えっと・・・今日の予定はどうだったかな?
確か練習は雨が降ったから、屋内で筋トレだけして、早めに切り上げるって言っていたよな。
そして、その後不二とタカさんは笹に飾る為の短冊やら折り紙を買いに行って・・・
乾と海堂は、お菓子とジュースを買いに行って・・・
手塚は竜崎先生と話が済んでから、越前の家に直接行くって言ってたよな。
その越前は、桃と笹を取りに行く予定で・・・
俺は英二と、越前のお家の方に渡す手土産を買う・・・
これで合ってるよな?
委員会の会議が終わって、早足で部室に向かいながら、今日の予定を思い出す。
今日は、昨日急遽、英二と桃の提案で、越前の家で七夕作りをする事になった。
それぞれの役目は、今日の朝練のうちに決められて、午後練が終われば、それぞれ動く予定になっている。
英二・・・待ちくたびれているかな?
英二とは、俺が委員会の会議があるからって事で、部室で待ち合わせる事になっていた。
それにしても・・・思ったより委員会に時間がかかってしまった。
祭り事が、好きな英二の事だから、遅いって言われるだろうな・・・
そう思いながら、部室の前まで来ると、ドアが少しだけ開いていて、中から笑い声が聞こえてきた。
英二?誰かと一緒なのか?
そして、ドアノブに手をかけようとした時に、思わぬ言葉を聞いてしまった。
「絶対!副部長には内緒っスよ!!」
「わかってるって。絶対大石に言わない!」
えっ?俺?
今の声は、桃と英二だよな・・・
部室に入ろうとした時に自分の話題が出た事で、入れなくなってしまった。
それに・・・内緒って・・・
「明日晴れるといいんっスけどね・・」
「大丈夫!絶対晴れるって!俺。今日テルテル坊主作ってやるよ」
「まじっスか?嬉しいなぁ〜 英二先輩に作って貰ったら何だか、晴れる気がしますよ」
「そうだろう。そうだろう。絶対綺麗な星が見れるよん。楽しみだな〜」
「俺も楽しみです。二人で綺麗な星が見れたら、最高っスよね!」
二人で・・・星・・・?
ドアの前に立ち尽くしたまま、思考がストップしてしまった。
今の会話は一体・・・?
ボーとしてると、不意に声をかけられた。
「入らないんっスか?」
「えっ?」
「そこ・・・邪魔なんっスけど・・」
我に返って、目線を下ろすとそこには越前が立っていた。
「あっすまない・・・」
そう言って、ドアの前を空けようとして、思い出した。
今は英二と桃が中で、話をしていたんだ・・
「あぁっちょっと待て、越前!今はまだ・・・」
ドアノブに手をかけた、越前を制止する。
「何っスか?入っちゃいけないんっスか?」
「いや・・それは・・・」
言葉を濁していると、中からドアが開けられた。
「何やってんの?」
「うわっ!」
出てきたのは、英二だった。
立ち聞きしていたの、バレたかな?
そう思ってる間に、開いたドアの隙間から、越前が中に入っていく。
「あっおい。越前!」
俺の呼び止める声は、届かなかったようだ・・・
「どうしたの大石?おチビに何か用があったの?」
「えっ?いや・・・・」
英二に聞かれて、戸惑う・・・もう話は済んだのだろうか?
中に入って良かったんだろうか・・・?
俯いていると、英二に腕を掴まれ、部室の中に引き込まれた。
「それより、来たんなら早く入れよな」
中に入ると先ほど入った越前と、桃が帰る準備をしていた。
「越前お前おせーよ!」
「仕方ないじゃないっスか・・・こっちにも色々用事があるんっスから」
「ちぇっ可愛くね〜なぁ。さっさと着替えて笹取りに行くぞ」
「あんたが、着替えるの邪魔してるんじゃないっスか」
「馬鹿。俺の何処が邪魔してるっていうんだよ」
「存在」
「てめ〜言ったなぁ!!」
相変わらずのやり取りが、どんどんエスカレートをするのを見て英二が声をかけた。
「ほらほら。早くしないと不二や乾達が先におチビの家に着いちゃうぞ!」
「おぉっといけね。行くぞ!越前」
「ういーっス」
「じゃあ俺達、自転車かっ飛ばして、笹用意して待ってますから」
そう言って二人は慌しく、部室を出て行った。
そして静まりかえった部室に、英二と二人っきりになった。
「それで・・・大石はどうしちゃったの?」
「えっ?」
「様子が変!」
「いや・・・別に・・・」
「今だってさ、いつもの大石なら俺より先に、桃とおチビのやり取り止めるのにさ、 止めなかったじゃん」
「いや・・・それはちょっと止めるタイミングを・・・」
「まぁいいけどさ。大石疲れてるんじゃないの?最近委員会も忙しいみたいだし」
遅れてきたことが幸いしたのか・・・どうやら英二は、さっきの話を俺が聞いていた事にまったく気付いていないようだ。
「そうだな。そうかも知れない・・・」
だから英二の話に合わす事にした。
「そっか・・・大丈夫?」
英二が心配そうに覗き込んでくる。
「あぁ・・大丈夫。それより俺達も急ごう」
「うん。けど・・・大石あんま無理すんなよ」
「あぁ。わかってる」
そう言って、英二の頭にポンッと手を置いた。
ハァ・・・・大きく溜息をついて、ベットの上に寝転がる・・・
越前の家で、みんなで短冊に願いを書いて笹に飾って、楽しんで来た筈なのに
あまり覚えていない・・・
英二と越前の家に持って行く、手土産を選んでいた時も・・・
越前の家に着いて、短冊に願い事を書いていた時も・・・
英二と桃の話が頭から離れなくて、何だか集中出来なかった。
英二が俺に隠し事をするなんて・・・
それにあの会話・・
『そうだろう。そうだろう。絶対綺麗な星が見れるよん。楽しみだな〜』
『俺も楽しみです。二人で綺麗な星が見れたら、最高っスよね!』
考えたくはないが、あの会話から想像出来る事は、一つ
俺に内緒で、二人で星を見に行くって事なんだろう・・・
二人で・・・
そういえば、短冊を書いた後、英二がテルテル坊主を何個か作っていた。
やっぱりアレは、桃に作ったんだろうな・・・
そう思うと、どんどん気が滅入ってくる。
英二と桃が・・・
何故英二は、俺には言わずに、桃と星を見に行く事を決めたのだろうか・・?
内緒にするって事は、何か後ろめたい事でもあるのだろうか・・?
考えれば、考える程わからない。
英二は俺の事を想ってくれている筈だ、と思う気持ちが、どんどん揺らいでいく。
英二・・・明日本当に、桃と二人で星を見に行くのか?
机に置かれたフォトフレームを見ながら、心の中で問いかける。
内緒の話を知ってしまった俺は、どうしたらいいんだろう?
このモヤモヤした思いを、何処にぶつければいいんだろう?
眠れない夜が過ぎていった。
落ち込みモード大石・・・
付き合いが親密に成る程、不安になったりするんですよね・・・
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