「七夕って何なんっスか?」
練習が終わって部室で着替えてると、桃と話していた越前が不意にそんな言葉を漏らした。
「なっなんだ越前?お前七夕も知らね〜のかよ?」
驚いた桃が、越前を覗き込んでいる。
「だったら何だって言うんっスか?」
そう言って睨みを利かす越前に対して、今度はそれまで俺の横で着替えていた英二が喰いついた。
「何々?マジでおチビ七夕知らないの?」
「だから・・・だったら何だって言うんっスか?」
越前の肩に手を回して覗き込む英二に、更に睨みを利かす越前。
「じゃあ。アレはどうよ。天の川!」
「そうそう。天の川は知ってるっしょ?」
桃と英二の二人がかりで、越前に話しかけている。
「Milky Way なら知ってますよ」
目深に帽子を被り直した越前がそう言うと
「えっ?何だって?」
「えっと・・ミルキー・・・」
桃と英二は、越前に英語で答えられて、戸惑ってしまった。
その姿に、話に入って行こうかと思ったが、それまで遠巻きに見ていた不二が動いた。
「Milky Way 日本語で天の川の事だよ」
クスクス笑う不二を見て、桃と英二が更に越前に絡みつく。
「なんだよお前。英語で答えんなよ」
「そうそう。おチビ生意気〜」
「そんな事も知らないあんた達の方が不思議っスけどね」
余程七夕を知らないって言われた事が、気に食わなかったのか・・・
越前は、挑戦的な態度で答えている。
本当に見ているこっちが・・・ハラハラするよ・・・
小さく溜息をついて、英二を見ると、目を輝かせ始めていた。
英二の奴・・・何か思いついたな・・・
「そうだ!おチビの為にも七夕しようよ!」
「おっ!いいっスね!!」
「笹飾ってさ!みんなで願い事書いて!」
「あっ!じゃあ俺。笹調達してきますよ」
二人を無視して着替え始めた越前をよそに、桃と英二が盛り上がっている。
英二の目を見た時に、こうなるだろうと・・・予想はしていたけど・・・
「じゃあさ。笹が調達できたら、おチビの家にみんな集合するってことで」
「了解っス!明日には調達してきますよ」
「んじゃ明日だな」
どんどん話を進めて、勝手にまとめてしまった。
『流石にそれはまずいんじゃないか英二?』
と口を挟もうとしたが、俺より先に越前が非難した。
「ちょっと待って下さいよ。何で俺んちなんですか?」
「おチビの為の七夕じゃん!」
「そうそう!お前が知らないって言うから、教える為にだな・・・」
「教えてくれなんて、一言も言ってないっス」
不貞腐れた様に言う越前に対して、クスクス笑っていた不二がまた動いた。
「いいんじゃない。たまにはみんなで七夕っていうのも。それとも、どうしてもやりたくないっていう理由でもあるのかな?」
不二が笑顔で越前の顔を覗きこむ。
「・・・別に・・・」
そんな姿に、とうとう越前もおれてしまったようだ。
不二の奴・・・楽しんでるな・・・
「んじゃ決まりだな!」
「ヨッシャー!!」
「フフフフフ・・・」
「・・・・・・」
4人のやり取りを黙って見ていた、手塚、乾、タカさん、海堂、 そして俺もその場で、七夕イベントの参加を決められた。
しかし・・・こうやって4人のやり取りを見ていると・・・
いや・・・英二と桃のやり取りを見ていると、たまに不安になる。
桃との会話に嬉しそうに、笑顔をむける英二。
英二は知っているのだろうか?
桃が入部してきて、英二がマンツーマンで桃を教えていた時に、桃が英二に熱い視線を送っていた事を・・・
あの時は、もしかして桃も俺と同じ想いを英二に対して抱いているんじゃないか?って不安だった。
だけどそれはいつの間にか無くなっていて、アレは俺の思い過ごしだったのかな?と思った事もあったが、たまに桃が英二を眩しそうに見る姿を見て
やっぱりそういう事だったんだろうと納得する俺がいる。
何故桃の英二を見る目が、変わったのかはわからない。
二人の間で何かあったのか・・・?
それとも英二と俺が、付き合った事を桃が知ったからなのか・・・?
ただ今更桃の事を、英二に聞く訳にもいかなくて・・・
仲良くじゃれ合う姿を、笑って見ているしかなかった。
それに・・・わかってるんだ。
桃は青学には無くてはならない選手だし、本来仲間なんだから、仲が良いのにこした事はないって事。
もともとこの二人は、馬が合うみたいだし・・仲良くなるのは必然的で・・・
・・・何故・・・英二は俺なんだろう?
そうなんだ、英二との距離が縮まれば縮まるほど、俺の中に疑問が湧いてくる。
あんなに楽しそうな笑顔を見ると、俺より桃の方が合ってるんじゃないか?
って不安になるんだ・・・
それに桃だって、英二の事、吹っ切れているんだろうか・・・?
「・・・いし・・・おおいし・・・大石!」
「あっごめん。なんだ英二?」
「何だじゃないよ!何ぼっーとしてるんだ?みんな帰っちゃったぞ!」
「えっ?あぁ。ちょっと考え事を・・・」
「ったく・・・しっかりしろよ!で・・大石なら短冊になんて書く?」
七夕の話が決まって、いつの間にか部室には俺と英二の二人だけになっていた。 鍵当番の俺は部室の戸締りを確認しながら、英二の話に答える。
「そうだなぁ。やっぱり全国制覇!かな?」
「他には?」
「う〜ん。全国No1.ダブルスとか?」
「それ以外は?」
それ以外?それ以外に書く事なんてあるのだろうか?
俺の顔を覗き込む英二を見ながら、考えたが思いつかない・・・
「英二は、他にあるのか?」
俺の答えに英二が『ムゥ〜〜〜』と口を尖らしている。
「これだもんね。大石は!もっと他にあるじゃんか」
他・・・か・・・だからその他がよくわからないんだが・・・
「例えば?」
「だ・か・ら・俺とずっと一緒にいたい!とか、俺を独占したい!とか、あるだろ?」
「えっ?」
思わぬ答えに、言葉を詰まらせてしまった。
確かに、そのお願い事はしたいけど・・・
短冊は、やはり必勝祈願になると思うのだが・・・
英二はそんな俺に、不満気な顔をする。
「何だよ大石?」
「それをみんなで飾る笹に書くって言うのか?」
「それ以外の笹があるのか?」
「いや・・・無いけど・・・」
それはちょっと・・・流石にレギュラーで作る短冊とはいえ、越前の家に飾る笹にそんな事は書けないだろ?
どう答えようか、迷っている俺の前に、英二が仁王立ちで立ち塞がる。
「俺は書くぞ!大石がずっと俺の大石でありますようにって!」
・・・英二・・・お前・・・
ジッと俺の目を覗き込む英二を見て、自分の顔が綻ぶのがわかった。
さっきまで、桃との事を不安に思っていたのに・・・
桃の方が英二に合うんじゃないかって思ってしまったのに・・・
英二が俺を選んでくれるのが嬉しい。
そんな英二が、あまりにも愛おしくて思わず引き寄せて、抱きしめた。
英二の肩に、顔を埋める。
「うわっ!大石っ!どうしたんだよ。ここ部室だぞ」
「うん。わかってる。少しだけ」
いつもなら部室で、抱きしめるなんて事はしないけど、今日は我慢できない。
それに、こうやって英二を抱きしめていると、不安も薄らいでいく・・・
英二・・・俺やっぱり・・・英二は誰にも譲れない。
またもや・・・桃登場☆
本当に桃って使いやすいというか・・・
そんな感じで・・・続きます。(残り2ページ)