Contrail 


                                                                    (side 長太郎)




       


誕生日とバレンタイン


バレンタインと誕生日

物心がついた頃には、もうどちらがメインでどちらが付属なのかわからなくなってしまっていた・・・

2月14日

それでも小さい頃は、素直に両方嬉しかったのに・・・

ここ数年は憂鬱で仕方がない。






「鳳くんごめんね。手伝って貰って」

「いいよ。俺もちょうど音楽室に用事があったし気にしないで」



昼ごはんを食べおえて、俺はバイオリンを弾くために音楽室に向かっていた。

その途中に同じクラスの吹奏楽の子と会ったんだ。

彼女はたくさんの楽譜を抱えて、見るからに危なげな感じで声をかけずにはいられなかった。



「バイオリンを弾きに行くの?」



彼女は俺の指にかかっているバイオリンに目を向ける。



「うん。今度発表会があるんだけど、午後は部活があるし練習ができないから昼休みに音楽室を借りて練習する事にしたんだ」

「そっか。頑張ってね」

「ありがとう」



発表会まではまだ1ヶ月以上あるけど、部活が終わってから帰って練習するには時間が足りない。

だから音楽室を借りて、時間が空く限り練習する場として使わせてもらう事にしたんだけど・・

発表会かぁ・・・

以前宍戸さんに話をした時はクラッシックは聴いてるだけで眠くなるって言っていたけど、誘ったら来てくれるだろうか?



「鳳くん?」

「あっごめん。今なんて言ったの?」

「あぁだからね・・・バレンタインが誕生日ってホント?」

「あぁ・・・」



俺は心の中で溜息をついた。

またその話・・・

年が明けて、バレンタインの季節が近づくとここ数年必ずと言っていいほど上る話題

何処から話が出るのか・・・聞かれる度に憂鬱になる。



「ホントだよ」

「そうなんだ。ロマンチックよね」

「ロマンチック?そんな事・・・ないよ」



そんな事はない。

誕生日がチョコを渡して告白していい日だなんて・・・

気が重いだけだ。



「きっとたくさんのチョコとプレゼントを貰うんだろうな」



だけど彼女は俺のそんな思いには気付かずに話を続ける。


女子の発想は良くわからない・・・

それがロマンチック・・に繋がるんだろうか?

俺はどう考えてもロマンチックには繋がらないけど・・・



「だからそんな事・・・・あっ・・」



もう一度続けて否定しようとした時、何処からか舞い込んだ風に楽譜が一枚巻き上げられた。

俺は押さえる事も出来ずに、目で楽譜を追う。

ゆっくりとスローモーションのように飛んでいく楽譜。

舞い落ちた先には、驚くような人が立っていた。



「し・・・宍戸さん!?」



宍戸さんは楽譜を拾うと、真っ直ぐ俺の方へと歩いてくる。



「ほらよ」

「あっ・・ありがとうございます!」

「音楽室に行くのか?」

「はい。バイオリンを弾きに・・・今度発表会があるから・・」



そう答えながら宍戸さんが、俺の隣の彼女を見ている事に気付いた。

だから・・・



「あっ・・彼女は同じクラスの吹奏楽の子で・・・」



彼女の説明をしようとしたのに、宍戸さんは上目遣いに俺を睨んだ。



「ば〜か。誰が説明しろって言った。

それよりも次からは楽譜が飛ばないように気をつけるんだな」

「はい。気をつけます」

「じゃあな」



宍戸さんはそれだけ言うと、歩いて行こうとする。

俺は慌てて呼び止めた。



「あっ宍戸さん!」

「何だ?」

「何処か・・・行く途中だったんですか?」



何となくだけど・・・

宍戸さんの機嫌が悪い気がして、どうしてもそのまま見送る事が出来なかったんだ。



「別に・・・・たまたま通りかかっただけだ。じゃあな」



だけど振り向いた宍戸さんは、俯きかげんに答えるとそのまま歩いて行ってしまった。



「宍戸さん・・・」
















「ありがとう。でもごめん・・・」



そう告げると、俺は彼女に背中を向けて歩き出した。


あぁ・・・今日これで何回目だろう。

プレゼントと祝いの言葉と告白

嬉しいけど・・・素直に喜べない。

誕生日の祝いの言葉までならいい・・・だけどその後の告白はキツイ。

好きな相手からなら・・・・俺だってちゃんと答えてあげられる。

もし相手が宍戸さんなら・・・


俺は小さく頭を振った。


馬鹿だな俺は・・・宍戸さんが俺なんて相手にしてくれるはずがない。

それどころか、俺がこんな想いを抱いているって知ったら・・きっと・・・軽蔑する。

だからこの想いは知られちゃいけないんだ。

知られちゃ・・・・


すっきりしない思いを引きりながら廊下を歩いていると、見慣れた大きな背中を見つけた。



「樺地!」



駆け寄ると樺地はチョコやプレゼントを入れたダンボールを抱えていた。



「ウス」

「大変だね。今日これで4個目?」

「いえ・・・5個目です」

「5個目っ・・・て、凄いな・・・まだ午後の練習があるのに・・・」



テニス部部長の跡部さんといつも一緒に行動している樺地。

今日は朝から跡部さんに届くバレンタインのチョコやらプレゼントを整理させられているらしくずっと忙しくしていた。

それだけ跡部さんの人気が凄いって事だけど・・・・

ホント樺地も大変だな・・・



「じゃあ樺地頑張ってね。俺はここから教室に戻るから」



少し一緒に歩いて階段下まで来た時に樺地と別れようと手を上げると、樺地が立ち止って俺を見た。



「ん?どうしたの?」

「お誕生日おめでとうございます」



あっ・・・・



「ありがとう樺地」

「ウス」



樺地は頭を下げると、また歩き出した。

俺はその姿を見送って階段を上り始めた。


お誕生日おめでとう・・・か・・・・

今日初めて素直におめでとうを言われた気がする。


それがとても嬉しいのに・・・・なんだか複雑なのは・・・

宍戸さん・・・ホントはあなたに言って欲しかったんですよ。


あなたが俺を想ってくれる事はなくても・・・

後輩としてでもいいから、あなたに一言おめでとうを言ってもらえれば・・

そうすればこんなに気が重い憂鬱な誕生日でも思い出に残るのに・・・

そう思っていたんですが・・・駄目ですね。


あなたは俺の誕生日なんて覚えていないだろうし・・・

それにこんなお祭り騒ぎじゃ・・・覚えていてくれたとしても・・・

まともに会話する機会なんて午後練もきっとない。

それどころか・・・朝と同じ様な感じなら顔すらまともに見る事もできないかもしれない。


いや・・・それだけじゃない・・・・

何故だかわからないけど・・・ここ数日。

あの楽譜を拾って貰った日以来、宍戸さんに避けられているような気がしてるんだ。

だからもし・・・話す機会があったとしても、おめでとうなんて言ってもらえない。

俺は小さく溜息をついた。



宍戸さん・・・・

俺、あなたに避けられる様な事を・・・してしまったんでしょうか?







さぁさぁ始まりました・・・1年以上ぶりの鳳宍vv


楽しんで貰えると嬉しいのですが・・・

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