったのかな・・・?
「さっきの子はどうしたんだよ!ずっと一緒だったんだろ!!!」
さっき・・?ああっ今村さんの事か・・
「今村さんとは学校でわかれたよ」
「へぇ〜ふ〜ん・・でなんで大石がその今村さんの手伝いをしてたわけ?」
そうだな・・ちゃんと説明しなきゃな・・
「さっき一緒だった今村さんは同じクラスの子で図書委員なんだ。それで担任の先生に返却された本を図書室に運ぶように言われて、側にいた俺も頼まれて・・
図書室に運んだまでは良かったんだが、今度はそれを片付けなきゃいけなくて・・英二が待ってるのわかってたけど、
図書室に運んだ以上の本がまだ整理されてなくて・・その・・彼女一人置いて部活に行けなくて・・・本当にごめん!
俺一生懸命急いで片付けたんだけど部活に間に合わなかった・・終わってから急いで部室に行ったんだけど、不二に英二は帰ったって言われて・・」
あれっ?英二聞いてるのかな・・・
俺が話をしてる途中から俯いて何か考え事をしてるみたいで心配になってきて思わず声をかけた。
「英二・・英二・・どうしたんだ?」
「大石・・本当に悪いと思ってる?」
「ああっだからここまで来たんだ・・・」
英二・・許してくれるのかな?
ここはガツンと英二が喜ぶ事を言ってやらなきゃな!
「全国に向けて一緒に練習していかなくてはいけない時に1人にして悪かった。1人じゃダブルスの練習は出来ないもんな!
明日は必ず一緒に部活に行こう!約束する!」
どうかな?なんかちょつと違ったかな・・
英二の顔がみるみる不機嫌になって行くような・・
「ちょっと大石ここに座って!」
「あっああ・・」
英二が椅子に踏ん反りがえりながら指をさすので、俺は思わず英二の椅子の前にちょこんと正座をしてしまった。
やっぱり・・何か不味い事を言ったのかな・・・
「大石は俺の何?」
えっ?急に聞かれて思考がストップした。
「俺のって・・・う〜ん・・」
これ以上何か不味い事を言って英二を怒らす訳にはいかない・・
慎重に発言しなくては・・・
「あっ!ダブルスのパートナーだよな・・・」
英二の眉がピクッと上に動いた。
発言間違えたのかな・・・
「それもあるけど・・他にもう1つあるでしょ!」
他にもう1つ・・といえば英二との関係はアレしかないよな・・・たぶん・・・
「ああっ!えっと・・・恋人かな・・・?」
俺の言い方が悪かったのか更に英二の顔がムッとしたのがわかった。
「そうだよね!俺達付き合ってるんだよね!」
「そっそうだな!付き合ってる!」
恋人が正解だったんだな・・・
「じゃあなんで恋人をほっておいて、他の子に優しくするんだよ!」
「いや・・でもあれは・・・」
「ああっそう男の俺より、かわいい今村さんの方がいいって事だな!!」
ちょっと待ってくれよ英二!お前そんな風に俺を見てたわけ?
それって余りにも俺の事信用しなさすぎじゃないか!!
「なっ!何言ってんだよ!俺そんな事一言も言ってないだろ!いいかげんにしろよ英二!怒るぞ!!!」
俺の言葉に英二も更に大きな声で応戦してくる。
「なんだよ!大声だしちゃってさ!図星だろ!大体大石は今村さんがお前に惚れてるのわかってて接してるの?」
えっ? えええっ!!なんだよ・・惚れてるって・・そんな感じはなかったと思うけど・・・
「そっ・・・そんなの知らないよ!誰かにそう言われたのか?」
「いいや!俺の勘!!」
「なんだよそれ・・・・」
なんだか・・一気に疲れが押し寄せてきた気がする。
そうか・・英二の奴・・約束を破った事よりも、今村さんとの仲を疑って怒ってたんだな・・
これじゃあ不二にバカって言われても仕方ないよな・・
「なぁ英二・・・俺が悪かったよ・・・なるべく他の子に優しくしないようにするからさ もう許してくれよ・・・頼むよ・・」
俺がもう一度謝ると、英二はなんだか複雑な顔をしている。
「本当に他の子に優しくしないんだな!」
「あっああ・・約束する!」
本当はあんまり自信はないんだが、この際自分に言い聞かせる為にも断言するよ。
「じゃ英二が一番大切で、一番好きだって言って」
いいっ!!!それは・・・
「そっそんな事言わなくてもわかるだろ!」
「じゃあ許さない・・・」
英二・・そんなに不安なのか?
いや・・俺が悪いんだな・・俺の中途半端な態度が・・
だけどこんな風に好きだって言っても英二は納得するのだろうか・・・?
考えてる場合じゃないな。今は英二の気持ちに答えてやる事が先決だよな・・
「よし・・わかった! 俺は英二が一番大切で一番すっ・・すっ・・・すっ・・・」
あっあれ!??こんなはずじゃないんだけど・・
うまく言えない俺に痺れを切らした英二が半分投げやりに叫んだ。
「もういいよ!わかったよ!許してやるよ!」
ハァ・・情けないな・・これじゃあ不二に会わす顔もないよ・・
「ごめん英二・・・俺・・・悪い・・・」
「だから本当にもういいよ・・・大石の事は俺が一番わかってるから・・・本当は今回の事も俺の只のやきもちの八つ当たりだし・・・」
「英二・・・」
俺は英二に甘えてるな・・・
英二がやさしいから・・・
英二が俺を見てくれてるから・・
だからついその気持ちに乗っかって俺の気持ちは、はぐらかして・・ズルイよな・・・
だけど英二を想う気持ちは本当で、いつまでも英二の笑顔を守りたいと思ってる・・・
だからそんなに落ち込まないでくれよ・・・
「英二・・俺本当に英二が大切なんだ・・今回の事は本当に済まなかったと思ってる。 これからはなるべく他の子に手を貸さないように努力するからさ・・・
笑顔見せてくれよ じゃないと俺帰れないよ」
「おっ大石・・・・」
英二の顔に笑顔が戻るのがわかった。
「大石!俺大石が大好きだよ!」
えっ・・・英二・・・
英二はやっぱりすごいな。いつも俺を救ってくれる。
「ああっわかってるよ」
俺の言葉を聞くのと同時に、英二が椅子から飛び降りるように飛びついてきた。
「わっあああ〜英二!」
しっかり英二を抱きとめたまでは良かったんだけど・・離れない・・・
英二・・うれしいけど・・
今日は誰も家に居ないのでは?
俺の理性が・・・
そんな俺の気持ちをよそに、英二が良い事を考えたとばかりに嬉しそうに話始めた。
「ねぇねぇ大石!俺が家まで送って行ってやるよ!」
ええっ!?嬉しいけど・・
そんな事をしたらせっかく家に居るのに、英二の帰りが遅く なるじゃないか。
「いいよ!俺一人で帰れるから」
「ダ〜メ!俺が送りたいの!」
ハァ・・・英二の笑顔には敵わないな・・・ここは英二に甘えるか・・
「じゃあ途中まで一緒に帰るか・・」
「うん!!」
もうすでに暗くなった帰り道で、明日こそは一緒に部活にでようと再度約束をかわした俺達はその日ようやくお互いの家へと帰った。
へたれ大石です。けどやる時はやる男です(何を・・・?)あともう少し続きます。
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