おもい





青々と茂った木々を横目に見ながら先生に頼まれたプリントを抱えて渡り廊下を歩いていると、校舎の中を赤茶の髪をなびかせて疾走する英二の姿が見えた。


あっ・・・英二・・・

校舎の中を走ったりしたら、先生に怒られるじゃないか・・・それに危ないよ


立ち止まって遠くに見えている英二の様子を見ながら、心の中で注意する。

英二は案の定通りかかった先生に掴まって注意されてしまった。

頭を下げて謝っている。



あぁ・・・ほら見付かった・・・



英二の姿に苦笑しながら、自分でも不思議に思う。

こんなにたくさんの生徒が入り混じる中で、英二だけはどんなに離れていても目に付いてしまう。

探している訳じゃないのに・・・気付つけば英二の姿を捉えている。

今回も偶然目を向けた先に英二がいた。



それにしても英二の奴・・・後で俺からも注意しなきゃな



英二の姿にやれやれ・・・と歩き出そうとした時に、英二の元に不二が現れたのが見えた。


不二・・・?


不二は先生に何かを話して、先生もその話に納得したのかその場を去って行った。

残された二人は顔を見合わせて笑った後、英二はそのまま不二に抱きついた。


あっ・・!?


俺はその場に釘付けになってしまった。






英二を知ってダブルスを組むようになって、一番驚いたのは英二のスキンシップだった。

誰にでも気さくで明るい英二は嬉しい時や楽しい時はもちろん、知った人を見つけただけでも肩をくんだり抱きついたり飛びついたりと様々なスキンシップをする。

それは誰に対しても同じで、俺も最初は戸惑ったけどその事に気付いてからは、これが英二なりの親しさの証なんだな・・・・と思うようになった。


だけど最近見慣れた筈のその光景に胸が苦しくなる。

自分がされるのはいいんだ。

だけど俺以外の他の奴にするのを見ていると、胸がチクリと痛む。


何故だろう・・・・?

英二とダブルスを組む話をして急速に仲良くなって、普段一緒にいる時間が増えて、

無意識の内に自分が一番英二と親しいのに・・・と独占欲が出てきているのだろうか?

もしそうなら・・・良くないよな・・・・

英二は誰のものでもないのだから、誰と親しくしようがスキンシップをとろうが、それは英二の自由で俺には関係ない・・・・束縛なんて出来る筈も無い。

その事はわかっているのに・・・頭で考えるより先に心の方が反応してしまう。

困ったな・・・

英二を知って、ダブルスを組んでくれるって話になって、一緒に秘密練習して・・・

英二と親しくなればなるほど大きくなる胸の痛み。

仲良くなれて本当に嬉しいのに、この痛みはどうすれば無くなるんだろう。

俺ってこんなに独占欲の強い男だったのかな・・・・






「ハァ・・・・」



午前中に見た英二と不二の姿が午後になっても尾を引いて、知らず知らずに溜息が出る。

ホントこんな事じゃ駄目だよな。

気持ちを切り替えて、取り敢えず部活はしっかりやらなきゃ・・・


制服を脱いで体操服に袖を通しながら、また溜息が出た。



「ハァ・・・・」



・・・・・・・駄目だ。


体全体でうな垂れると背中を誰かに思いっきり叩かれた。



「イタッ!」

「元気ないじゃん!」



えっ!?

振り向くとそこに英二が立っていた。



「あっ・・・英二」

「あっ英二・・・じゃないよ。どうしたんだよ大石。溜息なんてついちゃってさ。

ちゃんと昼飯食ったのか?」

「えっ?あぁ・・・食べたよ」

「んじゃあ・・・悩み事?」

「えっ?いや・・・そういう訳じゃあ・・・」



急に現れた英二にドキドキしながら、溜息の原因なんて本人に伝えられる訳も無く・・・

何とかこの場を誤魔化さなきゃなと思案している間に、英二の意識は部室に入って来た不二に移動してしまった。



「あっ不二!」



・・・いやだから・・・あの・・・えっ?



「何?」



不二は荷物をロッカーに入れながら、顔だけを英二に向けている。



「昨日家に来た時に、クラッシック聴くって言ってたじゃん」



昨日・・・家?



「あぁ。うん。聴くよ」

「それでさぁ姉ちゃんが・・・・」



英二の家に不二が行ったのか・・・?

俺もまだ行った事がないのに・・・・不二が・・・?

確かに不二は英二と同じクラスで、竹本達と英二が揉めてからは特に仲良くなって

一緒にいる事が増えたけど・・・

それでも部活後に一緒に帰るのは俺の方が多くて・・・

それなのに・・・・家って・・・・どういう事なんだ?

何故、俺より先に不二なんだ・・・・?

何故、俺は誘ってくれないんだ・・・?

英二と不二の話は続いていたけど、胸の中がモヤモヤしてイライラして傍にいるのに二人の声はそれ以上耳に入ってこない。

だから話が終わった事にも全く気付かなかった。



「・・・いし・・・大石!」

「何だよ!」



イライラしたまま条件反射で返事をしてしまった。


・・・・あっ・・・・しまった・・・


英二が驚いた顔のまま固まっている。

その姿に俺も驚いて、慌てて謝った。



「あっごめん・・・英二・・・何?」

「あっ・・・えっと・・・さっき話の途中だったから、大石の悩み事の話。

 それなのに俺、不二に話かけちゃって・・・ごめん。怒った?」

「えっ?いや・・・怒ってないよ。俺の方こそ・・・ごめん。

話しかけてくれたのに、キツイ返事になっちゃって・・・」



ホントに自分でも驚いた。

普段ならこんな事ないのに、どうしてか気持ちが落ち着かない。

不二が英二の家に行ったってぐらいで俺は・・・・何こんなにイライラしてるんだ・・・


少し冷静になった頭で反省する。



「いいよ。いいよ。そんなの全然気にしてないからさ。まぁちょっとだけ大石でも

 怒ったりするのかなって思ったけどね」



英二は俺をフォローする様にニャハハと笑ってくれたが

俺はその姿に申し訳なさと自分の不甲斐無さとが混ざった複雑な笑顔になってしまった。



「それよりさぁ〜大石。話戻すけど・・・悩み事あんのか?」

「えっ?あぁ・・・」



そうだった。悩み事・・・聞かれてたんだよな・・・・

俺は頭をかきながら、また頭を悩ませた。

悩んでいるけど・・・こんな事は誰にも言えない・・・

こんな子供じみた独占欲

ましてや本人になんて、言える筈も無い。



「あぁ・・・別に悩んでいる訳じゃないんだ。ただちょっと・・・疲れてて・・・・」



だから無難な言い訳をした。



「ふ〜〜〜ん。そっかぁ・・・疲れてんのか・・・」



英二は腕を組みながら、フムフムと頷いている。

どうにか・・・納得してくれたのかな?



「そういう訳で英二。悩んでいる訳じゃないから・・・心配しなくていいよ。

 それより早くコートに出ないと、先輩達に怒られるよ」



気が付けばまだ着替えていない英二と中途半端に着替えた俺の二人しか部室の中に残っていない。



「さぁ早く英二着替えなきゃ」

「あぁ・・うん」



英二を促した後、自分も着替えを再開しようとロッカーを開けると、英二がパタンとロッカーを閉めたのが目の端に入った。



「どうした英二?」

「今日は止め!」

「えっ?」

「今日は部活休む!」

「えぇっ!?」

「俺。腹が痛くなってきた・・・」



急にお腹を押さえる英二に驚いて、顔を覗き込むと英二の目がウルウルと潤んでいる。



「大丈夫か英二?」

「大丈夫じゃない・・・だから大石・・・家まで送って・・・ね・・・お願い」

「わかった。すぐに大和部長に伝えて戻ってくるから、大人しく待ってるんだぞ」



お腹が痛い・・・そう訴える英二に・・・・その前のやり取りなんてすっかり忘れて

俺は部室を飛び出して急いで大和部長を探した。





久々に大石視点を書くような気がするんですが・・・


相変わらず溜息ついてます☆

それに1年生大石を書いてるのに・・・1年生ぽくないような・・・

まぁその・・・小石ってこんなんだったかな?と思った方も温かい目で

スルーお願いしますね☆

(残り1ページ)