英二が急に話題をふってくるって事は、よくある事なんだけど・・・
この日は、いつもと少し雰囲気が違っていた。
練習が終わって、二人で部室に向かう途中、急に英二が足を止める。
「大石って、夜更かししない方だよな?」
「えっ?」
いきなり聞かれて戸惑う。
確かに俺は、夜更かしをしない方だ。
試験前は別だが基本的に朝が早い俺は、いつも23時までには寝るようにしている。
だけどそんな事、今更聞かなくても英二なら知っている筈だよな?
「何かあるのか?」
「う〜〜ん・・・ない」
『ない』と答えながらも、上目遣いで俺を見て、何か思いついたように、ニヤッと笑った英二の目は何かを言いたそうで
思わずその目を覗き込むように見つめ返すと、不意に声をかけられた。
「公共の場で暑苦しいんっスけど・・・それにそこ邪魔なんだよね」
声がした方に目を向けると、そこには帽子を目深に被ったルーキーが立っていた。
「おまっ・・お前先輩になんて口利いてんだよ!」
一緒にいた桃城は慌てて、越前の口を塞いでいる。
「いや・・いいんだ。すまなかったな越前」
道をあけて苦笑する俺の横で、英二が越前に絡みつく。
「む〜〜!おチビ生意気〜」
「ホントの事、言ったまでですよ」
「あ〜ホント可愛くないなぁ〜」
そう言いながら、英二は越前の背中に覆いかぶさる。
「重いっス・・・」
「ふ〜ん。にゃにが〜?」
英二の重さで潰れる越前を見て、桃城が助け船を出そうと、英二に話しかけたが
「英二先輩。俺が後でちゃんとコイツに言い聞かせておきますから」
「へ〜桃がねえ〜?」
結局、桃城まで加わって何だか、ギャーギャーと騒がしくなった。
俺はそれを見かねて、声をかける。
「英二。いい加減にしろよ。桃も越前も早く着替えないと帰るの遅くなるぞ」
「「ういーっス」」
俺の言葉に桃城も越前も部室へ向かって歩き出した。
英二も『ちぇ〜』と舌打ちしていたが、同じ様に部室へと足を向ける。
それにしても、ホントに賑やかになったものだ。
新入生が入って部員が増えたって事もあるが、この少し勝気で生意気なスーパールーキー越前の加入は大きい。
1年にしてレギュラーの座を奪った実力といい、その存在感はもうこの部に無くてはならないものになっていた。
英二は特にそんな越前が気に入ったのか『おチビ!おチビ!』と何かと可愛がっている。
只1つ難を挙げれば、この越前の問題言動・・・問題行動・・・
越前が入ってから、何かと揉め事が増えた。
だからって訳じゃないけど・・・
俺は胃の痛くなるような・・目まぐるしい日々を過ごし・・・
この時に英二が言っていた『夜更かし』の話も、この騒ぎですっかり忘れてしまっていた。
「大石・・・明日の練習は昼までだが、その後は菊丸と出かけるのか?」
「えっ?」
都大会に出るオーダー決めをしていた時に不意に手塚に聞かれた。
そういえば明日は珍しく昼からの練習が休みだった。
だけど・・・英二と約束は・・・していたかな・・・?
いつも休み前になると、英二からお誘いがあるのに・・・
今回は約束をした覚えがない・・・
イヤ・・・ひょっとして俺が忘れているだけなのか?
思い出そうと、考えていると更に手塚が話を続ける。
「明日はお前の誕生日だろ?」
「えっ・・・?」
最近ずっと忙しくて忘れていたけど・・・そうだ・・・明日は俺の誕生日だった。
去年は誕生日前から英二が、『大石の誕生日もうすぐだね!』って触れ回ってくれたお陰で
テニス部みんなで誕生日会をしてもらったんだけど・・・
そういえば・・・今年は英二から何も言われてない・・・
イベント事がある度に、大騒ぎをしている英二なのに・・・
休みのお誘いどころか・・・誕生日のお誘いも受けていない・・・
どうしてだろう?
英二ひょっとして、俺の誕生日忘れているのかな?
俺自身、今手塚に言われるまで忘れていたぐらいだから・・・ありえるよな。
いや・・・でも・・・英二に限って俺の誕生日を忘れるなんて・・・
そうだ・・・これから誘うつもりなのかもしれない・・・
色んな事を考えていて、手塚に返事をしないでいると、
凄く驚いた顔をした手塚が一言
「約束・・・していなかったのか?」
確信をつかれた俺は、笑ってその場を誤魔化した。
こういう事は一度気付いてしまうと、気になって仕方がないものだ。
手塚と打ち合わせを終えて、遅れて部活に出たものの、いつも以上に英二が気になる。
いつ英二が誘ってくれるのか・・・?
いつ誕生日の話をしてくれるのか・・・?
英二の顔をチラチラ見ながら様子を伺う。
「何?大石・・・俺の顔に何かついてる?」
「えっ・・・イヤ・・・ハハハハ・・・」
ハァ〜〜〜〜〜〜
だけど英二は、いつもとまったく変わらず、誘ってくる気配も無い・・・
こういう場合は自分から誘った方がいいのかな?
でも・・・誕生日を祝ってほしいっていうのは、なんだか言いだしにくい。
それにまだ練習中だ。
ひょっとして英二の事だから、帰りに言おうとか思っているのかもしれない。
そうだ・・・そうに違いない・・・
そう思って練習に集中したものの・・・
練習が終わって、一緒に帰る最中も話す事は世間話・・・
それに加えて、帰り際の英二はいつも以上に淡白で・・・
「んじゃな大石っ!! また明日!!」
「あっああ・・・また明日・・・」
元気に手を振りながら、あっというまに帰ってしまった・・・
嘘だろ?英二・・・
こんな事なら恥ずかしがってないで、思い切って
『明日は俺の誕生日なんだけど・・・』って言ってしまった方が良かったかな?
もう既に見えなくなってしまった英二を思いながら、暫くそのまま立ち尽くしていた。
今回は英二が拗ねない・・・妬かないを目指して書こうと頑張ったんですが・・・
そのかわりに大石が・・・結局いつもの感じになってきたような・・・
でも・・・そんな大石について来て下さい☆
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