一年生は基礎と球拾い・・・
まぁどこのクラブもそうなんだろうけどさぁ〜
ホント地味だよな〜もっとこうパッと激しく体動かして試合したいよ。
手塚はいいよな〜先輩に混じって、コートに入れんだから・・・
「あ〜つまんねぇ〜 球拾いなんてもう飽きた!」
俺がそう言うと、隣にいた不二がクスクス笑いながら話しかけてきた。
「駄目だよ菊丸君。そーゆう事は先輩のいない所で言わないと、聞かれたらグラウンド 走らされるよ」
「うっ!それは嫌だ・・・」
フフフッと笑う不二の横でチラッと思った。
大石なら『真面目に球拾いしろよ』とか言うんだろうな〜って
そんな事を思ってしまう俺は最近かなり変だと思う。
朝起きてから夜寝るまで、ひょっとしたら夢の中でも大石の事を考えてる。
一緒にいる時は話すのに夢中で考える余裕なんてないけど・・・
こうやってちょっと隣のコートに離れて球拾いしてるだけで、大石の事を考えてしまう。
これって、ひょっとして・・・なんて考えたりして・・・ハハハッ・・・まさかな・・
「ハァ〜」
俺が思わず大きなため息をついた時、隣のコートから大石の大きな声が聞こえて顔を上げた。
「手塚君!!!」
見るとさっきまで先輩と試合をしていた手塚が、ネットの所でその相手の先輩に左腕をラケットで殴られてる所だった。
「やばいね・・・」
隣で球拾いを続けていた不二が小さく呟くのが聞こえた。
確かにやばい・・・
離れたコートにいた俺を含めた他の部員すべてが、そのただならぬ雰囲気にボー然と立ち尽くしている。
手塚・・・めちゃくちゃ怒ってる。
あんな手塚見るの初めてだ・・・
あれっ?大石に何か話しかけてる・・・
大石の奴すごく心配そうな顔してる・・・ 手塚大石になんて言ったんだろ?
そう思った時、手塚の声がシーンとしたコートに響いた。
「俺辞めます!!」
ええっ!?手塚辞めんの?
手塚の発言で辺りがざわつき始めた時に大和部長がコートの中に入って来た。
「何を揉めているんですか?グラウンド100周ですね。みんな連帯責任です」
いいっ〜100周?まじで走んの?うそぉ〜〜!!
「さぁさぁ早く走らないと陽が暮れますよー!」
大和部長の声に後押しされるように、みんな愚痴をこぼしつつ渋々コートからグラウンドへ出て行く。
俺もその波に乗るように大和部長と手塚を横目に見ながら、不二と一緒に走り出した。
大石の奴どうしたんだろ?コートにはいなかったよな・・・たぶん・・・
じゃあ俺より先に走ってるのかな?
大石の姿を探しながら走っていたら、手塚が走ってるのが見えた。
あれっ?手塚も走らされてんの?なんで?
俺達の少し前を走る手塚を追うように走っていたら、コートフェンスの角を曲がった所で大石が両手を広げて手塚の行く手を止めていた。
「この程度の事で諦めてどうすんだよ!!手塚君キミが辞めるんだったら僕も辞めるぞ!!僕は本気だよ・・・」
えっ・・・うそだろ・・・!?
俺は大石の真剣な叫び声を聞いて、凍りついたように足を止めた。
そして全身の血の気がサッーと引いていくような感覚を覚えながらも、大石への想いが 一気に溢れ出すのがわかった。
この角を曲がったら、すぐに二人に追いつけるのに・・・足がすくんで動かない。
大石・・・やっと仲良くなれたのに・・・・
二人でダブルスがんばろうって話をしてたのに・・・
練習だって毎日欠かさずしてたのに・・・
手塚の為に辞めるのか・・・?
俺の事はどうでもいいのか・・・?
嫌だ・・・大石が辞めるなんて・・・
嫌だ・・・大石が手塚の為に一生懸命になるなんて・・・
嫌だ・・・大石は俺の大石じゃなきゃ・・・イヤだ。
「菊丸君大丈夫?顔が青いよ・・・」
一緒に走っていた不二が心配そうに話しかけてくる。
だけど俺はジッと地面を睨んで、両手をグッと握り締める事しか出来ない。
何か返事しなきゃ・・・
頭ではわかってるんだけど、大石の叫び声が頭の中にこびり付いて言葉が出ない。
それでも何か言わなきゃ・・・
気持ちばかり焦る中、何とか一言だけ言えた。
「大石が・・・」
不二は俺の言葉に一瞬戸惑ったような顔をしたけど、すぐに俺の言おうとした事が理解できたみたいで、指をさしながら話始めた。
「大丈夫みたいだよ。ほら大和部長が二人に何か言ってるみたいだし・・・二人とも辞めなくて済むんじゃないかな」
そう言われて二人の方を見ると、確かに大和部長が大石の肩に手を置きながら、手塚に何か話をしている。そしてその話が終わったのか
手塚と大石は二人でまた走り出した。
「ほらね」
そう言ってニコニコ微笑む不二を見て、急に恥ずかしくなった。
俺・・・何やってんだろ?大石の事でこんなに動揺して、不二に変に思われたかな?
「おっ俺達も行こうぜ!」
俺は動揺を隠そうと不二にそう言って、先に走りだした。
「あっ待ってよ菊丸君!」
不二の呼ぶ声が聞こえたけど、今は恥ずかしいから振り向けない。
ごめん不二・・・せっかく心配してくれたのに・・・
どんどん加速して走って行くと、いつのまにか手塚と大石に追いついてしまった。
「あっ・・・」
少し減速して手塚と並んで走る大石の背中を見ながら、さっきの大石と手塚のやり取りを思い出して、自分の溢れ出した想いについて考えていた。
大石・・・
ずっと大石の事が気になってて、それは友達としてだと思ってた。
いや・・・思おうとしてたんだ。
どこかでこんな風に思っちゃいけないって、大石は男だって。
だけど俺の心と体は正直なんだ。
どんなに否定しようとしても、大石だけに反応するんだ。
もうわかった。自分に嘘はつけない。
俺・・・大石が好きだ。
大石は男だけど・・・だけど好きなんだ。
今だって手塚を心配しながら並んで走る大石を見て許せない・・・
大石は俺の事だけ心配してればいいんだって思ってしまう。
大石・・・俺を見てよ。こんなに近くにいるのに。
手塚の心配なんかすんなよ。
手塚の奴・・・
大石にこんなに心配された上に、俺から簡単に大石を取り上げてしまうお前なんて
大嫌いだ!
END
この時の話って英二にとっては、かなり衝撃的だったんじゃないかと思うんですよね。それで英二はどうしてたのかな?
と思ったらこんな感じになりました。