「チッ・・・幸せそうな面して眠ってやがるな」
俺のベッドで眠る長太郎は、大きな図体を小さく丸めるようにシーツに包まって寝ている。
本当ならもっと早くに起きて、起こしてやればいいんだが、さっきまで俺もあのシーツのように長太郎にしっかり掴まれていた。
それをなんとか引き剥がして、先に身支度したんだけどよ・・・
あまりにも長太郎が幸せそうな面で眠ってやがるから、起こすに起こせず寝顔を見ていた。
しかし俺のベッドに長太郎って・・・ほんの数ヶ月前なら想像つかねぇな
1年下の長太郎は入部してきた時に出会って以来、何かと俺に懐いてはくれていた。
俺もそんな長太郎が可愛いと思ったし、頼られてるんならそれに答えてやりてぇと思ったんだけどよ。
それがいつの間にか恋愛に発展して、付き合うなんてな・・・
まぁ俺の場合長太郎に告られるまで、自分の気持ちすら気付いてなかったんだけどな。
その事で長太郎を傷つけた事もあったが・・・今や恋人だぜ
全く・・世の中どうなってんだよって思うけど、好きになったもんはしょうがねぇよな
ただ難を挙げるとしたら、忍足の奴が何かと絡んできて冷やかすのが気に食わねぇ
俺達が付き合った時も一早く『俺の予感は当たるやろ』って言ってきやがった。
その時は『ハァ?何の予感だよ』って答えたが、最近になって忍足の言っていた予感の話を思い出した。
「今年の一年の有望株はあの3人やな」
一年が入部して来て数ヶ月が経った頃、俺達の練習メニューの中に一年の素振りを見る事が追加された。
本当ならその時間も自分の練習に費やしたいとこだけどよ、そんな事も言ってられねぇ、兎に角人数が多いからな。
グループを作りローテーションを決めてみんなで順番に見ていた。
その日はちょうど俺のグループの順番で、一年のフォームをチェックしながら素振りをみていると、忍足の奴が近づいて来て俺の肩を叩いたんだ。
「あの3人って?」
俺が横に並んだ忍足の方に目線を移すと、忍足は指をさしながら一人一人説明していく。
「まずアイツ、跡部を追い駆けてきたんか跡部が呼んだんか・・まぁどっちでもいいけど
入学早々ずっと一緒におるあの樺地って1年は、只者ちゃうな」
忍足が一番最初に指をさした樺地という男は、あの長太郎よりも大きく目立つ図体をしているわりに控えめで、口数も少なく何を聞いてもウスしか答えない。
よくわからない奴だが、嫌な気はしない不思議な奴だ。
まぁ一番不思議なのは、あの跡部といつも一緒にいるって事だが・・・
「あのいつも跡部にべったりの奴がねぇ・・・ただデカイだけじゃないって事か?」
「まぁそうゆうこっちゃ。試合してるとこはまだ観た事ないけどな、やればおもろい結果だすやろな」
「ふーん。で、次の奴は?」
「ほらあの隅っこにいてるカリメロみたいな奴」
「カリメロ?何だよそれ」
「知らんか?ほらあの卵の殻かぶったひよこ」
「知らねーよ」
「そうか・・・まぁええわ。兎に角やあの隅っこでいつも素振りしてる奴。
アイツは出てくるな」
2番目に指をさしたのは、いつも同じ場所で黙々と素振りをしている奴だった。
確か名前は日吉だったかな?
目つきは悪いが、礼儀は正しい奴だ。
たまにボソッと『下克上だ・・・』って言ってるのが気になるけどよ・・
今は特に目立っている訳じゃない。
「そうか?あんまパッとしねぇけどな」
「まぁ今はな。でも必ず出てくる思うで。2年になったら楽しみやな」
「ふーん。じゃあ最後の奴は?」
「最後はアレや」
「アレって・・・長太郎かよ」
忍足が最後に指をさした先では、長太郎が素振りをしていた。
真面目にラケットを振る姿は、何処から見ても好青年って感じだ。
「そうそう宍戸が拾て来た鳳なぁ。アイツはサーブに磨きをかければ、レギュラーも夢ちゃうやろ」
「拾って来たって・・・連れて来ただけだろ。物みたいに言うなよ。
まぁしかし・・・長太郎はそうだな。アイツのサーブは武器になるな」
初めて長太郎のサーブを見た時に、直感するものがあった。
アイツのサーブはいつかみんなを驚かせる。
自分の事じゃないが、そう思うとワクワクした。
「嬉しそうに・・・ホンマ宍戸は鳳の話になると、優しい顔すんねんな」
優しい・・俺が?
「優しい顔ってどんなだよ。俺は別にそんな顔してねぇよ」
「本人は気付かんもんや」
「だからしてねーつってんだろ」
ニヤニヤ笑う忍足の顔を少し睨んでやったが、飄々として堪えてねぇみたいだ。
「まぁまぁそんな大きな声だしな。鳳が驚くやないか。なぁ?」
「はっ?長太郎?」
忍足の目線を追って振り向くとそこにはいつの間にか長太郎が立っていた。
「いえ・・・そんな俺は驚いてなんか・・・」
急に話をふられた長太郎が驚いて、言葉に詰まっている。
俺は小さく溜息をついて、長太郎に話しかけた。
「どうしたんだ長太郎?何かようか?」
「はい!あの・・・その・・・」
「何だ?ハッキリ言えよ」
「そうやで鳳。宍戸は遠回しに伝えても気付かへんタイプやからな。
何でもハッキリ伝えなあかんよ」
俺と忍足に言われて、長太郎が俺の方を真剣な眼差しで見つめた。
「はい。あの・・後で俺のサーブ見てもらってもいいですか?」
「何だそんな事か。こっちのが終わった後ならかまわねーよ」
「そうですか!ありがとうございます!では後で!」
「あぁ」
礼を言う長太郎に手を上げて応えると、横で俺達のやり取りを見ていた忍足が更にニヤニヤ笑っている。
「何だよ」
「だからやな。優しい顔してるなぁって」
「チッ!しつけーよ!」
「まぁアレや・・・宍戸が鳳に捕まるのも時間の問題って事やな」
「捕まる?」
「そう捕まる。俺の予感はよく当るんやで」
「バーカ。捕まらねぇよ。俺が後輩になんて遅れをとる訳ねぇだろ」
「えっ?イヤ・・・そうゆう意味じゃなくて・・・
ハァ〜・・・まぁええわ。その時が来れば自然とわかるやろうしな・・・
兎に角ここは俺が見といたるから、宍戸は鳳のサーブ見に行ってええよ」
「えっ?ホントにいいのかよ」
「ええで。これも鈍い先輩を相手にしとる、可愛い後輩の為やからな」
「鈍いって言うのは気になるけどよ。まぁお言葉に甘えてここはお前に任せるよ」
「はいはい。任せとき」
今思えばあの時から忍足は、何か感づいていたんだよな・・・
って言うか・・・よく考えればあの時既に冷やかされてるよな・・・
ったく激ダサだぜ
まぁなんだ・・・だからあんまり二人揃って遅刻なんてカッコ悪ぃ事はしたくない
忍足になんて冷やかされるかわかったもんじゃねぇし・・・
跡部も煩せーしな
それに俺のプライドがゆるさねぇ
ここはやっぱ叩き起こすしかねーか
「おい!長太郎!早く起きねーと朝練間に合わねーぞ!」
「う・・ん・・・もう少し・・・」
「おい!こら!寝ぼけてんじゃねぇよ!」
「ん・・・?あっ!宍戸さん!スッスミマセン!もう起きてたんですか?」
長太郎がベッドからガバッと上半身を起こした。
「起きてたじゃねぇよ・・・早くしろ朝練行くぞ」
「はい。すぐ支度します!少しだけ待ってて下さい」
「あぁ。けど、なるべく早くしろよ。」
「はい!」
長太郎の笑顔を見ると、ったくしょうがねーねぁと許してしまう。
こんな所を忍足の奴に見られたら、また宍戸は鳳に甘いって言われるだろうけどよ
こればかりは仕方ねぇよな・・・
コイツは俺にとって特別な存在なんだ。
俺を変える存在
長太郎
お前が俺の背中を見ているから、俺も安心して前を向いて歩いていける。
だから・・・これからもしっかり俺についてこいよ
久々の鳳宍です。なのに忍足の方が目立ってしまった・・・
まぁそんな事もありますよね☆
また改めて・・・この二人の馴初め話書きたいなぁと思っているので
いつになるかはわかりませんが、ついてきてもらえると嬉しいです☆
2007.12.11