「サーエーさん!何ボーっとしてるの?」
「えっ?あぁ・・・剣太郎・・・ちょっとあの子達を見ててね・・」
「あの子達?」
「ほら・・あそこの公園の・・・」
「公園ですか・・・ってアレってケンカじゃないですか!早く止めないと!」
テニスの練習の後、いつものようにみんなで海に向かっている途中で
俺はケンカに巻き込まれている、小学生の2人組を見つけた。
確かに・・・ケンカは良くない。
だけど・・・あの様子・・・
「剣太郎!止めなくても大丈夫だよ」
「でもっ!サエさん」
3対2・・・数の上では2人組が不利・・・でも・・・
2人組の体の大きい方の子が、小さい方の子の前に立ち、必死に庇っている。
その姿に俺は、幼馴染の姿を重ねていた。
「いいから、黙って見ていなよ。剣太郎」
それはいつもと変わらない穏やかな日だった。
「何かあったの?」
給食当番だった俺が、残っていた食器を給食室に届けて教室に戻るとドアの前に人垣が出来ていた。
その異様な雰囲気に人垣の後ろの方にいたクラスメートに声をかけると振り向いたソイツが言葉を濁す。
「不二がさ・・・」
「周助が、どうしたんだ?」
「弟の事で小川と揉めてさ・・・・」
「小川?」
小川というのは、俺達と同じクラスで勉強でもスポーツでも何でも1番になりたがるやっかいな奴だ。
その小川が裕太くんの事で、周助と揉めるなんて・・・
いつも俺や周助にライバル心を燃やしてた奴が、何で裕太くんに・・・
はっ・・・まさか周助に勝てないからって・・・
「小川が裕太くんに何かしたのか?」
俺はクラスメートの返事を待たずに、人垣を掻き分けて教室の中へと進んだ。
そして人垣を越えて見たのは、壁際にもたれて座り込む小川と、その前に仁王立ちした周助の姿だった。
「周助!」
「やぁ。虎次郎」
俺が周助へと歩み寄ると、周助は俺を振り返り極上の笑顔を見せた。
周助・・・
俺はその場違いな笑顔に一瞬見惚れてしまった。
なんて顔をするんだ・・・・
俺は小さく頭を振って、もう一度改めて周助を見た。
「何をしているんだ?」
「あぁ・・・小川にね約束して貰ってたんだ。今後一切裕太には手出ししないって・・・ねっ」
優しい言葉とは裏腹に周助が、鋭い視線で小川を見下す。
小川は怯えた目をして、震えながらただ何度も頷いていた。
やれやれ・・・
一体どんな事をすれば、ここまで人を追い込めるのだろう?
俺は怯える小川に視線を向けながら、周助の腕をとった。
「そうか・・・じゃあもういいだろ?行こう周助」
「虎次郎?」
周助が不思議そうに俺を見る。
参ったな・・・ホント裕太くんの事になると、周助は周りが見えなくなる。
いつも冷静な奴なのに・・・
「これ以上騒ぎを大きくしない方がいい。裕太くんの為にもね」
俺の言葉にようやく周助も周りの状況が見えたようだ。
遠巻きに出来た人垣に目をやって、肩をすくめた。
「・・・ホントだ」
「だろ?まだ休み時間もあるし、少し外に出よう」
俺は周助の腕を掴んだまま歩き始めた。
出来がよく・・・何でもそつなくこなし・・見た目も綺麗で人気のある・・・俺の幼馴染
そんな彼を、逆恨みをする奴も多かった。
そして、その矛先が裕太くんに向かう事も・・・
だがそれをいつも必死に庇っていた。
防ごうとしていた。
ただ・・・それは超がつくほど、過保護だったけど・・・・
「虎次郎・・いつも迷惑をかけて・・ごめんね」
「何、しおらしい事を言ってるんだ周助」
「だって・・・」
「気にしてないよ。いつもの事だろ?」
「いつもって・・・そんな・・・酷いな」
「だってホントの事じゃないか。裕太くんの事が絡むと、周助は見境が無くなる」
「虎次郎」
「でも、それが周助だからな。俺には弟思いのいい兄貴にしか見えないけど・・・
裕太くんの耳には入らないように手を打っておいた方がいいかもな。
またやりすぎだって怒るだろうから」
「うん。そうだね。」
俺達はゆっくりと階段を上がり、屋上の扉を開けた。
フワリと風が、俺達の髪を揺らす。
「ねぇ虎次郎」
「ん?」
「僕の事、ずっと嫌いにならないでね」
「何言ってるんだよ。そんな事・・・言われなくても・・・」
「じゃあずっと好きでいてくれる?」
目を細めて微笑む周助に、心臓がドキリと跳ねた。
・・・・周助
それは周助と知り合って、初めて示してくれた好意の言葉だった。
それがとても嬉しかった。
素直に嬉しかったんだ。
「あぁもちろん。俺達は幼馴染で親友だろ?嫌いになんてなる筈ないじゃないか?」
「そうか・・そうだよね。虎次郎は俺の事、わかってくれてるものね。
だから・・・ずっと変わらないよね」
「あぁ。変わらない」
更に首を傾げて、微笑む周助
俺はそんな周助にまた少し見惚れながら、微笑み返したんだ。
遠い昔の約束
「・・・周助」
「えっ?何?サエさん」
「あっ・・いや・・・あの前に立って庇ってる子・・・不二に似ているなって思ってさ」
「不二って・・青学の不二さんですか?」
「うん。そうだよ。不二もああやって、よく弟の事を庇ってたんだ」
「へぇ〜確か不二さんとサエさんは幼馴染でしたもんね」
「あぁ俺がこっちに越して来るまでは、家も近くてね。よく遊んだんだ」
家で外で学校で・・・
あの頃はホントに一緒だったよな。
「そうですか。でも不二さんが弟くんを庇う姿ってあまり想像できないな。
っていうより、弟がいるって事自体あまり知られていませんよね?」
「それは・・今は裕太くんが寮に入って別々に住んでいるからね。
でも昔は違ったよ。一緒にいる事も多かったし・・・不二の弟って事で・・・」
不二の弟・・・か・・・
「どうしたんですか?サエさん・・・」
「いや・・・何でもない」
不二の弟・・・裕太くんにとって、その事実は周助の側にいられなくなる程
大きな負担となって圧し掛かっていた。
そしてそれは、周助も同じだった。
自分のせいで苦しむ弟
側で守りたいのに、守れない苦しみ
それは2人を知っている俺にとっても、大きな悩みだった。
周助に相談を受けるたびに、どうにかしてやれたら・・・そう思っていた。
そしてそれは、年月が経っても・・・
俺が引っ越して、遠くは離れても変わる事はなかった。
でも・・・
そんな中で変化は生まれた。
周助の幼馴染・・・良き相談相手・・・一番近い存在
幼い俺は、純粋に親友として周助を支えられたらと思っていた。
いや・・・支えている。と思っていたんだ。
無意識に、俺は周助にとって特別だと・・・
周助もそう思っていると・・・
あの日の約束のずっと以前から・・・そう思っていたんだ。
「サエさん!ってば!」
「えっ?」
「またぁ〜ボーっとして・・・大丈夫ですか?」
「あっいや・・ごめん。剣太郎・・で、何だって?」
「だから・・・さっき不二さんの事、周助って呼んだじゃないですか」
「そう・・だった?」
「そうですよ。で、今は不二って呼んでいるじゃないですか?
昔は名前で呼んでいたんですか?」
「あぁ・・・うん。まぁね」
「へ〜じゃあ何で呼び方変えたんです?別にそのままでも良さそうなのに」
そうだね。何もなければ・・・
周助が変わらなければ・・・俺は未だに名前で呼んでいただろう。
「色々あるんだよ・・」
でも・・変わってしまった。
俺の知らない所で確実に・・・
アイツに出会ってしまったせいで・・・・周助は変わっていたんだ。
「喧嘩したとか?」
「まさか・・今でもいい友人だよ」
「じゃあどうして?」
どうして・・・か・・・
あの時は、俺も随分戸惑ったけど・・・今はわかり過ぎるぐらいわかっている。
周助が変わってしまった原因
「恋を・・・恋をしたから・・・」
「えっ?恋ですか?サエさんが!?」
「俺も・・・かな・・・」
「意味ありげですね!もって事は、不二さんも恋をしたんですか?」
剣太郎って以外と・・・鋭い。
流石1年生部長だな・・・これがバネやダビデ辺りだと、聞き流してそうなのに・・・
「さぁ。それは、内緒」
「あっ!ズルイですよサエさん!ここまで話しておいて、ちゃんと教えて下さいよ!」
「ハハハハ・・・」
俺は笑って誤魔化した。
これ以上、もう剣太郎に話す事はない。
というよりも・・・話せない。
恋をした相手が相手だから・・・・
「ほら剣太郎!海に行くぞ!」
「えっ?行くって・・あの小学生は?」
「俺達が話こんでいる間に、2人組みが3人組みを負かして行っちゃったよ」
「えっ?そうなんですか?」
「あぁ。俺のこの目を疑う気?」
「いや・・そんな・・・」
「じゃあ。みんなに追いつく為に走るよ!」
「わっ!ちょっと待って下さいよ!サエさん!」
不意をつかれた様に戸惑う剣太郎を置いて、俺は海へと走り出した。
初主役☆サエさんですvvv
塚不二の話などに、少し出ていたりしたのですが・・・
彼にも何かスポットを・・・と思い書きました。
が、ちょっと・・いやいや・・・かなり損な役回りです。
塚不二へと続くプロローグ的な役回りをも、担ってる話なので
仕方ないといえば・・・それまでなのですが・・・
という訳で・・・続きをどうぞ・・・
(残り1ページ)