習慣というのは恐ろしいもので、いつもと寝る時間が違っても、どんなに疲れていても同じ時間に目が覚める。
そうなると普段なら、仕方ないな・・・と活動を開始するのだけど、今日は目が覚めても布団から出ずに過ごしていた。
ホントに熟睡だな・・・
俺の胸におでこをつけて丸まって眠る英二の髪をそっと梳く。
そろそろ起きなきゃいけないんだけど・・・
もう少しだけこのまま寝させておいてやるか・・・
時間を確認して、俺はまた可愛い恋人の寝顔を見つめた。
「起こしてくれれば良かったのに!」
学校に向かう途中で、今朝の事を英二が非難する。
あの後、ギリギリまで英二を起こさなかったのがどうも気に入らなかったらしい。
確かに・・・バタバタと支度をして家を出なきゃいけなくなってしまったけど・・・
「まぁいいじゃないか。学校には遅刻しないんだから」
そう言って笑顔を向けると、英二は頬っぺたを膨らませた。
「だけどさ、早く起きればもっとイチャイチャ出来たかも知れないんだぞ!」
「イチャイチャ・・・・?」
「そうだよ!おはようのチューから始まってさ!そんでもって・・」
「英二っ!」
大きな声でジェスチャー付きで話す英二の口を、急いで手で塞いだ。
もうすぐ学校で生徒達もたくさん歩いているというのに・・・
「声がでかいよ。もし誰かに聞かれたらどうするんだ」
「別にいいじゃん」
「いい訳ないだろ」
「う〜〜何だよ・・・いいじゃんか・・・」
段々と小声になった英二はすっかり拗ねてしまった。
ったく・・・英二の奴・・・
こんな道の真ん中でイチャイチャ話の続きを聞く訳にもいかない事ぐらいわかるだろ?
俺達は男同士で・・・やはり世間的には認められない関係なんだから・・・とは言っても・・・
横目で英二を見ると、口を尖らせながら左手の小指に嵌めた指輪をクルクルと触っている。
このまま拗ねたままでいられても困るんだよな・・・
なんていってもまだ今日は英二の誕生日だし・・・それに昨日の夜は・・・
『英二結婚しよう』
自分で言った言葉だけど、思い出しただけで顔が赤くなる。
そんな幸せな時間を過ごしたばかりなのに・・・
俺は指輪を弄る英二の腕を引っ張ってそっと耳打ちした。
「英二拗ねるなよ。今朝は英二の可愛い寝顔を少しでも長く見ていたかったんだ。
だからギリギリまで起こさなかったんだよ」
驚いた英二が顔を上げる。
「えっ?そうなの・・・?」
「ま・・・まぁな」
「何だよ!じゃあそれを先に言ってよ!それだったら俺も怒ったりしないのに」
「言えないだろ・・・そんな恥ずかしい事」
「今言ってるじゃん!」
「だからそれは・・・」
言いかけて俺は止めた・・・目立たない様にと英二の話を遮った筈なのに・・・・
十分目立っている気がする・・・
「兎に角・・・そういう事だからな・・英二」
「わかったよ」
英二が笑顔を見せる。
俺はその笑顔に安堵しつつ、英二の小指を指さした。
「それともうすぐ校門くぐるから、指輪は外しておけよ。じゃないと没収されるぞ」
家を出てからもずっと眺めたり触ったりしていた英二。
喜んでくれているのが、見た目にも伝わって嬉しいけど・・・流石に学校の中では不味い。
「うん・・わかってるよ・・でもさ、せっかく大石に嵌めてもらったのに・・・
外すのもったいないな・・・」
英二が空高く左手を上げる。
「それなら帰りにもう一度付けてやるよ。それだったら問題ないだろ?」
「ホント?大石」
「あぁ。約束する」
俺の言葉に左手を下げた英二は
「絶対だかんな」
そう言って、左手の小指から指輪を外しズボンのポケットに入れた。
やっと終わったか・・・英二、待っているだろうな・・・
いつもより長引いたHRが終わって6組はもう終わっているだろうな、と英二の事を考えながら机の中の教科書を鞄に入れていると誰かが横に立った。
「大石」
名前を呼ばれて顔を上げると、そこには不二が立っていた。
「不二・・・どうしたんだ?」
普段、不二が一人で俺の教室まで来るなんて事は殆どない。
というよりも、不二が一人で俺の前に現れる時は必ず何か問題がある時で・・・
だから俺は必然的にここにいない英二の事を考えた。
「ちょっといいかな?」
「あぁ・・・構わないが・・・英二に何かあったのか?」
「うん。でも・・・ここじゃちょっと・・・」
目線を移動させて、不二が廊下に出るように促す。
ここでは話せないような事があったのか・・・?
俺は不安を抱きながら、立ち上がった。
「わかった。行こうか」
廊下に出ると不二はすぐに人気の少ない場所を探して俺を誘導した。
周りを確認した後、小声で話し始める。
「実は・・・指輪の事なんだけど・・・」
「指輪?」
不二の口からそんな話が出ると思ってなかった俺は首を傾げた。
「そう君が英二にプレゼントした指輪の事」
「あぁ・・・それが・・・どうしたんだ?」
そうか英二・・・不二に見せたんだな。
「英二・・・失くしたみたいなんだ」
「えっ?」
失くした?
「気付いたのはHRが始まる少し前だったんだけど・・・かなり動揺しちゃって
HRが終わってから一緒に探そうって言ったんだけど、一人で探すって聞かないんだ」
「そう・・なのか・・」
「大石」
「ん?」
「もし見付からなくても、英二を責めたりしないよね?」
「当たり前だろ」
そんな事で責めたりしない・・・それよりも・・・
「そう・・・ならいいんだ。英二指輪の事凄く嬉しかったみたいで、何度もポケットから出して見てたしさ・・・
今もあんなに必死で探して・・・」
「わかってるよ不二。それより今、英二は何処にいるんだ?」
「たぶん更衣室。5時間目が体育だったから、着替えた時に落としたのかもって走って行ったから」
「そうか・・じゃあ行ってみるよ」
「頼んだよ。大石」
「あぁ」
英二が心配だ。
きっと指輪を無くした罪悪感とショックで必死になっている。
早く行ってやらなきゃ・・・
行って、大丈夫だって言ってやらなきゃ・・・
不二と別れて俺は足早に更衣室に向かった。
「英二。いるのか?」
更衣室に着いた俺は、そっとドアを開けると中を覗いた。
見える場所に英二はいない。
そのままドアを閉めて中に入って行く。
「英二」
すると隅の方で人影が立つのが見えた。
「大石・・・」
「英二。やっぱりここにいたのか」
近寄ると、今にも泣き出しそうな英二が立っていた。
「大石・・・俺・・・指輪・・・」
「わかってる。不二から聞いた」
「大石っ!」
英二が俺の胸に飛び込んできた。
俺は英二を落ち着かせるように、頭をポンポンと叩いた。
やはりな・・・こんなに落ち込んで・・・
「ごめん!せっかくプレゼントして貰ったのに・・・
俺・・・絶対探すから・・・見つけるまで頑張るから・・・
大石っ・・・ホントにごめんね!」
「英二・・・気にしなくてもいいよ。
小さい物だし・・見付からなくても俺は気にしないから・・大丈夫だから」
英二を安心させるつもりで言ったつもりが・・・英二の目からは涙がこぼれた。
えっ・・?
「やだっ!」
「英二・・・」
「絶対・・・諦めない・・・見付かるまで探すんだかんなっ!」
そして訴えかけるように見上げる。
英二・・・
「悪かった。諦めろって意味で言った訳じゃないんだ・・・
兎に角・・・探そう・・・それからだな」
「大石・・・」
俺は親指で英二の涙を拭うと、英二がしゃがんで探していた場所で同じ様にしゃがんでみた。
「この辺りで着替えていたのか?」
「あぁ。うん。確かこの辺りだったと思うんだけど・・・」
制服の裾でもう一度涙を拭った英二が、俺の横に同じ様にしゃがむ。
「でも・・・どんなに探しても・・・ここには落ちて無くて・・・」
確かに・・・小さなゴミや埃は所々に落ちているが、ざっと見る限り指輪らしき物は無い。
だが、もし落ちて転がったとしたら・・・・
そう思って隈なく探してみたがやはり無かった。
「英二。もう一度落ち着いて考えよう。いつまで指輪があったかは覚えてる?」
「あぁうん。それなら・・・昼間、不二に見せた時はちゃんとあって・・・」
「その後は?」
「5時間目の体育の時間、着替える前にズボンのポケットに手を入れて触ったのは覚えてる・・・
だけど帰ってきてHRが始まる前にポケットに手を入れたらもう無くて・・」
「そうか・・・英二、ちょっと立ってみて」
「えっ?うん・・・」
俺は英二が立つと、徐に英二のズボンのポケットに手を入れた。
「わっ!何?」
「やはり無いか・・・じゃあ・・」
今度は制服のポケットに手を入れる。
英二は不審な顔を俺に向けた。
「だから何?」
「念の為だよ」
やはり無いか・・・
って事は・・・着替えた時に落としたという事になる訳だが・・・
ここには指輪は落ちていないし・・・誰かに拾われたか・・・それとも・・・・
「英二・・・体操服に着替えた後、制服はどうした?」
「制服?そりゃあ・・・体操服に着替えた後は体操着袋に入れたけど・・・」
体操着袋・・・そうか・・・
「それだっ!」
「えっ?何?」
「制服を体操着袋に入れたんだろ?袋の中は見たのか?」
「あっ!・・・まだ見てない!」
よし・・可能性はあるよな・・・ズボンのポケットから袋の中に指輪が落ちる可能性・・・
「何処にあるんだ?」
「教室!」
「よし。じゃあ教室に戻ろう」
俺は英二の背中をポンと叩いた。
ホントはね・・・書きたいのがあったんだけど・・・色々思う事合って・・・今回は断念しました☆
それで悩んだ挙句・・・前回のHappy Birthday Dear Eiji 3の続きにしたんですが・・・
無理矢理続きを足した感じになっちゃて・・・・・・大丈夫かな(汗)
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