(side 長太郎)
「すみません。通してもらえますか?」
人混みを掻き分けるようにしてやっと部室までつくと、ドアを閉めてホッと一息つく。
ホントに今日は練習にならなかったな・・・
結局午後錬も朝練以上に人が集まって収拾がつかなくなってしまった。
コートの中の部員、外のギャラリー
もともと部員が多い上に、それを上回るギャラリーに流石の跡部さんも練習を中断せざるおえなくなってしまったんだ。
だけど・・・実際は練習を中断して、コートから外へ出てからの方が大変だった。
レギュラー陣の周りに集まる女子達。
様子を見ながら話しかけようと思っていた宍戸さんも一瞬にして見えなくなってしまった。
宍戸さん・・・
今日はもう話せないかも知れないな・・・
「わりと早かったね。鳳」
「えっ?あっ・・・滝さん・・・戻ってらしたんですか?」
声がした方に顔を向けると、既に制服に着替えた滝さんが座っていた。
「まぁね。いつまでも掴まってるほど、俺も暇じゃないしね。
だけど以外だな。俺はてっきり次は宍戸が戻って来ると思っていたんだけど・・」
「宍戸さん・・ですか?」
「そう。アイツこういうの苦手だからさ、そうそうに逃げてくるって思っていたんだけど・・
1年の女子辺りに捉まってるのかもね・・・あれで意外と年下には弱いからさ」
「そう・・・なんですか・・・」
「あっそうか・・・年下っていってもアイツの場合、鳳限定だったかな・・・?」
「えっ?」
「あぁ・・・こっちの話。それよりホントあの中からよく戻って来れたね。
今日鳳誕生日なんだろ?もっと捉まってるかと思ったよ」
「俺の誕生日知ってたんですか・・・?」
「そりゃあ。2年の女子の間でも、『鳳くんの誕生日、バレンタインなんだって』って
噂になっていたから、これは大変な事になるなって思っていたんだけど」
「そんな・・・俺なんて・・・先輩達に比べれば・・・」
「まぁ確かに、うちの部の連中は揃ってモテるからね。否定はしないけど、鳳も十分にモテてるだろ?って・・・あっでもその前に、おめでとうだったな」
滝さんがサラサラした髪をかきあげて、微笑む。
俺は慌てて礼を言った。
「あっありがとうございます」
「そんな頭下げなくていいよ。それより宍戸には言ってもらったの?」
「えっ?・・・・まだですが・・・」
「ふ〜ん。そっか・・・
ねぇ鳳。鳳ってさぁ去年のクリスマス辺りまで、俺達の事〜先輩って呼んでたのにさ。
最近は〜さんって呼ぶようになっただろ?特に宍戸の事とかさ・・・
それってやっぱり宍戸に何か言われたの?」
「あっ・・・はい。宍戸さんが・・・呼びやすい呼び方でいいって言ってくれたので・・」
「なるほど。やっぱりそうなんだ」
うんうん。と何か納得するように頷くと、滝さんは立ち上がって俺の方へ近づいて来た。
「30分」
「えっ?」
「鳳にやるよ。俺からの誕生日プレゼント」
「プレゼント・・・ですか?」
「そう。それ以上は岳人やジロー辺りが音を上げる可能性があるからね。
30分ぐらいなら、忍足と俺とで何とかしてあげるよ」
「30分ですか・・・?」
俺は滝さんの言ってる意味がよくわからなくて首を傾げた。
俺への誕生日プレゼントが・・・30分?
「まぁ・・・そういう事だからさ。頑張ってね」
「えっ?あぁ・・・はい・・・」
滝さんは俺の肩をポンと叩くと、そのまま部室を出て行った。
一応返事はしたものの・・・やっぱり滝さんの言っている意味がよくわからない。
俺は30分・・・何を頑張ればいいのだろう?
プレゼントって・・・一体・・・・
暫く滝さんが出て行ったドアを見つめて、俺は部室の奥へと移動した。
滝さんのプレゼントの意味はよくわからないけど・・・
いつまでも着替えないままいる訳にもいかないし・・・
それにこれも・・・・
部屋の隅に置かれたダンボール箱
今日限定で設置されたこの箱にはレギュラーの名前が書かれていて、その中には貰ったチョコやらプレゼントが入れられていた。
俺はその箱に部室に戻るまでに貰ったプレゼントやチョコを入れて、宍戸さんの箱を見た。
宍戸さん・・・まだ捉まっているのかな?
溢れるぐらい入ったダンボール箱を見つめながら、小さく溜息をつく。
あの人優しいから・・・
滝さんは年下だけに弱いみたいな言い方をしていたけど・・・そうじゃない。
ぶっきらぼうで言葉遣いもキツイところがあるけど、あの人は基本的に誰にでも優しい。
きっと断らずに全て受け取っているんだろうな・・・・
こういう時、素直にチョコを渡せる女子が本当に羨ましいよ。
俺だって・・・渡せるなら・・・受け取って貰えるなら宍戸さんに渡したい。
自分の誕生日とか・・・そういうの関係なく・・・素直に気持ちだけ詰めて・・・
宍戸さん・・・・
俺はもう一度今度は深く溜息をついた。
馬鹿だな俺は・・・・こんな事考えていても仕方がない・・・
どんなに想っても現実は何も変わらないんだから・・・
俺は自分のロッカーに移動して、ラケットを置くとジャージをハンガーにかけた。
「ったく・・・なんて人の多さだよ・・・」
その時、勢いよく部室のドアが開いて、静かだった部屋に聞きなれた声が響く。
えっ・・・この声!!!
「宍戸さん・・・」
「ん?あっ長太郎・・・お前・・もう戻ってたのか?」
「はい」
「よく戻って来れたな?凄い取り巻きだっただろ?」
「いえ・・・俺はそんな・・・先輩達に比べれば・・・・」
「先輩?まぁ・・確かに跡部や忍足は半端ねぇからな・・・・」
そう言いながら両手に持ったプレゼントの山を抱えて、部室の隅に置かれたダンボール箱の前に行く宍戸さん
俺はそんな宍戸さんの横顔を見ながら答えた。
「宍戸さんだって凄かったですよ」
「俺?俺は・・・大した事ねぇよ・・・」
・・・・大した事はない?
一瞬で見えなくなるほどに・・・凄かったじゃないですか・・・
そんな謙遜しなくても・・・俺は見てたんですよ。
ずっと話かけるタイミングを計っていたのに・・・
それに今だって、そんなにたくさんのプレゼント・・・
「何だよ?そんなに睨むなよ。嘘を言ってる訳じゃねぇんだからよ」
えっ?
あっ・・・いや・・・しまった。
つい顔に出てしまった・・・のか・・・
「そんな俺・・・別に睨んでなんか・・・」
「まぁ・・アレだ・・・確かに滝に助けられて、戻って来れたのも事実だけどよ」
「滝さん・・・ですか?」
滝さんが・・・どうして?
「あぁ。何だか知らねぇけど、ふらっと現れて先に部室に戻れってさ・・・
おかげでやっとあの中から抜け出せたよ」
「そう・・なんですか・・・」
滝さんが宍戸さんを・・・・
はっ!もしかして・・・滝さんが言っていたのってこの事・・・?
確か・・・30分・・・・
それぐらいなら何とかしてあげるって・・・・
それって宍戸さんとの時間って事なのか?
俺は部室に飾られた、時計に目をやった。
滝さんが部室から出て行って・・・大体10分ってとこかな・・・?
という事は・・・残り20分。
「長太郎・・・お前着替えないのか?」
「えっ?あぁ・・・着替えます」
宍戸さんはロッカーを開けて、いつもと変わりなく着替え始めた。
どうしよう・・・残り20分
もし俺の考えが正しければ、滝さんのプレゼントってこの時間の事なんだ。
でもこの時間をどう使えば・・・
それに滝さんはどうして俺にこんな事をしてくれたんだろう・・?
もしかして俺の気持ち・・・滝さんにバレているとか・・・・?
それってとてもヤバイ事なんじゃ・・・・・・・・・・・・
あぁぁっ!・・・今はそんな事考えている時間はないよな。
それよりもどうやってこの時間を有効に使うかだ。
それを先に考えてって・・・・・・駄目だやっぱり思いつかない。
二人っきりで話をするなんて、久々で緊張してしまう。
仕方ない・・・取り敢えず着替えながら考えよう。
『宍戸には言って貰ったの?』
黙々と着替えながら、フッと滝さんの言葉を思い出した。
そうだ・・・せめてこの時間に、宍戸さんにおめでとうって言ってもらえないだろうか?
今日が誕生日だって言えば、宍戸さんだって言ってくれるかも知れない。
それぐらいなら・・・望んでもいいですよね?
宍戸さん・・・
その為の時間なんですよね?
滝さん・・・
俺はブレザーに腕を通すと、宍戸さんの方へと体を向けた。
「宍戸さ・・・」
すると既に着替え終わっていたらしい宍戸さんが、腕を組んで俺の言葉を遮った。
「やっと着替え終わったか長太郎」
「えっ?あっ・・・スミマセン待っていてくれたんですか?」
「別に待ってた訳じゃねぇけどよ・・・」
目線を外した宍戸さんは舌打ちをすると、俺を見据える。
怒っているのかな・・・?
さっきまでは普通だったと思ったのに・・・・
これじゃあせっかくの時間も、祝いの言葉も無理かな・・・・
「お前さ。今日アレ全部持って帰るのか?」
「アレ?」
宍戸さんが顎で示した先を見ると、そこにはあのダンボール箱があった。
「いえ。全部は無理なんで、少しずつ持って帰るつもりですけど・・それが・・?」
「お前モテるんだな」
「えっ?」
俺が・・・?
「宍戸さんだってたくさん貰ってるじゃないですか」
「お前の方が多い」
「何を言ってるんですか・・・そんなの俺のはバレンタイン以外の物も混ざってるから・・・」
そうだ。俺のは誕生日プレゼントの分も混ざっている。
だけどあなたのは、全てバレンタインですよね?
あなたに好意を寄せている・・・そんな人達からのプレゼント
俺は歯軋りしたい気分で、宍戸さんのダンボール箱を見つめた。
「あぁ悪ぃ。そういうつもりで言ったんじゃないんだ。激ダサだな俺・・」
「宍戸さん・・・?」
ダンボール箱から目線を外して宍戸さんを見ると、宍戸さんは頭をかきながらばつの悪そうな顔をしている。
そして俺に近づくと、俺を見上げた。
「長太郎・・手を出してくれないか?」
「手ですか・・?」
「あぁ」
「わかりました」
俺は言われるまま右手を差し出した。
宍戸さんはそれを確認すると、ブレザーのポケットから何かを取り出した。
「ほらよ」
「これ・・・なんですか」
掌に載せられたのは、小さな小さな紙袋
「プレゼントだよ」
「プレ・・ゼント?」
「お前、今日誕生日なんだろ?」
「覚えていてくれたんですか?」
「まぁ・・・な」
宍戸さんは鼻の頭をかくと、少し目線を外した。
何だかその仕草が少し怪しいけど・・・凄く嬉しい!!!
「開けていいですか?」
「あぁ。構わねぇぜ」
宍戸さんの言葉を受けて、俺はその袋を開けて中のものを掌に出した。
「これは・・・」
出てきたのはクロスのネックレス
「お守りに・・って思ってな」
「お守りですか?」
「あぁ。お前まだサーブを打つ時にネットに引っ掛かんじゃねぇかってビビッてるだろ?
だから・・・引っ掛からねぇ為のお守りにしろ。
まぁ・・クリスチャンじゃねぇからどれぐら効き目があるかわかんねぇがな・・・
何もないよりマシだろ?」
「・・・宍戸さん」
あなたって人は・・・・ホントに・・・
俺は思わず宍戸さんに詰め寄ってそのままの勢いで抱きしめた。
大好きですっ!宍戸さん!
「わっ!おいっ長太郎!」
「嬉しいっス俺・・・肌身離さずつけます。サーブも絶対外しません!」
「わかった!わかったから離せよ!息苦しいだろ?」
「あっ・・・スミマセン」
我に返って慌てて宍戸さんを離すと、宍戸さんは肩で息をしながら少し頬を染めていた。
「馬鹿力だしやがって・・・」
「ホントにスミマセン・・・」
「まぁ・・いいよ。兎に角・・おめでとう長太郎」
「はい!ありがとうございます!」
優しく微笑む宍戸さんに頭を下げると、部室のドアが計ったように勢いよく開いた。
「ねぇ!もう入っていいだろ?」
顔を覗かせたのは向日さんだった。
向日さんはそのまま痺れをきらしたといわんばかりに入ってくると、その後ろを「あ〜ぁ」と呟きながら忍足さんが続く。
「岳人・・・あともう少し待ったれって言うたのに・・・ったくしゃあないなぁ〜」
「いいじゃん俺ももう眠いC〜!我慢できないC〜!」
そして更に芥川さんが続くと
「ジローも仕方ないなぁ・・・でもまぁ30分は守ったよね?」
最後に入って来た滝さんが俺に目配せをした。
滝さん・・・
そんな滝さんに目を奪われていると、一番最初に入って来た向日さんが俺の前で足を止めた。
「おめでとっ!鳳っ!俺ダッシュで着替えるからさ、ちょっと宍戸と待っててくれよな」
「えっ?あぁ・・・ありがとうございます。で、待つって・・・あれ・・?」
聞き返そうとした時にはもう向日さんは、ロッカーを開けて着替え始めていた。
「宍戸さん・・あの・・どういう事でしょう?」
「さぁ?俺にも・・・おいっ!忍足!」
向日さんの横で黙々と着替えていた忍足さんが、シャツのボタンを締めながら振り向いた。
「ん?あぁ・・さっきお前達がおらんとこで、鳳の誕生日会を開こうって話になってな。
跡部が店を押さえたから、今からそこに行こうって話や」
「俺の・・ですか?」
「そうや。勝手に決めて悪いとは思ったんやけど・・・
誰かさんはそういう事にニブチンやからな・・・プレゼントだけで精一杯やろうし・・・」
「・・・ニブチン?」
忍足さんの言葉に首を捻ると、俺の横で少し不機嫌な顔をした宍戸さんが忍足さんの背中に「誰がニブチンだよ・・・ったく」と吐き捨てるように呟いた。
宍戸さん・・・どうしたんだろ?
「なぁ長太郎・・お前勝手に決められて良かったのか?この後予定とか無かったのかよ?」
「えっ?あぁ・・はい。特に無いので・・・大丈夫です」
「そうか」
「それよりも宍戸さんの方こそ大丈夫なんですか?その・・・他に予定は・・・」
「あるわけねぇ〜だろ?それにあったとしても・・・
お前の誕生日の日ぐらい、お前を優先してやるよ」
「・・・宍戸さん」
宍戸さんを見下ろすと、着替え終わったメンバーがドアの前で俺達を呼んだ。
「ほらそこの2人!行くぞ!」
「跡部は後で遅れて来るって言うてたわ」
「ジロー寝るなよ。置いていくよ?」
「うぅ〜眠いC〜」
そんな先輩達の姿に、宍戸さんが溜息をついた後、俺を見上げた。
「じゃあ行くか」
「はい」
憂鬱だと思っていた誕生日が、優しい先輩達と大好きな宍戸さんのおかげで楽しいものへと変わっていく。
バレンタインが誕生日・・・・きっともう気が重いなんて思わない。
それどころか今日という日は、俺にとって本当に特別な日になった。
好きな人から貰ったプレゼント
「ん?長太郎・・・そういえばお前・・・あのプレゼント持って帰らなくて良かったのか?」
「あぁはい・・今日は宍戸さんに貰ったプレゼントだけ・・・持って帰ります」
それは・・・・一生の宝物
END
最後まで読んで下さってありがとうございますvv
鳳宍どうでした?
今回は氷帝メンバーという事で・・・かなり色々悩んだんですが・・・
楽しんで貰えましたか?
また・・・スローペースだとは思いますが・・・
鳳宍増やしていきたいとおもいますので、これからもよろしくですvv
2009.3.4