わかってんだ・・・ちゃんとわかってる。
これが夢だって事。
覚めればここは部屋で、横には大石が寝ていて・・・だから大丈夫なんだ。
そう思うのに俺の腕の中にいる大石がとても儚くて、俺の心は動揺が隠せない。
夢なら早く覚めてよ・・・ずっとそう思ってんのに・・・
目の前で起きた出来事は、リアルに進んで行く。
このままじゃ駄目だ。
このまま会話を続ければ、どうなってしまうか・・・・俺は知っている。
それなのに俺の口は勝手に動いて大石の名前を呼んでしまった。
『大石・・・』
止めろ・・・止めてくれ・・・
『英・・二・・・』
大石・・・しゃべんなくていいから・・・
そう心の中で叫んでんのに、大石は途切れ途切れに今にも消え入りそうな声で話し出す。
そして傷だらけの手で俺の頬を触るんだ。
『良かった・・・無事で・・・』
良くない。良くないよ!
止めてくれよ大石・・・もういいよ・・・俺が悪かった。
謝るから・・・そんな顔で俺を見ないで・・・
「なぁ大石。もし俺が突然死んじゃったらどうする?」
俺の質問にそれまで黙々と勉強をしていた大石の手が止まった。
ゆっくり顔を上げると、振り向いて俺を睨む。
「英二。冗談でもそんな事を聞くなよ」
そう答えた大石に、俺は手に持っていた小説を見せた。
「だってさ大石。お前こんなの読んでんだもん」
「あっ・・・」
大石は俺の掲げた小説に目を向けると、少し照れた顔で言葉を詰まらせた。
そう俺の手の中にある本・・・・今大石が読んでいる恋愛小説
大石がよく恋愛小説を読んでいるのは知っているけど、俺の分野は雑誌や漫画
だから大石の家に来ても、この手の本は全くという程読んだ事がない。
パラパラッと見た事はあるけどね。
ぎっしり詰まった細かい字を見ると、どうも眠くなるんだよな。
まぁそんな訳で・・・・普段は側にあっても見向きもしない本なんだけど
大石の勉強・・っていうか、予習復習なんだけど・・・
それがいつもより時間がかかってる事に暇を持て余した俺は、大石の鞄の上に置かれた小説に気が付いて手に取って読んでみる事にしたんだ。
たまには恋人がどんな物を読んでいるのか、リサーチするのもいいかな・・っていうのは建て前でホントはやっぱり暇つぶしだったりするんだけども・・・
だけどさ・・・読み始めた小説の中身は、恋人の死から始まり・・・
最終的にその死を乗越えて、新しい恋人と人生を歩むような内容みたいで・・・
きちっと読んだ訳じゃないけど、パラパラっと目を通しただけ・・だけど・・
その内容になんだか、だんだんムカついて俺は読むのを止めた。
最悪・・・前の彼女が死んじゃったからって、忘れて他の女とくっつくなんて・・・
そんなの死んだ彼女が可哀想じゃん。
俺ならさ絶対に忘れるなんて事しない!
いつまでもちゃんと覚えてる・・・っていうか大石。
まさかこんなの読んで、感化されてるんじゃないだろうな?
この男のように俺が死んで一人になった途端に、ホイホイと新しい彼女なんて作ったりしたら・・・化けて出てやる。
俺は黙々と背中を向けて勉強する大石をギロッと睨んで、そして本を掲げたんだ。
「大石さぁ。この本はもう読み終わったの?」
「あぁ読んだけど・・それがどうかしたのか?」
俺の話が小説を見せる事だと思ったのか、大石は背中を向けてまた勉強し始めた。
そんな大石に俺はまだ話は終わってないんだぞと言わんばかりに机に移動して顔を近づける。
「じゃあ改めて質問。俺が突然死んじゃったらどうする?」
「・・・・・そういう事か・・・」
大石は俺の意図する所がわかったのか少し間を空けて小さく溜息をつくと、俺の方へ顔を向ける事無く教科書に目を落とす。
「どうなんだよ」
「それは俺の話じゃないからな」
釘を刺すように言う大石に、それでも俺は食い下がった。
「だからどうなんだよ」
「そんなの答えようがない」
「何でだよ。想像したらいいだろ?例えばさこの本みたいに俺が事故で死んじゃってさ・・」
そしたら大石さはどうすんのさ・・?
そう続けようとして、その前に大石に遮られた。
「英二」
「何だよ」
「想像でも英二が死んだらなんて考えたくないよ。だから答えようがない。わかった?」
「わかんねぇよ。本気で死ぬ訳じゃないんだし、ちょっと考えるぐらいいいじゃんか!」
そう言った俺にようやく大石が顔を上げた。
俺をジッと見据える。
「・・・・じゃあ英二」
「何?」
「俺が突然死んだらどうする?」
「えっ?」
「俺が突然英二の前からいなくなるんだよ。事故で・・・どうする?
英二は想像できるのか?」
「そんなの・・・・・」
そんな・・・・大石が死ぬ・・・?
そんな事・・・・
「想像できる訳ないじゃん!!」
それはいつもの部屋の光景で、大石と一緒に宿題をした後、大石はまだ予習だ復習だって一人で勉強を続けて、
俺はそれを横目に雑誌を読んだり漫画読んだりと寛いでいる。
ただいつもと少し違うのは、今日はもう読む雑誌もなくて『何かないかな?』
と思ったら、たまたま鞄の上の恋愛小説が目に入って・・・
そして大石に変な事を言ってしまった事。
あの後結局大石が死ぬなんて考えられなくて話は終わったけど、頭の中ではずっと考えていた。
大石が死んだら・・・俺はどうする・・?
どうなってしまうの?
答えなんか出る訳無い・・・だって・・・
大石がいない世界なんて想像できない・・・
だけど小説で読んだ恋人が事故に遭うシーンが脳裏に焼きついて、それが大石に重なる。
大石の死のイメージ
それだけは何故か見たみたいに、想像できて俺はその度に頭を振ってそのイメージをかき消した。
俺は馬鹿だ・・・興味本位や冗談でもあんな事大石に言うんじゃなかった・・・
誰かが死ぬなんて話・・・
だからこんな事になったんだ・・・
座り込んだ俺の腕の中で、傷だらけの大石の命が今にも消えそうになっている。
そんな大石を見ながら俺は心の中で呟いた。
これは夢なんだ。
だから大丈夫なんだ。
これはホントの大石じゃないんだ。
もう一度自分に言い聞かそうと思ったけど・・・駄目だ。
夢だとわかっていても辛い・・・辛すぎるよ。
俺の目から止め処なく涙が溢れた。
『え・・いじ・・泣く・・なよ・・・』
夢なのにもうどうしようもないくらい・・・・引き込まれてる。
大石・・・
俺の頬を触る大石の手に自分の手を重ねて強く握る。
嫌だ・・・嫌だ・・・嫌だ・・・
『えい・・じは・・笑・っ・・てる・・方・・がい・・い・・』
『しゃべんなくっていいって!俺笑うからさ・・・しっかりしてよ大石っ!』
もう何が何だかわからなくなってきている。
目の前の大石の笑みが今にも消えそうで・・・目に光がなくて・・
怖くて震えた。
どうして・・・なんで・・・
『大石っ!』
『え・・いじ・・・』
『嫌だ!大石っ!一人にするなよ!しっかりしろよ!頼むよ・・・』
俺の涙が大石の顔にポタポタ落ちる。
その涙が大石の頬を伝って落ちて、大石も泣いているように見えた。
『だい・・じょう・・ぶ。わかっ・・て・・る。ひと・・・り・・にし・・ない・・』
『大石っ!』
嫌だ・・・嫌だ・・・嫌だ・・・こんなの嫌だ!
助けて・・・誰か・・・誰でもいいから大石を助けて!!
『あ・・・いし・・・て・る』
『嫌だ・・大石っ!大石っーーーー!!!!!!』
俺の頬を触っていた大石の手の力が抜けたのがわかった。
大石の目からは俺のものなのか、大石のものなのかわからない涙の筋が出来ていた。
何・・・?どうなったの・・・?
大石が・・・・死んだ・・・?
俺はその現実を突きつけられたとたんに、頭が真っ白になった。
動かなくなった大石を強く抱きしめて、ひたすら名前を呼ぶ。
大石っ!大石っ!大石っ!
涙で声にならなくて、息苦しくて、だけどこの現実をなかった事にしたくて・・・
大石を呼び戻す為に何度も呼んだ。
大石っ目を明けて!!
「・・・いじ・・・・えいじ・・・・」
誰かが遠くで呼んでる声がする・・・
大石の名前を呼びながら、俺はその事に気付いて耳を傾けた。
知ってる声・・・・懐かしい声・・・誰が呼んでんの・・・?
「英二っ!!」
心配してる声・・・
あぁ・・・そうだ・・・大石・・・・大石が呼んでいる。
暗い水底から引き釣りだされたように、俺はゆっくり目を明けた。
そこには心配顔の大石が俺の顔を覗き込むようにしていた。
「英二っ!しっかりしろ!どうしたんだ?」
「おお・・・いし・・・」
俺は少しずつ戻る現実を確認するように、そっと大石の頬に手をあてた。
温かい・・・良かった。
生きてる・・・
「何か怖い夢でも見たのか・・?」
大石が俺の額の汗を拭うように、前髪をかき上げる。
いつもの大石だ・・・
「英二泣くなよ。俺が側にいるから・・・もう大丈夫だから・・な」
「大石・・・俺・・・」
やっぱ夢だったんだ・・・・良かった・・・ホント良かった。
大石の顔を見て、また涙が溢れた。
嬉しくて・・・ほっとして・・・
大石が側にいるだけでこんなにも満たされて、安らぐ・・・
枕元に置いておいた携帯を開けて時間を確認する。
2時25分・・・・
まだ真夜中・・・だよね・・
ひとしきり泣いて落ち着き始めた俺は、それでもまだ動悸がして眠れそうにない。
そんな俺を見て大石は黙って部屋を出て行った。
暗い部屋の中ベッドの明かりだけをつけて、壁にもたれる様にベッドの上に座って待つ。
大石・・まだかな・・・
一人になるとどうしても、またあの夢を思い出してしまいそで怖い・・・
リアルな夢・・・大石の・・・・
そんな時ようやく大石が戻った。
片手にマグカップを二個持って、そっとドアを閉める。
「はい英二。飲むだろ?」
手渡されたのは、ホットミルクだった。
「うん。ありがと」
白い湯気がたつ・・・大石のホットミルク
最初に作ってもらった時に、その絶妙な甘さに絶賛して、それから度々リクエストしては作ってもらっている。
一口飲んで、ほっと一息ついた。
大石を見上げる。
「美味しい・・・」
「英二のお墨付きだからな」
大石は照れ笑いを浮かべながら、俺の横に同じ様に座った。
そしてホットミルクを飲んで、俺の方へ顔を向けた。
「英二・・・」
「ん?」
「言いたくなかったら・・言わなくてもいいけどさ・・・どんな夢見てたんだ?
その・・かなり苦しそうだったし・・・泣いてたし・・・」
「大石の名前呼んでたし・・?」
「あぁ」
「そっか・・・・」
そうだよね・・・あの時はホントに夢中で大石の名前を呼んだし・・・
ひょっとしてかなり大きな声が出ていたのかも知れない・・・
『大石っーーーー!!』
その時、脳裏のあの時の声が蘇った。
ハッ・・・・・・・・・・嫌だっ!!
俺はマグカップをグッと握って震えた。
「大丈夫か?英二」
「あぁ・・うん。ごめん大丈夫。だけど・・・ちょっと思い出すと怖い・・・」
やっぱ駄目だ。
口にすると、あの時の映像が蘇る。
夢なのに現実のようにリアルで・・・・大石が・・・
俺は頭を振った。
「英二・・・」
大石が俺の肩を引き寄せた。
俺はそのまま大石の肩に頭を乗せる。
静かな部屋にアクアリウムの電気の音だけがブーンと響く。
「大石・・・ごめんね。俺がこんなだと寝れないよね」
「気にしてないよ。それより何か話さないか?黙ってると嫌な事を思い出すだろ?」
「いいの?」
「あぁ。英二が眠くなるまで付き合うよ。それまで話をしよう」
「大石・・・」
それから少し俺は他愛の無い話を大石にした。
クラスの話に不二の話・・・
大石は真夜中にも関わらず、嫌な顔ひとつしないで聞いてくれる。
そんな姿にホッとして凄く嬉しいのに・・・ふとした時に体が強張る。
またあの夢を思い出しそうになるんだ。
忘れたいのに・・・忘れられない・・・
その緊張した空気が触れた肩からダイレクトに大石に伝わるみたいで、とうとう大石がその事を口にした。
「英二・・・ごめん」
「えっ?何?」
「やっぱり問題をきちんと解決した方がいいと思うんだ」
「問題・・・?」
「あぁ。英二がそこまで引きずって怯える夢の話。
英二が言いたくないのなら・・と思ったけど、ちゃんとこの話を解決しなきゃ
英二がもたないよ」
「大石・・」
「だからさ。俺が考えた事が合っていたら、頷いて」
話すのは怖い・・・
だけど大石の言うとおりだ。
自分でも薄々感じていた。
このままじゃ・・・また同じ夢を見る。
大石の真剣な目に俺は覚悟を決めた。
「わかった。大石の言うとおりにする」
そう答えると、大石は少しだけ目を瞑り俺を見据えた。
「ひょっとして、あの小説が原因?」
「うん」
俺も大石の目を見て答える。
「俺が・・・死ぬ夢を見た?」
「・・・・・う・・ん」
小説の話が出た時点で、大石は気付いてると思った。
だから聞かれると思ったけど・・・答えるのは辛い。
「そうか・・・やっぱり・・・」
呟くように言った大石は、かなり落ち込んで見えた。
大石は深く息を吐くと、手に持っていたマグカップを見つめた。
「ごめんな英二。俺があんな話を英二に振ったから・・・
あの後ずっと考えていたんだろ?
様子が変だったから・・・気になってたんだ・・・」
大石・・・あの事気にしてたんだ・・・
「そんな・・・俺の方が先に話を出したのに、謝んないでよ。
俺・・自業自得だって事はわかってんだ。
ただ・・・あまりにもリアルな夢で・・・それで・・・」
肩を落とす大石に、今度は俺が覗き込むように反論する。
大石はそんな俺の姿に苦笑した。
「そうか・・・」
「そうだよ」
責任感を感じている大石に俺は目を逸らさず答えた。
「それじゃあ英二。1つだけいいかな?」
俺のそんな姿に、大石がまた俺を見据える。
「何?」
「あれは俺の話じゃない。それはわかってるよな?」
「えっ?あぁ・・・うん・・」
「だからさ英二・・・・俺は死んだりしない」
「・・・大石」
真剣な顔で言い切った大石に釘付けになった。
大石は・・・死んだりしない・・・・・?
「小説は小説だよ。俺はそんなに簡単には死なない。
もちろん英二だって、俺が死なせたりしない。
だからもう怖がらなくていいし・・・怯えなくていいよ」
「だけど・・・でも・・・」
大石の急な言葉に、頭がついていかない。
戸惑っていると、大石が俺の目を覗き込むように優しく微笑んだ。
「英二・・・俺の事が信じられない?」
「それは・・・」
「大丈夫。約束するよ。英二より先に死んだりしない」
「大石・・・ホント?」
はっきり宣言した大石に、俺は驚いて身を乗り出した。
「あぁ。だから英二も約束してくれ。俺より先に死なないって」
それなのに続いた言葉に頭を悩ます。
「えっ・・・?それってどういう事だよ?めちゃくちゃ矛盾してるじゃんか」
意味わかんないよ!って口を尖らすと、大石は得意満面な笑顔で答えた。
「そうだよ。だけどそれでいいじゃないか。どちらかが死ぬ話なんて、ずっと先の話だよ。
お互いがヨボヨボになって・・・それからの話だ」
「ブッ!何だよ。ヨボヨボって・・・」
俺は思わず想像してふいてしまった。
大石がヨボヨボって・・・何だよそれー!変なの!
ニャハハ・・・と笑うと大石がポンポンと俺の頭を叩く。
「兎に角・・英二は英二より俺が先に死んで欲しくないって思うだろ?
だけど俺は俺で英二には俺よりも一日でも長く生きて欲しいって思うよ。
だからさ、死ぬ事じゃなくて生きる事を考えよう。
どちらがよりよく長く生きるか・・・その方が建設的だしいいだろ?」
大石・・・お前・・・・そんな風に考えてくれるんだ・・・
「う・・・ん。そっか・・・そうだよね。これから二人で長生きして
10年後も20年後も50年後も100年後だってダブルスするんだもんね。
そんでもってギネスに載っちゃう?」
「ハハッ・・そりゃ大変だな」
大石が笑う。
俺もつられる様にニシシと笑った。
いつの間にか夢の事は・・・思い出さなくなっていた。
「英二。ホットミルク温め直そうか?」
「んじゃ俺も行く。いい?」
「あぁ」
大石の差し出した手をしっかり握る。
外は少しずつ明るくなり始めていた。
大石・・・俺・・・きっともうあんな悪夢は見ない。
だってさ・・・これからは大石とどれだけ生きれるか考えなきゃいけないもんな。
長生きしような・・・お互い・・・ヨボヨボになるまで・・・
よく色んな歌を聴く時に、この歌は大石視点だな・・とか英二視点だな・・・
と思いながら聴くのですが、ボクラノLoveStoryや雪の華を聴いていると・・・
どうしても星になって見守るのって大石だよな・・・って思うんですよね☆
そんな訳で・・・それを元に禁断の死にネタ?死んだ訳ではないんですけど・・
もしそうなったら・・・って思いながら話を書いてみました。
まぁ結局はヨボヨボになるまで一緒にいようねって話ですが☆
という訳で・・・いきなりですが2周年です!
こうやって続けて行けるのも、見に来てくれる方いるからで・・・ホント感謝していますvv
これからもこんなサイトですが、どうぞ宜しくお願い致します!
2008.11.17