Happy Birthday Dear  Eiji 3+





日が落ち始めて薄暗くなった廊下をバタバタと走る。


英二は更衣室を出てからずっと無言のままだ。

きっと走りながら心の中では、体操着袋の中に指輪が入っている事を祈っているのだろう。

英二の横顔を横目に俺も同じ様に祈った。






英二のクラスまで来ると、英二はドアを開ける前に深呼吸を1つした。



「大石・・」

「あぁ入ろう」



俺が頷くのを見て、英二が教室のドアを開ける。

中には誰も残っていなかった。

英二は一目散に自分の机まで行くと、机の横にかけてある大きな巾着袋を取り机の上に載せた。

俺は教室の電気をつけて、英二の側に行く。



「指輪が入っているかもしれないから、そっと体操服出すんだぞ」

「うんわかってる。でもさ・・・何だか緊張するよね・・・」



英二は強張った笑みを浮かべて、ゆっくりと紐を解く。


確かに・・・緊張するよな・・・


その中から、まずジャージを取り出した。

慎重に広げるが、指輪はない・・・


その後、上着に半パン・・・順番に出しては広げてを繰り返す。



「これで全部なんだけど・・・」



最後にタオルを取り出して、英二が不安な顔で俺を見た。



「じゃあ袋の中を見てみようか」



服の間に挟まっていないとしたら・・・最後はもうそれしか残っていない。



「う・・・ん」



英二が歯切れ悪く返事をした。



「どうした?」

「何だかさ・・・もし無かったら・・と思うと怖くて・・・大石見てくんない?」

「俺が?」

「うん・・・駄目?」

「いや・・・いいよ」



英二から巾着袋を受け取ると、英二は目を瞑って祈るような仕草をした。

英二の緊張が俺にも伝わる。

この中に入っていなかったら・・・指輪探しはまた振り出しに戻る。

そう思うと怖いのだろう・・・

どうかこの袋の中に入っててくれ・・・


俺も心の中で祈った。

そしてそっと袋を広げて中を見る。


あっ・・・!!!


巾着袋の隅に光る物・・・指輪だ!

俺はほっと胸を撫で下ろすと、それを手に取って袋から出した。


良かった・・・



「英二」



名前を呼びながら英二の顔の前に指輪を掲げる。

英二は恐る恐る目を明けた。



「あっ・・・・・あったんだ!!!」



英二は目を輝かせて指輪を見た。



「良かったな」

「ありがとう大石・・ホント・・良かった・・・良かったよ」



英二は緊張の糸が切れたのか、その場にへなへなと座り込んでしまった。



「大丈夫か?」

「あっ・・うん。ほっとしたら力抜けちゃった」



へへへ・・・と笑う英二に俺は手を差し伸べた。



「立てるか?」

「えっ?あぁ・・うん。サンキュー!」



英二が俺の差し出した手を握る。

俺は力を入れて英二の腕を引いた。



「わっ!」

「おいっ!ホントに大丈夫か?」



よろけた英二が俺の胸にぶつかる。



「やっぱ駄目かも・・・」

















「ほらこの椅子に座って」



俺は椅子を引くと、そこに英二を座らせた。



「あ〜良かった。俺この袋に入って無かったら・・・

もう見付かんないんじゃないかと思ってさ・・・ホント怖かったんだ」



英二は机にうな垂れながら言った。



「良かったな。でもこれをきっかけにもう指輪は家に置いておいた方がいいんじゃないか?」

「えっ?やだっ!それは駄目!次からは絶対に気をつけるから・・

指輪は肌身離さず持ってるの!」

「でも・・また今日みたいな事になったら大変だろ?」

「絶対大丈夫!もう失くしたりしないもん!」



しないもん・・って・・・


口元をキュッと結んだ英二に、俺は仕方ないな・・・と頭に手を置いた。



「もう失くすなよ」

「わかってるって!それで・・・指輪はどうしたっけ?」



えぇぇ?言ってる側から・・?

大丈夫か・・・英二・・・?



「ほら。ここにあるよ」



俺は小さく溜息をついて、掌を開いた。



「そうだった。んじゃさ・・・大石お願い」

「えっ?」

「約束したじゃん」



英二が左手を俺に突き出す。


約束・・・?

あっ・・・そうか・・・そうだったな。

『帰りにもう一度付けてやるよ』そう約束した。



「わかった」



俺は英二の手を取って、そっと左小指に指輪を嵌める。

すると第一関節ぐらいで英二が手を引いた。



「待って!」

「どうした?」

「せっかくだから・・・嵌める時にもう1回言って」

「何を?」

「ほら・・・あれ・・・指輪くれて・・プロポーズの・・・あれ」



プロポーズのあれって・・・・・・・・


『英二。結婚しよう』


だよな・・・

俺は思い出して、一気に赤くなった。



「むっ・・無理だよ・・・恥ずかしい・・・」

「何でだよ。いいじゃん」



そりゃあ・・・気持ちはいつでもそう思っているけど・・・

改めて・・・しかも教室で言うなんて・・・

誰もいないことがわかっていても・・・流石に照れて言えない。


それに・・それだけじゃない・・それを口にしてしまったら・・・・



「良くないよ。あぁいうのは、そう何回も言うもんじゃないだろ?」

「だけどさ今日は特別じゃん。まだ俺の誕生日なんだよ!」

「誕生日って・・・それはわかってるけど・・・」



それを言われてしまうと、ホント何も言い返せないじゃないか・・・



「じゃあ・・いいだろ?」

「う・・・・」



首を傾げる英二に、益々断れなくなる・・・


でもな・・・『結婚しよう』・・・頭の中に浮かんだだけで顔が痛いくらいに熱い。

あの時の自分を・・・英二を思い出す。



「大石」



英二に呼ばれて俺は仕方なく、左手を取った。

仕方ない恥ずかしいけど・・

言ったあとの自分を押さえられるのかわからないけど・・・

ここまで来たら言うしかない・・・よな・・・


少ししゃがんで、英二を見上げる。



「英二・・・・」



英二の真っ直ぐな目とぶつかった。



「俺と・・・」

「うん」

「けっ・・・け・・けけけけ・・・・・・・・」

「うん」

「・・・駄目だ!やっぱり言えない」



「何だよー!そこまで言ったら、最後まで言えよな」

「言えないよ。こういうのはその時の雰囲気というか・・・時期というか場所というか・・

 そういうのがあるじゃないか」

「じゃあ次は何時なんだよ!」

「4年後」

「オリンピックかよ!」

「そういうけどさ・・・英二」



やっぱり何度も言えないよ・・・とアタフタと誤魔化していると、教室のドアを誰かがノックした。



「お邪魔だと思うけど・・・ちょっといいかな?」



二人で一斉にドアの方を見ると、不二とその後ろには手塚も立っていた。



「不二!どうしたんだよ」



英二が不二に驚いた顔を向ける。

俺は立ち上がりながら、咄嗟に指輪をズボンのポケットに入れた。



「どうしたはないんじゃない?僕達はこれを届けに来てあげたんだよ。ね・・手塚」



そう言って不二は手塚の腕を掴んで、俺達の前までやって来た。



「これだ・・」



手塚が俺に鞄を差し出す。



「あっ・・・俺の・・」

「そうだよ。大石が鞄を持たずに英二の所に行った後、クラスの子が教室を閉めれないって困っていてね。僕達が預かったんだ」

「そうか・・・悪かったな」



俺は二人に頭を下げた。


それにしても手塚・・・ずっと俺の鞄持ってくれてたのかな・・?


俺は手塚の横で笑顔を見せる不二をチラッと見た。


きっと不二に言われたんだろうな・・・悪い事したな・・・・



「ところで・・・指輪は見付かったみたいだね」



不二が英二を見る。



「うん。心配かけてごめんね不二。ちゃんと見付かったから・・・もう大丈夫だから」

「そう・・ホントに良かったね。英二」



不二が優しく英二に微笑む。


不二はホントに英二には甘いよな・・・



「じゃあ・・・お邪魔虫な僕達は帰るとしようか・・手塚」

「そうだな」



少しだけ英二と会話を交わした不二が、もう用件は済んだとばかりに手塚に目配せをおくる。



「何だよ。邪魔なんて思ってないよ」

「じゃあもう少しいようかな・・・」

「えっ?」

「ほら。やっぱりお邪魔虫なんじゃないか」

「何だよ。不二の意地悪」

「ごめん。ごめん。じゃあホントに帰るね」



鞄を届けてくれた不二と手塚は、最後に英二をからかって帰ってしまった。


急に教室の中がシン・・と静まりかえる。



「俺達も帰らなきゃね・・・」

「そうだな」



窓の外を見ると、もう真っ暗だ。



「今日は家の人達が、ごちそう作って待ってくれてるんだろ?」

「うん」

「早く帰らなきゃな・・・」



窓の外を見つめながら言うと、英二が小さく呟いた。



「指輪・・・」

「えっ?」



あっ・・・そうだった。

ポケットの中に入れてたんだ。



「ごめん」



俺は急いでポケットから指輪を出した。

英二に差し出す。



「嵌めてくれないの?」

「あぁ・・うん。それはいいけど・・・」



あれを言うのはちょっと・・・そう渋ると、英二が不貞腐れた顔で俺を見た。



「もういいよ。言わなくて・・でも指輪は嵌めてよね」

「・・・・・・」



そんな顔をされて・・そんな風に言われると・・・

いや・・・でも・・・もし言ってしまえば・・・きっと俺は・・・

あぁぁぁ〜〜〜〜もう!いいよな!



「英二」

「何?」

「次は・・絶対四年後だからな・・・」



俺は英二を引き寄せ、耳元に唇を押し当てて囁いた。



「結婚しよう」



そして英二の左小指に指輪を嵌めた。

英二が顔を染めて俺を見上げる。



「大石・・・ありがと」



幸せそうに微笑む姿に、堪らず抱きしめた。



やっぱり駄目だ・・・押さえられない・・・

英二・・・俺は・・・

帰したくない・・・

英二をこのまま・・・帰したくない・・・

今日は家族が英二の誕生日を祝うって事を知っていても・・・

それに二日続けて・・・なんて流石に不味いよな・・・と思うけど・・・

でも・・・それでも・・・



「英二。今日もう一度家に来ないか?」

「えっ?」

「一度家に帰って、家族の人に誕生日を祝ってもらった・・その後

 俺が家まで迎えに行くから」

「大石・・・いいの?」

「あぁ・・・いいもなにも・・・来て欲しいんだ・・英二」



そして俺は掠め取る様に英二にキスをした。

驚いた英二が俺を見上げる。

俺はまた耳元で囁いた。



「続きは後で・・」




たかが外れてる・・・と思う。

でも・・・もう止められない・・・

一緒にいたいという思いが・・・言葉となってでてしまったから・・・


『結婚しよう』


甘い・・甘い・・呪文のような言葉




英二・・・ずっと一緒にいような・・・・




                                                                        END







英二お誕生日おめでとうvv


今年もギリギリですが・・・祝えて良かった☆

大石と英二の誕生日だけは・・・何がなんでも外せないものね☆

という訳で・・・続きは後で・・って大石はまたムッツリねぇ・・・と思った方も・・・楽しんで頂けていれば嬉しいですvv

2008.11.28