暖かい光差し込む窓際。
並んでいるサボテン達。
ジャズを聞きながら、ゆったりとロッキングチェアに腰を下ろして
いつもこの場所から外を眺めて物思いにふける。
僕のお気に入りの指定席。
そして今。君について考える。
あの日君が見せた、勝利への執念。
青学の為?それとも・・・問いかけなくてもわかっているよ。
答えは始めから1つだった。
僕は君をずっと見てきたから・・・・
只ひとつだけ誤算があるとすれば・・・・それは君の想いの深さ。
情熱
僕はずっと君は僕と同じタイプだと思っていたから・・・
君の姿に驚き・・・
そして初めて嫉妬した・・・
何故君の想い人が僕じゃないのかと・・・
君に初めてちゃんと声をかけたのは、いつ頃だっただろう?
入学して、テニス部に入ってすぐに君という存在を知った。
君を初めて見た時の衝撃。
僕は今まで、こんなにテニスの強い人を見た事がなかった。
何処へ行っても、それなりに何でも出来る僕。
いつの間にか一番になっていて、それが当たり前のようになっていた。
強いというのは、この程度のものなのか・・・?
何処かで、冷めている自分に気付きながら入部したテニス部。
だけど君の強さは、そんな僕を嘲笑うかのように凄まじく凛としていた。
入部したての頃、君はその強さの為に左腕を封印していたね。
それに違和感を感じて、そしてそれが確信に変わった頃、君に初めて声をかけたんだ。
「手塚くんって本当は左利きなんじゃない?」
「えっ?どうしてわかったんだ?竜崎先生も知らない事なのに・・・」
「フフフッ・・・」
君は本当に驚いていたよね。
どうして?って・・・それは愚問だよ。
何故なら僕は初めて君を知った時から、ずっと見ていたんだ。
君の強さに惹かれて、心を奪われた。
そして君と試合がしたいって渇望するようになった。
手塚・・・
僕はこの気持ちが何処から来るのか、どうしてこんなに君が気になるのか知りたくて、あの日勇気をだして、君に試合を申し込みに行ったんだ。
「手塚くん。話があるんだけど、いいかな?」
「不二くん」
「僕と試合してくれないかな?一年生が勝手に試合をしてはいけないって事はわかってるんだけど、どうしても君と一度試合がしたいんだ」
「不二くん・・・わかった。俺も君とは一度戦ってみたいって思っていたから・・・」
「ホント?良かった。じゃあ放課後。練習が終わってから、こっそり二人だけで試合しようよ」
「ああ。わかった」
だけどあの時君は、既に左腕を痛めていた・・・
そんな事とは知らず、僕は君と試合が出来ることに浮かれて興奮していた。
「手塚くん。左腕で試合してくれるんだ。本気だしてくれるんだね?」
やっと君の本当の力が見られる。
「ああ。もちろんだ」
だけど、結果は散々なものだった・・・。
君の本当の力を見る事も叶わず、それどころか左腕を更に痛めたようで、僕の心は傷ついた。
「手塚っ!!僕はこんな試合がしたかった訳じゃない!!」
「すまない・・・」
君の謝罪の言葉を聞きながら、僕は自分自身が許せなかった・・・・
何故僕は左腕を痛めている事に気付けなかったんだ?
可能性はあったんだ・・・
3年生の先輩に本当は左利きだという事を知られた日。
ラケットで左腕を殴られた。
あの瞬間僕もあの場所に居合わせたというのに・・・・
それなのに・・・
自分の気持ちが先走って、君の異変に気付けなかった。
どうして・・・こんなに大事な事を・・・・
試合は僕の勝利で終わったけど、お互い納得のいく試合ではなかった。
気まずい雰囲気のまま黙々と二人で帰っていると、大石が待っていたね。
「やぁ。待ってたよ」
笑顔で近づいて来た大石を見て、僕は初め君が僕と試合をするって事を大石に話したのかと思ったよ。
だけど違った。
「どうしたんだ?大石・・・くん」
大石が現れた事に僕よりも、君の方が驚いていた。
「手塚くんの様子がおかしかったから、何かあるんじゃないかな?って思って・・・
もしかして・・・左腕・・・また痛めたのか?」
左腕を押さえてる君を見て、顔色を変えてすぐに大石は行動にでた。
「イヤ・・・たいした事はない」
「駄目だ。すぐに病院へ行こう。親戚のおじさんが先生をしているんだ。良かったらそこへ行こう」
そう言って手塚・・・君の腕を引いた。
君は繋がれた手を見て小さく笑ったね。
僕はそれを見逃さなかった。
今から思えば既に、あの時から君は大石に惹かれ始めていたのかもしれない。
「不二くん。悪いけど今から手塚くんを病院に連れて行くけど、その・・この事は、 俺達だけの秘密にしておいて貰えるかな?」
思い出したように大石が足を止めて、申し訳なさそうに言った。
「もちろん誰にも言わないよ。だけど診察結果は教えて貰えるかな。
その・・手塚くんの怪我・・・僕にも責任があるから・・・」
「そんな事はない。これは俺の責任だ」
間髪入れずにそう答えた君に驚いて・・・でも少し嬉しかった。
こんな僕の事、少しは気にしてくれるんだ・・・ってね。
「大石くん・・・頼むよ」
僕は君にではなく大石に視線を向けて頼んだ。
大石なら答えてくれるってわかっていたから・・・
そして僕の予想通り、大石は何も聞かず小さく頷いてくれた。
「ああ。わかった。必ず不二くんには伝えるよ」
「うん。お願いするよ。じゃあ僕はここで・・・」
そう言って別れようとした時に、君に声をかけられた。
「不二くん!本当に・・・すまない」
君の張り詰めた顔が今でも忘れられないよ。
あの時、本当に君が僕との試合を真剣に考えてくれていた事は君の表情でわかった。
その気持ちは、すごく嬉しかった。
だけど・・・
試合をする事より、君が左腕を痛めている事を打ち明けてくれていた方が・・・
その事の方が何十倍も嬉しかったと思う・・・
大石は知っていた。君の左腕の事。
大石の『また痛めたのか?』って言葉が重くのしかかる。
君が話したのか、それとも大石が気付いたのか・・・
どちらにせよ、僕じゃない事は確か・・・
僕はなるべく自分の気持ちを悟られないように、優しく君に微笑んだ。
「じゃあ。また明日」
そして君達に背中を向けて歩き出す。
結局答えは出なかった。
何故こんなに君との試合を渇望したのか・・・
なぜこんなに君が気になるのか・・・
知りたくて・・・君と戦ったのに。
戦った後の失望感。
大石の存在。
言いようの無い想いが心の中を駆け巡る。
この頃の僕は、まだ自分の気持ちに自覚が無かった。
ただ君という存在が僕を惹きつける。
その事は事実で、何故ここまで惹きつけられるのか・・・・
戦う事で出ると思っていた答え。
結局出なかった答え。
その答えは君ではなく、いつのまにか僕の傍にいた、僕とは正反対の性格の持ち主に 教えられる事になる。
菊丸英二
英二の存在は僕に色んな事を気付かせてくれた・・・・
2へ続く
不二の想い人は手塚だったんですね・・・って大体想像はついてたと思うんですが・・・☆
これから大菊を絡めながら、不二の話を進行して行こうと思っています。