自転車に乗って

                                                                                       (side 桃 1)





『二度ある事は三度ある』


気になる奴はどうしていつも・・・こう・・・

ハァ・・・



午後練が始まって暫くたった頃、集中力に欠ける頭を冷やそうと水のみ場近くの木陰で 休んでいた俺は結局落ち着かない気持ちに大きく溜息をついた。


だけどよ・・・やっぱ3度もあっちゃいけね〜よなぁ・・・いけねぇ〜よぉ



「一体何やってんスか?桃先輩?」

「どゎぁぁぁぁ!!!!」



びびびびっくりした!!!

ってこの声は・・・・まさか・・・?


急に話しかけられて、振り向くとそこには俺がここ最近ずっと頭を悩ましてる張本人越前が立っていた。



「驚きすぎっスよ・・・何そんなに驚いてんスか?」



相変わらずの無愛想な顔で、見上げる越前

俺はそんな越前にアタフタと動揺を隠せないまま、話題を越前にふった。



「いや・・・ちょっと考え事をだな・・・ってお前が急に話しかけてくるからだろ」



ホント・・・急に現れんなよ・・・

驚くだろうが・・・



「俺、別にそんな驚かす様な話しかけ方してないっスよ」

「んんっ・・・まぁ・・まぁそうだけどよ・・・」



言われてみれば・・・確かに・・・って・・・

でもそれは他の奴ならの話で・・・お前だとよぉ・・・



「ホント変な人っスね」



容赦の無いツッコミに小さく溜息をついて、俺はいつもの俺を取り戻した。


ったく・・・コイツは・・・・



「変って・・お前・・まぁもういいよ。んで?俺に何か様なのか?」

「あぁ。さっき副部長がダブルスの練習をするとかで探してましたよ」

「え?副部長がダブルスの練習って・・・お前それを早く言えよ!」

「今ちゃんと伝えたじゃないっスか」

「遅せーよ!そういう事はだな・・・もっと早く・・・」



俺が抗議しようと一歩越前に近づくと、帽子を目深に被り直した越前はそのまま俺の横をすり抜けた。



「んじゃ。伝えましたから・・」

「あっ!おい越前っ!」



ったく・・・俺の気持ちも知らないで・・・

俺は飄々と生意気な態度のまま水飲み場の方に向かう越前の後ろ姿を見送って、コートへと歩き出した。












初めてアイツに会った時、一番に飛び込んできたのは、あの生意気な目だった。

勝気で先輩だろうと関係ないって目してやがったな。

っていうか・・・実際生意気なんだけどよ。

でもそこがまたアイツのいいとこでもあって、俺を惹きつける部分でもあって・・・

そうなんだよな・・・今思えば初めてアイツの目を見た時から気になっていた。

だから副部長に越前の朝の迎えを頼まれた時も、何の抵抗も無く応じて迎えに行ったし、帰りだって何だかんだでよく送っている。

ダブルスを一緒に組んだ時も密かに一緒に練習したりして、まぁ試合はダブルスっていうよりも二人でシングルスをやったようなもんだったけどよ・・・

あれはあれで凄く楽しかった。

兎に角、テニスはあんなに上手いくせに、何処か世間知らずでほっとけない存在

年下だけどそんな枠は飛び越えて、気付けば一緒にいて気が楽で・・・

まさかな・・・こんな風に気付くなんて・・・

近すぎて気付かなかったっていうのは、言い訳になるかもしれねぇ・・・

けどよ・・・実際近すぎたんだよ。

何だか弟を見るような感じで、アイツの事が気になるんだって思っていたのに

あの時のあの目が頭から離れないんだ。

何であそこでアイツはあんな目を俺に見せるんだよ。

ってか・・・タイミング悪ぃよ。

何であの場所にアイツがいるんだよ。

何でアイツに・・・一番知られたくない部分を見られるんだよ。

何で俺はアイツを・・・

越前を意識してんだよ・・・

クソッ・・・















「俺じゃ駄目か?」

「はぁい!?」

「だ・か・ら!! 俺じゃ駄目かって聞いてんだよ!!!」



戸惑う海堂に俺は叫んでいた。

この想いをどうコイツに伝えればいいのか、本当は自分でもよくわからなかった。

英二先輩が好きだった1年前は、わかり過ぎるぐらい自分の気持ちがわかっていた。

俺は英二先輩の事が本当に好きで好きで堪らなかった。

あの笑顔が本当に眩しくて手に入れたくて・・・

あの人を大石先輩から奪い取りたいと思った事もあった。

だけど、今回の海堂は・・・今日始めて意識した。

これが好きって想いなのか・・・・・わからねぇが・・

ただ・・・これだけははっきりしている。

乾先輩がコイツにこんな顔をさせるなら・・・渡すわけにはいかねぇって事だ。



「おま・・おま・・お前・・・何言ってんだよ!!!!」



俺を指差しながら、同じ様に叫ぶ海堂に俺は今思っている想いを告げた。



「俺だって!わかんねーよ!けど・・そう思っちまうものは仕方ねーだろ!!!

お前が悪ぃんだぜ・・・朝にあんな顔を俺に見せただろ?俺だってな・・・・

俺だって出来れば、この気持ちを抑えて気付かねぇフリしたかったのによ・・・

あんな顔見せられたら、抑えきれねぇじゃねーか!!」



しかし海堂の答えは決まっていて、俺の想いはコイツの背中を押す結果になった。

海堂の事を好きなのかも知れない・・・と思った直後の失恋

出来れば抑えておきたかった想い

だけど・・・コイツがいつものコイツに戻ったのなら・・・

それはそれでかまわねぇ・・・結果なんて関係ねぇ・・・

そう思ったのも束の間



越前だ・・・

越前はあの時の俺達のやり取りを見ていたらしい・・・

その事を伝えられて俺は内心激しく動揺していた。

まさか越前の事を心配して探しに行って、あの事を言われるとは・・・



「・・・・お前ねぇ・・・そう実も蓋もない事いうなよなぁ。

大体それが事実だとしても口にするか?

それに見てたんならどうなったかも知ってんだろ?」

「フラレてましたよね」



それもあっさり俺に追い討ちかけるしよぉ・・・

ホント凹むよ



「だから・・・お前には優しさはないのかよ!そのフラレたとかだな・・・」

「優しくして欲しいんっスか?」



優しく・・・改めてそう言われると・・・別に優しくして欲しい訳じゃねぇ・・・

アイツさえ普通ならいいんだ。

落ち込んだマムシなんて・・・海堂なんて・・・見たくねぇ

ただ・・それだけだ。

だからフラレるとか、ホントはそんなのどうでもいいんだよ。

しかしだな・・・お前に見られていたなんて・・・とんでもない誤算だった・・・



「別に普通でいいけどよ。だけどこの話はその・・・他の奴にすんなよ」



複雑な思いで越前にそう告げると、珍しくフォローを入れてくれたようだった。



「まぁいいっスけどね・・・で海堂先輩の事はホントにいいんっスか?」



いいか?と聞かれれば・・・いいに決まっている。

俺は最後に見た海堂の顔を思い浮かべた。



「・・・・アイツはもういいんだよ。アイツはもう大丈夫だからな」

「へ〜 そんな簡単に引き下がるんだ」

「引き下がるんじゃねぇよ。答えが最初から決まってるような試合俺が本気でする訳ねぇだろ?」

「ふ〜〜ん」



って・・お前・・・

確かに説得力には欠けるけどよぉ



「何だよその目!本人がそう言ってんだから、確かだろうが」

「まぁ別にどうでもいいっスけどね・・・」

「お前ねぇ・・・それは無いだろ?ここまで話して・・・兎に角だ。

海堂は乾先輩がいれば大丈夫。俺はアイツにハッパかけただけ。

これが正解だからな。それと、今心配なのは越前お前だ!

機嫌が悪いのが体調のせいなら、そう言えよ。心配するだろーが」



そう言って覗き込んだ越前の目は大きく真っ直ぐ俺を見ていて俺はその目に釘付けになった。


揺るがない眼差し・・・険の取れた穏やかな表情

いつもならすぐに目線を外すコイツが目線を外さない。

こんなに近くでこんなに長くコイツの目を見たのは初めてじゃないだろうか?

そう思うと急に恥ずかしくなって、俺の方が先に目線を外した。


コイツ・・・こんなに可愛かったか・・?



「心配ね・・・それはどうも。じゃあ海堂先輩の事もそうゆう事にしておいてあげますよ」

「・・・・まぁ言い方は気になるけどよ・・・わかったんならいいよ」



俺は急にドキドキし始めた胸の高鳴りを越前に背中を向ける事で誤魔化した。

何なんだ・・・あの目は・・・

ありえね〜なぁ。ありえね〜よぉ。



「桃先輩。だいぶ休憩できたんで、コートに戻って試合しません?」

「おっ!そうか。でも本当に大丈夫なんだろうな?」



試合って言葉に反応してもう一度見直した越前は、いつもの生意気で勝気な目を取り戻していた。

俺は越前の体を心配しながら、内心では動揺を抑えるのに必死だった。


ホントに何だったんだ・・・今のあの目は・・・













それからだ・・・アイツのあの目がもう一度見たくて気が付けば目で追っている。

走りよって捕まえて押さえつけて、あの目を覗いて確かめたくなる・・・

そんな衝動にかられるんだ。

だけど・・・そんな事をすればアイツの事だ、冷めた目で俺をみるだろう。

せっかく築き上げた俺達の関係もおかしくなっちまう。

それだけは・・・嫌だ。

今のままなら、まだ俺達は仲のいい先輩と後輩

帰りに気軽に誘って、チャリンコでにけつしてハンバーガーを喰いに行く事だって出きる。

だけどもし俺が俺の本能のまま動くような事があれば・・・

俺がアイツを好きだと認めて行動したら・・・

どう考えても上手く行く筈がねぇ


『二度ある事は三度ある』


嫌な言葉だぜ・・・

英二先輩に海堂・・・それに越前もって事になったら・・・

俺のガラスのハートはもたねぇなぁ・・・・もたねぇよ

やっぱ諦めるしかねぇよな。


アイツのあの目が気になるけど・・・

アイツの存在が気になって仕方ねぇけど・・・


俺達の関係を保つためだ。

俺の出来る限りの努力をしてやるよ。


あ〜ぁ・・・ったく・・・アイツが女だったら、ここまで悩まねぇのにな。

強引にでもアプロ〜チして、俺のものにするのによ・・・

って・・・それをいっちゃおしまいか・・・

アイツは紛れもなく男だもんな。

それに男とか女とかそんなの関係ねぇ事だってわかってる。

俺はアイツだから気になるんだ。

アイツが・・・越前リョーマだから気になるんだ。


って・・・これじゃあ堂々巡りだな。

やめよう・・・もう兎に角考えるのをやめよう。

じゃなきゃ同じ過ちを繰り返す事になる。

俺はアイツだけは手放したくないんだ。

ずっと傍においておきたい。

ずっといい関係を保っていたい。

その為にもこれ以上は想いを留めなきゃな。

アイツの事を考えねぇで済む方法


・・・彼女でも作るかな・・・


他の誰かを想う事で、自分の気持ちを誤魔化すようなやり方は本当は好きじゃねぇけど

それぐらいしなきゃ・・・俺の想いはもう止まんねぇ・・・・



止まんねぇ・・・よな・・・




                                                             (side リョーマ 2へ続く)




最後まで読んで下さってありがとうございますvv


ずっと書きたいと思っていた桃リョ・・・ずっと後回しにしてきたのですが・・・

流石にこれ以上ほっておくと、自分が何を書きたかったのか忘れるな・・・

と思って、急遽・・・連載☆

基本が大菊なので・・・のんびり更新になるとは思うのですが、ついて来て頂ければ凄く嬉しいです。

一応予定では桃の次はリョーマと視点交互の予定です。

そしてきっと大菊も出てきます・・・1年前に考えてた予定では出てきてました(笑)

あくまで予定は未定ですが・・・色々思い出しつつ、そして加えていきたいと思います。

そして最後に・・・・・今日は6月5日vv

近藤くんおめでとうvvvv

2008.6.5