桜の花の咲くころに




「入学おめでとう。これからもがんばるんだぞ」


「お兄ちゃんおめでとう!」



朝父親と妹から祝福の言葉をかけてもらい、俺は母親と一緒に青春学園の入学式に向かった。

真新しい少し大きめの制服がなんだか少し気恥ずかしいが、これから始まる新しい生活を考えるとなんだかわくわくする。

そんな事を思いながら校門を抜けると、満開の桜が目にとび込んできた。



すごく綺麗だな・・・



そう思いながら、入学式が行われる体育館へ向かって歩いていたら俺の目の前を赤毛の男の子が横切った。



「うわっ!」

「ああっと!ごめんね!」



ぶつかるっ!と思った瞬間、軽やかに身をかわしてその子は体育館へ走っていった。



同じ新入生だよな・・・?っていうか・・・

すごい赤毛だったな・・・あれってやっぱり地毛なのかな?



よくぶつからなかったな?と思う気持ちより、なぜか赤い髪の方が印象的で、式の間もすごく気になってしまった。



あの子同じクラスじゃないのか・・・友達になりたかったな・・・



一瞬見かけただけの子に、なんでこんな思いを馳せるのか、不思議な思いに囚われながら そんな自分が何だかおかしくて苦笑したら

隣にいた子が困惑顔で俺を見ていた。

確かに今、校長先生の話してる内容は特に笑うような話でもない・・・

俺は少し反省しながら真面目に校長先生の話に耳を傾けようとしたが、やっぱりどこか集中できなくて

ぼんやりとまたさっきの赤毛の男の子の事を考えていた。



自分からこんなに友達になりたいなんて思うの初めてだな・・・



入学式も無事終わり体育館をでると、そこには生徒がたくさん溢れていて、お祝いの言葉と同時にクラブ活動の勧誘をしていた。

新入生たちは先輩の強引なチラシ攻撃で色んなクラブの案内を両手一杯に持って、中にはそのまま仮入部させられてる子もいて、俺も少したじろいた。



なんだか・・・ハハッ大変だな・・・



そう思うのも束の間、俺の腕の中にもたくさん勧誘のチラシ・・・

母親はそんな俺をクスクス笑いながら見ていた。どうも性格上断れない・・・

だけど本当はもう入るクラブは決めてる、俺はテニス部に入るんだ。

青春学園のテニス部は有名で、特にレギュラーしか着れないジャージはみんなの憧れの的になっている。前に偶然青学の試合をみてから

俺もいつかあのジャージを着たいって思っていた。そしてその事を隣でクスクス笑う母親は知っていた。

俺は母親にハハハッと空笑いを送って、歩きだした。

そして歩きながら、結局何組の何処の誰かもわからない赤毛の子をまた思い出していた。



そういえばあの子は何部に入るのかな・・・?

クラスは違うけど、クラブが同じだったら・・・



こんな事思うのってかなり重症かも・・・なんて思いながら、校門に続く道にさしかかった時に、小学校が同じだった子とその母親に会った。

同じ小学校から青学に入学した子はあまりいなくて、見知った顔がいたのが母親達は嬉しかったのか、そのまま雑談が始まってしまった。



母さん話出すと案外長いからな〜



そう思いながら何気なく校門の方を見ると、同じ状況の赤毛の子が目に入った。



「あっあの子だ・・・」



思わず声が出たけど、母親は話に夢中で気付いていない。俺はなんだかまた会えた事が嬉しくて、暫くその子を見ていた。

赤毛の子は母親の横で暇そうに地面を蹴っていたかと思うと、今度は桜の木が気になったのか、満開の桜をじっと眺めていた。

その姿が男の子なのになんだか可愛いというか、綺麗でそんな風に思ってる自分に暫く気付かないぐらい見とれていた。

そんな時、急に突風が吹いて桜吹雪と一緒に赤毛の子の手の中のチラシが宙に舞った。



「「あっ!」」



赤毛の子と声が揃ったのと同時に体も動いて、散らばってしまったチラシを俺も一緒になって拾っていた。

最後の一枚を拾い上げて、しゃがみ込んでチラシを拾っていた赤毛の子に拾ったチラシを差し出しながら思わず言ってしまった。



「テニス部に入部しなよ」

「へ?」



逆光になっていたのか、眩しそうに顔を上げた赤毛の子は不思議そうな顔をしていた。



シマッタ・・・今のって勧誘みたいだったかな・・・



と思ったけど言ってしまったものは、仕方が無い・・・

赤毛の子にしたら見ず知らずのただ一緒にチラシを拾って貰った相手に、急にそんな事言われてもただ困るだけだ。



いつもならこんなミスしないのに・・・



落ち着いて考えればもっと他に言いようがあったようなものなのに、気持ちが先走ってしまった。



「英二―!!行くわよ!」



その時、遠くで赤毛の子の母親が名前を呼んだ。



「わっ待ってよ!んじゃ・・・拾ってくれてあんがとね」



そう言って赤毛の子は体をクルッとひねって軽快に走り去ってしまった。



あの子エイジって言うのか・・・

また会えたら嬉しいな・・・



淡い期待に心躍らせながら俺は桜の木を見つめた。



                                                                            END





取り合えず出会いなんですが・・・ちょっと軽すぎかな〜大石。惚れっぽいというか・・・。
相手が英二だからという事でまぁいいっか・・・。