俺はその日部活が終わったら、話を聞いて貰えないかと一人の先輩にお願いをしていた。
出来れば二人だけでと付け加えて・・・
「んで、何の話だってー?」
と軽いトーンで答えながら汗を拭く、この人は菊丸英二・・・先輩
ニコニコ・・・いや、ニヤニヤしながらこちらを見ている。
うっ・・ 人選間違えたか・・・と思いつつも、今さら遅い・・・・
フシュ〜〜と心の中で気合を入れなおし
「あっ・・その・・だから・・こないだの試合・・立海の柳って人・・・乾先輩の知り合いだったんっスよね・・・・」
とトレードマークのバンダナを取りながら、なるべくさりげなく聞いてみた・・・
「んーそっだよ〜〜」
とすぐに答える先輩の方へ目をやると・・・
大きな目が好奇心丸出しで、キラキラと輝いている。
うっ・・ やはり・・人選間違えたか・・・
「今まで俺・・二人が話をしているとこ見たことなかったっスけど・・・」
と気持ちを立て直して言うと・・
シ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン
って・・・おぃ!
心の中でのツッコミが聞こえたのか、少し間をおいた先輩が話し始めた。
「俺も見たことないよー!」
と、クスクス・・ケラケラ・・笑いながら・・
「海堂かわい〜〜!!やきもち〜〜?それで、やっと自覚したのかにゃ〜〜! 乾喜ぶよ〜〜!!」
とあまり触れてほしくない核心に・・心底うれしそうに・・
いや楽しそう・・つうか・・遊ばれてる・・?
「うっ・・」
言葉につまり口をパクパクしている俺を見て
「お〜い! 海堂帰ってこ〜〜い!!」
とほっぺたをペシペシ・・ムニムニ・・しながら話を続ける
「実際今まで、話をしてなかったと思うよ。試合もこの前のが初めてだったしね〜〜
まぁ立海に柳がいるのは1年の頃から知ってたみたいだけど・・・・・」
やっぱり・・と心の中で思いながら・・
「そうっすか・・・」
と小さく答えた。
じゃ何故・・・・今まで話をしなかったのだろう・・・・
実は関東大会終了後から、ここ数日一番気になり悩んでいた事、その答えを見つけたくて。
誰かに相談したい・・いや知りたい・・乾先輩の事を・・
そこで、白羽の矢が立ったのが目の前の人物だった・・
人懐っこく、大きな目をクルクルさせながら、よく笑うこの先輩は・・
<英二・英二先輩>と下の名前で呼ばれるほど、みんなから、慕われていた・・・
副部長や河村先輩に聞く事も考えたが真面目な二人は、親身に話を聞いて自分の事の様に考えてくれるだろうが、
自分の事で大事な試合の前に迷惑は掛けたくない・・・
桃城と越前は問題外!!
不二先輩はある意味で一番適切なアドバイスをくれるかも?と思ったが怖すぎる・・・・
手塚部長にいたっては、今まで存在すら忘れていた。
そんな事を考えていると
「おーい海堂聞いてんの?」
まだ話はあるんだよっとばかりに、俺の顔を覗き込んだ・・
「乾の元カレだって・・!」
「はぁ?」
っていうか・・・・・・なにぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!
元カレ・・・?
ということは、乾先輩が元カノ・・・女・・・!?
いやいや元カレでも、元カノでも、この際どっちが、どっちでもいい!!
いや・・・あまりよくもないが・・・
っていうことは、二人は付き合っていたということなのか、だから4年と2ヵ月と15日お互いの存在をしりながら、
会話せずに来たということなのか・・・?
付き合っていて・・・別れたから・・・・・?
頭の中が真っ白になった・・・・・・・・・
その姿に、少し心配になったのか、もう一度大きな声で
「海堂!よく聞けよ! あくまで 元 カレ だ!」
ここが大切とばかりに、元を大きく強調しながら、言った先輩はどうだと言わんばかり だったが・・・
俺の頭の中は・・・元カレで一杯になっていた。
「だから海堂! 元だぞ元!」
元と言われてもな・・・・
放心状態の俺を見ながら更に元を繰り返していた先輩は今度は今までの話をフォローするように話し続ける。
「大丈夫だって!今の乾は海堂一筋だよ!!それは誰から見ても明らかだ!だから海堂もそろそろ自覚して、
素直になった方がいいよ!でないと本当に柳にとられちゃうぞ〜!!」
と明るく満面の笑みを浮かべ・・俺を励ましているつもりか、両腕でピースサインを作り 顔の横でブイ・ブイとして見せている。
「先輩・・・あまりフォローになってないっス・・・・・・」
「そっそうかにゃ〜」
そうでもないと思うんだけどな〜と頭を傾げる先輩をよそに俺は複雑な思いを抱えたままでいた。
そんな時、部室の外から大きな声が聞こえてきた。
「英二〜!そろそろ帰るぞ〜!」
その聞きなれた声に、すぐに反応した先輩が鞄を持ち上げながら答える。
「ほ〜い!今すぐ出るから、待ってて大石!!」
そして、俺の肩をポンッと叩き
「まぁあれだよ・・・素直が一番!あとは、乾が受け止めてくれるっしょ!」
と言い残し
「んじゃに〜! ばっははぁ〜い!!」
と手をヒラヒラさせながら、部室を後にした・・・・
部室の中に一人取り残され、俺は先ほど先輩が言い残した素直と言う言葉を思い出しながらあの時の事を思い出していた・・・・
あの時・・・・・
俺の必殺わざ・・ブーメランスネークが完成した時・・・・
「おめでとう海堂!! よくここまでがんばったものだ・・・」
と感慨ぶかげに俺を見つめるのは、俺の必殺わざ完成の為に、ずっと練習に付き合ってくれた、乾貞治その人だった・・・
「いや・・これも先輩のおかげっス・・先輩のアドバイスがなければ、未だに完成してなかった・・・」
この先輩は普段は乾汁などと、ふざけた飲み物を作り、他の部員に飲ませてその反応を見て楽しんではいるが、
本当は人一倍努力家の上に、他の部員が練習で行き詰っている時は適切なアドバイスでそれをさりげなくフォローする・・
やさしい面があるのを俺は知っていた。
「本当に有難うございました!!」
とふかぶかと、頭をさげてお礼を言う俺の頭の上の方から声が聞こえた・・
「いや、ブーメランスネークが完成したのは、海堂お前の努力の結果だよ・・俺はほんの少しアドバイスをしたに過ぎない・・・
それより・・・・・・・・」
それより・・?という言葉に少し引っかかったが、俺は顔を上げて乾先輩を見た。
「これから言う言葉を、よく聞いて、心の中に刻み込んでほしいんだ・・・」
俺は何事か・・と思いつつも・・必殺わざが完成した事で、これからの心構え
もしくは、またアドバイスをくれるのだろう、と思い・・神妙な顔で
「はい!」
と答えた・・・・・・・
それを見た乾先輩が、フムッと頷き、真剣な顔つきで俺の前に一歩近づいて・・・
「俺はお前が好きだ・・・・」
「・・・・・・・はぁい?」
「驚くのも、無理はないが・・俺は本気だ・・・」
なっ何を言ってるんだこの人は!?
それとも俺が何か勘違いしているのか・・・・
好きってなんだ・・・・本気ってなんなんだよ・・・・
口をパクパクしながら、頭の中でいろいろ考えていると・・・・・
それを見透かしたように、乾先輩が話を続けた・・・
「海堂・・俺の言っている好きはlikeの方ではない・・・LOVEの方だ・・」
決定的だった・・・
LOVEの方・・・・俺の得意科目は英語だった・・・・・・
この人は俺に惚れてるのか・・・本気で・・・・・?!
俺はどうしたらいいんだ!なんて答えたら・・・
俺だって決して乾先輩が嫌いな訳ではない!
どちらかといえば好きな部類には入る・・・
がしかしLOVEの方かどうかは正直わからない・・
どうしていいか解らず、真っ赤な顔をして、モジモジする俺・・・
はっきり言って逃げ出したい・・・・・・・・・・・
「海堂・・」
と呼ばれ、俺はビクッと肩をあげて反応してしまった。
乾先輩はフゥ〜と深いため息をついて、何も言わない俺にさらに話を続けた。
「まぁこういう反応が返ってくるだろうという事は、俺も承知していた・・が・・・ もうこの想いを隠しきれそうにないんでな・・
お前に正直に告げる事にした・・・・ 今は答えを聞くつもりはない・・が俺の気持ちはお前の心に刻み込んでおいてくれ。
そして・・いつかそれに答えて貰えると嬉しいんだが・・・」
俺の方を見て、少し淋しそうに微笑んだ顔に、なんだか凄く胸が痛んだ・・
何かに、ギューと締め付けられてる気がした・・・
その時の俺はそれが何故だかわからず・・ただ・・・
「はい・・・・」
とだけ答えた・・それしか言葉がでなかった・・・
それからの乾先輩は、あの告白はなんだったんだ?と思うくらい、今まで通りで・・・
俺は少し拍子抜けして・・・そして・・・どこかで安心もしていた・・・・・・
あの関東大会決勝の日がくるまでは・・・・
その日の乾先輩の試合相手は、立海大附属中の柳蓮二・・・
小学生時代に乾先輩とダブルスを組んでいた事をその時に知った。
なんだか少し・・イラついた・・・・・
試合は両者譲らず、接戦になっていた、見るものを引き付け、釘付けにしていた。
こんな必死な乾先輩を見るのは、初めてだった・・・
データを捨て勝利のみを目指す姿に俺も叫ばずには入られなかった・・・・
「乾先輩!これで決めてやれー!!」
それに答えるように、乾先輩は勝利を収め、俺の元へとやって来た・・・・・
俺はその姿をドキドキしながら、見つめていた。
「乾先輩お疲れさまっス・・」
と声をかけて、タオルを手渡たす。
その手は少し震えていたかもしれない・・・
乾先輩は、そのタオルを受け取りながら、笑顔で答えてくれた。
「海堂の声・・・聞こえたよ・・・ありがとう・・・・」
その言葉に全身に電気が走る様な感覚を覚え、先ほどからのドキドキがさらに加速した。
「乾先輩・・・とてもかっこよかったです・・・」
突然俺が発言した言葉に、少し驚いた顔をしたが、すぐに笑顔で
「そうか・・・ありがとう・・・」
答えてくれた。
その時に確信した・・・
俺もこの人が好きだ・・・
この想いはlikeではなく LOVEだ・・・・
あの告白を受けた時から・・・
いやそれ以前から俺はこの人が好き だったのかも知れない・・・・
俺の横で汗を拭いている人物にそんな想いをよせながら考えていた・・・・・・・
この人は、まだ俺の答えを待っていてくれているのだろうか?
衝撃の告白を受けてから、日にちもだいぶ経っていたし、あれからの二人は誰から見ても 只の仲のいい先輩と後輩にしか見えない。
俺にいたっては、あの告白は夢だったんじゃないかと思い始めていた・・・
俺は馬鹿だ・・・
今頃本当の気持ちに気付くなんて・・・・
今さら何て、この気持ちを伝えたらいいんだ・・・・
頭の中で色んな事を考えて、モヤモヤした気持ちをどうしたらいいのか解らずにいた。
その時に、ふとある視線に気付いた・・・・・
こちらの反対側のベンチ・・・・・
立海大のベンチから、あの男が・・・
柳蓮二が・・・乾先輩を見つめていた・・・・
そのまっすぐな熱い視線は、乾先輩しか見えていないのか、横にいる俺を見ようとはしなかった。
その姿に何かとてつもない不安を感じて・・・俺は目をそらした・・・・
そう・・この時から、俺はこの二人は元ダブルスの相手という以外にも、何かあるのでは?
と思い・・・悩み・・・それを解消する為に相談出来る相手を探した・・・・・・・
そして、たった今菊丸先輩から・・柳は乾先輩の元カレという言葉を聞いたのだ。
知りたかった真実・・・乾先輩の事・・・・答えは出たが・・・・
ハァ〜〜〜と深くため息をついた・・・・
「何やってんだ俺・・・・・」
一つの悩みは解消されたが、更なる大きな悩みが出来た・・・
最後に菊丸先輩が言い残した、素直が一番!という言葉を思い出し、素直になればこの悩みはすぐに解消されるのだろうか・・・
英二先輩と副部長の様な仲になれるのだろうか・・
本当に・・・・?
色々考えたが、直ぐに答えは出せそうになかつた・・・・
「いつまでも部室にいる訳にはいかねぇ〜 取り合えず帰るか・・・・」
呟きながら、鞄を肩に下げて部室をあとにする事にした。
部室を出ると直ぐに、一人の男が目に入った・・・・
「あっ・・・乾先輩・・・・」
乾先輩は真っ直ぐこちらに歩いてきて、声をかけてきた。
「やぁ海堂・・・ずいぶん遅かったな・・・何かあったのか?」
先輩の事で悩んでます・・・とは言えねぇよな・・・
「ひょとして、俺の事を待っててくれたんっスか?」
「もちろん そうだよ 」
笑顔で答える乾先輩を見て、それがすごくうれしくて、悩んでる自分が馬鹿らしく思えた。
やはり、素直が一番なのか・・・・
俺達は二人並んで歩きだした。
そしてそんな先輩の横顔を見ながら俺は意を決した・・・
自分の気持ちにはもう十分すぎるほど気が付いた・・
告白されてからだいぶ日も経っている・・・
柳蓮二という存在も出てきた・・・
さっきの菊丸先輩のアドバイス・・・
素直が一番・・・
今ならまだ間に合うかも知れない・・・
俺の答えを待っていてくれてるかも知れない・・・
そして声をかけた。
今あるだけの勇気を振り絞って・・・
「あの・・乾先輩・・・俺・・・」
と言いながら、乾先輩を見た時に、乾先輩が別の何かを見ている事に気が付いた。
何を見てるんだ・・・?
その目線は、まっすぐ正門の方に向けられ、その先には思いがけない人物が立っていた。
〈〈〈 柳蓮二!!! 〉〉〉
何で奴がここにいるんだ・・・
向こうも、こちらに気が付いたのか・・・真っ直ぐ乾先輩だけ見つめて歩いてくる。
「待っていたぞ・・・貞治・・・」
「蓮二・・・お前・・・どうして・・・」
俺を挟むように立つ二人は・・・まるで俺の存在自体忘れているようだった・・・
「お前に会いに来たんだ・・・貞治・・・」
なっなんだって・・?
その言葉を聞いて・・俺はいたたまれず・・・走りだした・・・
「おい! 待て! 海堂っ!! 」
慌てた声がすぐに聞こえたが、俺は振り向かずに、そのまま走った・・・・
そうして走りながら、どうして俺が逃げなきゃならないんだ・・・?
とも思ったが、元カレが、わざわざ神奈川から会いに来た・・・
その事実だけで もうすでに・・いっぱい、いっぱいになっていた。
「クソッ何がお前に会いに来ただ・・・」
トボトボ歩きながら、何だが凄く切なくて、悲しくなった・・・
あの言葉に対して乾先輩は、なんて答えたんだろう・・・
素直が一番・・・俺の答え・・・どうしてくれるんだ!!
心の中で叫んでみたが・・・虚しいだけだった・・・・
それから、どうやって家まで帰って来たのか、自分でもよくわからない・・・
一つだけ確かな事は、乾先輩が俺を追いかけては来なかったということ。
もう・・俺の答えは要らないのか・・・
自分の言葉だけ俺に刻みつけといて・・・
それとも・・・遅すぎたのか・・・
後悔とやり場のない自分の・・乾先輩に対しての想いに押しつぶされそうな心を なんとか必死に保とうと試みたが、無理だった・・・・
俺はその夜・・初めて・・泣いた・・・
可愛い薫ちゃんを書こうと頑張ったのですが・・・どうなんでしょうか?海堂も自分の中では好きキャラの一人でホント可愛い奴です。
まぁ一番はあくまで大石ですが・・・。
余談として・・・部室の戸締りは?と思った方!海堂が部室を出た後、隠れて待っていた大石と英二が部室の戸締りをして帰ってます。
鍵当番ですから・・・。