「ねぇ不二ぃ。手塚の誕生日って知ってる?」
「えっ手塚?さぁ・・・知らないけど・・・英二、手塚の誕生日知りたいの?」
「えっ?うん。何となく・・・いつかなぁ・・・って」
テニスコートの片隅で最近とっても仲良しになった不二にそれとなく探りを入れてみる。
・・・手塚の誕生日・・・
「じゃあ。本人に聞いてみれば?」
「う〜〜ん・・・」
それはちょっと・・・俺・・手塚って苦手・・・それにホントに知りたいのは手塚の誕生日というよりも・・・
「10月7日」
「えっ?」
声が聞こえた方に振り向くと、そこには乾が立っていた。
「ちなみに不二が2月29日、菊丸は11月28日、河村は11月18日
大石は4月30日、俺は6月3日だ」
そう言うと乾はパタンとノートを閉じた。
「よく調べてるね」
チラッと乾のノートに目を向けて不二が言うと
「これぐらいは当たり前だろう」
と乾が眼鏡を指で直した。
当たり前って・・・
少し呆気にとられつつ、そういえば何で俺の誕生日まで知ってんの?
とすっかり回答をもらった事にも気付かず俺も乾のノートを見た。
「へ〜でも俺、乾に誕生日なんて教えたっけ?」
「まぁその辺りは企業秘密だ」
いつもノートを持ち歩いてる乾。
その中身が俺達や先輩達や他校の選手のデータを取ってるって事を知った時は密かに不気味な奴って思ったけど
色んな事を知っていてわからない事があると解説なんかしてくれちゃったりして案外いい奴なのかもって最近思い始めてる。
「フフッ・・・企業秘密は置いといて、良かったじゃない英二。大石の誕生日がわかって」
「へっ?」
突然大石の名前が出て驚いて不二を見ると、乾も眼鏡を光らせた。
「菊丸が知りたかったのは大石の誕生日だったのか?それはもう知っている筈だと思っていたが・・・」
「ななな何で大石が出てくんだよ。っていうか大石の誕生日はいいんだよ。
俺が知りたいのは手塚が大石の誕生日を祝ったかどうかで・・・・あっ・・・・」
動揺して口が滑ってしまった。
「へ〜〜それで手塚の誕生日が知りたかったの」
「なるほど。もし祝ってもらっていたなら、大石も手塚の誕生日を祝うだろうからな」
不二はクスって笑って、乾はニヤって笑っている。
「わわわ!今のなし!そういうんじゃなくてさっ!えぇっと・・その・・」
俺はその二人の顔に更にパニくって何をどうフォローしていいのかわかんない。
「まぁ落ち着け菊丸。俺のデータだと今年大石は誰からも誕生日は祝ってもらっていない。
何故なら大体仲良くなったのは大石の誕生日後という者が多いからな・・・
まぁその前に仲良くなっていても、大石の性格上自分から誕生日がいつかなどとは言わないだろうから
知った時には過ぎていたというパターンだ」
「そっ・・・そうなんだ」
「よかったね。英二」
「えっ何が?」
「まとめるとだな。手塚は大石の誕生日を祝ってないという事だ」
「あっ・・いやだからさっそれは・・・・」
ホントこの二人って・・・俺の心を見透かしたように話すんだよなぁ・・・
知りたい事がわかったのは良かったけどさ・・・
この二人のニコニコ&ニヤニヤ顔が気になるじゃん・・・
まさか・・・俺の気持ち気付いてんのかな?
不二と乾の言葉にまたオロオロと動揺する俺の後ろに誰かが近づいた。
「何楽しそうに話してるんだ?」
「えっ?」
その声に驚いて振り向くと、思ったとおり大石が立っていた。
「やぁ大石」
「どうしたんだ大石?」
驚く俺をよそに、不二と乾はいつも通りの顔に戻って返事をしている。
「いや・・・ダブルスの練習をするっていうんで、英二を探しに来たんだけど・・・
それより3人で何を楽しそうに話てたんだ?」
「それはだな・・・」
首を傾げる大石に、乾が眼鏡を上げた。
まさか乾・・・・
「あぁっ!!ダブルスの話だよな!なっ不二!」
「あぁ。うん、そうだね。今後どうすればもっと良くなるかっていう・・ね、乾」
不二が乾に笑顔を向ける。
「まぁ・・・そんなとこだな」
乾は開きかけたノートを閉じると、俺を見た。
「そういう訳なんだよ大石っ!」
「へぇ。熱心だな英二。そこまでダブルスの事を考えてくれているなんて。
で、どんな話なんだ?」
「それは・・・その」
俺が言葉に詰まると、不二と乾が助け舟を出してくれた。
「大石。今からダブルスの練習じゃないの?早く英二を連れて行った方がいいんじゃない?」
「そうだな。それに聞くより実際動いて試した方がわかりやすい。特に菊丸はな」
「なるほど。そうだな。じゃあ早速英二を連れて行くよ。じゃあ行こうか英二」
「あぁ。うん」
歩き出した大石の後ろをついて行きながら、俺は振り向いて二人だけにわかるようにサンキューと合図を送った。
大石の誕生日・・・もうとっくの昔に終わったけど・・・
最近気になって仕方ないんだ。
だってアイツ・・・
やっぱ誰にも誕生日祝ってもらってないんじゃん。
ひょとして一番に大石と仲良くなった手塚は祝ったのかな?って思ったけど・・・
祝ってないみたいだしさ・・・
それなのに・・・アイツ・・・
「おめでとう」
乾はああ言ってたけど、俺見ちゃったんだよ。
そして気が付いたんだ。
自分は祝ってもらってないくせに、誕生日を知ってる奴にはちゃんとおめでとうって声をかけてる事。
それってなんか寂しくないか?
大石の奴は、おめでとうって誰にも言ってもらってないんだよ。
それなのにさ・・・真面目っていうか律儀っていうかさ・・・
俺も確かに大石の誕生日におめでとうって言ってないんだけど・・・
なんだかさ・・・アイツのそんな姿見ると・・・
歯軋りしたくなるような、そんな気分になるんだ。
「英二」
「へ?」
「ちゃんと先輩達の練習も見ておかなきゃ。次は俺達の番だぞ」
大石が俺の肩に手を置いて、顔を覗き込む。
あっ・・・そうだった・・・
さっきからずっと目の前で繰り広げられる先輩達のプレー
見る事も練習の1つだって事は、俺にだってわかってる。
だけど・・・すっかり考え込んでしまっていた。
「ごめん・・・」
「あっいや・・・そんな沈んだ顔しなくても・・・えっと・・その参ったな・・・怒ってる訳じゃないんだ」
大石が俯いた俺に、アタフタしている。
そんなに動揺しなくてもいいのに・・・お前気を使いすぎだよ。
っていうか・・・ホント大石って人が良すぎるんだよな。
今だって俺がちょっと沈んだ顔をしただけでアタフタしちゃってさ・・・
もっとビシッて怒ったままでもいいのに。
だけどこれが大石なんだよな・・・
優しくて真面目で・・・人の事を思いやれる奴なんだ。
だから誕生日の事だって、たぶんきっと気にしてない。
誕生日を知ってれば、おめでとうって言うのは当たり前だってぐらいに思ってんだ。
それを俺が勝手に歯軋りしてるだけでって・・・
俺・・・ずっと歯軋りすんのかな?
大石が変わるわけ無いから、きっとまた同じ光景を見たら・・・聞いたら・・・
やっぱ駄目だ。何か許せない。
人が良すぎるにも程があんだよ。
あ〜〜〜ホントイライラしてきた。
大体さ。大石が誰にも祝ってもらってないのが悪いんだ!
祝ってもらってたらさ、こんなにイライラする事もないんだよ!
・・・・・祝って?
そうだ!うん、問題はそこだったんだよ!
大石を祝ってやればいいんだ!
そうすれば俺のイライラも無くなるってもんだよ。
誕生日はもう思いっきり過ぎちゃってるけどさ・・・そんなの関係ないよな。
これは俺の気持ちの問題なんだから。
「英二。ほら顔を上げて」
「大石」
「怒ってないから。だけど、その・・・ちゃんと先輩のプレーは見ておいた方が・・」
「今日さ。帰り付き合ってよ」
「俺達の為にもなるっていうか・・・・えっ?」
大石は一瞬何が起こったかわからないって顔して俺を見た。
「帰りが・・・何だって?」
「だ・か・ら。帰り俺にちょっと付き合ってくんない?俺行きたいとこがあんだよ」
「行きたいとこって・・・何処に?」
「何処でもいいじゃん。で、付き合ってくれるの?」
「えっ?あぁ・・・まぁそれは別に構わないけど・・・」
「んじゃ。練習終わったら速攻出かけようぜ」
「あっあぁわかった。それで英二・・・」
大石が俺に何か言いかけた時に、先輩達の練習が終わって俺達を呼んでいる。
俺はニッと大石に笑いかけた。
「行こうぜ大石!」
「えっ?あっうん・・・」
大石は眉を寄せて怪訝な顔をしたけど、俺は構わず大石の背中をバシンと叩いてコートの中へ 意気揚々と走り出した。
英二って健気だな・・・って自分で書いてるんですが思ったりしてます(笑)
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