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                                  暮れも押し迫った静かな夜

それは突然かかってきた一本の電話から始まった。




「どうした英二。こんな時間に・・・何かあったのか?」

「あぁ大石。あのね・・・何色が好き?」

「はっ・・・色?」

「そう色!何色が好き?」

「色か・・・それなら白かな。でもそれが何かあるのか?」

「やっぱ白か・・・でも白じゃ駄目なんだよね・・・

ん〜〜じゃあさ。赤かピンクかオレンジならどれが好き?」

「えっ?そんな事、急に言われてもな・・・」

「じゃあその中で俺に似合う色って何色?」

「英二に似合う色?う〜んそれも難しいな・・・どれも似合うと思うけど・・・」

「それじゃあ駄目なの!どれでもいいから早く言ってよ!」

「え?どれでもって・・・そんないい加減な事は・・・」

「早くっ!」

「ん?急いでるのか?参ったな・・・じゃあ・・・赤かな?」

「そう!わかった!じゃあ大石。年賀状楽しみにしててね。じゃあ!」

「あっ・・おいっ!英二っ!年賀状って?おいっ!英二っ!」



プープープー



・・・・・・・切れてしまった。

一体なんだったんだ・・・?




そう急にかかってきた電話

何かあったのかと思えば、色の話と年賀状という言葉だけを残して切れてしまった。


それが何の関係があるのかも言わず・・・・

疑問だけを残して・・・・
















「まだ来てないな・・・」



ポストの中を覗いて、俺は小さく溜息をついた。

あの夜かかってき電話、疑問だらけの内容だったから次に話をする時に『あれは一体なんだったんだ?』と聞こうと思っていたんだけど、年末の大掃除やら買物やら何かと母親の手伝いをする事も多く、英二と話す機会があったのにすっかり聞くのを忘れていた。

そして今日は・・・もう元旦だ。

お雑煮を食べながら何気なく話した妹との会話で、あの年賀状の話を思い出した。

それからというもの・・・

何度もポスト覗いては確認しているんだけど・・・未だに年賀状は配達されていない。


仕方ない・・・暫くしてからまた覗くか・・・


てっきり朝一番に配達されていると思っていたが、待ってみるとこんなにも遅いものなんだと改めて気付きつつ、俺は家に入りリビングへと向かった。


英二が来るまでに確認しておきたいんだけどな・・・


きっと英二も俺が英二からの年賀状を見てどんな反応をしたか期待しているだろうし・・・

英二が何を思ってあの電話をかけてきたのかわからないけど、会うまでには答えを見つけておきたい。


英二に答えてやりたい・・・もんな・・・


俺はもうすぐ来るであろう英二の顔を思い浮かべた。

英二・・・


しかし・・・去年の今頃はこんな余裕は無かったな。

一昨年の部活最後の日・・・本当は英二を初詣に誘うつもりでいたのに、上手く誘う言葉を見つけられなくて、そのまま別れた俺。

英二の事を意識しすぎて、誘いたくても誘えなかった。


友達だから・・・友達なのに・・・


そんな考えが頭の中を支配して駄目だった。

その結果、正月までの数日ずっと後悔していたんだよな。

やっぱり・・初詣ぐらいサラッと誘えば良かったって・・・

まぁ結局は、当日に一か八かで電話して無事一緒に初詣に行けたんだけど・・・

あの時の初詣は緊張の連続だったよな。

英二への想いは気付かれたくないと思っているのに・・・

端々で英二への想いが漏れ出してしまいそうで、何度も焦って・・・

だけど今や・・・英二は俺の恋人で・・・

今年はちゃんと会う約束をしている。

英二が迎えに来てくれて、一緒に初詣に行くんだ。

ホント・・・去年一年で俺達の仲もだいぶ変わったよな。

あと二時間かぁ・・・



「お兄ちゃん」

「ん?」

「何ニヤニヤしてるの?」

「えっ?」

「さっきから・・・変だよ。思い出し笑い?」

「えっ?あぁ・・・いやそんな事はないぞ・・

 断じて思い出し笑いなんかじゃあ・・・・・」



覗き込む妹に、俺は顔を引き締めて手を振って否定した。


イカン・・・イカン・・・油断していた。


妹にはだらしない顔を見せる訳にはいかない。

何と言っても兄の威厳を保っていたいもんな・・・って・・・誤魔化せたかな?

これからはみんなのいる前では・・・

リビングでは英二の事を考えないようにしなきゃな・・・


不思議がる妹に更に手を振って『ホントだぞ』というと、妹は首を傾げたあと、ハガキを差し出した。



「ふ〜ん・・・まぁいいや。はい!」

「あっ」

「年賀状。届いてたよ。待ってたんでしょう?」

「あぁ。ありがとう」



何となく気まずい雰囲気に俺は年賀状を受けると、立ち上がり自分の部屋へと移動した。


う〜ん・・不味いな・・・

年賀状を待っていた事も・・・バレてたのか・・・・













えっと・・・英二からの年賀状は・・・・


部屋へ入ると俺は早速年賀状を確認した。

同じクラスや元クラスメート、小学校の時の友達・・色々届いているなかにテニス部の連中からの年賀状も当たり前のように混じっている。

手塚に・・不二に・・タカさんに・・乾・・今年入った桃や海堂まで・・・

それなのに、英二の年賀状はまだ出てこない。

おかしいな?

楽しみにしててって言うぐらいだから、出してくれていると思うんだけど・・・・

一枚一枚確認しながら見て、残り2枚でようやく英二からの年賀状が出てきた。


あった!

どれどれ・・・・


『あけまして おめでとう!』


おめでとう英二


『今年もよろしくね!』


こちらこそよろしく。

『目指せ!全国No.1ダブルス!!』


あぁ。一緒に頑張ろうな。


・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・アレ?



これだけ?

っていうか・・・普通だよな?


俺は年賀状を裏返してみた。

表には俺の住所と名前そして英二の住所と名前だけで、特に変わった事は書いていない。


じゃあやっぱり裏?


俺はもう一度年賀状に書かれた文字を見た。

白地の葉書に大きく黒字で文字が書かれている。

いたってシンプルな年賀状だ。


どういう事だろ?

まさか透かす・・・とか?


俺は年賀状を持って、机の電気にかざして見た。

だが何も透けて見えるものはなく・・・やはり字だけ。


おかしいな・・・何かあると思ったんだけど・・・・

あっそうだ!もしかして・・・あぶり出し!?


そう思って立ち上がってキッチンに向かったが3分後には部屋に戻って来た。


危ない・・・もうすぐで焦げるとこだった・・・

一体じゃあ何なんだ?


あの電話がなければ、普通に受け取っていた年賀状

だけど・・・

楽しみにしててねって言うからには何かある。と思うじゃないか・・・

それにあの色の話も・・・年賀状と関係があるのかと思っていたのに

この年賀状には黒以外使われていないし・・・

さっぱりわからない・・・

俺の思い過ごしなのか・・・・?


でも・・・

あの時の感じを思い出すと、どうしても何か引っ掛かる。

俺は今度は年賀状を横から見た。


まさか・・・二枚重ね?

な・・・訳ないよな・・・・


どれだけ考えてもわからない。

俺は心の中で両手を上げ白旗を振った。


やはり・・・これだけ試して何もないのだから・・・

俺の思い過ごしなのだろう。

あの時の電話も色と年賀状は別の話だったんだ。


俺は年賀状を机の上に置いて、腕を組んだ。


それに・・・

改めて見たら、これはこれでいい年賀状じゃないか。

しっかりとした大きな字で書かれた俺達の目標


『目指せ!全国No.1ダブルス!!』


事あるごとに口にして誓ってきた言葉・・・俺達の夢

今年は絶対に叶えたい。

そんな想いがこの年賀状から感じとる事が出来る。

きっと英二もこの想いを俺に伝えたかったんだ。

最後の夏・・・勝負の年

気を引き締めて頑張らなきゃな・・・英二・・・



英二に想いを馳せて年賀状を手に取った時、俺の部屋の戸が開いた。



「あけおめ!大石っ!」

「えっ英二っ!・・えっ?もうそんな時間?」



勢いよく入って来た英二に驚いて、俺は新年の挨拶も忘れて時計を見た。

年賀状に気をとられていて気付かなかったけど・・・

もう約束の時間になっていたのだろうか?



「んにゃ。約束してた時間より、早く来ちゃった。駄目だった?」



英二はダッフルコートを脱ぎながら、上目使いに俺を見る。



「いや・・そういう訳じゃなくて・・・驚いた・・・」



早く会いたいとは思っていたけど、ホントに早く来てくれるなんて思っていなかったから・・・



「へへへだってさ。早く大石に会いたかったんだもん。

だから色々切り上げて早く来たんだ」

「英二・・・」



白い歯を見せて、英二が笑う。


英二のこういう所・・・凄いな・・と思うよ。

サラッと嬉しい事を言ってのけて、俺をこんなにも幸せな気持ちにさせてくれる。



「外、寒かっただろ?何か温かいものでも入れてこようか?」

「うん。サンキュー」



英二は手馴れた手つきで、コートを壁にかけるとベッドにもたれてドサッと座った。



「じゃあ少しだけ待っててくれ」



俺は部屋を後にした。















コーヒーメーカーから出るコポコポという音を聞きながら俺はマグカップを用意していた。


そうだ・・・英二が早く来てくれたおかげで少し時間の余裕が出来たし、地元の神社にお参りに行った後、コンテナに行かないかって誘ってみようかな?


今年1年の始まりをコンテナで・・・

それであの年賀状に書いてあったように、もう一度俺達の目標を誓おう。

今年は必ず『全国優勝』『全国No.1ダブルス』だ。

よしっ!


俺は想いを手に握り締めぐっと力を入れた。



「お兄ちゃん。これ・・・・」

「えっ?」



呼ばれて視線を落とすと、いつの間にか妹が隣に立っていた。



「お母さんが英二くんと食べてって・・・・」

「あっ・・・あぁ・・ありがとう」



妹が差し出してくれたお菓子を受け取る。

妹はそのまま俺をじっと見ていた。

不思議そうな眼差し・・・


参ったな・・・

今日はつくづく間が悪い・・・



「いっ今のも・・・ニヤニヤとか思い出し笑いとかそんな訳じゃないからな」
















「英二。お待たせ」



部屋を開けて入ると、英二は俺の机に座っていた。

何かを手にとって見ている。


あっ・・・あれは・・・



「英二。勝手に人の年賀状を見るなよ」

「別にいいじゃん。減るもんじゃなし」

「そういう問題じゃないだろ」



俺はトレーを机の隅に置いて、英二が持っていた年賀状を取り上げた。



「プライバシーの侵害だぞ」

「そんな事言って・・・実は見られたくない事が書いてあるんじゃないの?」

「ばっ・・・何言ってんだよ。そんな事ある訳ないだろ?」

「う〜何か怪しい・・・」

「英二・・・」



ったく・・・やきもちを妬いてくれるのは嬉しいけど、流石にこれは困る。

年賀状といえどやはり俺宛に来ているもので、送ってくれた相手だって俺に伝えたいと思った事を書いてくれている筈だから・・・

英二といえど、他人が見るのはルール違反だよな。



「兎に角・・・読むのは駄目」

「ケチ!」

「ケチで結構。駄目なものは駄目」



そう言いながら英二から取り上げた年賀状を束ねていると、机の上に二つに分けられている年賀状が目に入った。



「これは・・・何を分けてたんだ?」



『え〜』と英二は目線を外しながら唇を尖らせた。



「こっちが男で、こっちが女。大石って女子からも同じぐらい届いてるんだな」



・・・・・・って・・・英二・・・

お前そんな事していたのか・・・



「分けるなよ」

「だって気になるじゃん」



気になるじゃんって・・・

確かに俺も英二がどれだけの女の子から年賀状を貰ったとか・・・気になるけど・・・

駄目だ・・駄目だ・・・やっぱりこういうのは良くない。



「と・・兎に角。年賀状は終わり。それよりもコーヒーを飲んだら初詣に行くんだろ?」

「うん・・・」

「じゃあ早く飲もう。」

「・・・・うん」



英二は腑に落ちないって顔をしながらも椅子から立ち上がって、硝子テーブルを出してくれた。

俺もそれを手伝って、マグカップを渡す。


すっかり拗ねてしまったな・・・英二・・・


その時束ねた年賀状が目に入った。


あっそうだ・・・

他のは駄目だけど・・・・



「英二。年賀状ありがとう」



俺は束ねてあった年賀状の中から英二のを出して、英二に差し出した。



「大切にするよ」



唇を尖らして俯いていた英二が俺を見る。

俺は優しく英二に微笑んだ。


怒っている訳じゃないんだ・・・そう伝えたくて・・・



「大石・・・」



英二はその想いが伝わったのかやっと笑顔を見せた。

そして思い出したように叫んだ。



「あっそうだ!」

「ん?どうしたんだ」



俺の問いかけにも答えず、英二は部屋の片隅に置いた自分の鞄を取るとゴソゴソと何かを探している。

俺は英二の横に移動して、もう一度問いかけた。



「何かあったのか?」

「大石。鏡貸して」

「えっ?」

「鏡」

「あぁ・・・いいけど・・・」



急にどうしたというのだろう?

鏡なんて何に使うんだ?



疑問を持ちつつも俺は机の引き出しから、折り畳みの鏡を英二に渡した。



「あと俺の年賀状」

「英二の?あぁ・・・はい」



英二に言われるまま今度は年賀状を渡すと、英二が俺を見上げた。



「実はさ、この年賀状まだ未完成なんだよね」

「えっ?未完成?」



年賀状が・・・?

って事は・・・・


『年賀状楽しみにしててね』


やっぱりあの言葉には意味があったのか?


何度考えてもわからなかった英二の年賀状の秘密

自分の中ではあれで完成だと答えを出したのだけれど・・・


英二は俺が渡した年賀状を硝子テーブルに置くと、鏡を開けて顔を覗かせた。

そして手に持っていた何かを、口につけている。



「何をしているんだ?」

「ん?ちょっと待って」



俺が覗き込むと、英二はそう言って顔を横に向けて見せてくれない。


一体何をしているんだ?


気になってもう一度覗き込もうとしたら、英二が年賀状を取ってそのまま年賀状にキスをした。



「えっ?おい。英二?」



俺が驚いて英二の肩に手を置くと、英二が年賀状を俺に差し出した。



「はい!出来上がり!」

「出来上がりって・・・」



受け取った年賀状を見ると、真っ赤なキスマークがついている。


これって・・・・?

えっと・・・・?



英二の行動についていけなくて、年賀状と英二の顔を交互に見ると英二が少し頬を染めながら、ニシシと笑った。



「姉ちゃんに貰ったんだ。友達からのお土産いっぱい貰ったからって」

「へ〜〜そうなんだ・・・・」



って・・関心してる場合じゃないよな?

この年賀状・・・どうするんだ?

このキスマーク・・・・



「大石。俺には赤が似合うって言ってくれただろ?」

「えっ?あぁ・・・言ったけど・・・」



アレってお土産の・・・口紅の色の話だったのか・・?

いや・・・だからって言っても、なぜキスマーク・・?



「だから赤にしたんだよ」



えっ?

俺が赤を選んだから・・・?



「英二・・・」



そう言われて俺は改めて英二を見た。

英二の唇

赤く塗られたその唇は、熟れた果実のように魅惑的だった。



「大石っ!」

「わっ!」



だからついうっかり見惚れてしまって・・・


英二が俺の首に手を回した時も、固まったままだった。



「お裾分け」

「えっ?」


英二は耳元で囁くと、俺の頬っぺたに唇を押し当てる。



「お裾分け・・・?」



回らない思考で聞き返すと、英二に鏡を渡された。



「年賀状とお揃い」



年賀状と・・・お揃い・・?


英二の言葉を心の中で復唱しながら、鏡を覗き込むと・・・


あっ!!!!


俺の頬にはバッチリ英二がつけたキスマークがついていた。



「・・・英二・・・お前・・・」



みるみる赤くなっているだろう顔を、何とか引き締めて英二を睨むと英二は満面の笑みを見せた。



「大石っ!今年もよろしくね!」



よろしくねって・・・・ったく・・やれやれ・・・・

英二には・・・・敵わないな・・・・


俺はキスマークを手で押さえながら苦笑した。


英二の色・・・赤か・・・


気になっていた年賀状の秘密

答えがわかったような・・・わからないような・・・・


ハッキリした事といえば・・・・

今年もこうやって英二に振り回されながら・・・過ぎていくんだな・・・という事



だけど・・・



「・・・・・よろしく英二」




それも悪くない。




                                                                                                             




                                                                                                        END







大石の一年は英二のサプライズから始まる・・・って言えば聞こえがいいけど


結局の所は、やっぱり英二に振り回されて始まる・・・というお話です☆

という訳で・・・今年も大菊を宜しくお願いしますvv

2009.2.5