Happy Birthday Dear Oishi 1






「で・・・何処に向かってるんだ?」



大石が同じ事を聞くのもこれで3回目

まぁ無理も無いんだけどな。

大石には行く場所も、行く理由も言ってない。

ただ付き合ってって言葉だけで、練習が終わった後の着替えを急かし、ここまでついて来させてんだから・・・

聞きたくなるのもわかる。

だけどあんまり聞かれるのも困るんだ。

もし先に行き場所を教えて、理由なんて教えようもんなら大石は帰ってしまうかもしんない。

そうなると、俺の歯軋りはこれからも続いてしまう訳で・・・だから



「行けばわかるって」



俺も同じ事を3回答えた。






「ジャジャーン!到着!」



目的地に着いて俺はおどけた様に大石に笑顔を向けた。



「到着って・・・ペットショップじゃないか・・・」

「そうだよ」

「そうだよって・・・それなら別に隠さなくても良かったんじゃないのか?」

「まぁまぁ。いいじゃん!兎に角入ろうぜ」



俺は大石の背中を押して、店内へと入っていった。


そう・・・目的地はペットショップ

俺、良い事思いついたんだよね。

今更『お誕生日おめでとう』って声をかけるのも変だし・・・

プレゼントを意味も無いのに渡すっていうのも変だろうし・・・

そうなると、何かいい訳が出来て尚且つ不自然じゃない物を渡さないといけない。

そこで思いついたのが、大石が大切に飼ってる熱帯魚の餌

これだとさプレゼントって感じでもないし実用的だし、俺が大石の家に遊びに行った時にあげる・・

俺専用の餌って事で渡せば、大石も流石に断らないだろうって思いついたんだ。

うん・・・我ながら名案だよな。

それに熱帯魚の餌ぐらいなら俺の今の所持金で何とかなるだろうしね。

う〜んと・・・確か3000円は入ってたよな。



「英二。見て」

「えっ何大石?」



俺が一人ニシシとこれからの事を思い描いていると、猫が展示されてるゲージの前で大石が手招きしている。



「ほらこの子猫」



大石が指さす方を見ると、二匹の猫がじゃれあっていた。



「わぁ可愛いっ!」

「だろ。こっちの子猫がこっちの子猫にじゃれついてさ。結局二匹で転がってるんだよ」

「ホントだ」



大石が言うように、一匹の元気のいい方の猫が大人しい方の猫にちょっかいを出しては

結局二匹で絡まるようにゴロゴロ転がって、その後離れてはまた同じ事を繰り返している。



「可愛いなぁ」



そんな姿にしみじみと言うと



「そうだな。こっちの猫なんて英二みたいに可愛いよ」

「えっ?」



大石が不意打ちにとんでもない事を言うから、俺の顔は一気に真っ赤になった。

ななな何、可愛いとか言ってんだよ!

声には出さずに大石の方をジロっと見ると大石の顔も真っ赤になっていた。



「あっ・・・その・・この猫、凄く元気がいいから英二みたいだなって・・・

えっと・・・ね・・猫可愛いよな・・ハハ・・」



シドロモドロに説明しながらカラ笑いする大石。

な〜んだ・・・猫が可愛いのか・・・

俺みたいにって言うから、てっきり俺の事を可愛いって思ってくれてるのかと思っちゃったじゃんか・・・

チェッ・・・



「それより大石。熱帯魚観に行こうぜ」



俺はちょっとだけ拗ねた顔をして先に歩き出した。


何だよな、大石の奴・・・俺の気も知らないで・・・紛らわしい・・・ったく・・・・



「えっ英二?」



大石は慌てて俺の後について来ている。



「俺・・何か気に障るような事言ったかな?」

「別に〜」

「ホントか?」

「ホントだって」

「ホントにホントか?」

「しつこいぞ!大石!」



何をそんなに気にかけてんだよ。

猫が可愛いっていうのを間違えて、俺の事可愛いって言っただけだろ?

それよりも可愛いって言われたと思って勘違いして赤くなった俺の立場も考えろよな。

俺、馬鹿みたいじゃん。



「それなら・・・いいんだけど」



振り向いて見た大石は苦笑いしている。


チェッ・・・たく・・・

まぁいいや・・・すぐ赤くなってしまう俺も俺だもんな・・・

それにこんな事で変な雰囲気になってしまうのも困る。

目的はこっそり大石をお祝いする・・・なんだから



「大石。熱帯魚」



俺は熱帯魚コーナーの前で立ち止ると、仕切りなおしとばかりにニッと笑った。

大石は苦笑いした後、何も話さず俺の後をついて来ていたけど熱帯魚を見ると目の色が変わったのがわかった。



「綺麗だな」

「うん。綺麗だよな。あっ!こいつ大石のとこにいたのと同じ種類じゃない?」

「あぁ。それはまた別の種類だよ」

「えっ?マジ?あぁやっぱ駄目だ。俺、似たような形だと全部同じに見える」

「ハハハ。そんな事無いよ。何度も見ていれば覚えるよ」

「俺んち飼ってないじゃん」

「俺の家で見ればいいじゃないか」

「大石の家で・・・?」

「あぁ。俺の家で」



大石は優しく俺に微笑んでくれている。

ちょ・・・・この流れ・・・すごくいいんじゃないの?

俺の専用の餌って事で大石に熱帯魚の餌をプレゼントしようとは思っていたけど・・・

どうやって話を持ち出すかは、実は行き当たりバッタリ作戦だったからさ

この流れに乗れば、全然不自然無く渡せるじゃん!

よぉし!頑張るぞ!



「ねっ大石。大石が使ってる熱帯魚の餌ってさ。ここに売ってる?」

「熱帯魚の餌?」

「うん!」

「英二・・・熱帯魚を飼うつもりなのか?」

「えっ?あぁ・・・まぁいいじゃん。兎に角教えてよ」

「まぁいいじゃんてって英二・・・じゃあ餌コーナーに行ってみようか?」



大石はそう言うと、少し離れた餌が並んでいる棚の方へ歩き出した。


ここまでは・・・・完璧パーぺキパーフェクトってね。

これでこっそりお祝い作戦もバッチリだな。

大石が選んでいる後ろで、笑みが漏れる。



「英二?」

「おわっ!ごめん。ごめん。あった?」

「あぁ。あったよ。これなんだけど」



大石の手にはプラスチックの容器に入った熱帯魚の餌が握られている。



「見せて」



俺は大石から受け取って、そっと値段だけ確認した。

2730円

えっ?2730円・・・・いっ意外と熱帯魚の餌って高いんだな・・・

俺の財布・・・大丈夫だよな?

3000円は入ってたよな?

いや待てよ・・・確か来る時に自販機でジュースを買って・・・

その時に小銭が無くて、1000円崩したけど・・・・

ギリ・・・ギリ大丈夫だよな?



「英二、どうしたんだ?」

「へ?あぁ何でもない。それよりさ大石はもう何も見ない?」

「俺?そうだな・・・折角だし水草も見たいな」

「おっ!いいね。じゃあ次は水草を見に行こう!」



俺は逸る気持ちを抑えながら大石と水草の入った水槽前まで一緒に行き、そこでトイレに行くふりをして熱帯魚の餌を購入した。




「大石楽しかったな」

「あぁ。たまにはペットショップで色んな動物見るのも楽しいな」



大石の手には水草が入った袋がしっかり握られている。

帰ったらアクアリウム・・・だったかな・・・?

兎に角、熱帯魚が入った水槽に入れるらしい。

俺はその揺れる水草を見ながら、プレゼントを渡すタイミングを計っていた。


もうそろそろ話を出さなきゃ・・・渡せないまま大石と別れる事になる。

そんな事になれば俺の歯軋りは・・・

それに買ったプレゼントだって・・・・

俺は意を決した。



「大石。これ」

「ん?」



俺は立ち止ってラケットバックの中から、さっき買った熱帯魚の餌を取り出した。



「これって・・・英二買ってたのか?」



大石は俺が差し出した袋を見て驚いた顔をしている。



「まぁ・・・うん。そんでさ・・はい」

「えっ?」

「大石にやる」

「えっ?」



大石は更に驚いた顔をして、袋と俺の顔を交互に見た。

そして予想してた通り、やんわりと断った。



「嬉しいけど・・・貰う理由なんてないよ」



やっぱりな・・・理由もないのに受け取ったりしない・・・そう思ってたよ。

だから考えてこれにしたんだ。



「やるって言っても、俺のだから」

「えっ?」

「俺専用の餌。さっき大石、俺の家で熱帯魚見ればいいって言っただろ?

だから見に行った時にさ、熱帯魚にやる俺専用の餌」

「俺専用の餌って・・・餌なら俺のを使えばいいのに」

「いいだろ!これからたくさん大石の家に熱帯魚見に行くからさ」

「見に来るのはいいけど・・・でも・・・」

「それに大石の持ってる餌を俺が使えば、あっと言う間に無くなっちゃうよ」

「英二・・・熱帯魚にはそんなに餌をあげなくてもいいんだよ」



うぅ〜〜〜大石の奴手強いな・・・・

でも負けてらんないもんね!



「兎に角!俺がやるって言ってんだからいいじゃん!大石の家に置いといてよ。

大石が家にあるのから使えばいいって言うならそうするからさ」

「う・・・ん」



大石は腑に落ちないって顔をしたけど、俺はお構い無しに大石に熱帯魚の餌を手渡して、もう一度念を押した。



「ね!大石!」



頼むから受け取ってくれよ。

俺からのプレゼント

ホントはずっと引っ掛かってたんだ・・・

仲良くなった時は、もうお前の誕生日は過ぎていて・・・おめでとうって言えなかった事

仕方ない事なんだけどさ・・・

大石が他の奴におめでとうって言ってるの見て、何だかやるせない思いが込み上げてきたんだ。

俺、お前の事祝ってやりたいんだよ。

・・・違うな・・・祝いたいんだ。



「わかった。じゃあ貰っておくよ。ありがとう英二。

だけど・・・ホントに熱帯魚に餌をあげに来てくれよ。これは英二専用なんだから」

「うん!絶対行く!大石が来んなって言っても行くよ!」

「ハハ・・・こりゃ大変だな」



大石は言葉とは裏腹に、凄く楽しそうに微笑んだ。


良かった・・・ちゃんと渡せた。



「んじゃ俺。あっちだからさ」

「あぁうん。じゃあまた明日な英二」

「うん。また明日、大石」



いつも別れるT字路で大石に別れを告げて、俺は心同様に軽やかに走り出した。

長く伸びる影を踏みしめて、少し傾斜になった道の途中で立ち止って振り返る。

大石はまだ別れを告げた場所に立っていた。



「大石っー!!」



俺が大きな声で呼ぶと、大石は手を上げて答えてくれている。

俺はその姿を確認して、口の横に手をそえて、口だけをパクパクとゆっくり動かした。



『お・め・で・と・う』

「何だってー?」



何かを言われたって事は大石にもわかったみたいで、大きな声で聞き返してくる。

だから俺は



「また明日なー!!」



とブンブンと手を振った。

そして心の中でもう一度呟く。




大石。お誕生日おめでと

これからも・・・よろしくな





                                            END





最後まで読んで下さってありがとうございます。


3年生の誕生日話を去年書いたので、今年は1年生の話にしました。

って事は来年は2年生・・・?それとも・・・?

取り敢えず、今年も無事大石の誕生日が祝えて良かったです。

永遠の15歳!大石お誕生日おめでとうvv

2008.4.30