流星




布団を頭まで被って羊を数える。


羊が1匹・・羊が2匹・・羊が・・・・・

駄目だ。どんなに数えても、どんなに体が疲れていても・・・眠れる訳ないじゃん。


暗がりの中、ベッドから体を起して俺は大石から預かったラケットを抱きしめた。


大石・・お前、今何を思っているの?






大石がU-17合宿を去って、1日が経った。

勝ち組だけが残った練習は更にハードになって、ついて行くのも大変で練習が終わると鉛の様に重い。

普段ならこれだけ疲れていれば、ベッドに入ってすぐに眠れる筈なのに・・・


俺は枕元に置いてあった携帯を見た。

着信履歴なし。

メールの受信もなし。


昨日大石と別れてから、俺の携帯には大石からの連絡は一切ない。

ここは何処だよ?ってぐらい、山の中だけど電波はちゃんと入っている。

なのに・・・何も入らないんだ。

いや・・それだけじゃない。

こっちからかけても、携帯はずっと電波が届かないか電源が入っていないか・・・

そんなのばかり。

これってどういう事だよ?

ひょっとして、俺の事を避けてんの?

やっぱり一人残った俺を許せない?

大石・・・俺達は何があっても黄金ペアなんだよな?

そう言ったのは大石だよ。

なのに・・・どうして・・・

あの言葉は嘘だったの?
















「えっ?U-17代表合宿に参加!?」



あれは10月の半ばだったかな・・・

大石が久々にコンテナに行こうって言いだして、俺は大石について行ったんだ。

そこで思ってもいなかった嬉しい報告を受けた。



「んじゃ卒業前にもう一度大石とダブルス組めるって事!?」

「ああ!」



嘘だろ?ホントに?


大石の力強い返事を聞いても、まるで夢を見ているようで俺は呆然と大石を見ていた。


もう中学では大石と組む事は無いと思ってた。

あの全国での決勝が最後だって・・・

暫くは大石とシンクロする事もないんだって・・

それは仕方がない事だってそう思ってたんだ。

それがもう1度組める。

大石と戦える。


掌を見つめると、微かに震えているのがわかった。

体の中からは、沸々と熱いものが込み上げてくる。


大石と・・大石ともう一度あのコートに立てるんだ。


そう思うと、今度は飛び上がりたいぐらいの気分になった。

大石を見ると、大石は真面目な顔で大きく頷いた。

そしておもむろに鞄からラケットを取りだすと立ち上がったんだ。



「俺達は何があっても黄金ペアだ!!」



俺もつられて立ち上がって、大石と同じようにラケットを出したけど



「ププッ 大石よくそんな事真顔で言え・・・」

「え英二っー!!」



あまりにもくさい事を言うから、笑って茶化したんだ。

でも本当は凄く嬉しかった。


決勝の時、大石は『これが俺達最後のダブルスだ・・』そう言った。

中学になって、大石と出会って、俺達はずっと一緒に戦ってきた。

ダブルスの頂点を目指して・・・全国No1.ダブルスを目指して・・・

俺達が積み上げて来たダブルスの3年間

その最後があの試合だった。

そしてそれが本当に最後のダブルスだった。

俺達は部を引退して、公式戦で試合をする事がなくなって青学D1じゃなくなった。

たまにストリートテニスでダブルスを組んだとしても、やっぱり違う。

あの緊張感や高揚感は、あの場所ならではのものだったんだ。

最後のダブルス・・・

最近あの言葉が、実感として重く圧し掛かる時があった。

遊びのようなテニスじゃ、満たされない・・・

そう思うと寂しさに襲われた。

きっと大石はそんな俺に気付いてたんだと思う。

だからU-17代表合宿に参加する事を、コンテナまで連れて来て言ったんだ。



『俺達は何があっても黄金ペアだ』



その事を言う為に・・・

公式戦最後の試合が終わって、部を引退しても・・・

俺達のダブルスは終わってない事を伝える為に・・・大石・・・

そうだ。そうだよな。

大石だってきっと同じ気持ちでいてくれてた筈なんだ。

それなのに・・・俺はここに一人でいる。

大石のいないU-17合宿。


暗がりの中にだんだんと目が慣れてきた俺は、ベッドの脇に座って向かいの壁沿いにあるもう一つのベッドを見つめた。

大石が使う筈だったベッド。

結局、俺のベッドに二人で寝て・・・あのベッドは使わなかったな・・・・



「今日だけだからな英二。明日は1人で寝るんだぞ」

「え〜いいじゃん」

「駄目だ。練習もハードになって疲れも出るだろうし・・このベッドじゃ2人は狭いよ。疲れがとれないだろ?」

「大丈夫だもん。俺、持久力ついたしさ。疲れなんて出ないもん」

「英二。今日の高校生の練習見ただろ?きっと想像以上に・・・」

「嫌なの?」

「ハードで・・・えっ?」

「大石は俺と寝るの嫌なの?」

「嫌なわけないだろ?俺は英二の為に・・・」

「じゃあいいじゃん。俺がいいって言ってんだからさ」

「・・・・ハァ・・・わかったよ。でもホントに俺が英二が疲れているって感じたら別々だからな」

「絶対っ大丈夫だもんね!」

「・・まったく。英二には敵わないな・・」

「へへへ。どうぞ大石。入って入って」

「じゃあ。お邪魔します・・・」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・大石・・・

あーーーもう何だよ!!

なんでこんな事になってんの!?

あの時二人組を作れって言われて、迷わず大石を選んだのがいけなかったのか?

でも・・でもさ、あの時はこんな事になるなんて思わないじゃん!

二人組って言われて、大石以外の誰を選ぶんだよ!

俺は大石と一緒に戦う為に、この合宿に参加したんだよ?

二人でもう一度コートに立つ為に来たんだ!

大石と戦う為じゃない・・・

こんなの酷い・・・酷すぎるよ・・・

やっぱ俺も大石と帰れば良かったかな?

1人でここに残る意味なんてあんのか?

大石・・



『俺達は・・・何だっけ英二?』



なんであんな事言うんだよ。

大石が思い出させるから、俺もその気になって・・全力で戦って・・・

大石に勝ったけどさ・・・一人ぼっちじゃないか。

今、俺一人ぼっちじゃないか!



大石・・・俺さあの時大石がコートを去る姿見てさ、咄嗟に声をかけて



「大石ぃーっラケット置いていけよ!」



大石のラケットを受け取ったけど・・・



「それ持って絶対U-17代表に残ってやるもんね」



大石にはそう誓ったけど・・・・



「頼むぞ・・・英二」

「もち!」



寂しくて・・・死にそうだよ。

やっぱ1人じゃ駄目だ。

コートの中が凄く広い。

1人じゃ楽しくない。

ドキドキもワクワクも1人じゃ感じない。

そんな事わかってた事なのに・・・


大石・・・何で携帯繋がんないんだよ。

声を聞かせてよ。

英二って呼んでよ。

俺に・・力をくれよ!

大石・・・俺だってわかってるんだ。

もうここにいる限り、1人で頑張るしかない。

楽しくなくても、黄金ペアの片割れとして大石の分も頑張んなきゃいけない。

でもさ・・・わかってても心がついて行かないじゃんか!

一体何してんだよ!

もうバカ石っ!!


だいたいさ、夜のトイレだってこれからどうすんだよ!?

大石がいなきゃ1人で行かなくっちゃいけないんだぞ!

大石の代わりなんていないんだかんなっ!

もし夜中に起きて、おばけなんて見ちゃったら・・・全部大石のせいだかんなっ!!




トントントン




えっ!!



なななな何?なんの音?

ままままさかっ・・おばけじゃないよね?

おばけなんて想像しちゃったから・・

・・・・大石・・・・助けてっ!!



俺は大石のラケットを抱きかかけて、ギュッと目を瞑った。

部屋の中はシン・・と静まりかえっている。



トントントン



「ひっ!!」

「あの〜スミマセン。菊丸さん。俺です。鳳です。起きてますか?」

「えっ・・・?お・鳳・・?」



ドアの方へ顔を向けると、もう一度部屋をノックされた。



トントントン



「菊丸さん?」



おばけじゃない!ホントに鳳だ。



「お起きてる!ちょっと待ってすぐに開けるから!」



俺はドアに駆けより、ドアを開けた。

そこにはスウェット姿の鳳が立っていた。



「どうしたの?こんな時間に」

「ホントにスミマセン。でもどうしても確認しておきたい事があって・・・」



鳳はすまなそうな顔をして、頭をかいている。

俺はドアから顔を出して廊下を覗いた。

廊下には鳳以外立っていない。



「1人?」

「はい」



どうしようか?一瞬迷ったけど、俺はドアを大きく開けて鳳を招き入れた。



「取り敢えず入ってよ。目立つから・・」

「はい。スミマセン。おじゃまします。」



鳳は頭を下げると、部屋へ入って来た。



「消灯時間過ぎてるから、電気つけれないけどいい?」

「はい。俺も確認が取れたら、すぐに部屋に戻るつもりなんで・・」



俺は話しながら、部屋の一番奥の窓際に立った。

満天の星空と月明かりで、そこが部屋の中で一番明るいからだ。



「で、どうしたの?こんな時間に急いで確認取りたいことって?」



鳳を見上げると、鳳は真面目な顔で俺を見た。



「大石さんと連絡はとれてますか?」

「えっ?」



大石と・・・?


驚いて思わず目を見開いてしまった。


ずっと連絡がつかない大石・・・まさかその原因を鳳は知ってるの?



「その様子だと・・・とれていなんですね」



鳳は表情を変えないまま、やっぱり・・と呟いた。

俺はその声に反応するように、鳳のスウェットを掴んだ。



「何?何か知ってるの!?」



まさか・・大石に何かあったんじゃ・・・


急に恐怖に襲われた。

連絡がつかない事にイライラしたり不安になったり、余裕がなくて自分の事ばかり考えていたけど

連絡がつかない理由が事故とか大石自身に何かあったのだとしたら・・・

大石の携帯に連絡がつかない理由がわかる。



「まさか事故・・?」



恐る恐る聞くと、鳳は慌てて否定した。



「えっ?あ・・違うんです!違うと思います」



違うと思う?


曖昧な返事に眉間に皺を寄せると鳳は話を続けた。



「実は宍戸さんとも連絡がつかないんです」

「えっ?宍戸も・・?」



大石以外にも連絡がつかない。

そんな事は考えた事もなかったけど・・・それだけじゃ意味がわかんない。



「それって一緒に事故ってたら・・」

「それは無いと思います」



鳳が真っ直ぐ俺を見下ろす。



「何だよ!じゃあちゃんとその説明してよ」

「そうですよね」



鳳は眉を下げて、頭をかいた。



「最初から話します」



鳳は窓の外を一度見上げる様に見ると、俺へと視線を戻した。



「俺。宍戸さんと約束してたんです。家に着いたら連絡を下さいって・・

 それから・・合宿にいる間は、必ずどんな練習をしたか報告するから聞いて下さいって」



へ〜そんな約束してたんだ。



「それで?」



「だけど昨日の夜、連絡がなかったんです。こっちからかけても繋がらないし・・

 それでも昨日は我慢したんです。心配だったけど・・

家に着くまでも時間がかかるだろうし。宍戸さんも疲れているだろうから、そのまま寝ちゃったんじゃないかって・・でも・・」

「でも・・?」

「朝になっても連絡がつかなくて・・流石に心配になって家に直接かけたんです」

「家に直接かけたの?」

「はい」



・・・・そっか。鳳は家にかけたんだ。

俺は、怖くてかけれなかった。

もし大石が出れば・・・それは大石が故意に俺を避けた事になる。



『俺達は何があっても黄金ペアだ』



俺だってそう思ってるよ。

思ってるけど・・・やっぱり1人でここに残ってしまった事にどこか後ろめたさがあった。



『頼むぞ・・・』



あの言葉が、万が一無理をして言ってる言葉なら・・・


家に着いてる筈の大石から連絡がないだけで、ハッキリさせたいのに、ハッキリさせるのが怖かった。

だから携帯にはかけれたけど、家にはかけれなかったんだ。

携帯なら出られない理由をいくらでも言い訳が出来るけど、家の電話じゃそうはいかないもんな。



「菊丸さん・・?」



俺は知らず知らずのうちに俯いていたみたいで、鳳に呼ばれて顔を上げた。



「あっごめん。それでどうだったの?」

「家に帰ってなかったんです。U-17の合宿に行くって家を出てから一度も・・

だから俺、慌てて宍戸さんのお母さんには心配かけないように話を合わせて電話を切りました。その後すぐに跡部さんに相談したんです」

「そっかそっちには跡部がいるもんな」



そうだよ。跡部なら電話ひとつで色々わかるじゃん。

アイツの財力はハンパないもんな。



「はい。それでまずは昨日から今日にかけて、マイクロバスの事故がないか調べて貰いました。結果は・・・」

「無かったんだ」



だから事故じゃないって言いきってたんだ。



「そうです。大きな事故も小さな事故もないそうです。平行して他の氷帝メンバーにも連絡をとりましたが、みんな連絡が取れませんでした。」

「そうなんだ」



うん。何となく俺も見えて来た・・・

大石と連絡とれない理由



「跡部さんは、意図的にみんなで何処かに移動したんじゃないかって言ってます。

 俺もきっとそうだと思います。ただ・・もっと確証が欲しくてこうやって各学校のしっかりした人と連絡をとっていそうな人に確認して歩いてるんです」

「それで確証はとれた?」

「はい。事故は起こっていない。家にも帰っていない。

それなのに大石さんみたいにしっかりした人まで連絡が取れないとなると・・・

答えは一つしかありません」



そうだ。答えは1つしかない。



「まだ、あの試合に負けた人達も、何処かで合宿が続いているんです!」



鳳は俺を見下ろすと、嬉しそうにほほ笑んだ。



そうだよ。俺もそう思う。



「まだ大石達も頑張ってるんだ!」

「はい!きっとそうです。宍戸さん達は凄い練習をして、またこの合宿に戻ってくるんですよ!」



俺達は大きく頷きあった。











「ありがとう鳳。何だか俺、明日からもっと頑張れる気がするよ」

「俺の方こそ、こんなに遅くにお邪魔して・・でもそのお陰で俺も自信をもって頑張れます」

「だな。お互いいつ恋人が戻ってきてもいいようにレベル上げて待ってようぜ」

「はい」

「じゃあまた明日な鳳。おやすみ」

「おやすみなさい。菊丸さん」








鳳をドアまで送って、俺はもう一度部屋の奥の窓際に立った。

外からは優しい光が差し込んでいる。

大石・・・

窓を開けると、冷たい空気が部屋の中に流れ込んできた。

俺は少しだけ身を乗り出して、空を見上げた。

空気が澄んでいるせいか、ホントに星の数が多い。



大石も今頃何処かで、この星を見上げているのかな?



・・・あっ!?流れ星!!!




大石が戻って来ますように。

大石が戻って来ますように。

大石が戻って来ますように。




うん。大石は、戻って来る。



『俺達は何があっても黄金ペアだ』



きっと、必ず戻って来る・・・

俺のところへ



大石・・・・・待ってるからな。




                                                                        END




英二お誕生日おめでとうvvv


今年も無事に言えました☆良かったvv良かったvv

今回どんな話にしようか悩んだんですけど・・・年表見ていたらU-17合宿が11月になっていたんですよ。

なので急遽合宿話☆

でもって・・・英二が大石と連絡とれず悶々と悩んでいる間。

大石は、崖を登ったり、鷹に追われたり、穴掘らされてジャージにお○っこかけられたり

洞窟で寝たりしています☆

そりゃあ連絡つかないよねー☆

ドンマイ!大石vvv

2010.11.28