キミがいるだけで

                                                                              (side 英二)





ねぇ大石・・・俺達のダブルスって一体なんだったの・・・・



「くっそ〜乾の奴・・変な物、飲ませやがって〜うぅぅ・・・」



練習のノルマをこなせないと乾汁・・・

いつのまにか定着した罰ゲームともいえるこの習慣に誰も逆らえず、毎日のように犠牲者が出ていた。

今日も・・・練習を開始して暫くすると、1人また1人と犠牲者が増えている。


俺はそんな奴達を見て、最初はニャハハハっと大笑いしていたんだけど、乾の提案でした不規則なゲーム練習にとうとう俺も捉まってしまった・・・・

おチビとの試合に負けてしまったんだ。



「はい。これ飲んで菊丸」



乾はコートから出てきた俺に近づくと、乾汁を差し出す。

俺はその見るからに怪しげな飲み物にだじろいだ。



「うぅぅぅぅ・・」

「乾。コレ量が多くないか?大丈夫なのか?」



俺のそんな姿に俺とおチビの試合を観ていた大石が心配そうに乾に聞いてくれたけど、同じ様にコートから出てきたおチビが大石に詰め寄った。



「副部長。英二先輩だけ甘やかすのは、無しですよ」

「しかし・・だな」



おチビを見下ろす大石を、おチビは帽子のツバを上げて見返した。



「俺だって前に負けた時、ちゃんと飲んだんですからね。

 そこんとこはちゃんと守って貰わないと」

「だそうだ・・・菊丸」



おチビの言葉に乾が楽しそうに、乾汁を差し出す。



「わ・・・わかったよ!飲めばいいんだろ!飲めば!」



俺はおチビと乾の視線を受けて、半分ヤケクソ気味にコップをもぎ取った。



「そうそう。頑張って下さい。英二先輩」



ったく・・・おチビの奴・・・

次は絶対に負けないかんなっ!!!


ゴクッ・・ゴクッ・・・ゴクッ・・・・



「英二。大丈夫か?無理はするなよ・・・」



心配顔の大石をよそに俺は一気に乾汁を飲む。

一応コレでも俺はおチビより2年も先輩だかんな。

おチビに飲めて俺は飲めないじゃ示しがつかない。

・ ・・・なんて思ったけど・・・・



「ゲェーーー!!!不味い!!!!」



あまりの不味さに、コップを投げ出して、俺はその場から走り出してしまった。



「英二っ!おいっ!何処行くんだ!!」



走り出した俺を大石が大きな声で呼び止めたけど、止まってなんかいられない。


それぐらいの不味さ・・・乾の奴なんてもん作んだよ!


俺はそのまま学校も飛び出して、街中へと走っていった。
















「うぅぅぅ〜気持ち悪い・・・胃薬・・・」



俺は朦朧としながら薬局を目指した。


薬局に行って早くこのムカムカを抑える薬を買わなきゃ・・・練習なんて続けてらんない。

そんな思いで駆け込んだ薬局で俺は力尽きてしまった。

もう駄目だ・・・


そんな時だった。



「あの・・・大丈夫ですか?何処か悪いんですか?」



座り込んだ俺の顔を覗き込む様に誰かが声をかけてきた。

俺は驚いて俯いていた顔を上にあげると、そこには目の大きい、セミロングの女の子が心配そうな顔をして立っていた。



「へ?あぁうん。ちょっと・・・練習で変なもの飲まされて胃が・・・だから胃薬を・・」

「変なもの?」

「うんそう。乾汁って言ってさ・・・兎に角、怪しい飲み物を飲まされて・・・うぅぅぅ・・」

「そっそう・・・なんですか。兎に角そんな状態じゃ選ぶの無理ですよね?

私が変わりに胃薬買って来ましょうか?」

「えっ?ホント?助かる・・・お金は後でちゃんと払うからさ・・・」

「はい。じゃあ少し待ってて下さいね」



彼女は言葉通りに立ち去ると、親切にも俺の代わりに胃薬を買いに行ってくれた。

そして戻った時には、コップに水まで入れて運んで来てくれた。



「胃薬と水です。どうぞ」

「ありがと」



俺はそれを受け取って、そのまま胃へと流し込む。

飲んですぐに効く訳じゃないんだろうけど・・薬を飲んだという事実が気分を楽にさせた。



「うん。何だか凄く楽になった!」

「ホントですか?良かった・・・」

「あっそうだ・・俺、名前言ってなかったよな。青春学園3年 菊丸英二。君は?」

「私は桜臨中2年 鏡見梓真です」

「かがみ・・あずま・・ね。ホントに今日はあんがとね!」



それから俺達は鏡見がテニスラッケットを持ってた事からテニスの話になり、更に今度跡部が開催するダブルスの試合の話になった。



「そっか・・・鏡見も出るんだ」

「はい。でも練習相手がいなくて・・・困ってるんです」



跡部が主催するダブルスの大会は全国の強豪達がバッジを賭けて戦って、15個集めた者だけが参加出来るというものだ。

だけど鏡見は最近引っ越してきたばかりで友達も殆どいないらしい。

それに付け加えて、編入した桜臨中には硬式テニス部は無く、テニススクールで練習してるって・・・

そんな状態じゃあ確かにまともな練習って出来ないよな・・・

試合に出るのに練習量なんて全然たんないだろう。



「わかった。じゃあさ、俺が練習付き合ってやるよ」

「ホントですか!?」

「うん。ただし・・・部活後とか俺の暇な時だけだけど・・」

「それでも構いません!助かります!」



喜ぶ鏡見を見ながら、俺は半分助けて貰ったお礼・・・半分は人助けのつもりで気軽に自分のメルアドを教えたんだ。



この出会いが俺達青学黄金ペアにとって後々歪を生むことなど知らずに・・・

俺は・・・
















「不二。今日も一緒に帰ろう」

「今日も・・・って英二。大石は?」

「大石は、鏡見兄の練習に付き合うんだってさ」

「今日も?」

「そう今日も!だからさっ不二。一緒に帰ろうよ」



半分ふて腐れ気味に不二を誘うと、不二は少し言い辛そうに頭を傾けた。



「ごめん・・今日はちょっと約束があって・・・悪いけど桃でも誘ってくれる?」



えー!と心で叫んで、でも不二の顔を見るとそんな事口には出来なくて、俺は床を蹴りながら窓の外を眺めた。



「ちぇっ・・・仕方ないなー。んじゃあそうするか・・・」



後で桃・・・誘ってみるかな・・・



「それより最近大石よく武蔵の練習に付き合ってるんだね」

「うん・・まぁ・・大石の性格を考えれば、仕方ないけどね・・・」



俺は不二へと目線を戻して口を尖らした。

ここ最近頻繁に大石は練習が終わった後、鏡見武蔵・・・梓真の兄とダブルスの練習をしている。

それというのも俺が妹の梓真と知り合ったその日、俺を探して追いかけて来た大石と鏡見の兄、武蔵も偶然知り合いになって

俺と同じ様に練習に付き合う話をしてたからだ。



「じゃあ英二も、鏡見妹の練習付き合ってあげれば?」

「梓真の?あ〜今日は跡部と練習するらしいから、俺はいいんだってさ」

「へ〜跡部がね・・・」

「っていうかさ、不二が鏡見兄と練習すれば、大石はお役御免で俺と遊べるのに」

「コラ英二・・・僕にだって色々あるんだからね」

「だってさ・・・」

鏡見兄、武蔵と鏡見妹、梓真・・・凄い偶然なんだけど上手い具合に青学レギュラー半分を分けて俺達は鏡見兄妹と知り合いになっていた。


大石と不二とタカさんと桃は兄、武蔵と・・・

俺と手塚と乾と海堂は妹、梓真と・・・

おチビだけが2人と面識があるらしいけど・・・


兎に角そんな感じでそれぞれ知り合いになった方とみんな同じ様に練習に付き合う話をしていて、時間が空いた時に連絡を取り合っている。


だけどさ・・・最近少しずつそのバランスが崩れ始めている事に気付いた。

何故か大石だけが、頻繁に練習に付き合ってる・・・そんな感じがするんだ。

そして俺はその事に気付きながら、鏡見達兄妹の境遇を知ってるだけに文句も言えなくて・・・



「英二・・・そんな顔しないでよ。わかったから、今日は無理だけど明日はなんとかしてあげるから」

「・・・不二」

「だけど根本的な解決にはならないよ。英二もさ、もっと我慢しないでちゃんと大石に話をしてみれば・・

武蔵の練習相手は他にもいる筈なんだから」

「うん・・・」



そうなんだ・・・ホントは一言大石に鏡見武蔵と練習するのをやめてくれ。

俺達だってペア組んで、跡部の大会に出るんだろ?


そう言えれば簡単に解決するのかも知れない。

だけど俺だって梓真と出会ってしばらくは、お礼だ人助けだって言いながら大石より梓真を優先してた時期もあったし・・・

それにあの時俺が学校を飛び出しさえしなければ、あの2人が知り合いになる事も無かったかもしれないし・・


そう思うと少なからず自分のせいでこうなってしまったという思いが、俺の言葉を大石への想いを踏み止まらせていた。


きっと我慢は今だけだ・・・そう言い聞かせながら・・・
















「桃っ!おチビ!ホントゴメン!今回だけだからさ!」

「英二先輩。マジで今回だけっスよ。次は絶対に無いですからね」



桃が頭をかきながらそう言うと、おチビはその横で不敵な笑顔を俺に向けた。



「えびカツバーガーも、忘れないで下さいよ」

「わかった!わかった!お礼に絶対、奢るからさ。今回だけ桃借りるな」



俺は不二に言われた通り練習後、桃を誘った。


桃はホントはおチビとバッジ集めの試合に行く予定だったみたいだけど、そこに割り込んで強引に俺に付き合ってもらう様に頼んだんだ。

2人は最初は少し渋ったけど、今度えびカツバーガーを奢るって事で承諾してくれた。

だけどホントは・・・最近俺が帰りに大石と一緒にいない事を知ってるから

気を使ってくれたのかも知れないけど・・・



「で、どうすんスか?」

「今日はバッジ集めの試合がしたいんだけど・・・」

「それなら海辺のコートに行きません?」

「海辺の?うん。いいね。行こう!」



俺は桃と海辺のコートへ向かった。

そこは潮風が心地よく吹く所で、今日みたいにちょっと気分が落込んでいる時には最適な場所だ。

きっと気分も晴れるだろう。



「桃っ!絶対勝つかんな!」

「了解っス!誰が来てもドーンと一発決めてやりますよ!」



俺はよしっ!と心の中で気合を入れなおして、真っ青な空を見上げた。











「遅いっスね・・・」

「もう誰か来てもいいのにニャー」



潮風に吹かれながら、桃と他愛の無い話をして対戦相手を待ってるのになかなか現れない。

せっかく気分も上向きになって、気合も入っていたのに・・・出ばなをくじかれた気分だ。

俺は座り込んで、側に落ちていた棒を拾い地面にらくがきを書き始めた。



「ホントっスよね・・・って・・あっ!英二先輩!誰か向こうから来たみたいっスよ!」

「えっどこどこ?誰が来てもコテンパンにしてやるかんなー!」



桃の言葉に座り込んでいた俺は立ち上がった。


待ち望んだ対戦相手

アクロバテックをガンガン決めて気分を晴らすんだ!

ワクワクしながら桃の指差す方を見た。

それなのに・・・・


えっ・・・嘘だろ・・・


だんだん近づく対戦相手、その姿に俺は持っていた棒を落とした。


大石・・・











コートに現れた二人に動揺して、俺は上手く声をかけられなかった。


まさか対戦相手が大石と鏡見だなんて・・・


そんな俺に気づいたのか、桃が俺を鏡見に紹介してくれた。



「あっそうか・・2人は初対面だったんスよね・・」



桃は鏡見とはすでに知り合いで、親しげに俺の事を説明している。

俺はその間大石を見ていた。

大石は優しい顔で微笑みながら鏡見の事を見ている。


なんで・・・大石・・・お前、試合も付き合ってたの?

そんなの俺、聞いてないよ・・・



「・・・英二先輩?」


不意に桃に呼ばれて俺は、意識を戻した。

そして精一杯の笑顔を作る。



「えっ?あぁごめん・・よろしくな。鏡見」

「あぁ。よろしく!」



鏡見は明るい笑顔を俺に向けた。

その横で大石がようやく俺に目線を向ける。



「英二。青学黄金ペアも今日は敵同士だな」



敵同士って・・・大石・・・なんで微笑みながらそんな事を言うんだよ・・・?


俺は大石の言葉に動揺しながらも、大石の話しに乗るように答えた。

動揺してるのを、気付かれたくなかったから・・・



「じゃあ青学黄金ハーフペア対決ってわけだな」

「ハハハ、お互い頑張ろう」

「おうっ!」



大石・・・

いつもと同じ笑顔なのに・・・大石が遠い。

ネットを隔てた向こう側、たった数メートル先なのに・・・

なんでこんなに遠いんだ・・・



あぁ・・そうか、あの笑顔は俺に向けられた笑顔じゃないからだ。

あの笑顔は鏡見に向けられたもの。

あの大石は俺の大石じゃない・・・・



『英二。青学黄金ペアも今日は敵同士だな』



大石・・・本当に今日だけなのか?

まさかこのままずっと鏡見とペア組むつもりじゃあ・・・



気持ちを誤魔化しながらやった試合は・・・・惨敗だった。






ダブルスの王子様の発売と30000HITをした時がちょうど同じ頃の時期で


たまにはゲームネタで書いてみるか・・・なんて思ったのが、間違いの元?

なんだか無駄に長くなってる感じもしますが・・・最後までお付き合い頂けると嬉しいですvv

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