背中





桜舞い散る季節。


俺が入部した時も、今日みたいに雲ひとつない青空が広がっていた。


何だか思い出すな・・・


そう思った時に、視界の片隅に大好きなあの人の姿が入った。

宍戸さん・・・?



「おいお前。そんな所で、何してるんだ?」

「あっ。すみません。入部希望なんですが・・・」

「新入生か?んじゃそんなとこに突っ立ってないで、跡部のとこに行って来い。

跡部・・知ってるだろ?入学式の時に生徒会長として挨拶していた奴。

アイツがここの部長。確か今はコートにいる筈だ」

「はい。わかりました。ありがとうございます」

「おう。しっかりやれよ」



頭を下げる新入生らしき生徒に、右手を上げて答えている。

俺はそんな宍戸さんの傍へそっと近づいて声をかけた。



「相変わらず、優しいですね。宍戸さん」



宍戸さんは、少し不機嫌な顔をして振り返った。



「長太郎か・・・見てたのか?」

「えぇ・・・バッチリ」

「・・・別に優しくなんてねぇよ。ただこんな所で、いつまでもボサっと突っ立ってられるのも目障りだからな」

「そうゆう事にしておきます」



俺が微笑むと、宍戸さんは地面を少し蹴って舌打ちをした。



「チッ・・・激ダサだな」

「そんな事ないですよ。僕が入部した日の事を思い出しました。覚えていますか?」

「あぁ?お前が入部して来た日の事?そんな事覚えてる訳ねぇーだろ?それより俺達もコートに行くぞ」



そう言って宍戸さんは、歩き始めた。

俺はそんな宍戸さんの背中を見ながら、入部した日の事を思い出していた。

桜舞い散る季節

澄み切った青空

ざわめく校庭

困っている人を見過ごせない宍戸さん

何もかもが、あの日と重なる。














どうしよう・・・ここまで来たのはいいけど・・・

部長って何処にいるのかな?

流石にここまで広いと、探すのも一苦労だよ・・・

氷帝学園のテニス部は都内でも有名な名門だ。

施設も設備も充実過ぎるぐらい揃っている。

そして何より、部員の人数が多かった。レギュラーを先頭に準レギュラーその下に何百人 といるレギュラーを目指す部員達。

その中から、部長を探し出して入部手続きを取らないといけないなんて・・・

部の決まりらしいけど・・・



「おいお前。そんな所で、何してるんだ?」

「えっ?」



声がした方へ振り向くと、そこには黒髪をなびかせた綺麗な人が立っていた。



「転校生か?道にでも迷ったのか?」

「いえ・・・俺は新入生です。テニス部の部長を探していて・・・」

「何?お前・・新入生なのかよ。しかしデカすぎねぇか・・・」



睨みつける様に全身を見られ、困ってしまう。

一体この人は、何だっていうんだろう・・・?



「すみません・・・」



思わず謝ってしまった俺を見ながら、目の前の綺麗な人は困った顔をして頭を掻いた。



「謝ってんじゃねぇよ・・・別に悪いって言ってるんじゃねぇんだからよ・・・ しかし・・・何cmあんだ?」

「175cmです」

「ひゃ・・・175cmって俺より10cmも高いのかよ・・・ちっ激ダサだな」

「げっ激ダサ・・・?」

「何でもねぇよ。それよりお前。何て名前なんだ?」

「あっ俺は、鳳長太郎です」

「長太郎か・・・よし。お前、ついて来い!」

「えっ?何処に?」

「お前。テニス部の部長探してるんだろうが・・・だから俺が連れて行ってやるって言ってんだよ」

「えっと・・・」

「あぁそうか悪ぃ。俺の事言ってなかったな。俺は宍戸亮。テニス部2年だ。よろしくな」



不敵な笑顔を向ける・・・この人はテニス部の先輩なのか・・・



「宍戸先輩・・?」

「あぁ。そうゆう事だ。だからついて来い長太郎」

「あっはい!!」






初めて会ったあの日も、俺の困っている姿を見て声をかけてくれたんですよね。

あれから1年。俺はたくさんの宍戸さんを見てきた。

綺麗な宍戸さん。

強気な宍戸さん。

優しい宍戸さん。

努力家の宍戸さん。

どの宍戸さんも、俺を惹きつけて離さない。

宍戸さん・・・

あの日から、俺はずっとあなたの背中を追い駆けているんですよ。






「おい!長太郎っ!何やってるんだ?早く来いよ!!」

「あっはい!宍戸さん」



先を歩いていた、宍戸さんが立ち止まって呼んでいる。

俺は急いで駆け寄って、横に並んだ。



「何ボーとしてたんだ?」

「あぁ・・・さっきの話。僕が入部した時の事を思い出していたんです。宍戸さんは忘れてしまったんですよね・・・」

「・・・・・・」



俺をジッと見ながら、何も言わない宍戸さんに俺は慌てて、話を付け足した。



「あの・・すみません。責めている訳じゃないんです。覚えてなくて当然ですから・・」



俺のそんな姿に、宍戸さんが舌打ちをして俺を見上げた。



「チッ・・・おい長太郎!」

「はい」

「俺がお前を、転入生と間違えたって事は誰にも言ってないだろうな?」

「えっ?あっはい。もちろん誰にも言ってません・・・」

「そうか。じゃあいい。んじゃ行くぞ!遅れたら跡部がうるせーからな」

「はいっ!!」

「・・・ったく・・・激ダサだぜ・・・」




宍戸さんが、また俺のちょっと前を歩き出した。

黒い長い髪が、風に揺れる。




宍戸さん・・・ちゃんと覚えていてくれたんですね。

ありがとうございます。




俺は本当にあの日から、あなたの背中を追い駆けて、あなただけを見ていたんですよ。



宍戸さん・・・いつか俺のこの想いをあなたに伝えられたら・・・

宍戸さん・・・俺はあなたが・・・大好きです。

 


                                                                       END




いつもお世話になっている、編集長に・・・本当にいつも有難うございます。


やっと短いけど・・・氷帝話書けました☆

宍戸さんと長太郎の出会い編・・・長太郎は2年生で185cmなんで1年の時から、ある程度大きかっただろうと、勝手に想定しました。

また・・・ポツポツ・・・鳳×宍も書いていきたいと思います。

宍戸さん・・宍戸さん・・って言う長太郎好きなんで・・・。

2007.7.29