陽だまりの午後







暖かな日差しの中、親友との落ち着いたランチタイム・・・のはずだったんだけど


「ぽかぽか暖かいこんな日は屋上でお昼っていうのも、なんだかいいよね」

「ホントだよな〜〜!!」



僕の問いかけに卵焼きを1つ口の中にほうりこんでモグモグ食べてニコニコしていた彼が、今度はみるみるうちに機嫌が悪くなってきている。

今じゃさっきまでの和やかムードは何処へ行ってしまったのかと思うぐらいだ。



「英二。食べるか、読むかどっちかにしたら?」



僕の声が聞こえていないのか英二は『ムムムム・・・』と変な声を漏らしながら、ワナワナと体全体を打ち震えさせている。


まぁ原因は予想がつくけどね・・・


たぶんそれは、彼が今左手に持っている青学タイムズの記事の内容だろう。

昼休みに入ってすぐ新聞部が配布して行ったやつだ。

今回の特集はテニス部で、氷帝学園との試合内容と、あともう1つレギュラー全員に質問っていうのが載っていて、今回は好みのタイプだったかな・・・



「なんだよこれ〜〜!ふざけんじゃねーぞ!!」



急に発せられた大きな声は屋上にいたすべての人が振り向くほどで、僕にしたらよくあることなんだけど、周りの人は急にソワソワしだして、居心地悪そうにしている。

そりゃ・・・そうだよね・・・

ここに来てお昼を楽しもうと考える人は、落ち着いたお昼を期待しているだろうから・・・

こんなに騒がしく喚き散らす人がいれば、ここを離れたいと思うのが普通な考え方で・・・

あっという間に一人二人と屋上でお昼を楽しんでいた人達が去って行った。

僕はサンドイッチを食べながら去って行く人達を確認して、僕と英二だけになった頃を見計らって話しかける。



「で・・・今回はどうしたの?」



英二が突然怒りだす事の9割は彼の恋人の事で、今回も間違いなく彼が原因なんだろうと思いながら聞くと、案の定英二の口から恋人の名前が出てきた。



「見てくれよ不二!この大石の記事のトコ!これってどーよ!!」

「どーよって言われてもね・・・」



僕は苦笑しながら、英二が差し出した青学タイムズを受け取り、記事に目を落とす。

英二が言う大石の記事ってのは、やっぱりこれの事だろうな・・・

そこには好きな子のタイプが書かれている。

大石の所には・・・・



「めがねが似合う女の子」



わざと声に出して読むと、また英二の顔が一段と不機嫌になっていく。

その姿が可笑しくて、思わず笑ってしまった。



「笑い事じゃね〜よ!不二!」



プイっと横を向いて膨れる英二を見て、また笑いが漏れる。



「ごめん。ごめん。だけど英二だって答えてるじゃないか。えっと・・・これだよね

明るい子、一緒にいて笑いあえる子」



僕がそう言うと、英二は待ってましたっという感じで反論してきた。



「俺のはいいんだよ!だってそれ大石の事だもん!俺はちゃんと大石の事を考えて答えたんだから!」

「そうなんだ」



まぁ聞かなくても、わかっていたけどね。

だけど明るい子って・・・英二にはそう見えるんだ。

どちらかと言えば、優しい子とか穏やかな子ってイメージの方が強いような気がするけど・・・

うん・・・でも一緒にいて笑いあえる子って言うのは二人にピッタリだけどね。



「なのにどーよ!大石の奴はめがねの似合う女の子って!

どーせ俺の視力は両目とも2.0ですよ!めがねなんてかけませんよ!

誰だよめがねの似合う奴ッて!どうせ手塚の事言ってんだろ!!

それに手塚のこれ『何でも一生懸命やる子(おっちょこちょいでも良い)』

これって絶対大石の事書いてんだぜ!わざわざカッコおちょこちょいでも良いなんて、付け加えんなよな!!」



・・・・・結局はそこなんだ。

英二はどうも手塚に脅威を感じてるみたいで、いつか手塚に大石を取られるんじゃないか?

大石だって心の底では手塚の事想っているんじゃないか?・・・って思っている節がある。

僕が見る限り、大石に関してはそんな心配は絶対にないって思えるけどね。

でも確かに手塚は・・・英二が感じる部分も確かに間違いではないかな・・・

英二には言えないけどね・・・

それに・・・こんな事を肯定して、わざわざ目の前の元気の固まりみいたいな親友の笑顔を曇らせる必要もないしね・・・

いや・・・違うかな?ホントは僕も少し認めたくないのかも知れない。



いろんな事を考えながら、ここで僕の中に小さな疑問が1つ芽生えた。

そういえばインタビューって形でレギュラー1人1人に新聞部が聞いて回っていたけど、その時はどうしたんだろう?

今になって英二がこんなに怒るって事は、その時は聞かなかったのかな?

そんな事、英二に限ってありえないと思うけど・・・



「手塚の事かどうかは置いといて、この記事のインタビュー受けた後、大石になんて書いたか聞かなかったの?」



英二は口を尖らせながら答えた。



「聞いたに決まってんじゃん!そしたらあいつ真っ赤な顔して『いや〜照れるから・・・』とか言うんだぜ。

だから俺はてっきり、赤毛の可愛い子とか笑顔の素敵な元気な子とか書いたって思うじゃん!ホント紛らわしいんだよアイツ!!」



ハハハハハ・・・英二らしいな。

それで今日まで怒らずに来たんだ。

それにしても大石って懲りないな。

手塚の事を意識して書いたとは思えないけど、確かに紛らわしい。

一度締めておこうか・・・・



「まぁでも英二を連想させるような事は、流石に大石も出来なかったんじゃない?」

「そう?なんなら菊丸英二って書いてくれても、俺は全然OK!だけどね」



そう言ってフンッと鼻を鳴らして、益々拗ねてしまった。

一応フォローを入れたつもりだったんだけど、英二には逆効果だったかな?

こうなってしまったら、いくら僕でも英二の機嫌を直す事は出来ない。

どうしょうか?と思った時にタイミングよく彼が現れた。



「やぁ!二人とも、もうお昼は食べたのか?」



そう言いながら、近づいて来た大石はどうやらすぐに英二の機嫌が悪いことに気が付いたみたいだ。



「やぁ大石。そっちはもう委員会の用事は済んだの?」

「えっ・・ああ今からまだ職員室に顔を出さないといけないんだけど・・・英二どうかしたのか?」



英二は顔を横に向けて黙ったままでいる。

どうやら大石を無視するつもりらしい。

僕はクスッと笑いながら、青学タイムスを差し出した。



「まぁいろいろあってね。それより大石ってめがねが似合う子がタイプだったんだ」

「不二!!!」



いきなり大石に好きな子のタイプの話をふった僕を、英二が慌てて止めに入ったけど

その英二の姿を見て大石は英二の不機嫌の原因がそこにあるのを悟ったみたいだった。



「英二・・・ひょっとしてこの記事見て怒ってるのか?」

「・・・・・・・・・」



『そうだよ大石』

って思わず僕の方が先に言ってしまいそうなほど、英二からは何の返事もなく沈黙だけが続いた。

僕は成り行きを見守る為に、ただどちらかが話し始めるのをジッと待っていた。

そして先に沈黙を破ったのは大石の方だった。



「英二この記事の事なんだけど・・」



そこまで話した時に英二が叫ぶように話しをかぶせた。



「なんだよ大石!俺は大石の事を書いたのに、お前は俺の事書いてくれたんじゃなかったのかよ!」

.「そうだよ!だから英二の事を書いたんだって!!」



即答で帰ってきた大石の返事に『へっ?』と英二の勢いが止まってしまっている。

僕も大石の答えの意味がよくわからなくて、思わず大石に真意を聞いてみた。



「それってどういう事なのかな?」



大石は少し照れながら、『不二の前でこんな事言うのは照れるんだけど』と前置きを入れて話し始めた。

「インタビューを受ける前の日、英二と二人で買物に出かけてて、

たまたま通った眼鏡屋の前で英二がふざけてめがねをかけて俺に見せたんだよ。

それがすごく似合っていたというか・・・

英二は何でも似合うんだけど・・・

すごく可愛かったなって思ってさ、それでついその時の事を思い出して答えちゃったんだけど・・・」



英二は大石の話を聞きながら、その時の事を思い出したのか小さな声で『あっ』っと言って、顔を真っ赤にしている。


ホントこの二人は・・・こんな事だろうとは、思っていたけど・・・



「なんだよ。わかりにくい事書くなよな!」

「英二が勝手に誤解して怒ってたんだろ!」



顔を赤らめながら、反論しあっても説得力欠けるんだよね・・・


言い合っている二人を見ながら、僕は小さなため息を1つついて、大石に話しかけた。



「誤解が解けたところで、大石は本当はここに何しに来たの?」



大石は『ああっ』と思い出したような顔をして、英二の方を見た。



「英二。今日一緒に帰らないか?」

「えっ?でも今日は委員会があるから、帰れないって言ってたじゃん」



そういえば朝練の時、今日は午後練がないのに大石は委員会があるから一緒に帰れない上に、遊べないって英二が嘆いていたっけ。



「だからその委員会がなくなったんだ。

今日は午後練もないし、英二さえよければペットショップ巡りなんてどうかな?

って思ってるんだけど・・・行く?」

「行く!行く!絶対行く!!約束だかんな大石っ!!」



さっきまで、拗ねたり怒ったりしていた英二の顔が一瞬にして、満開のひまわりのような明るい笑顔に変った。

大石も英二の笑顔に答えるように優しく微笑んでいる。



たぶん今・・・二人とも僕の存在忘れてるよね。



「じゃあ。そろそろ職員室に行くよ。しかし今日は屋上すいてたんだな。」



のほほんと言う大石に僕は極上の微笑みを浮かべた。



「君のおかげでね」



大石はハッとした顔をして、英二の顔を見た。

英二は悪戯っぽくニャハハッと笑っている。

これぐらいの事は言わせて貰わないとね。



「すまなかったな不二・・・じゃ英二後で」



大石は頭をかきながらそう言うと、屋上を去っていった。

英二は大石の去った後も暫く、彼が出て行った扉を頬を染めながら見つめている。

英二の頭の中はもう大石とのデートの事で一杯なんだろう。

僕はそんな英二を見ながらいつも思うことがある。



〈命短し恋せよ乙女〉



英二は乙女ではないけど・・・恋をしてる姿は健気で一途で羨ましい。

僕も英二のように素直になれたら・・・



燃えるような恋ができるだろうか・・・

                  



                                                         

                                                             END






去年の夏前頃にweb拍手の中に入れていた話です。それを再度こちらにUPしましたvv


決して手抜きではないのですよ!!(言い訳中・・・)

この話も短いですが・・・好きなのでnovel仲間にいつか入れようとね・・・思っていて・・・

それが今になったと言うことです☆(完全ないい訳です(笑))

そんな訳で、読んだ事があるって方もいるかと思うのですが・・・喜んで貰えると嬉しいです。

2008.1.8