漢会議





朝練が終了すると桃城は急いでポケットに入れておいた紙を取り出した。


そして大石、手塚、乾、河村・・・4人を集めて次々に渡す。

4人はほんのり温かいシワシワの紙を広げ目を落とした。

その姿を桃城が固唾を呑んで待つ。

最初に口を開いたのは大石だった。



「えっと・・桃・・これは・・・」



ひと通り読み終えた大石は顔を上げて桃城に尋ねた。



「漢会議っスよ。そこに書いてあるじゃないっスか」



桃城は紙を指差しながら、ちゃんと読んで下さいよと訴えかける。



「いや・・それはわかってるんだけど・・」



大石は仕方なくもう一度紙に目を落とした。




漢会議


内容:漢による漢の為の会議

時間:本日練習後1時間後開始

場所:3年2組の教室

議長:桃城武

書記:大石秀一郎(乾先輩でもOK)

PS.ちなみに漢と書いておとこと読んで下さい。

と、すべて手書きで書いてある。

大石はこの内容に酷似したものを以前みた事があった。

自分の可愛い恋人が、家に遊びに来ている時に不二と面白い事を考えついたんだ。

と机の上に広げていたものだ。

その後実際にその会議とやらは開かれ、1度だけだと思われた会議は定期的に何度も開かれている。

しかし・・・その内容はというと1度気になって聞いたものの



「乙女の秘密だよん」



と可愛い笑顔ではぐらかされて以来大石はそれ以上の事を追及できていない。

乙女による乙女の会議・・・メンバーが英二、不二、海堂、越前

それ以上の事は何も知らない・・ベールに包まれた会議。

なので、漠然と漢による漢の為の会議と言われても困るのだ。

しかも自分は書記という立場らしい。

議題もよくわからず、会議を開かれても困る。

大石は改めて桃城に尋ねた。



「桃。俺が聞きたいのは、内容だよ。俺達を集めて何を会議するっていうんだい?」



そこがわからなければ、Okを出す事も出来ない。



「それは・・特に考えてないっスけど・・」

「えっ?な・何も考えずにコレを作ったのか?」

「だってくやしいじゃないっスか!

向こうばっかり集まっては、俺達を餌に盛り上がってるんすよ!

俺たちだって負けてられないっスよ!」



桃城は手に握り拳を作り、わなわなとふるえている。

乾はその姿を見て広げていたノートを閉じた。



「おおかた越前の挑発にでも乗せられて作ったのだろう。

 だが・・俺は面白いと思うけどな」



乾の言葉に桃城の顔に笑顔が広がる。



「でしょ!でしょ!どうせ越前達の乙女会議が終わるまで待ってるんだし・・

俺達もやりましょーよ!」

「確かにいつも待ってはいるが・・こんなざっくりとした会議・・手塚はどう思う?」

「ん〜そうだな。漢による漢の為の会議か・・・」



手塚は腕を組み目を瞑った。

その横で河村が紙をポケットへと直す。



「ごめん桃。悪いけど俺はパスするよ。家の手伝いもあるし・・・

 俺には待つ理由もないから・・・・」

「そんな〜タカさんも一緒に盛り上がりましょうよ!」

「ホントにごめん。みんなは俺なんて気にせず盛り上がってよ。じゃあ俺先に戻るから・・」

「あっタカさん!」



みんなの輪を外れ河村が部室へと戻る。

それを桃城は申し訳なさそうな顔で見送った。



「俺・・悪い事したっスかね・・?」

「そんな顔をするな桃城。人には色々事情がある」

「乾先輩・・」

「それより・・どうするんだ手塚?」



乾に促された手塚が目を開けた。

3人の視線が手塚に集まる。



「漢と書いておとこと読むというのは・・・

本気と書いてマジと読むのと同じ原理なのだろうか?」

「「「・・・・・・はぁ???」」」



腕を組んで目を瞑って、手塚はそんな事をずっと考えていたのかと

3人は心の中で思ったが、それはあえて口に出さずに話を流すことにした。



「と・・取り敢えず、どうなるかはわからないけどやってみようか?」

「そうだな。だいたいの概要は海堂から聞いているし・・なんとかなるだろう」

「じゃあ決まりッスね!第一回漢会議・・・開催決定!!」






という訳で・・・放課後桃城提案の漢会議が開かれることとなった。

もちろん今日という日になったのは、部室で乙女会議が開かれているせいである。

いつもなら思い思いに恋人を待つ4人だが、その時間を利用して自分達も会議をひらこうというのが

ざっくりとした目的だ。

4人は部活が終わると、恋人と部室で別れて3年2組の教室に集まった。



「じゃあそろそろ始めようと思うんだけど・・・桃、それは何だい?」

「あっこれっスか?」



桃城は4つくっつけた机の上にやかんを置いた。



「ほら。向こうはお菓子やジュースを用意してるみたいじゃないっスか

俺達も何かあった方がいいと思って、さっきサッカー部のマネージャーに

分けてもらったんスよ」



桃城は話をしながら紙コップを並べた。



「普通の麦茶っスけど、ないよりましでしょ?」

「なんだ桃城。そんな事なら俺に相談してくれれば、乾特製ドリンクを用意したのに」

「いや・・それは・・ハハ」



だからあんたには相談しなかったんじゃねぇか・・という言葉は呑みこんで



「また次の機会と言う事で・・・」



桃城はなんとか笑って誤魔化した。

桃城が置いた紙コップに、大石が麦茶を淹れて行く。



「じゃあ。準備もできたという事で本題にはいりたいんだけど・・・

 この紙によると、議長が桃で書記が俺になっているんだけど・・そのままでいいのか?」

「ハァまぁ・・言いだしっぺですし・・

俺はそのまま議長で書記は変更してもらってもいいっスよ」

「いや俺もそのままでいいよ。乾は自分のノートを書くのに大変だろうから」

「よくわかっているじゃないか大石。こんな機会はめったにないからな。

 データを集めさせてもらうよ」

「という訳で・・・議長は桃で進めてくてるか」

「了解っス!・・・って言ったものの何を話しすればいいのか・・・

 議題って何にします?」

「議題かぁ・・・桃は越前に何か聞いているのか?」

「それが・・・詳しい事は俺もよく知らないんスよ。

 俺達の話をしてるっぽい事は、なんとなくわかるんスけどね。っていうか・・・

「馬鹿じゃないんだからさぁ。ボサーッと待ってるぐらいなら、そっちもみんなで同じ様に会議すればいいじゃん」

なんて事言うんスよアイツ・・・キツクないっすか?

ったくやってらんね〜な。やってらんね〜よ。」



とぼやく桃城の横で



「なるほど。やはり俺の予想はあたっていた訳だな」



乾がノートに記入をし始めている。

大石は慌ててフォローに入った。

「まっまぁ・・言い方はキツイけど、確かに今まではバラバラで待つ事もあったし

 その辺りはおいといて気持ちを切り替えて、議題を考えようじゃないか。なぁ手塚」

「ああ。そうだな」



横に座る手塚に話題を振ったものの、腕を組みいつもの相槌しかしない手塚に

大石は一抹の不安を抱きながらも今度は乾に話題を振った。



「そういえば乾。朝、海堂から話を聞いている様な事を言っていたじゃないか。

 あれはどんな話なんだ?」

「ああ。あれか・・」



乾はノートに記入する手を止め顔を上げた。



「前にデータの参考になればと聞いた事があるのだが・・・

 聞いた途端に海堂は顔を赤らめて「あっあの・そ・それは・・い・・乾先輩の・・」

 と、しどろもどろ俺の名前を出すあたり・・ずばり議題は俺のかっこいいと思うところ

もしくは惚れた部分なんかが議題だったと推測される」



そう言いながら乾はその時の海堂を思い出したのか、顔を赤らめニヤリと笑った。

その姿に水を差す様に桃城が叫ぶ。



「はぁ?あのマムシが顔を赤らめるって・・気持ち悪ぃー!」

「なんだと桃城?もう一度言ってみろ」

「あっいや・・嘘ですよ。可愛いっス・・・」



睨む乾に、慌てる桃城。

大石は大きくため息をついて、前の2人を見た。



「いい加減にしろ2人とも。今は議題を決める話をしているんだ。

 そんな事をしていたらいつまでも進まないだろ?」



言いながら大石は、これじゃあまるで俺が進行係・・議長みたいじゃないか

と心の中で呟いたが、この場合そうなっても仕方がないかと腹をくくった。



「すまない・・」

「すんません・・」

「わかってくれたらいいよ。じゃあ話を戻すけど・・・

今の乾の話でだいたいの事はわかったじゃないか。

 要するに恋人のいいところの話をするのが、乙女会議の目的だというなら。



俺達もそれにならって話をしようじゃないか」

「そうっすねー賛成っス!」

「そうだな。普段改めてこういう話をする機会もないからな。いいデータがとれそうだ」

「手塚もいいよな?」

「ああ。進めてくれ」

「じゃあ今回は1回目という事でもあるし軽く・・・恋人の可愛いところ。

 というのはどうかな?」

「いいっすねー」

「了解した」

「うむ」



と、ようやく書記のはずだった、大石の進行で今回の漢会議の議題が決まった。



「じぁあ誰から話しますー?」

「ここはベテランの大石でいいんじゃないか?」

「ベテランって意味がよくわからないんだけど・・・」

「経験の差というやつだな」

「なっ・・経験って・・・」



顔を赤らめ経験と言う言葉にひどく反応する大石。

今度は桃城が止めに入った。



「まぁまぁ。ここは1つ大石副部長。お願いします!」



大石は青学一の曲者の深く下げられた頭を見ながら鼻の頭をかいた。



「し・・仕方ないな・・じゃあ・・・」






議題:恋人の可愛いところ

ケース1.菊丸




 


「英二の可愛いところだけど・・・」



大石はそう言いながら考えた。

英二の可愛いところ・・?

顔、髪型、仕草・・・・大石にとって、恋人菊丸英二は、全てにおいて可愛い。

可愛いの代名詞が英二じゃないかというぐらい可愛いと思っている。

それを可愛いところと言われても、答えは全部・・

英二のすべてとしか言いようが無いと思えた。


しまったな・・これじゃあ議論するどころか話を盛り上げる事も出来ないじゃないか。

自分が出した議題なのに、自分の答えがこれじゃあ、後に続いて発表するものにも支障をきたしてしまう。

しかし・・・英二は全てにおいて可愛いんだよな・・・参ったな・・・

可愛い・・英二・・可愛い・・英二・・可愛い・・英二・・・



大石はエンドレス地獄に陥ってしまった。



「大石。どうした?まさか何もないなんて事はないよな?」



そんな大石に痺れを切らした乾が眼鏡を上げる。



「いや・・それが・・・」

「そんな訳ないっスよね!

英二先輩の可愛いとこなんていくらでもありそうじゃないっスか!」



ひょっとして、最初だから言いにくいのか?と思った桃城はすかさずフォローした。

が、かえってきた言葉は、そんなフォローは皆無の答えだった。



「いや・・うん・・本当にその通りで・・・」



大石は顔を真っ赤に染めながら話を続ける。

乾と桃城は大石を凝視した。



「ほら・・英二って存在自体が可愛いだろ。

だから可愛いところをあげたらきりがないんだよ」

「「・・・・・・・」」



うわぁ〜言っちゃったよ!この人!流石バカップル!ベテラン!師匠!


桃城は心の中で賛辞した。

そして乾は、なるほど・・「大石は意外と人目をはばからない」とノートに書き込んだ。

大石は2人そんな事を想っているとはつゆ知らず、改めて提案する。



「だからこういうのでもいいかな?最近改めて可愛いなと思った事でも・・」

乾と桃城が顔を見合す。

目で何かを語りあい。大石の方へ向き直った。



「いいっスよ!それで!」

「ああ。問題ない」



もうこの時点で手塚がまったく会話について来ていないのだが、3人はその事には気付かず仕切り直しをした。



「では改めて・・」



議題:恋人の最近改めて可愛いな・・と思ったところ

ケース1.菊丸




「いつも英二は可愛いんだけど・・最近でいえば、アレかな?

 英二って料理とかは出来るんだけど、機械はめっぽう弱くてさ。

 ビデオ予約とかもできなくて、大石〜録画しといて〜って俺を頼ってくるんだよ」

「へ〜英二先輩。ビデオ予約出来ないんスか?」

「ほう。それは初耳だな」

「昨日も観たいドラマとバラエティーが重なったとかで、すぐに俺を思い出して電話をしてきたみたいでさ

ホント可愛いいんだよな〜英二・・」



大石はその時の会話を思い出したのか、天井を見上げてニヤニヤしている。

それを見た桃城が手で口を押さえながら、横の乾に小さな声で聞いた。



「ホントに英二先輩ビデオ予約出来ないんスかね?」

「ん〜確かに機械に弱いというところはあるようだが・・・

 覚えようと思えば、覚えられる範囲の筈だがな」

「て、事は・・・」

「覚える気がないのだろう。大石に言えばいいのだからな」

「それ本人に言わなくていいんスかね?使われてるって事でしょ?」

「いいんじゃないか。ほら見ろあの顔。俺は頼られていると信じ切っている顔だ」

「ほ・・ホントっね。ニヤニヤして幸せそうだ」

「うむ。可愛いと思うのは本人の価値観で変わるからな・・大石がいいならOKだろう」



2人は頷きあって、改めて大石へ顔を向けた。



「ホント英二先輩可愛いっスね!」

「いいデータが取れたよ」

「そ・そうか・・こんな話を普段人にするなんて事ないから・・照れるな・・」

「そっ・そうっすよね」

「ああ。その通りだな・・」



ハハハハハ・・と笑いあったが3人だが、約二名は大石の顔を見ながら考えた。

自分の恋人を可愛い可愛いと連呼出来る男が、照れるというのはどうだろう?

言えるという事実と、照れるというのは別の問題なのか?



っていうか・・・俺の恋人が1番可愛いだろう!



心の中で自分の想い人を想い浮かべた時、、ひと通り照れた大石がにこやかに2人に告げた。



「次はどっちが話す?」



大石はすっかり手塚の存在を忘れていた。



和やかに進む漢会議

本家乙女会議では、自分達の愚痴を言われているとも知らず・・・

平和に恋人の話で盛り上がっている。

彼らは想像以上に、夢見る乙女なのだった。





                                                                     2へ続く






漢会議どうでしたか?


実は男の人の方が彼女に夢を抱いているんじゃないかという・・

俺の悪口なんて絶対言わない!あいつは俺に惚れている!みたいなね。

そんな事ないよー!

彼女かなり愚痴言ってたよーみたいなね。

私的意見を取り入れてみました☆

って、彼らは男同士ですけどね☆

そして・・・改めまして・・・・

祝☆5周年です!

ここまで大菊サイトを続けてこられるなんて

最初に始めた時は、想像もつかなかったのですが・・・

みなさんに支えられ、今年も無事にこの日を迎える事が出来ました!

これもひとえにみなさんのおかげです!

これからもスローペースですが、お付き合い頂けたら嬉しいですvvv

2011.11.17

と、いうのを・・web拍手に入れていたのですが今のweb拍手には続きが入っているので、

いきなりアレだとわからないかな?と思い1をここに入れる事にしました。

初めての方も、もう一度の方も楽しんで頂けたら・・と思いますvv