クリスマス・ラプソディー


                                                                       (side 英二)



今日はもう終業式・・・大石はあの時の言葉を覚えてくれてるかな?


いつまで一緒に帰れないんだ?って大石に聞かれて答えた俺の言葉。

『えっと・・・実は終業式まで無理かも・・・』




あの日食堂でバッタリ大石に会って以来、俺達は会ってない。

それどころか、大石から何も連絡が入らなくなった。

ホントはあの日『一緒にいた人は誰なんだって』大石が怒って何か言ってくるんじゃないかって・・・

そうしたらどうやって説明しようとか・・・

天体望遠鏡の事は黙っていて、驚かせたかったし・・・

色んな事を考えると頭の中がグチャグチャになって、自分からかけた方がいいのか

大石からかかってくるのを待った方がいいのか、それさえもわからなくなって・・・

その日は一日中携帯を握ったまま過ごした。

でも次の日になっても、その次の日になっても大石からは何も言ってこない。

こんな事は初めてだった。

何日も大石と話さない日々

食堂ですれ違った時の大石の目を思い出すと、凄く不安になる。

怒っているような、戸惑っているような、複雑な目をしていた。

あの目を見れば、大石が俺と七瀬さんの仲を疑ったんじゃないかって事は俺にだってわかってる。

だけどあの時は天体望遠鏡の事を隠したくて、それだけで精一杯で・・・

大石・・・何で何も言ってこないんだよ・・・

俺はお前を驚かせたくて、ただそれだけで・・・

でもお前は違うだろ?

疑ったなら何か言ってきてよ・・・

思った事ぶつけてよ・・・

何も聞かれないと、俺の存在ってそんなものなのかなって思っちゃうじゃん。

内緒にしておきたい話だから聞かれると困るんだけど、何も聞かれないのも嫌なんだ。

ワガママだって事はわかってる。

だけど大石・・・俺怖いよ・・・まさか俺から離れるなんて事ないよな?






「呆れてものも言えないって感じかな?」



ざわめく教室の片隅で、不二が溜息混じりに机に肘をつく。



「だって仕方ないじゃん」



口を尖らせて答える俺に、不二は更に溜息をつく。



「英二も英二だけど、大石も大石だよね・・二人とも強情というか・・・

本当にどうしたらそうなるのかな?」



そうなるのかな・・・といわれても・・・こうなっちゃったんだよ。

心の中で舌打ちしながら、俺は机にうな垂れた。



今日大石はどうするんだろう?

あの時の言葉覚えてるかな?

覚えていてくれたとしたら、今日は一緒に帰る日なんだけど・・・

その事がずっと気になって、朝からソワソワしてたから、とうとう不二に問い詰められた。

不二は手塚経由で高等部での話は聞いてたみたいだから、ある程度の話は予想してたみたいだけど・・・



「それで今日一緒に帰る事になれば、大石にちゃんと事の顛末を話すの?」

「う〜ん・・・それは・・・だってまだクリスマス・イヴじゃないもん」

「そんな事言ってる場合じゃないと思うけど」

「でもここまで来たら俺だって引き下がれない」

「意地を張って、大切な人を失っても知らないよ」

「大石は大丈夫だもん」

「そんな不安そうな顔して、よく言うよ」



不二の言葉に思わず俺はズボンのポケットに手を入れて、指輪を握った。

大石から貰った大切な指輪

いつも肌身離さず持ち歩いてる。

大石に愛されてるっていう証

どうか神様・・・大石が今日の事を覚えてくれていますように・・・






「じゃあ今年もこれで最後だが、冬休みに入るからといって気を抜くんじゃないぞ」



担任の話を上の空で聞きながら、いよいよだ・・・と構える俺がいる。


大石は教室に残ってくれてるだろうか・・・?

それとも迎えに来てくれるのだろうか・・・?

あともう少しでその結果が出るんだ。



「えいじ・・・英二・・・英二!」

「へ?何、不二」

「・・・HR終わったよ」



あ〜・・・大石の事を考えて、緊張しすぎて終わったのに気付かなかった・・・

ってのんびりしてる場合じゃなかった!

俺は急いで立ち上がって鞄を肩にかけた。

その時に椅子に足が引っ掛かって、思いっきり打っちゃった。



「あっ!痛ぇ〜〜」



クソッ!急いでんのに・・・

と跪き足を擦っていると、不二にトントンと背中を叩かれた。


「英二。落ち着いて、大丈夫だから・・・ホラ」



『ホラ』の声に顔を上げて、不二の指した先を見るとそこには大石が立っていた。



「おっ・・・大石・・・」



久し振りに見る大石の顔

とても嬉しい筈なのに、いつもの様にはしゃげない・・・

俺は立ち上がって真っ直ぐ大石を見つめると、そのまま横にいた不二に声をかけて歩き始めた。



「あんがと不二。また連絡する」






こうやって並んで歩くのは何日ぶり・・・?

いや何週間ぶりだろう・・・?

殆ど話さず、ただ一緒に歩いているだけなのに、体の左側が大石を意識して熱い。



「大石・・・今日の事、覚えてくれてたんだ」



恐る恐る食堂での事は話さずに話かけると、大石は俺の方を見ないで答えた。



「あぁ・・うん。だから今日は帰れるかな・・・と思って迎えに行ったんだ」

「そう・・・あんがと大石」



微笑んで見せたけど、大石は俯き加減で歩いたままで、やっぱり俺の方を見ない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

長い沈黙が流れる・・・言葉が続かない・・・

どうしよう・・・でもクリスマス・イブの話はしなくちゃ・・その為に頑張ってきたんだ

こんなに大石と気まずくなっても、それでも大石を驚かせたくて頑張ったんだ・・・



「あの・・・「「大石・英二」」」



お互いの名前を呼ぶタイミングが重なった。

驚いて大石を見ると、大石も驚いた顔して俺を見てる。



「えっ?何・・大石?」

「いや・・・俺はいいよ。それより英二は何なんだ?」



お互いに話を譲り合って、結局俺が先に話す事になった。



「大石・・・クリスマス・イブなんだけど・・・

21時に高台のコンテナまで出てこれないかな?」

「えっ?そんな時間に・・・?」

「うん」



大石は少し考えて、俺を見つめた。



「俺でいいのか?」



やっぱり・・・そういう風に思ってるんだ・・・

俺は下から大石を睨むように答えた。



「大石に言ってるんだよ」

「そう・・だな・・・わかった。必ず行くよ」

「で、大石は何?」



大石が俺に聞きたい事は、わかってるけど・・・

やっぱ・・あの事だよな・・・



「英二・・・その・・・あの食堂で一緒にいた人は・・・?」



聞き辛そうに言う大石に俺は、間髪入れずに答えた。



「七瀬さんって言うんだ。チイ兄の友達で・・・だけどそれ以上の事はまだ言えない」

「そうか・・・」



大石は力なく微笑んで、俺を見る。


何だよ!何だよ!今まで何も聞いてこなかったくせに・・・

たったそれだけで、引き下がるのか?

お前の俺への想いはそんなものなのか?

俺がお前を振り回してる事はわかってるけど・・・

だけど勝手に結論だすなよ!

そんな顔すんなよ!

俺はお前を誘ってるんだぞ!

クリスマス・イブはこれからなんだ!!


俺は大石の両手を握った。



「だけど、クリスマス・イブに高台のコンテナに来てくれたら、全部話すから  だから、必ず来て!!」



俺の真っ直ぐな訴えに、大石は少し目を丸くしてただ頷いた。



「あっ・・あぁ・・・」















この日の為に・・・どんなに色んな事を我慢しただろう

大石と一緒に過ごせない日々

辛くて・・・寂しくて・・・

だけどコレをプレゼントした時の大石の喜んだ顔が見たくて頑張ったんだ。

俺は七瀬さんから譲って貰った、天体望遠鏡を抱えて高台のコンテナを目指していた。

譲って貰った天体望遠鏡は予想を遙かに超えて凄く立派な物で、あんな手伝いぐらいで貰って良かったのかな?と思う程だ。

しかし・・・立派なだけに重い・・・

ハァハァと息を切らしながら、時折休んでは進みを繰り返した。

そしてそうこうしてるうちに、高台のコンテナが見えてきた。

あともう少し・・・




「よいしょっと・・・やっと着いた・・・」



ドサッと天体望遠鏡の袋をコンテナの横に下ろして、辺りを見回す。

大石はまだ来てないみたいだな・・・

待ち合わせは21時、だけど今は20時半

うんうん・・・よしよし。

大石に待ち合わせを21時って伝えたのは、コンテナの上に天体望遠鏡を設置して 驚かすため・・・

先手必勝・・・

大石の顔を見たらすぐに『メリークリスマス』って言ってコレを見せるんだ。

そして今までの事を話して・・・

と思っていると暗闇の中で声がした。



「英二」

「へっ?」



まさか・・・

声がした方へ顔を向けると、大石がコンテナの上から覗いてる。



「おっ・・・大石来てたのかよ」

「あっ・・・うん。ちょっと早く来過ぎたかな・・・」



って早すぎだろ?

せっかくの俺の計画が・・・・



「どうしたんだ英二?上がってこないのか」



大石がコンテナの上から手を差し伸べている。

俺は仕方なくその手を取って登った。

天体望遠鏡はコンテナの下に置いたままで・・・

上に登ると大石はすぐに胡坐をかいて座る。

俺も同じように横に座って話しかけた。



「一体何時から来てたんだよ」

「えっ?あぁ・・・20時・・・」

「20時!?」

「前から・・・」



前からって・・・それって・・・どれだけここで待つもりだったんだよ・・・



「そんなに早く来て・・風邪でも引いたらどうすんだよ!」



思わず心配になって大きな声で非難すると、大石に肩をつかまれて、ぐるっと大石と正面になる様に体を回された。



「ごめん英二。だけどもう待ちきれなかったんだ。英二が俺に隠してる事。

それが気になって、仕方が無くて・・・

ホントはもっと余裕持って、英二に接したいけど、限界なんだ」

「ちょっ・・・ちょっと待ってよ大石」

「いや・・・もう待たない」



大石は俺の肩を掴んだまま、睨むように俺を見つめる。



「あの七瀬って人は、英二の何なんだ?

その・・・食堂で何でキスなんてするんだよ!」

「キッ・・・キス?」



そんな事した覚えないんだけど・・・

だけど大石は更に辛そうな顔して聞いてくる。



「あの人が・・・好きなのか?」

「ちょっ・・・だからキスなんてしてないって」

「誤魔化さなくていいよ。俺はこの目で見たんだから・・・」



なっ・・・だから何を見たって言うんだよ!

本人がしてないって・・・言って・・・

あっ・・・ひょっとして・・・



「自販機の前の事か・・・?」

「・・・・・・・・」



大石はそのまま黙ってしまった。

そうか・・・やっぱりアレか・・・

だけどアレは違う・・・あの時は目にゴミが入って・・・



手で擦ろうとした時に七瀬さんに止められて・・・それでゴミを取ってもらったんだ。



「大石・・・アレは違うんだ。目にゴミが入って・・・」



言いかけた時に、大石が俺の言葉を遮った。



「英二が俺以外の人にあんな表情見せるなんて・・・」



俺の声は全然大石に届いてない・・・

違うって言ってるのに・・・

誤解されてるとは思ってたけど・・・・

キスとかそんな事にまでなってるなんて思わなかった・・・

どうしよう・・・

やっぱり時間が経ち過ぎたのかな・・・

だから大石もこんなに思い詰めて・・・

不二の言葉が頭の中に響く


『意地を張って、大切な人を失っても知らないよ』


そんなのは嫌だ・・・・

俺は大石に喜んで欲しくて・・・驚かせたくて・・・

ホントにそれだけだったんだ。

大石・・・

もっと俺の事信じてよ・・・

俺が大石以外の人とキスする訳ないじゃん。

キス・・・

そうか・・・

俺は俺の肩に手を置いたまま俯く大石の顔を両手で挟んだ。

そして正面を向けると、そのままキスをした。

驚いて目を見開く大石を無視して、小さいキスを繰り返す。


俺が好きなのは大石だけだよ・・・


そう思いを込めて・・・何度も・・・何度も・・・

その想いが伝わったのか、キスの間隔が長くなった。

お互いの熱が上がって、俺の肩に置かれていた大石の手は俺の背中に回って俺を抱きしめている。


大石・・・好きだよ


最後に長く深くキスを交わして、大石を見つめると大石は小さく呟いた。



「英二・・・ごめん」

「落ち着いて俺の話聞く気になった?」

「うん・・・」



俺は大石の胸にもたれ優しく腕の中に包まれながら、事の成り行きを話し始めた。

指輪を貰って凄く嬉しくて幸せで、大石にも特別な何かをプレゼントしたいと思った事・・

それをチイ兄に相談して、七瀬さんを紹介してもらった事・・・

そのプレゼントを譲って貰う為に、毎日高等部に通っていた事・・・



「まぁそれで休憩しようって食堂に行って、大石にバッタリ会っちゃって、七瀬さんに

大石には内緒にして驚かすって言ってあったからさ・・・気を利かせてああしてくれたんだよ」

「そう・・・だったのか・・・」

「あっ!それとホントにアレは誤解だかんな。アレは目に入ったゴミを取ってくれただけで・・・微笑んだのだって七瀬さんに大石が重なったからなんだからな!」

「わかったって・・・英二」



大石が困った顔して苦笑する。



「信じてなかったくせに」

「しっ・・・信じてたよ・・・」



慌てる大石に俺は悪戯っぽく笑って睨むふりをした。



「お・お・い・し!」

「わかった・・・降参・・・だから英二・・・」



大石が俺を強く抱きしめた。



「もう隠し事はなしにしてくれ・・・俺は英二が思うほど強くないんだ。

物分りがいいフリをするのも限界があるんだよ」

「ごめん・・・大石・・・」



そう・・だよね・・・

ホントにごめん・・・


俺を抱きしめる大石の腕を上から抱きしめた。

暫くそのまま沈黙が流れて、また大石が話し始める。


「それと・・・」



そう言った大石は、わざとらしく咳払いをした。



「俺以外の奴に助けを求めるような目を向けるのも駄目。

 英二に触れさすのも絶対駄目」

「おっ・・大石?」



急に口調の変わった大石に驚いて、大石の顔を見上げると大石と目が合った。



「英二を守るのは俺の役目だろ?

それに英二に触れていいのは俺だけだ・・・わかった?」

「う・・・うん」



ギュッとまた強く抱きしめられて・・・息苦しい・・

だけど・・・

嬉しいかも・・・

大石がこんなにあからさまにやきもち妬くなんて・・・

滅多にないもんな・・・・・

うん・・・こんな事もたまにはいいかもしんない・・・

ニャハハ・・・

俺の含み笑いが漏れて、大石が俺の心を見透かしたように釘を刺す。



「英二・・・もうホントに止めてくれよ」



ハハ・・・バレたか・・・

まぁそうだよな・・・俺も大石が妬いてくれるの嬉しいけど、会えないとか・・・

もうそんなのは嫌だもんな・・・

だからもう隠し事は・・・って・・・忘れてた・・・プレゼント!!



「大石っ!」

「どっ・・・どうしたんだ?」



勢いよく大石から離れると、大石は手を広げたまま驚いている。



「プレゼント!持って来てるんだ」



大石にそう告げて俺は一人コンテナを降りて、コンテナの下に置いてある大きな袋を持ち上げた。

それを大石がコンテナの上から引き上げる。



「凄く・・・重いな」

「気をつけてよ」

「あぁ」



そして続いて俺もまたコンテナの上に登った。



「じゃあ・・・改めて・・・メリークリスマス!!」

「メリークリスマス!」



向かい合わせに座って、大石からのプレゼントを受け取る。



「開けていい?」

「あぁ・・・でも英二のリクエスト通り、去年と同じだよ」

「いいのいいの!こういうのは何個あってもいいの!」



大石からのプレゼントはニット帽

12月に入って2、3日経った頃、クリスマスの話が出た時にリクエストした。

冬はやっぱニット帽だよねって・・・

貰えるならニット帽がいいって・・・

大石の奴・・・色々あったのにちゃんと覚えててくれたんだな・・・

俺は早速帽子を被って大石に見せた。



「どう?似合う?」

「あぁ。似合ってる。可愛いよ」



大石の言葉に笑顔を向けて、今度は俺が大石にプレゼントを渡す。

今日のメインはコレなんだ・・・



「よいしょっと・・・」



鞄の紐を持って、ドサッと大石の目の前に置く。



「こんなに大きい物・・・ホントにいいのか?」

「もちろん!俺コレの為に大石に会えないのも我慢して頑張ったんだかんな」

「・・・そうなんだよな・・・」



大石は目の前に置かれた鞄を感慨深くジッと見たまま動かない。

今回の元凶がこれだもんな・・・

大石も思う事、色々あると思うけど・・・



「大石っ!開けてみてよ」



開けなきゃ中身が何かわからないだろ?



「あっ・・・あぁそうだな。じゃあ・・・」



大石が鞄のジッパーに手をかける。

そしてジッーとゆっくり鞄を開けた。



「これは・・・」



大石は鞄の中から顔を出した天体望遠鏡を見て、釘付けになっている。



「どう?」

「これの為に・・・英二・・・」

「嬉しい?」

「嬉しいってもんじゃないよ!ホントにコレ・・・いいのか?」

「だからいいんだって。新品じゃないけどな、七瀬さんに譲ってもらった物だから」

「英二・・・」



大石に腕を掴まれて思いっきり引き寄せられて、俺はすっぽり大石の胸の中に納まってしまった。



「ありがとう・・・ありがとう・・・ホントにありがとう・・・」



大石が何度も何度も耳元で囁く。

良かった・・・

色々大変だったけど・・・やっぱり天体望遠鏡にしてホントに良かった。

俺、大石の喜ぶ顔見たかったんだ。




大石の背中に回した手にギュッと力を入れた。

そして大石の肩越しに星を見上げる。




ねぇ大石

これからこの天体望遠鏡でたくさんの星を一緒に見ようよ。

そんでたくさん星の話聞かせて




         

     

                                                              END







最後まで読んでくれてありがとうございます。


別に内容的には・・・クリスマスじゃなくても・・・って感じですが

えっと・・・クリスマスの話ですよ(笑)

そして・・・まぁ結局はラブラブな二人という事で・・・

2007.12.25