大石のお人よしやお節介は今に始まった事じゃない・・・
きっとアイツは生まれた時から、ああだったんだ・・・
そんな事は、俺だって十分わかってるつもりだった。
「・・・英二先輩」
「何?」
「今のアレ・・・どういう事っスか?」
桃が言っているアレとは・・・ホントは聞かなくてもわかってる。
わかってるけど・・・
俺はその事を口にしたくなくて、あえて桃に聞き返した。
「アレって?」
「副部長があんな風に英二先輩以外を抱えて行く事っスよ」
あんな風に・・・・
俺は大石とおチビの姿を思い出して俯いて答えた。
「そんなの・・・仕方ないじゃん」
「仕方ないって・・・ホントにそれでいいんっスか?」
桃の切羽詰った声が、俺の胸に響く。
いいんっスか?
そんなのいい訳ないじゃん!
ないけどさ・・・仕方ないだろ?
だっておチビは怪我をしてんだよ。
そのおチビが大石がいいって言ってんだ。
それを俺が駄目だなんて言える訳ないじゃんか。
桃、俺にどうしろって言いたいの?
「何が言いたいんだよ?」
「もし越前が副部長の事を・・・」
おチビが大石を・・・
俺は弾かれるように顔をあげた。
「桃っ!」
「なんスか?」
「それ以上言ったら俺、怒るよ」
おチビが大石をなんてそんな事あるわけない!
あるわけ・・・・・な・・・・
桃の言葉を遮ったものの、不安が広がる。
俺は桃を睨みながら、心の中では葛藤していた。
だって俺が見る限りじゃ・・・おチビは桃の事を・・・
でも、その桃が最近してる事は、おチビの目にはよく映っていない筈で・・・
だからおチビが大石をって・・・クソッ・・・ホントに不安になってきた。
桃の奴・・・
お前がしっかりしてないから、こんな事になるんじゃんか!
「怒るって、既に怒った顔してるじゃないっスか」
「うるさい。桃は桃の事だけ考えればいいだろ!大体お前が・・・」
っ・・!!!
イライラして、ついうっかり言ってしまいそうになった。
流石にこれ以上は不味い。
俺は、言葉を飲むように止めた。
「俺が何だっていうんスか?」
桃は俺の言葉に敏感に反応して、俺の肩を掴む。
ホント不味った・・
「知らない。桃は練習に戻ってろよ」
こんな不安定な状態で、俺がおチビの気持ちを桃にいう訳にはいかない・・・
これは2人の問題なんだから・・
ちゃんと2人で決着つけなくっちゃいけないんだ。
俺は桃の手を払うと、校舎の方へと体を向けた。
「戻ってろって、英二先輩はどうするんスか?副部長は一緒にって・・」
「俺はトイレ!」
「トイレって・・トイレなら向こうの方が近いじゃないっスか」
桃がコートから一番近いトイレの場所を指差した。
そんな事はわかってるよ!
わかってるけど・・・
「どこのトイレ行こうと俺の勝手だろ?
兎に角、桃はみんなのとこに戻っててよ、俺も後ですぐに行くからさ」
だけど・・・・その前に・・・
「ちょ!英二先輩!」
確認しておきたい・・・・おチビの気持ち
大丈夫だとは思うけど、万が一って事もあるし・・・な・・・・
俺は真っ直ぐ保健室のある校舎へと歩き始めた。
静まり返った廊下を真っ直ぐに保健室に向けて歩いて行くと予想以上に早く着いた。
ここからどうしよう・・・・
俺は保健室と書かれた、プラカードの下で頭を抱えた。
勢いできたから、話しかける言葉もタイミングも考えていない。
おチビになんて話しかけるか・・・?
それに大石・・・
そもそもここまで来たのはいいけど、こんな俺を大石はどう思うだろう?
桃の事頼まれたのに、ほったらかして様子を見に来ただなんて・・・
信用していなって、思われるだろうか?
う〜〜〜〜〜ん・・・・・・・・・・・・・・・・・・って考えても仕方ないか・・
ここまで来てしまってるんだ。後には引けない。
大石には後でちゃんと説明するとして、今は取り敢えずおチビの様子を確認しよう。
そう思いながらドアに手をかけると、大石の声がドアの方へ近づいて来るのがわかった。
俺は咄嗟に身を屈めて壁に張り付くと、そのままジッと身構えた。
「さっ越前。俺はまた戻るけど、お前は練習が終わるまで安静だぞ。
終わればまた覗きに来るからな」
どうしよう・・大石が出てくる。
このままじゃドアの前で鉢合わせして、何してるんだ?って話しになるよな。
あぁぁぁ・・・考えてないで、さっさと入ればよかった。
完璧にタイミング外したよ。
あわわわわ・・・と動揺しながらも動けずにいると、おチビが大石を呼び止めた。
「ねぇ副部長」
「ん?どうした?」
おっ・・・大石の足が止まった。
よしっ!今のうちに、逃げるか。
そんで改めて、おチビに会いに来て・・・
俺はゆっくりと立ち上がろうとしたが、
「英二先輩やめにして、俺にしません?」
おチビの言葉に固まってまた座り込んだ。
えっ!?
「なっ!・・・何!冗談言ってるんだ。からかうなよ・・・」
何・・・・どういう事?
おチビ・・?
「冗談じゃないって言ったら?」
「えっ・・・・・・?」
俺は両手で口を塞いだ。
塞がなきゃ大石と同じ様に『えっ?』と声に出してしまいそうで、そのまま手で押さえて言葉を飲み込んだ。
そんな・・・おチビ・・・嘘だろ・・・?
お前は・・・・桃を・・・だろ?
違うの・・・?
桃が心配してた通りに、なってしまったの?
立ち上がることも出来ずにグルグル考えていると、おチビの声が静かな保健室に響いた。
「・・・嘘っスよ」
・・・う・・・そ・・・・・?
って・・・何?
嘘なの!?
思考がついて行けずにいると、今度は凛とした大石の声が響いた。
「越前・・本当に今のが冗談じゃないとしたら・・・答えは・・・断るだ」
えっ・・ちょっ・・・おっ・・・大石・・・
「ハッキリ言うんっスね」
「当たり前だろ。今の俺には英二以外考えられないからな・・・」
うわっ・・・
俺以外考えられないって・・・バカ・・・
何真面目に答えてんの?
恥ずかしい事、おチビに宣言しないでよ。
「あっそう・・・」
だけど・・・
おチビの呆れた声に反して、俺はとても幸せな気分だった。
サンキュー・・大石・・・
「それに嘘なんだろ?」
「えっ?」
「兎に角・・・余計な事は考えないで、今はちゃんと冷やして寝てろよ。
じゃあ・・・後でな」
ハッ・・・しまった・・・幸せに浸りすぎた!
大石が出てくる!!!!
ガラッと空いた保健室のドアに反応出来ずに、そのまま座り込んでいると、俺の前を通って2.3歩行った大石が振り向いて俺を見下ろした。
「んっ?今、誰かいたような・・・・って・・・えっ英二っ!」
「よっ!よう大石っ!」
「・・・そんなところで、何してるんだ?」
「ちょっ・・ちょっとね・・・ニャハハ・・・」
「で、ホントにあそこで何してたんだ?」
戻って来た大石に手を差し伸べられた俺は、立ち上がるとゆっくりとテニスコートへ向けて歩き出した。
「ん?あー・・・・」
やっぱ、聞かれるよな。
あんなとこに座ってるって不自然だもんな・・・
でも何て言えばいい?
どう答えても、大石の事信用してないみたいになるし・・・
それに練習もサボってるし・・・
「何かあったのか?」
俺の顔を覗き込む大石に、俺は頬っぺたをかきながら答えた。
誤魔化しようがないよな・・・
「えっと・・あったというか・・・なかったというか・・・」
「どっちなんだ?」
歯切れの悪い俺の返事に、大石が眉間にシワを寄せる。
うわぁ・・不味い・・・早く言わないと、怒るだけじゃ済まないかも・・・
言葉を捜して言いよどむ俺に、大石は更に眉間にシワを寄せた。
「怪我・・したのか?」
へっ・・・そっち・・?
「ちっ違う!違う!違うんだ大石!」
怪我をしたから保健室に行ったんじゃなくて・・・
そうじゃなくて・・・・
「えっと・・・ちょっとこっち来て・・・」
俺は周りを見回して、人気の少ない階段下に大石を引っ張った。
違うのにそうじゃないのに・・・俺の事心配して・・・
ったく大石の奴は何処までも、疑う事を知らないんだから・・・
「英二?」
「その・・・怒らないで聞いてくれる?」
「何を?」
「だから・・あそこにいた理由。怒らないで聞いてくれる?」
「怒るって・・・俺が怒るような事なのか?」
「それは・・・わからないけど・・・」
でも、いい話じゃないから・・・それは確実だから・・・
「・・・英二?」
怒らないでって、前振りしてしまう。
ちゃんと言わなきゃいけないって事は、わかっていても・・・
このままだと大石が誤解してしまうって、わかっていても・・・
いざとなると、いい辛いんだよな・・・
上目遣いにジッと大石を見ると、大石は肩を落として溜息をついた。
「ったく・・・わかった。怒らないからちゃんと話して」
「大石・・・うん・・」
自転車に乗っての番外編・・・桃とリョーマに係わってた時の大菊を書いてみました☆
どうでしょうか?
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