おもい




帰り道・・・


大和部長に英二の話をして部活を休ませてもらった俺は、お腹を押さえる英二を心配して背中を支えながら、初めて英二の家に来た。



「ここが俺んち」



英二に言われて立ち止って家を見上げる。


ここが英二の家かぁ〜


感慨深く見つめていると、支えていた筈の英二が、玄関から呼んでいる。



「大石っ!入って!」

「えっ?あぁ・・」



急いで玄関をくぐると、英二に上がるように言われた。



「大石。俺の部屋、階段上がって手前左側だから」

「えっ?」

「先に行ってて」

「えっ?ちょっ・・・」



声をかける暇も無く、英二はリビングらしい部屋へと消えていく。

仕方が無いから俺は英二に言われたように、英二の部屋へと行く事にした。



「お邪魔します」



と誰もいないけど・・・一応リビングの方へ向けて声をかけて靴を脱ぐと

リビングから英二に似た女の人が出てきた。


あっ・・・お姉さん・・・かな?

確か英二には二人・・・お姉さんがいた筈だけど・・・・



「あれ?」

「おっ・・・お邪魔します」



頭を下げると、女の人はマジマジと俺を見て『あぁ!!』と手を叩いた。



「大石くん!」

「はい」

「やっぱりね!うんうん」



俺を見ながら、満足そうに微笑むお姉さんを見ながら俺は首を傾げた。

何故わかったんだろう?

初対面・・・だよな?



「そうだ・・・大石くん英二の部屋聞いた?上がって手前左なんだけど」

「あっ・・はい。聞きました」

「そっか・・・じゃあごゆっくり!私これからバイトなの。英二しかいないから気を使わなくていいからね」



軽やかに玄関に下りて、靴を履くお姉さんに目線を外せないでいると、お姉さんがリビングに向けて声をかけた。



「英二―!いつもの棚にお菓子入ってるからね!」



するとすかさず、元気な英二の声が返ってきた。



「ほーい!サンキュー!チイ姉!」

「んじゃあね。大石くん!」

「あっはい」



俺の背中をバンと叩いて、英二に似た元気なお姉さんは玄関を出て行ってしまった。

凄く元気なお姉さんだったな・・・

ホント英二が女の子だったらあんな感じなんだろうな・・・


お姉さんが出て行った玄関を見つめて、俺は階段を登った。






英二の部屋は上がって・・・手前左だったよな

誰もいないと言われてもやっぱり気は遣うもので『ここだよな』と恐る恐る部屋のドアを開けると、そっと中を確認して部屋の中に入った。


へぇ〜机が二つに・・・二段ベッドか・・・・

そういえばお兄さんと一緒の部屋って言っていたよな。


部屋の中を見回しながら、男兄弟と一緒だと俺もこんな感じの部屋になっていたのかな?

自分の部屋との違いに微笑が漏れる。



「あれ?」



いつまでも立ってるのもなんだし・・・英二が来るまで座って待っていようか・・・

と思った時に、ベッドの上の段の布団が盛り上がっているのに気付いた。

ひょっとして・・・誰もいないって言っていたけど、お兄さんが寝ているのでは?

そう思うと急にドキドキしはじめて、じっとしてなんかいられない。

座りかけた姿勢を戻し、そっとベッドに近づいた。

取り敢えず確認だけでも・・・・



「大石っ!お待たへ!」



英二が入って来たのと、俺がベッドを覗き込んだのは、ほぼ同じぐらいだった。



「うわぁぁぁぁぁ〜〜〜〜!!!」



トレーを机に置いた英二が、俺とベッドの間に割り込んだ。



「みみみみ見た!?」

「えっ?」

「大石、ベッドの中を見た?」

「ベッドの中・・・?」

「そう!」



あっそういえば・・・英二が割り込んで来たから、ちゃんと確認できなかったけど・・・

何か耳の様なものが見えたような・・・ヌイグルミかな?

それにしても・・・かなり大きかったよな



「あぁ・・・耳が見えたような・・・」

「やっぱり・・・見たんだ・・・」



俺の言葉に英二はヘナヘナと座りこんだ。



「えっ?見ちゃいけなかったのか?」



悪気があって見たわけじゃないけれど、英二にとってそんなに見られたくないものだった のならば、それは勝手に見てしまった俺が悪い・・・

俺は慌てて英二の顔を覗き込んだ。



「ごめん英二。英二の部屋なのに勝手に見るような事をして・・・」

「いいよ。俺も油断してた・・・普段友達入れないから・・・」



えっ・・・?

友達入れないって・・・・昨日不二が来たんじゃないのか?

英二の言葉に部室での会話が蘇り、考える前に言葉になって出ていた。



「不二は・・・?不二は入ったんじゃないのか?」

「不二・・・・?」



英二は跪く俺の顔をキョトンと見上げて、『あぁ』と呟いた。



「不二は来たけど、家には上がってない」

「えっ?そうなのか?」

「うん。俺が学校に忘れたプリントを届けてくれただけだから・・・」



プリント・・・?



「そ・・・そうなんだ」



相槌を打ちながら、顔が緩むのがわかった。


英二が誘った訳じゃなかったんだ・・・

何だろうこの気持ち・・・

ホッとするような・・・晴れやかな気持ちというか・・・

これって・・・独占欲の枠を超えてるよな・・・



「それより大石っ!絶対言わないでよ!」



縋るように俺の服を引っ張る英二に一瞬何を言われているのかわからなかった。



「えっ?何を?」

「だーかーら!俺のベッドに大きな熊のぬいぐるみがあったって事!」



熊・・・?

あぁ・・・あの耳・・・熊だったんだ。



「へぇ。熊のぬいぐるみなんだ」

「えっ?何?大石見てないの?」

「えっ・・あぁうん。片方の耳だけ見えてたから、何のぬいぐるみかな?とは思ったけど」

「・・・・何だよ!それを早く言えよ!俺自分でばらしちゃったじゃん!!」



ばらしちゃったって・・・でも・・・


うな垂れる英二の背中を慰めるようにポンポンと叩く。



「そんなに落ち込まなくてもいいじゃないか。熊のぬいぐるみを英二が持っていても別に俺は何とも思わないよ・・・」

「ホントに?馬鹿にしたりしない?」



顔を上げた英二に優しく微笑む。


そんな事する訳ないじゃないか・・・・



「馬鹿になんて絶対にしないよ。誰にでも大切にしてる物ってあると思うし・・・

だから隠す必要なんてないと思うよ」

「そっか・・・うん・・・大石だもんな!」



英二は納得したように頷いて立ち上がると、ベッドの上から大きな熊のぬいぐるみを取り出した。



「実はさ。コイツの事友達に紹介すんの初めてなんだけど・・・大五郎って言うんだ。

小さい頃からずっと一緒で・・・何ていうかさぁ弟みたいな・・・

あっ昔はこいつの方が大きかったんだけどさ」



恥ずかしそうに大きなぬいぐるみを抱えて、英二が俺に見せてくれた。


本当に大切なぬいぐるみなんだな

それを俺に紹介してくれたんだ



「へぇ〜大五郎かぁ。よろしく大五郎!」



俺はぬいぐるみの手を取って握手した。

英二は俺の姿を照れくさそうに見ている。



「ねぇ大石。だけどさぁ〜やっぱ男が大きなぬいぐるみ持ってるって恥ずかしいから・・

大五郎の事は俺と大石の秘密にしといてくんない?」

「あぁ。うん。わかった」



少し頬を赤らめてニシシと笑う英二に俺もつられて微笑む。


英二と俺の秘密か・・・

二人の秘密といえば・・・高台のコンテナもそうだけど・・・

今日からは大五郎も加わるのか・・・


そう思うとまた顔が緩んだ。


俺・・・英二が俺だけに秘密の共有を許してくれてることに凄く喜んでるよな











「大石適当に座って」



トレーをカーペットの上に置くと、英二は大五郎を抱えたまま座った。



「あぁ。うん」

「ジュースは適当に飲んでね。んでさ、今から何する?ゲームする?それとも雑誌読む?」

「えっ?」

「ゲームならやっぱ二人で出来るのがいいよな?大石ってさぁ普段家でどんなゲームするの?」

「ゲーム?そうだな・・・一応は持ってるけど、そんなにやらないかな」

「へぇ〜そうなんだ。んじゃあ雑誌の方がいいかな?雑誌ならその棚に入ってんだけど」

「棚?」

「そう。その棚。好きなの読んでいいよん」



英二が指差す方に顔を向けて『へぇ〜結構たくさん雑誌があるんだな・・・』と心の中で

感心しながら、俺はとても大切な事を思い出した。


そういえば・・・・普通に話していてすっかり忘れていたけど・・・



「英二。それより腹は?腹が痛いって言っていたのはどうなったんだ・・・・?」

「あっ!」



明らかに目を泳がせて慌てる英二に、俺の顔から笑顔が消えた。



「あっ!て・・・まさか・・・お前・・・嘘だったのか・・・?」



俺も初めて来た英二の家って事で、すっかり舞い上がって気付くのが遅れたけど

今思い返せば、お姉さんが英二に声をかけた時から英二はもう普通だった。

あんなに痛がっていたのに・・・

だから凄く心配して・・・着いてきたのに・・・

まさかサボる為の嘘だったっていうのか・・・?

それに俺を利用した?


そう思うと頭に血が上って、俺は鞄を持って立ち上がっていた。



「帰る」

「ちょっと!ちょっと待ってよ!大石」



座ったまま英二が俺の腕を掴む。



「英二。サボリたいなら一人でサボってくれ、俺を巻き込むな」



こんなキツイ言い方をしたい訳じゃないけど・・・

英二が俺に嘘をついたのが許せない・・・

俺がどれだけ英二の事を心配したと思っているんだ。

俺がどれだけ英二の事を・・・英二の事を・・・大切に・・・



「だって大石最近元気なかったじゃん!」

「えっ?」

「今日だって溜息ついちゃってさ!そんで疲れてるって・・・」

「確かに疲れてるって言ったけど・・・・まさか・・・それで・・・?」

「普通に言っても、お前絶対休んだりしないじゃん。疲れてても無理するだろ」

「えっでも・・・ここまでしなくても・・・」

「ここまでって何だよ!俺がどれだけ大石の事心配してたか・・・

そりゃ俺達はペア組んでまだ2ヶ月ちょっとだけどさ・・・

それでも俺にとって大石は・・・兎に角心配だったんだからしょうがないじゃん」



英二は俺の腕を掴んだまま、そっぽを向いてしまった。


そうか・・・そうだったのか・・・

英二が俺の事を心配して・・・・

俺の事を考えてあんな嘘をついたのか・・・・

英二・・・

それが見抜けないって・・・俺はまだまだだな



「ごめん・・・ありがとう」

「大石・・・?」



見上げる英二の前に座りなおす。



「だけどこれからはお腹が痛いとかそんな嘘は無しにしてくれないかな・・・

俺も英二の事凄く心配だから

その・・・大切なパートナーだから・・・」

「うん。わかった。じゃあこれで仲直り」


英二が俺の両手をギュと握った。



「う・・うん」

「へへっじゃあさ、さっきの続き。雑誌読もうよ!何にする?」



手を離すと照れてるのを誤魔化すように、頬を赤らめた英二が棚の中の雑誌をチェックする。

俺はその後ろ姿を見ながら、同じように赤くなってしまった顔に手を当てた。



参ったな・・・

英二の事が絡むと最近自分の気持ちが上手くコントロール出来ない・・・

その事には気付いていたけど・・・

この想い・・・やっぱりそうなのか・・・

子供じみた独占欲

そう思おうとした、英二への想い

だけど・・・違う

あれは嫉妬だ。




英二が俺以外の奴と親しくする姿を見て嫉妬している。

今回も不二が俺より先に英二の家に来たと思い込んで嫉妬したんだ。

だから違うとわかってホッとして・・・




英二・・・俺・・・

こんな気持ち英二に抱いちゃいけないんだろうけど・・・

もう自分自身には嘘がつけそうに無いよ。

好きなんだ。

英二が男だって事はわかっているけど・・・

それでも好きなんだ。



「ねぇ。大石これにする?」

「いや・・・そっちがいいかな?」

「どれだよ」

「ほら・・・そっちの・・・」



英二・・・

認めてしまったこの想いは、もう止められそうにないけど

英二の傍にいたいから・・・

これからも無意識に英二を探して、英二のスキンシップを見て

どんなに嫉妬する事があっても

この想いは俺の心の中にしまっておくよ。




だけど今は・・・今だけは・・・少しだけ振り向かないでくれ・・・

溢れてしまった想いが・・・顔に出てるから

もう少しだけ・・・


次に英二が振りむいた時には・・・友達の顔に戻るから・・・





                                                                          END



最後まで読んで下さってありがとうございます。


大石が自分の気持ちを認めた時の話は書いてなかったよな・・・

と思って今回書いてみましたが・・・どうでしたでしょうか?

これからまた1年から3年までを行ったり来たりすると思いますが、

そんな二人をこれからも宜しくお願いしますvv

2008.4.12