君の1番




「アレ?不二って携帯持ってたっけ?」


大石が役員会議で遅くなるから先に帰っててと言った日、俺は少し拗ねながら不二と帰っていた。

ホントは待ってて一緒に帰りたいんだけど、そうすると大石の奴が気を使うから、『仕方ないにゃあ』って3回に1回は大石の言う事を聞く。


まぁ・・何だかんだ言いながら、残りの2回は待ってて一緒に帰るんだけどね・・・

今日は言う事を聞く1回の日


だから俺は大人しく不二を誘って帰っていた。

最初のうちは少し大石の愚痴を言ったり、その後ちょっと惚気たり・・・

クラスにいる時には話せない事を、この帰り道で不二に話していた。

不二はクスクス笑いながら、うんうんって聞いてくれる。

だからついつい夢中になって話していると、あっと言う間にいつも不二と別れるT字路に さしかかっていた。

俺は何だか話したり無いなぁなんて考えていると、不二の鞄の中から音が聴こえてきた。

何々?何の音?って思っていたら、不二が徐に鞄から携帯を出した。


えっ?携帯?


俺は不二が話てる間、黙ってその姿を見てて、切ったと同時に話しかけたんだ。



「うん。学校では出さないけどね。こないだの誕生日に姉さんが買ってくれたんだ。

ほら、僕達姉弟ってみんな連絡が取り難いから、持った方が便利だって」

「そうなんだ。へー知らなかった」



俺は不二の携帯をジッと眺めながら、ちょっと拗ねていた。


何だよ。持ってるなら、教えてくれてもいいのに・・・

まぁ俺は携帯なんて持ってないけど・・・



「英二。ごめん。隠してるつもりはなかったんだけど・・・何だか言いそびれちゃって・・・」



不二は俺の心を見透かしたように、謝ってくる。


まぁいいけど・・・

俺が持ってないから不二も気を使って言わなかったんだろうし・・・



「いいよ別に。それよりさ、また番号だけでも教えてよ。メールは出来ないけど、電話は出来るからさ」

「それなんだけど英二。英二は携帯持たないの?」

「俺?俺は兄姉が多いからさぁ・・・母ちゃんが3年になるまで、我慢しろって・・・」

「でももうすぐ春休みだよね・・・それってもう2年生は終わりって事になるんじゃない?」

「あっ!」



流石不二・・・そういうとこ・・・抜けめ無いって言うか・・・気が付くって言うか・・・



「一度頼んでみたら?それで家族のOKが出たら、大石も誘ってみなよ。二人で持つ事が出来たら、今日みたいな日でも寂しくないでしょ?」



不二・・・

ホントお前っていい奴!!!

ちゃんと俺の話聞いて、気持ちもわかってくれてたんだな。



「不二。ありがと。大好き!!」



俺は不二に飛びついて、抱きしめて喜んだ。

不二は『苦しいよ』って言いながら、俺の背中をトントン叩く。



「英二。喜ぶのは早いよ。先にちゃんとお父さんとお母さんに了解を貰って、それから大石だし・・」

「そっだな。でも大丈夫な気がする。俺、早速家に帰って頼んでみるよ。そんで1番目は大石だけど、2番目は絶対に不二に俺の番号教えるから!!」



そして不二から離れると、不二に別れを告げて猛ダッシュで家に帰った。


そうだよ・・・そうだよ・・・・

携帯さえ有ればいつでも大石と連絡取れるし、会えない日だってさ、寂しくないよな!

へへッ携帯かぁ・・・何色にしよっかなぁ


俺の心は既に携帯へと向かっていた。
















家族団欒の食卓

結局俺はどうやって母ちゃんに携帯の話をしようかって悩んで、晩ご飯を食べてる時にさり気無く話をする事にした。

さり気無く・・・さり気無く・・・

コロッケを取りながら話をして、只今結果待ち・・・

どっ・・・どうなのかな?

いいの?それとも駄目なの?

母ちゃんの顔をジッと見ながら、頬張ってるコロッケも喉を通らない。

兄ちゃんや姉ちゃんはそんな俺の気持ちをよそに、テーブルの上にあるコロッケをみんなで取り合うように食べている。

う〜〜〜俺だって早く食べたい。

じゃなきゃ俺の分が無くなる・・・だけどさ・・・返事を聞くまでは・・・


俺はじっと固唾を飲んで待った。



「そうね。英二ももう3年生だものね」

「やったぁぁぁぁ!!!」



俺は凄く嬉しくて、コロッケを口いっぱいに食べてるのについ叫んじゃった。



「汚いなぁー英二!!」



姉ちゃんや兄ちゃん達にたくさん非難されたけど、嬉しくって仕方が無い。

やったね!これで俺も携帯持てるんだって、ウキウキして・・

そうすると、この思いを早く大石に知らせたくて仕方が無くなってきた。


どうしよう・・・早く言いたい・・・

だけど電話で言うのもなんだしな・・・


俺は残りのご飯を急いで食べて、立ち上がった。



「今から大石んとこに行って来る」

「えっ今から?」

「うん。すぐ帰るから!!」

「気をつけて行きなさいよ」

「ホイホーイ!」



俺は自転車の鍵を取って、玄関に向かって走り出した。

大石今から行ったら、どんな顔するかな?













大石の家まで、自転車で20分

かっ飛ばして行けば、もう少し早いかな?

そう思うと、ペダルを漕ぐ足にも力が入る。


大石に早く会いたい・・・

早く会って携帯の話をしたい・・・


俺の息はだいぶ上がっていたけど、大石の家に着くまでスピードを落とさずに行く事が出来た。

到着〜!!

大石の家の前でキィーと急ブレーキをかけて、自転車を止める。

上がった息を整えながら、俺はインターホンを押した。

大石いるよな?

俺が家を出たのが19時30分過ぎだから・・・今は20時前後の筈・・・

大石の委員会が遅れたとしても、19時には帰ってると思うんだけど・・・

連絡しないで来たから、ほんの少しの間が緊張する。

大石・・・早く出て。



「はい」

「菊丸ですけど」

「えっ?英二?ちょっと待ってて!!」



出たのが大石って声ですぐわかって、安心した。

それに・・・やっぱり驚いてる。

それが手に取るようにわかって、なんだか面白い。

俺はクスクス笑いながら、すぐに出て来るであろう大石を待った。

そして案の定、勢いよく玄関が開かれる。



「英二!」

「オッス!」

「オッス!じゃないよ。どうしたんだ?こんな時間に?」

「ちょっとさ。話たい事があってさ」

「話って・・・まぁ兎に角入れよ」

「いいの。いいの。ちょっと話がしたいだけだからさ。話たらすぐ帰るし」

「すぐ帰るって、今来たばかりなのに?」

「うん」

「そっか・・・じゃあ少しだけ待ってて」



大石は少し何か考えるような顔をした後、俺を玄関に残して家の中へと入って行った。

そして暫くして戻って来た大石が、俺の首にマフラーを巻いてくれた。



「じゃあ行こうか」

「えっ?これ」

「英二の事だから、ここまで自転車飛ばして来たんだろ?

まだ夜は寒いし、このままじゃ汗が引いて風邪を引くといけないから。

それと話は送りながら聞くよ」



気付かなかった・・・

確かに・・・着いた時は自転車でかっ飛ばした後だったから暑かったけど・・・

今は少し肌寒い。


へへッ・・・これなんだよな・・・流石大石・・・


大石のこんなさり気無い優しさが、凄く好き。嬉しい。

何も言わなくても、ちゃんと俺の事わかってくれてんだって・・・


俺は大石に巻いてもらったマフラーをそっと触った。

首の周り暖かくて気持ちいい。



「英二。どうしたんだ?」



玄関から移動して俺の自転車の横で立っている大石が不思議そうな顔をしている。



「んにゃなんでもない。サンキューな。大石!」



俺は急いで大石の側へ駆け寄った。












ゆっくり世間話をしながら、等間隔に規則正しく並んだ街灯の下を、大石と一緒に俺の家の方へと歩いて行く。

乗ってきた自転車は『俺が押すよ』って言って大石が押してくれている。

俺はその大石の横に並んで歩いた。



「そんで、姉ちゃんがさぁ〜」

「うん」



どうしよう・・・姉ちゃんの話をしている場合じゃないんだよ。

大石は俺が話たらすぐ帰るって言ったから、時間が無いんだと思ってこうやって送りながら話を聞こうとしてくれてるのに・・・

マフラーの事で舞い上がっちゃって、話すタイミングを逃しちゃった。

だけどゆっくりと大石と別れる時間は近づいてて、このままだと話せないままバイバイになっちゃう。

そんなの嫌だ・・・来た意味ないじゃん


そう思うと自然と俺の脚が止まった。



「英二?どうした?」

「大石。突然なんだけどさ・・・」



俺より2.3歩先で止まった大石は俺の様子が変わったと感じたのか、その場で自転車を止めて俺の方へ戻って来た。


何だか変な感じになっちゃったけど・・・

もうここは早く言ってしまおう・・・


俺は目の前に戻って来た大石を見つめて、大石の家に来る間にアレコレ考えた携帯を一緒に買おうって話を大石にした。



「大石ってさぁ副部長になったり、生徒会実行委員補佐になったりしてさ、

すっごく忙しいじゃん。俺・・・寂しいんだよね。

だからさぁ・・・いつでも連絡取れるように携帯買おうぜ!!」



色々考えて、これが一番いいかなって思う事を言ったつもりなんだけど・・・

これってかなり唐突だよな・・・

もっと色々前置きを入れた方が良かったかなぁ・・・


言い終わると同時に、後悔みたいな感情が出てきて大石に笑いかけたいのに顔が強張ってる。


嫌だな・・・


そう思った時に、大石は頭を掻きながら少し照れた顔を俺に見せた。



「そうだな・・・英二がそういうなら・・・」



へ?いいの・・・・?

こんなに簡単にOKが出るなんて・・・



「んじゃ決まりだな!」



俺の嬉しさは一気に頂点に達して、その場で大石に抱きついた。



携帯買ったら、1番に大石を登録して、1番に大石にメールして貰おう。


俺の1番は大石

大石の1番は俺


俺の計画はこの日からスタートした。






携帯を持つようになった話って書いてなかったなぁ・・・と思って書いてみました☆


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