クリスマス・ラプソディー


                                                         (side 英二)




「英二。結婚しよう」


こうやって目を瞑れば、大石の声がいつでも蘇る。

優しくて力強い声

俺の誕生日に突然されたプロポーズ

プレゼントの指輪だけでも俺の嬉しさはMAXだったのに、更に嬉しい言葉

大石が俺の事そんな風に、思ってくれてるなんて・・・

これから先もずっと一緒にいたいって想いが重なった瞬間だった。


大石・・・

思い出しただけで、顔がにやけて堪んない。

俺こんなに幸せでいいのかな〜〜

ニャハハハと枕を抱きしめて、ベッドの中でゴロゴロと悶えていると、下から思いっきり、ベッドを蹴り上げられた。



「英二っ!うるさいぞ!」



ヤバッ・・・チイ兄だ・・・

実は俺、誕生日以来ついつい夜になると、大石のプロポーズ思い出しちゃって、ベッドの中でゴロゴロと悶えちゃうんだよね。

だけどそれが下に響いて、チイ兄は気になって眠れないらしい。

毎回注意されるんだけど、次の日になると忘れてまたやっちゃうんだ・・・



「ごめん。もう寝るから」

「ホントに寝ろよ」

「うん」



取り敢えずチイ兄に謝って、プロポーズの言葉を思い出さないように大石を思い出す。

まぁ顔のニヤニヤはそれでも抑えらんないんだけどね・・・

それで最近思うことは、もうあと2週間と少しでクリスマスなんだよなって事・・・

クリスマスといえば、プレゼント

やっぱこんなに幸せにしてもらったお礼も兼ねて、大石が前から欲しがってる物をプレゼントしてやりたいって思うんだけど・・・

大石の欲しいものっていうのが、実は天体望遠鏡なんだよね

星を見るのが好きな大石は、前から『いつか買いたい』って言っていて、俺も何度も一緒に見に行ったりはしてるんだけど・・・

この値段が恐ろしくピンきりなんだ。

性能がいいのは、やっぱ値段も高いんだよね。

だから大石も未だに買えずにいるんだけど・・・

っていうか俺はてっきり大石の奴は天体望遠鏡を買う為に貯金してるんだって思ってたん だけど・・・

俺の左の小指に光る指輪を見ると、ひょっとして天体望遠鏡より俺のプレゼント優先したんじゃないかって思うんだ。



不二に惚気て見せた時も『大石がねぇ〜やれば出来るんだ』って褒めてんのか、馬鹿にしてんのか良くわからない言い方をした後、『それ結構したんじゃない?』って言ってたし・・

やっぱこの指輪結構高かったんじゃないかな・・・

そうなると指輪を貰って凄く嬉しい反面、なんだか悪いなぁ〜って思いも湧いてくるんだよね。

しかし今の俺の貯金じゃ絶対に大石が欲しがってるような天体望遠鏡なんて買えないし・・・どうしたらいいんだろ?

お年玉って前借出来るかな?

何とか頼んで・・・それでもやっぱ足んないよな・・・

う〜〜ん・・・いい方法ないかな?



「ねぇチイ兄ー もう寝た?」

「んー?何だよ早く寝ろよ」

「あのさー相談があんだけど」

「何のだよ?」



チイ兄の返事が返ってきたから、俺は二段ベッドの上から覗き込む様にしてチイ兄を見た。



「お金貸して」

「ハァー?俺がそんなの持ってる様に見えるか?」

「だよね・・・」



駄目もとで聞いたんだけど、やっぱ無理か・・・

確かにチイ兄も俺と一緒で、あんま貯めるタイプじゃないんだよな


ハァ・・・と溜息をついて頭を引っ込めてベッドに転がると、下から声がした。



「何に使うんだよ」

「ちょっとねー買いたい物があってさ・・」

「何が欲しいんだ?」

「天体望遠鏡」

「天体望遠鏡〜?英二が?」

「俺じゃなくて、大石にね・・・その・・・プレゼントしたくて・・・」

「別の物じゃ駄目なのかよ。アレ結構するんだろ?」

「だからーお金貸して欲しいなって思ったんだよ!それに天体望遠鏡じゃなきゃ意味ないの!」

「友達に普通そんな高い物プレゼントするか?」



だから・・・友達じゃないんだって!!

恋人なんだよ!!とは流石に言えないよな・・・



「色々大石には迷惑かけてるし、こないだの誕生日も祝って貰ったし・・・色々あんだよ」

「ふ〜ん。まぁ確かに英二はいつも大石に迷惑かけてるもんな」

「む〜・・・そんないつもって訳じゃないもん!たまにだもん!」

「たまに〜?今ここに大石がいたら苦笑してるとこだな」



さっきまで早く寝ろとか言ってたくせに、チイ兄は目が冴えてきたのか、もう完璧に普通の会話になっている。

2段ベッドの上と下でしゃべっているからお互いの顔は見えないけど・・・

今、絶対にニヤニヤ笑ってるんだろうな・・・チェッ!



「もういいよ。チイ兄には相談しないから」

「まぁ待てよ。それ新品じゃないといけないのか?」

「えっ?なになに?何かあてがあるの?」



チイ兄の声のトーンが変わったから、何かいい事を思いついたのかと、思わず身を乗り出して、下のチイ兄を覗き込んだ。



「まぁな。俺の知り合いの天文部の部長が確か新しい天体望遠鏡を買うって言ってたからさ。ひょっとしたらお古なら、何とか出来るかもよ」

「マジ?」

「明日話てみなきゃまだハッキリとは言えないけど・・・それにタダって訳じゃないぞ」

「うん。お金はそんなにないけど・・・出来る事ならなんでもする!だから明日その人に 聞いてみてよ」

「よし。わかった。明日聞いてみるよ」

「うん。あんがと。チイ兄」

「んじゃ。この話は終わり。早く寝ろよ」

「ほいほーい。んじゃ、おやすみ!」



やった!!

明日いい返事が聞けたら・・・

もしかして、天体望遠鏡が手に入るかも・・・

そうしたら大石の奴・・・驚くかな?

いや・・・絶対驚くよな。

俺から天体望遠鏡を貰えるなんて思ってもいないだろうし・・・

あ〜何だかワクワクしてきた。

どうなんだろ?

早く返事が聞きたい。


俺は結局興奮して中々寝る事が出来なくて、この後2回チイ兄に怒られた。
















そして次の日

『今日は早く帰って来い』


学校について2時間目の授業が終わった頃、チイ兄からメールが入った。

どうやら例の話をつけてくれたみたいだ。

俺が早速ウキウキしながらチイ兄に返事を打っていると、珍しく大石がクラスにやって来た。



「英二!」

「あっ!大石!どうしたの?」



手を上げながら近づいて来た大石は、何か嬉しそうな顔をしている。



「ようやく委員の方も目途がついて時間が出来そうなんだ。だから今日からは英二を待たせなくて済みそうだよ。一緒に帰ってさ、試験勉強も一緒に出来るぞ!」

「えっ!?ホント?やった!」



大石は生徒会補佐やらクラス役員やら保健委員長やら・・・

色んな役をやってる上に、頼まれた仕事も全部引き受けちゃうから

結局お前は何委員なんだよ?ってぐらい、いつも忙しくしていた。

だから俺はそのたびに拗ねたりしてたんだけど・・・

それが目途がついたって・・・嬉しい!!

これで毎日大石と一緒に帰れる!!

・・・って駄目じゃん・・・・


喜んだのも束の間、俺は重大な事を思い出した。

今日はチイ兄と約束があるから早く帰んなきゃ・・・だし

今日の話次第で明日もわかんないし・・・

どうしよう・・・大石になんて言おう・・・

天体望遠鏡の事は内緒にしておきたいし・・・



「ごめん・・・大石。今日その・・・チイ兄と約束してて、学校終わったらダッシュで 帰んなきゃ行けなくて、だから今日は一緒に帰れない」



何て伝えればいいかわからないけど、取り敢えず今日の事は断んなきゃ・・・って思いと せっかく大石が、委員の事教えに来てくれたのに申し訳ないなって思いとが混ざり合って、凄く暗い顔になってしまった。

そんな俺に大石は優しく微笑んで頭をポンポンと叩いてくれた。



「そっか用事があるなら仕方ないな。また明日もあるし、だからそんな顔しなくていいよ英二」

「ごめん・・」

「だからいいって。俺もつい浮かれて、その・・・話に来たけど、普段はいつも俺の方が用事があって英二の事を待たせたり、断ったりしてるんだから・・・な?」

「うん。わかった」



大石の優しさに、俺が笑顔を向けると、大石は小さく頷いて更に優しく微笑んでくれた。



「それにしても・・・珍しく不二がいないんだな」



クラスのみんなに気付かれないように少しだけ見つめ合った後、大石は今気付いたとばかりに辺りをキョロキョロ見回した。



「不二なら手塚のとこに行ってるよ。でももう時間だし帰ってくるんじゃない?」



教室にある時計をチラッと見てそう告げると、大石も確認するように腕時計を見た。



「そうか・・・俺もそろそろクラスに戻らなきゃな・・・じゃあ・・英二」

「うん。じゃあね大石」



小さく手を振ると、大石は自分のクラスへと戻っていった。

ごめんね・・・大石

ホントは一緒に帰りたいけど・・・

今日はどうしても帰らなくっちゃ・・・

チイ兄が待ってる。
















授業が終わって大石の事を思うとホントに後ろ髪を引かれたんだけど、それを振り切ってダッシュで家に帰ると玄関にチイ兄の靴と見慣れない靴が並んであった。

俺はそれを見て、階段を駆け上がった。



「ただいま〜〜!!遅くなってごめん!チイ兄!!」



勢いよく部屋に入ると、胡坐をかいて座るチイ兄とその横に同じように座る男の人がいた。



「遅いぞ英二!」



チイ兄が腕を組んで俺の方を見上げるから、俺はすぐに頭を下げた。



「ごめん・・・HR終わってダッシュしたんだけど・・・」



ダッシュで帰って来たんだけどなぁ〜

ひょっとして凄く待たせちゃったのかな?

どうしよう?と頬っぺたをポリポリかいていると、チイ兄の横に座っている人が苦笑しながらチイ兄の肩を叩いた。



「まぁまぁ兄の威厳を見せたいのもわかるけど・・菊丸、僕達も今帰って来たばかりだろ?」



それを見たチイ兄が、少し照れたように舌打ちをした。



「チッ・・まぁ・・・そういう事だから・・・いいけどよ」



へ?そうなの・・・と思いながら、二人の顔を交互に見てると、チイ兄に座るように促されて、俺は二人の前に座った。



「こいつが弟の英二。んでこいつは昨日話た天文部の部長の七瀬。昨日の英二の話はしてあるから、今日は英二が七瀬の条件を聞いてどうするか決めろ」



決めろって言われても・・・

俺がチラッとその七瀬っていう人の方を見ると、その人は優しくニコッと笑った後に手を差し出した。



「七瀬です。初めまして英二くん」

「あっ・・初めまして・・・」



慌てて俺も手を差し出して軽く握手を交わした。


何だろ・・・この人の雰囲気・・・誰かに似てる・・・ような・・・

サラサラの色素の薄い髪は不二っぽいけど・・・不二じゃなくて・・・

う〜ん・・・優しさの中に安心感がある・・・この感じ・・・

あっ!そうだ!ちょっと大石に似てる・・・


そう思っている時にチイ兄が立ち上がった。



「んじゃ俺何か入れてくるわ。後頼むな、七瀬」

「あぁ」



そしてチイ兄はそのまま部屋を出て行った。

俺はそんなチイ兄の背中を目で追って、パタンとドアが閉まったと同時に前に向き直った。

そこには真っ直ぐ俺を見る七瀬さんがいて、バッチリと目が合ってしまった。



「じゃあ早速だけど、本題の話をしようか」



またニッコリ微笑まれて、何だか照れてしまう。


うっ・・・

でも照れてる場合じゃないよな・・・


俺は心を引き締めて真面目に返事をした。



「はい!お願いします!」

「そんなに硬くならなくてもいいよ」



クスクス笑いながら言う七瀬さんに、俺は少し肩の力を抜いた。



「ホントはね。星に興味のある子になら条件なんてなしで、天体望遠鏡を譲ってあげても構わないんだけど・・・」



と少し申し訳なさそうに話始めた七瀬さんの条件は、天文部の資料をまとめる手伝いをするというような内容だった。



「天文部は人数が少なくてね、実はかなり困ってたんだ。それで前から菊丸にも手伝ってもらっていたんだけど、まだまだ整理出来なくて・・だから手伝ってもらえると助かるんだけど・・・どうかな?」



なんだ・・・チイ兄も手伝ってたのか・・・・

そんな事全然言ってなかったのに・・・

っていうか・・ひょっとして俺・・・チイ兄の代わり?

まぁでもこの際何でもいいや!



「そんなのもちろんやります!!あっ・・・えっと・・・それで天体望遠鏡・・・」

「もちろんお礼って言うのもなんだけど、僕のお古で良ければ譲るよ」

「やった!ありがとうございます!!」

「こちらこそよろしく」

「いつから手伝えばいいですか?」

「じゃあ明日から、HRが終わったら天文部の部室に来てくれるかな?」

「はい!」



話が終わるとチイ兄が部屋に戻って来た。



「おー話はついたか?」

「まぁねん!ね〜七瀬さん!」

「あぁ」



この後3人で、天文部の話をしたり、高等部の教室の場所を聞いたり、これからの作業の打ち合わせをして時間は過ぎていった。

明日からは忙しくなるけど・・・これも大石の天体望遠鏡のためだ。

頑張るぞ!!






大石の欲しい物が40・5巻で天体望遠鏡と載っていたので・・・


これは使わなくては・・・と早速使ってみました☆

あっそれと・・・今回チイ兄の友達が出てます・・・

これってオリキャラって言うんでしょうか?

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