クリスマス・ラプソディー


                                                                       (side 大石)




「ホントにごめん!今日も駄目なんだ・・・」


今日で4日目

こうも立て続けに断られると流石に俺もどうしたのかな?と不安になる。

何をしているのか・・・

何を考えているのか・・・

英二が何かを隠している事はすぐにわかった。

その事について問いただそうか?とも思ったんだけど、英二から俺に話をしてくれるまではと、カッコをつけて我慢したんだ。

だけどそれも限界だ。

4日も俺より優先する事があるなんて・・・

もうカッコをつける余裕なんてない。

こういうのは俺の勝手な独占欲なんだろうけど・・・

それがとても寂しいというか、不安だよ英二。

だから聞いちゃいけない事なのかも知れないけど、もう聞かずにはいられない。



「そうか・・・じゃあ仕方ないけど・・・英二、一体何をしているんだ?」

「えっ?それはその・・・」

「俺に言えない事?」



英二の目を真っ直ぐ見つめる。

英二はあからさまに目が泳いでいて、動揺を隠しきれていない。

やっぱり聞かれたくない事なんだな・・・

そんなに必死に何を隠してるんだ?

言葉を捜す英二を黙って見続ける。

英二は困ったように、俯いたままポツリと漏らした。



「ごめん。今はまだ言えない」



唇を噛締めて言う英二に、俺は小さく溜息をついた。

こうなると英二は絶対に話してはくれない。

それは今までの長い付き合いの中で、よくわかっている事だ。


英二・・・

何を必死に隠しているのか、どうして俺に話してくれないのか・・・

不安で堪らないけど・・・

今、言葉の中に『今はまだ』ってつけたよな。

それはいつか俺に話すつもりでいるって事なんだよな。

英二を信じていいって事なんだよな。


俺は確かめるように聞いてみた。



「今は言えないって事は、いつかは話してくれるって事なのか?」



英二は俺の言葉に大きく頷いて、ようやく笑顔を見せた。



「うん!必ず!!」



その姿を見て俺は苦笑した。

俺の取り越し苦労なのかも知れない。

英二を疑うわけじゃないけど・・・避けられてるような気がして・・・不安になって・・・

でもそれは英二の全てを把握したいと思っている俺のエゴからくるもので・・・

英二には英二の世界があってもおかしくないのに・・・



「わかった。英二が話してくれるまで待つよ。それで・・・いつまで一緒に帰れないんだ?」

「えっ?」



驚く英二に俺はなるべくいつもの調子を取り戻して英二に微笑む。

英二を誘って今日で4日目

まだ俺に何かを隠している以上、一緒に帰れない日々は続くんだろう。

そんな事は容易に想像が出来た。

それならば・・・いつまでか?ぐらいは聞いてもいいよな?

じゃなきゃ毎日誘って毎日断られる、そんな日々が続いてしまう。

それは流石にわかっていても辛い。

断る英二だって辛い筈だよな?



「えっと・・・実は終業式まで無理かも・・・」



だけど返ってきた英二の答えに俺は言葉を詰まらせた。

そんなに・・・?

何日かは続くだろうとは想像していたけど、そこまでだなんて・・・



「・・・終業式って・・・それまで無理なのか?」

「うん・・・」



申し訳なさそうに英二が頷く。

その顔からは、さっき見せた英二の笑顔は消えてしまっている。


何をそこまで・・・?


また少し不安が過ぎったけど、俺は英二が話してくれるまで待つ。

そう決めたんだ。

英二を信じよう。

俺は英二の肩を叩いた。



「わかった」



英二が俺の顔を見て、安心したようにまた笑顔を取り戻す。

俺が英二の事を信じてるって思いが届いたのかな・・・



「大石・・・」



だから俺は話題を変えて、いつもの俺達を取り戻そうとした。



「それより英二。試験勉強はちゃんとしてるんだろうな?」

「もちろんしてるよ。ちゃんと教えてもらってるし・・・」

「教えてもらってる・・・?」



一瞬俺の眉間にシワが寄った。

確かに英二の家は兄姉が多くて、英二に勉強を教えられる人はたくさんいる。

だけど英二の口癖は『俺の兄姉はあてにならない』だった。

それで試験前になると、俺の家に来て一緒に試験勉強をしていたんだ。

本来なら今回だって、一緒に試験勉強する予定だったのに・・・

兄姉以外に英二に勉強を教える人がいるのだろうか・・・?



「あっ・・・兄ちゃんにだよ!」



俺の疑問が英二に伝わったのか、英二は慌ててそう言った。

そうか・・・お兄さんが・・・

英二が兄ちゃんと呼ぶのは一番上のお兄さんの事だ。

確か大学院に行っていて、普段は研究やら何やらで殆ど家に帰ってないらしいけど・・・

今は帰って来ているのかな?

そんな話は英二から聞いてないけど・・・

ひょっとしたらそれが原因で早く家に帰るのかも知れない・・・

だから一緒に帰れない・・・・?

兎に角、お兄さんに教えてもらえているなら俺の出番が無くても仕方が無いな。



「そうか・・・お兄さんが・・・じゃあ安心だな」

「う・・うん」



英二の頼りない返事は少し気になったけど、それでも俺の中にある程度の答えが出来て俺は安心していた。


英二は大丈夫・・・・俺は英二を信じてる。















試験最終日いよいよこれで2学期も終わりだ。

来年はもう殆ど学校でする事など無くなるんだろうな・・・

だけど終わりはまた新しいスタートも意味している。

高等部へ

また俺達は一からテニスを始める事になる。

その下準備って訳じゃないけど、冬休みからは少しずつ高等部の練習に混ぜてもらう話が出ていた。



「手塚。テストはどうだった?」



試験の出来を手塚と二人で話しながら冬休みの練習の日程を聞く為に、俺達は高等部の校舎の中を歩いていた。



「まぁまぁだ」

「という事は出来たって事だな」



手塚が悪い点を取るなんて事がないのはわかっていたけどな。

そう思いながら俺は英二の事を考えていた。


『今回の試験はバッチリだと思う』


珍しく強気な英二のメール

いつもなら『たぶんね』と濁す事も多いのに・・・今回は余程集中して出来たんだな。

それともお兄さんの教え方が上手いのか・・・

試験に手ごたえを感じているような英二のメールの内容は嬉しい反面、寂しくもあった。

お兄さんがいれば、俺は必要ないのかな・・・という暗い気持ち。

そんな感情がフッとした時に、俺の胸を締め付ける。

駄目だ。駄目だ。こんな事じゃ・・・お兄さんに嫉妬してどうするんだ。

英二が誰に勉強を教わったとしても、それでいい点が取れればいいじゃないか。

それぐらいの度量は持っていなきゃ。

俺は徐に首を振った。



「どうしたんだ?大石」

「えっ?あっ・・・何でも無い」



いきなり首を振った俺を不思議そうに手塚が見ている。

俺は笑って誤魔化して、今後の部活の話をした。


今は部活の事を考えよう。
















高等部の校舎を抜けて、食堂の近くを通りかかった時に聞き覚えのある『キャハハ』という笑い声が聞こえてきた。

英二?

でもここは高等部だよな?

似たような声の持ち主かも知れない・・・

だけどその声が気になって、俺は手塚に声をかけた。



「今。英二の声がしなかったかな?」

「菊丸の?さぁ・・・」



手塚は首を傾げて、わからないって顔をしている。

俺の聞き間違えかな?

試験中は勉強の邪魔になってはいけないからと、メールのやり取りしかせずに 直接声を聞いてないから・・・

英二の声に聞こえたのかも知れない。

これは本当に重症だな。


そう思った時また『でさー』と誰かと話す声が聞こえた。

いや・・・これは・・・聞き間違いなんかじゃない・・・この話し方は英二だ。

俺は声のする方に歩みを進めて、人気の少ない食堂の中を覗いた。


そこで目にしたものは、自販機の前で腕を掴まれて顔を覗きこまれる人と覗き込む人

言い方を変えれば、まるでキスをしているような二人

だけどその二人はどちらも学生ズボンを履いている。


おっ・・・男同士?

何て大胆な・・・っていうか・・・いいのか?

不味いんじゃないのか?

いや・・・相手が女子だったとしても、こんな人目につく所は不味いんじゃないだろうか?

現に今俺が目撃している訳だし・・・

あっ!手塚は今の見ていないよな・・・


変な心配をしながら、こういうものはそっとしておくに限る。

と目を逸らそうとした時に、二人が離れて顔が見えた。


えっ・・・・?

うそだろ・・・?


その見慣れた顔に、俺の体は金縛りにあったように硬直した。


英二・・・


それは紛れも無く俺の大切な英二だった。

英二はまだ腕を掴まれてる状態なのに、その相手に『ヘヘッ』と少し頬を染めて優しい笑みを浮かべている。

その顔は普段俺にしか見せない顔だ。


英二・・・何故だ・・・?

俺は英二の腕を掴んでいる人に見覚えも無ければ、心当たりもない。

それに英二が高等部に来る理由もわからない。

頭の中に色々な想いが過ぎる。


『英二。結婚しよう』


そう告げたのは英二の誕生日で、まだアレから1ヶ月も経っていない・・・

これから先もずっと一緒にいようと誓い合った・・・幸せな時間

なのに・・・今、目の前で起きている事は何なんだ?

英二にそんな顔をさせるのは俺だけじゃないのか?

英二に触れるのは俺だけじゃないのか?

俺達は愛し合っている・・・という土台が足元から崩れそうになる。


ひょっとして英二が隠していたのはこの事なのか・・・?



「大石。何をしている。先を急ぐぞ」



食堂を覗いて動かなくなった俺の肩を叩き、手塚が声をかけてきた。

その声は人気の無い食堂に響き、自動販売機の前にいた二人にも聞こえた様だ。

その声に反応してゆっくりと英二が俺の方を見る。



「おおいし・・・?」

「英二・・・ここで何をしてるんだ、その人は・・・」



ようやく英二の名前を呼べたのに、英二は複雑そうな眼差しを俺に向けた。

そしてあろう事か、隣にいた高校生の制服を掴んで不安な表情を浮かべて見上げたんだ。



「七瀬さん・・・」



その人は英二のその顔を見るなり、英二の腰に手を添えて何も言わずに引き寄せた。

まるで英二を守るように真っ直ぐ前だけ見つめて歩き出す。

そしてそのまま俺の横を通り過ぎた。


まるで俺の存在を無視するように・・・・



「英二・・・」



俺はただ呆然とその姿を見送る事しか出来なかった。

すれ違う瞬間に英二と目が合ったけど、英二は何も言わずに目線を逸らした。



どうして・・・どうしてだ?

わからない・・・何がどうなっているんだ?

何故英二は何も言わないんだ?

何故目を逸らすんだよ・・・

英二・・・


追い駆けて捕まえて『何やってるんだ』って問い詰めて・・・・

頭ではそう思っているのに、足が動かない。

英二・・・待てよ・・・待ってくれ・・・


俺達はどうなってしまったんだ?
















家に着いて、ご飯食べて、風呂に入って・・・

いや高等部から帰る時から、ずっと俺は携帯を気にしている。

英二から連絡があるんじゃないかって・・・

『話がある』って言ってくるんじゃないかって・・・

だけどいくら待っても、携帯は鳴らなかった。

鳴らないのなら、いっその事自分からかけようかとも何度も思って携帯を握ったけど・・・

英二のあの高校生を頼って助けを求めるような目を思い出すと、怖くて出来なかった。


何がいけなかったのか・・・?

あの人は誰なのか・・・?

英二とはどんな関係なのか・・・?

聞きたい事も、知りたい事も山ほどあるというのに・・・


俺は自分の掌を見て、自嘲気味に笑った。


ハハ・・・こんなに自分が脆いなんて・・・気付かなかったな・・・


英二を好きだという気持ちは誰にも負けない、揺らぐ事はないと思っているのに

英二が俺を想ってくれているという気持ちを信じる事はこんなに容易く揺らいでしまう。


『ごめん。今はまだ言えない』


英二の言葉が蘇る。

あの時は、英二を信じようと思った。

いや・・・今だって揺らぎながらも、英二の事を信じている俺もいる。

アレは何かの間違いだって、何か理由があるんだって・・・

だから英二を信じようって・・・

英二が話してくれるまで待とうって・・・


英二・・・何故連絡してこない・・・

俺はお前を信じて待っていていいのか・・・?






久々にやきもちとか・・・入れてみようかと・・・思ったんですが・・・


そうしたら・・・こんな感じになってしまいました☆

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