大石が好き・・・そう気付いたのは一年の時だった。
それからずっと気持ちを抑えてきた。
自分の心に嘘をついて、ごまかして・・・
いつまでも大石の隣で笑っていたくて・・・
大石の傍を離れたくなくて・・・
だけどあの日、桃がそんな俺の背中を押した。
「俺じゃ駄目っスか?俺だったら一番に英二先輩を大事にします!俺だったら絶対に他の奴を優先したりしない!
俺だったら絶対にあんたにそんな顔はさせねぇ!!」
桃からの突然の告白。桃が俺を?
全然気付かなかった桃の気持ち・・・とても複雑だった・・・。
男の俺が好き?年上の俺が好き?こんな俺でいいの?
色んな思いが一瞬のうちに頭の中を駆け巡って行く。
桃はどんな想いで俺を見てたの?
男の俺に告白するなんて、どんなに勇気がいったんだろう?
でも俺は・・・俺は・・・桃への答えはすぐに出た。
「桃・・・ごめん。ありがとう。でも駄目・・・俺は大石じゃなきゃ駄目なんだ」
桃には本当に申し訳ないけど、こんな形で大石への想いを再確認するなんて思わなかった。
大石じゃなきゃ駄目・・・。大石が好き・・・。
「どうしてっスか?あの人、英二先輩が辛そうな顔してるの、知ってて手塚先輩と帰って行ったじゃないっスか?」
そうかもしんない・・・でも駄目なんだ。大石の代わりなんて、誰もなれない。
「それでも・・・それでも大石じゃなきゃ駄目。俺。大石が好きなんだ」
「けど・・・だけど・・・英二先輩・・・」
戸惑う桃を見ながら、俺は初めて大石への想いを、ぶちまけた。
「桃・・。本当にごめん。桃が言いたい事はなんとなくわかる。大石は誰にでも優しいし
俺の事一番に見てくれてるかどうかも、わかんない。けど俺は・・・俺は大石の事が好きで堪らない。
俺が勝手に大石が来るの待ってたいんだ。こんなの可笑しいかもしれないけど・・
俺達付き合ってる訳でもないし・・・それに男同士だしな」
男が男を想う気持ち、ひた隠しにしてきた想い。大石への想い。
本気の桃に、俺も本気で答えなくっちゃって思った。
「言わないんっスか?」
「えっ?」
「だから大石先輩に自分の気持ち伝えないんっスか?」
「大石に?そんなの駄目。俺ずっとアイツの側に居たいもん・・・」
考えた事が無いって言ったら嘘になる・・・
もし大石に俺の想いを伝えたら、アイツは答えてくれるだろうか?
だけどやっぱり駄目。怖い・・・。
拒絶されたら?って考えただけで俺、もうどうしていいかわかんない。
「告白してからだって、ずっと一緒にいられるじゃないっスか」
確かに告白して上手く行けば一緒にいられる・・・
けど、どこにもそんな保証は無いじゃんか・・・
「そんなの。アイツが俺を受け入れたらの話だろ?もし断られたらどーすんだよ!」
「絶対に断ったりしないっス!!!」
「なんでそんな事いーきれんだよ!!そんなのわかんないだろ?」
「俺にはわかるっス!!」
あまりの桃の断言っぷりに驚いて、思わず笑ってしまった。
桃らしいといえば・・・桃らしいけど・・・
「何処からくんだよ。その自信・・・だけど・・・あんがと。嬉しいよ」
「じゃあ告白するんすね?」
「えっ?いや・・・それは・・・でも・・・」
大石に告白か・・・してもいいのかな?
桃の勢いに押されて、なんか告白してもいいのかもしんないって気がしてきた。
「大石先輩からの告白待ってたら、英二先輩ジジィになりますよ」
「プッ・・ハハハハハハ・・・何だよソレ?だけど・・・そっだな、もし今日大石が戻って来てくれたら・・・そしたら考えてみよっかな?」
今日大石が戻って来てくれたら・・・
桃が部室を出て行った後、俺は一人ボーっとその事ばかり考えていた。
もし大石が戻って来てくれたら・・・少しは自信を持ってもいいのかな?
大石に告白してもいいのかな?
そんな時、部室の戸が勢いよく開いた。
〈バンッ〉
「英二!!」
勢いよく入って来たのは、俺がずっと待っていた大石だった。
「おっ大石?」
俺は驚いて椅子から立ち上がることも出来ない。
ずっと待ってたのに、すごく嬉しいのに、なのにまともに顔も見れない。
「まだ着替えてなかったのか?早く着替えないと風邪をひくじゃないか」
大石は何事も無かったように俺のロッカーを勝手に開けて、制服を取り出し俺に近づいて来た。
「ほら、早く着替えて」
「うっうん」
差し出された制服を受け取り、俺は大石を見上げる。
「髪・・・。もう乾いちゃったな」
大石がおもむろに俺の髪の毛をすくった。
あっ・・・
俺はそれがとても恥ずかしくって、立ち上がりながら勢いをつけて答える。
「そっそりゃ・・あれからどれ位時間が経ったと思うんだよ!乾くに決まってんじゃん!」
「そうだな・・・」
大石は少し複雑な顔をして笑った。
「何だよ。大体今頃戻ってきてさ!忘れ物でもしたのか?」
本当はこんな事が言いたいんじゃないのに、赤くなった顔を誤魔化したくて、少し尖った言い方になってしまう。
「イヤ・・・忘れ物なんてしてないよ。只、何となく英二がまだ部室に残ってる気がしたから」
・・・・・大石ズルイ・・・・・
そんな言い方すんなよな・・・俺だって本当は大石の事待ってたんだ・・・
なのに今さら 『待ってた』なんて言えないじゃんか・・・
ったく・・・本当に大石は・・・・
「バーカ!バーカ!バーカ!大石のバーカ!」
「えっ英二?」
俺のバカ発言に大石が目を大きく見開いて驚いている。
だけど、これぐらいじゃ気持ちが治まらない・・・だって嬉しいんだ。
「さっ早く着替えて帰ろっ!俺お腹減った!大石なんか奢ってよ!」
「ええっ!?イヤ・・・別にいいけど・・・なぁ英二?俺なんか気に障ること言ったか?」
「別に〜〜!それよりさぁ。そこの机の上にタカさんから預かった部室の鍵があんだよね。それ大石が明日先輩に返しといてよ」
「コレか?別にいいけど・・・ってコレは英二が頼まれたんだろ?ちゃんと明日、朝早起きして英二が部室開けろよ」
「い〜じゃん。大石が持ってた方が確実じゃんか」
「ったく・・・わかった。だけど英二も明日早起きしろよ。俺がちゃんと起こしてやるから」
「う〜〜〜。わかった」
「じゃあ。帰ろうか」
いつもの大石。いつもの俺。いつものやり取り。
だけど、少しは自信持ってもいいのかな?
桃・・・大石来てくれたよ。
二人で部室の戸締りをして外に出たら、雨はもう上がっていた。
大石・・・大石・・・大石・・・
大石が好き・・・大好き。
桃との事があって本当に思い知らされた。
俺には大石しかいないって・・・ 大石じゃなきゃ駄目だって・・・
やっぱりもうこの気持ちは抑えられない・・・
桃の告白を受けてから何処かで告白って二文字を意識するようになった俺は、ついに決心した。
大石に俺の気持ちをぶつけようと・・・
でもあと少しだけ、少しだけでいいから誰かに背中を押して貰いたい。
俺の決心を聞いて貰いたい。
そう思った時、不二の顔が浮かんだ。
不二なら・・・・不二になら俺の気持ち話してもいいかな。
だって・・・たぶん不二は知ってる。
ちゃんと大石の話をした事はないけど、アイツは知ってると思う。
思い当たる事も今までたくさんあった。
直接何か言ってきたり、聞いてきたりはしないけど・・・
俺が大石の事で悩んでる時は、いつもさりげなくフォローしてくれてた。
よしっ!不二に俺の気持ち聞いて貰おう。
そう決めた俺は、朝から不二に話をしようと、ソワソワしていた。
「不二!今空いてるだろ?ちょっと話聞いて貰いたいんだ。一緒に来てよ」
俺は休み時間の不二の手が空いた時を狙って、すかさず話しかけた。
「ココじゃ駄目なの?」
不二がクスクス笑ってる。こいつわざと言ってるな。
こんな皆が、ワイワイ話してる教室なんかで言えるわけないじゃんか。
「駄目。ココじゃ言えない」
「そう。わかった」
そう言ってスッと席を立った不二は、相変わらずクスクス笑ってはいるけど、すんなりと俺の後を着いて来てくれた。
不二はひょっとしたら、今から俺が話そうとしてる事に気付いてるのかもしれない。
俺は色んな事を考えながら、なるべく人のいない場所を探して、階段の踊リ場までやって来た。
そして不二と向かい合う。俺は大きく深呼吸を1つして、少し真面目に不二を見た。
俺が大石に告るなんて聞かされて、不二はなんて言うかな?
ドキドキしながら俺は覚悟を決めた。
「不二俺決めた!今日大石に告る!」
周りに人がいないから良かったけど、緊張して普段より少し声が大きくなってしまった。
だけど不二はそんな俺とは対照的にニコニコしながらいつもと変わらないトーンで答える。
「そうなんだ。わざわざこんなトコまで引っ張って来るから、何事かと思ったよ」
「驚かないの?」
「う〜ん。そうだね。英二にしてはよく今日まで言わずにいたなって関心はするけど」
「なんだよ!それ〜!」
「フフフフッ・・冗談だよ」
いつもと全く変わらない不二。何処までが冗談で何処までが本音なのか良くわからない。
だけどこれだけはわかる。
やっぱり・・・不二は知ってたんだな、俺の想い。
俺の大石への想い。
何となく不二なら知ってるだろうって思ってたけど、知ってても変わらず友達でいてくれてたんだな。
あんがと、不二。
そんな不二だから、俺も安心して話せる。
「ところで、どうやって大石に伝えるのかは決めてるの?」
不二は本当にいつもと変わらず、世間話をするように話を続けてくる。
だから俺も、思ったままを口にした。
「うん。今から大石に今日練習が終わったら、大切な話があるって言うんだ」
「それで?」
「ん〜後はなんとかなるっしょ!」
「ひょっとして・・・勢いに任せてって感じなの?」
「ん〜そんな感じ」
「ハァ〜・・・でもその方が英二らしくていいかもね」
「そう?」
「うん。まぁ頑張って来なよ」
「へへっサンキュー不二!じゃあ今から大石んとこに行ってくんね!」
不二は少し呆れた顔をした後、俺の肩をポンっと叩いた。
その時の顔は、いつものニコニコした不二じゃなくて真面目な顔の不二だった。
不二が頑張れって言ってくれた・・・
俺は不二の言葉を胸に大石の教室に向かって走り出した。
よしっ!今日なら絶対言える。大石待ってろよ〜!
桃と不二のお陰でようやく英二が告白します。がんばれ英二☆(残り1ページ)