Contrail


                                                                                   (side 宍戸)




早足でサロンに入ると、俺は一番端のテーブルでコーヒーを飲みながら小説を読む忍足の横に立った。


「おい」

「ん?アレ宍戸・・・もう戻って来たんかいな」



俺に気づいた忍足が目線だけ俺に向けると、俺は逸る思いを隠しきれず詰め寄った。



「あぁ。それよりも聞きたい事があるんだけどよ」

「まぁ座りいな。そんなとこで立たれてもゆっくり話なんて出来ひんやろ?」



忍足は読んでいた小説を閉じて、空いていたイスを引いた。



「あぁ・・そうだな・・じゃあ」



俺は忍足に言われるまま、引かれたイスに腰掛けた。


兎に角早く聞きたい・・・確認したい事があるんだ。



「で、話の前にや・・・今さっき鳳のとこに行くって音楽室に向かったのに、なんでこんなに早く戻ってきてんのか、その説明を先にしてくれるか?」



それなのに忍足は、コーヒーを飲みながらマイペースに話を始める。


チッ・・説明って・・・

まぁ・・聞かれても仕方ないか・・・

先ほどここで忍足に会って、長太郎に会いに行くと音楽室に向かったのは他でもない俺だからな。



「それは行ったけどよ。話せるような雰囲気じゃなかったから・・・」

「なんや女の子とでも一緒におったんかいな?」



なっ・・・・



「・・・まぁそんなとこだ」



何でわかったんだ?



「図星か・・・そんな事で戻ってきてどうすんねん」



忍足はあからさまに溜息をつくと、テーブルに肘をついた。

その姿にどうも気持が押されて、シドロモドロになる俺。



「そりゃ・・・俺も別に何もなければ話をしようと思ったけどよ。

なんか楽譜を運んでいて忙しそうだったし・・・」



って・・・なんで俺がコイツに言い訳しなきゃならないんだ。

それよりも、早く確認したい事が・・・



「まぁええわ。で、何を聞きたいんや?」



忍足は俺のそんな気持ちを知ってか知らずか、眼鏡を直しながら俺を見据える。



「お・・おう。あのよ長太郎の誕生日がバレンタインだって知ってたか?」

「ハァ?」

「だから2月14日だよ」

「2月14日がバレンタインって事は知ってる。恋する乙女の大イベントやからなぁ。

で、鳳の誕生日って事ももちろん知ってるけど・・・

まさか宍戸・・お前鳳の誕生日知らんかった・・って言うんちゃうやろな?」

「いやそれが・・・前に聞いた気もするんだけどよ・・・・」



長太郎と仲良さそうに歩いていた女子との会話

長太郎に会いに行って、偶然聞いてしまったんだが・・・

そうか・・・やはり長太郎の誕生日は2月14日なんだな・・・



「気もする。じゃないやろ・・・俺の記憶では、お前鳳に誕生日聞いてたで」

「えっ?俺が?」

「そうや」

「いつ?」

「いつ・・・ってホンマに忘れてるんか?

 お前の誕生日の日にタオル貰ってたやろ?

 その時にお前が聞いてたやん」

「俺がタオルを・・・長太郎に・・・・・・・・・・・・・・・・あっ!」



そうだ・・・あの日テニスコートの片隅で・・・











「チクショー!」

「どうしたんや?」

「代えのタオル忘れた」

「なんや・・・そんな事か・・・」

「そんな事って何だよ。代えのタオルとTシャツは必需品だろ?」

「それを知ってて忘れたんなら、仕方ないよな」

「チェッ・・激ダサだぜ・・」

「何々?宍戸タオルないの?俺の貸してやろうか?」

「いいよ。今使ってるやつ洗って使うから」

「そうそう。よけいな事はせんほうがいいで岳人」

「何でだよー侑士っ!俺の一日一膳を邪魔する気か?」



鞄の中をあさりながら忍足と岳人と話しているとそこに長太郎が紙袋を持って現れたんだ。



「あの・・・」

「ん?」

「これ・・・」

「なんだ長太郎?」

「使って下さい。中に新しい・・使ってないタオルが入ってるんで」

「使ってないタオルって・・・こんな紙袋に入った様な物受け取れる訳ねぇだろ?」

「紙袋はたまたまです。自分用に買ったらその・・これに入れてくれただけで・・・」

「じゃあ。ますます貰えねぇ。ちゃんとしまってろ。

 タオルなんてものはいくたらあっても、すぐ足らなくなるんだからよ」



そう言ってタオルを濡らしに、水飲み場に行こうと立ち上がると長太郎が俺の行く手を塞いだ。



「待って下さい。今日は宍戸先輩の誕生日ですよね?」

「はぁ?俺の?」

「はい」



真っ直ぐ俺を見据える長太郎。

俺は少し考えて『あぁ』と思い出した。



「そういえば今日は俺の誕生日だったな。すっかり忘れてたぜ」

「ですからコレ・・」

「は?それはさっき貰えねぇって言っただろ?」

「プレゼントします」

「えっ?プレゼントってお前・・・」

「使って下さい。お願いします」



紙袋を差し出して、頭を下げる長太郎に負けて俺はその紙袋を手に取ったんだ。

長太郎・・・・



「わかった。じゃあこれは遠慮なく貰っておく。ありがとよ」

「宍戸先輩・・」

「で、お前の誕生日はいつなんだ?」

「俺の・・・ですか?」

「あぁ」

「2月14日です」

「そうか・・・覚えていたら、この借りは返すよ」

「はいっ!」











そうだ・・・あの時に確かに聞いていた。



「なんや・・思い出したんか?」

「あぁ」

「で、どないするんや?」

「どないするって?」

「だから・・・鳳の誕生日にプレゼントを用意してやらんのか?」

「やっぱり・・・した方がいいのか?」

「そりゃあ。した方がいいに決まってるやろ。借りを返すって言ったんやから」

「そうか・・・だな・・」



あの時長太郎は自分用に買ったタオルを俺に譲ってくれたんだからな・・・



「ん?ちょっと待て宍戸」

「なんだ?」

「まさかお前・・・あのタオル偶然プレゼントされたって思ってるんちゃうやろな?」

「えっ?違うのか?」

「当たり前や。あんないかにもプレゼントですっていうような紙袋に入ったタオル

自分用に持ち歩いてる訳がないやろ?」

「でも長太郎が・・」

「あれは嘘や。もともとお前にプレゼントするつもりで用意してたに決まってる。

 じゃなきゃお前の誕生日にタイミングよくあんな物出てくるかいな」

「そう・・なのか・・?」

「そうや。だから借りを返す。じゃなくて真剣に誕生日のプレゼント考えたりや」

「あぁ」

「タオルとか同じ様な物はアカンで。鳳が喜ぶような物をプレゼントしたりや」

「わかってるよ」
















あれから毎日のように長太郎へのプレゼントを考えた。

長太郎が喜ぶような物を・・・真剣に・・・

だけど考えれば考えるほど、何も思いつかねぇ。

アイツの喜ぶもんって一体何なんだ?

明後日はもうアイツの誕生日だっていうのに・・・チクショー・・・・

焦れば焦るほどこんがらがって・・・長太郎の視線を感じると避けてしまう。

ホント激ダサだぜ・・・

俺は一体何やってんだ・・・



「一球入魂!」



んっ?アイツ・・・今サーブの練習してるのか・・・


声が聞こえた方へ目線を向けると、奥のコートで長太郎がサーブの練習をしている。

俺は暫くその姿を見ていた。



長太郎のサーブ。

スピードはあるんだが、よくネットに引っ掛かるんだよな。

あの掛け声を一緒に考えてからは、それでも入るようになったんだが・・・


どこかでまだネットに引っ掛かるのを恐れているのか、力を全て出し切れていない。

何か必ず入るっていう・・・自信のようなものがつければ、もっと良くなるのに。

アイツにはその自信に繋がるきっかけが必要なんだよな。



きっかけ・・か・・・

そうだな・・・そのきっかけをプレゼントしよう。




アイツのサーブがもっと良くなるように・・・・






宍戸さん視点も入れてみようかな・・・と入れてみたら


どうしてか忍足がいっぱい出てくるんですよね☆

そして・・その忍足・・・この関西弁であってるのか?

普段しゃべってても、文字にするとかなりの違和感なんですよ☆

大丈夫かな?

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