若葉の頃





なんで俺がこんな思いをしなきゃいけないんだよ・・・


イライラして・・・ムカムカして・・・

どうやっても、気持ちが落ち着かない。

それに何だか・・・体が熱い・・・

それでも何とか、そんな気持ちを誤魔化そうと練習してんのに・・・

副部長が近づいてきた。



「越前。どうした?調子でも悪いのか?」

「・・・別に・・・」

「本当か?いつもより動きが悪いみたいだが・・・」

「どおって事ないっス・・・本当に大丈夫っスから・・・」

「そうか・・無理はするなよ。何か在ればすぐに言ってくれ」

「はい・・・」



俺の頭をポンポンと叩いて、副部長は去って行った。


ホントにこの人は侮れない・・・

普段は英二、英二って馬鹿みたいに英二先輩ばっかりなのに・・・

俺が普通にしてるつもりでいても、少しでもいつもと違う様子をみせたらコレだよ。

一番に気が付いて声をかけて来るんだ。

ホントに・・イライラの原因のあの人は、今や他の奴の事が気になって俺の事を気にかける余裕なんて全くないって感じなのに・・・

って何考えてんだ・・・クソッ!

これじゃあ、俺があの人に気にかけて貰いたいみたいじゃないか!!

絶対違う・・・俺はあんな人の事どうだっていいんだ!

ただ今は・・・あんな事聞いて・・・ちょっと動揺してるだけなんだ・・・

あの人が・・・

桃先輩が・・・海堂先輩にあんな事言うから・・・






俺は昼休み弁当を食べた後、騒がしい教室を出ていつもこっそり昼寝をする屋上に来ていた。

屋上の入り口の上にある給水塔の横は、屋上に上がって来た奴も殆ど気付かない穴場だ。

静かで誰にも邪魔されず、ゆっくり昼寝が出来る。

まぁたまにそのおかげで、寝過ごす事もあるけど・・・

俺はいつものように日陰になる方を陣取って、空を仰いで横になった。

風がそよそよと髪をなでるように吹いて気持ちがいい。

俺はそのまますぐウトウトし始めた。

なのに・・・暫くしてその眠りは、けたたましく開けられて閉められたドアによって呼び覚まされる。

バン!と勢いよく開いた鉄のドアは、またバン!と勢いよく閉まる。

その激しさに、給水塔が揺れた気がした。


んんっ・・・一体誰だよ・・・?

人が気持ちよく寝てるっていうのに・・・

まだ意識は半分眠りの中で聞いた声は、何処かで聞いた事のある声だった。



「おい・・もうここまで来たんなら良いだろうが」

「ああ・・悪かったな・・・」



アレ・・・?この声・・・・?

少しづつハッキリしてきた意識を、声の方へ集中する。



「・・で、俺に何の様だ・・?」

「お前・・乾先輩との間に何かあったんだろ?あの人が・・その・・好き・・なのか?」

「なっ・・・・」



乾先輩・・・?ってこの声・・・桃先輩?

それにもう1人の声は海堂先輩か・・・?

俺は声の主に気付かれないように、寝転がりながら肘をついて顔を覗かし、そっと上から見下ろした。

覗いた二人は向かい合わせに立っていて、いつもとは全然雰囲気は違っていたが・・・

紛れもなく、桃先輩と海堂先輩だった。

何やってんだ・・・あの二人?

いつも顔を合わせれば喧嘩ばかりしている二人が、真面目な顔で向かい合ってるなんて・・

興味しんしんで覗いている俺に全く気付かず、二人の会話は進んでいく。



「だから・・・好きなのか?」



ふ〜〜ん好きね・・・誰が?誰を?とすっかり目が覚めた頭の中で考える。

相手が海堂先輩とゆう事は・・・あぁ・・・乾先輩の事か・・・

ホントうちの部活は、大石副部長と英二先輩を筆頭に男同士で恋愛なんてしている・・・

稀な部だ・・・

アメリカじゃ結構ある話だけどね・・・日本じゃかなり珍しい・・・

その珍しいの中に、もちろん乾先輩と海堂先輩も入っていた。

まだ付き合ってる訳では無いみたいだったけど、乾先輩はあからさまに海堂先輩好きってオーラだしてるし・・・

海堂先輩もまんざらじゃないみたいだし・・・

まぁいつかは、あのバカップルに仲間入りするだろうと俺自身そう踏んでいた。

だから海堂先輩の間をおいて答えた



「ああ・・・そうだな・・・」



って返事は特に驚く事も無く・・・あぁやっぱりねって感じだったのに・・・

それに続いた桃先輩の言葉は、俺の予想を超えた答えで・・・俺の目と耳を釘付けにした。



「俺じゃ駄目か?」

「はぁい!?」

「だ・か・ら!! 俺じゃ駄目かって聞いてんだよ!!!」



そう叫んだ桃先輩は、顔を真っ赤にして・・・海堂先輩は言葉を失くしていた。

えっ・・・?俺じゃ駄目って・・・?それって・・・?まさか桃先輩が海堂先輩を?

そんな・・・そんな素振り今まで見せた事ないじゃん・・・マジで?

桃先輩の発言に動揺していると・・・やっぱり同じ様に動揺している海堂先輩が桃先輩を 指さしながら叫んだ。



「おま・・おま・・お前・・・何言ってんだよ!!!!」



だけど指をさされた桃先輩は、今までに見た事のない切ない顔を海堂先輩に向けていた。



「俺だって!解んねーよ!けど・・そう思っちまうものは仕方ねーだろ!!!

お前が悪いんだぜ・・・朝にあんな顔を俺に見せただろ?

俺だってな・・・・俺だって出来れば、この気持ちを抑えて気付かないフリしたかったのによ・・・

あんな顔見せられたら、抑えきれねぇじゃねーか!!」



朝?朝に何かあったのか・・・?

そういえば今日この二人と乾先輩がグラウンドを走らされていた。

それが何か関係しているのか?

そんな事を考えてる間に、海堂先輩は桃先輩に答えを出そうとしている。



「すまねぇ・・桃城・・・俺は・・」

「そんな事は 前からわかってんだよ!!

けどお前の辛そうな顔見てたら俺どうしていいかわからねーだろ!!」



そう叫んだ桃先輩は、海堂先輩の頭を両腕で挟み海堂先輩のおでこと自分のおでこをくっ付けた。



「ほっとけね〜なぁ ほっとけね〜よぉ・・・・だからそんな顔すんな・・・・・・お前には俺が付いてるだろ〜がよ・・・

乾先輩が今度お前を泣かすような事をしたら

今度は俺があの人をぶん殴ってやるからよ・・・だから安心しろ・・・」



乾先輩が・・・海堂先輩を泣かす・・・?

泣かしたら桃先輩が乾先輩を殴る・・・?

もう何が何だかよくわからない・・・

桃先輩は、海堂先輩に背中を向けてさらに話を続けている。



「まぁあれだ・・・お前もっと自分に自信持てよ・・・俺が保障してやるからよ」



この会話・・・いつに無く優しい桃先輩の声・・・

桃先輩・・・本気なんだ・・・



「桃城・・俺・・・」

「おっなんだ・・俺に惚れたか?」



それなのに・・・無理して・・・いつもの様に笑って・・・

海堂先輩は、それに気付いたのか合わせたようにいつもの様に答える。



「馬鹿・・ありえねぇ・・」



桃先輩は、更に声を上げて笑って・・・



「やっぱり、その方がお前らしーよ・・お前が元気じゃなきゃ俺も調子でねーからな」



海堂先輩の方へ歩いて行ったかと思うと、すれ違いざまにポンと肩を叩いた。



「じゃあ 俺もう行くわ」



俺は急いで頭を引っ込めて給水塔の裏へ隠れた。



「桃城! ありがとよ!!」



海堂先輩の声が屋上に響いて、バタン・・と鉄の扉の閉まる音がした。

その後、何かを呟いた海堂先輩が続けて屋上を出て行った。

一体何なんだよ・・・・なんだよあの二人・・・

どおしちゃったんだよ・・・桃先輩・・・・

何で俺・・・こんなにドキドキしてるんだよ・・・


俺は暫く給水塔の側を離れる事が出来ずに、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴るまで呆然と座っていた。
















そして午後・・・何だか釈然としない思いで、部室に向っていると、いつもと全く変わらない様子で桃先輩が近づいてきた。



「よ〜越前!どうだ今日帰りにハンバーガー喰いに行かねぇか?」

「まだ練習も終わってないのに、もう帰りの話っスか?」

「何だよ!いいじゃね〜か」

「俺。用事ありますんで」

「何だよ。そんな大事な用事なのかよ」

「桃先輩に言う必要は無いっスけどね」

「ったく。つれね〜なぁ。つれね〜よ」



何がつれないだよ・・・・

本当は俺じゃなくてもいいくせに・・・

本当は別に誘いたい人がいるくせに・・・

俺はイライラしながら、目の片隅に入った人物を指さして桃先輩に言った。



「そんなに行きたければ、海堂先輩でも誘ったらどおっスか?」



桃先輩は、あからさまに顔色を変えて俺が指さした方に振り向く。

俺に指をさされて名指しされた海堂先輩もぎこちなく俺達を見た。



「よっようマムシ・・・今日はいつもより来るの早いんじゃねぇか?」

「そっそれは・・・こっちのセリフだ!」

「何だよ。俺はいつも通りだろうが!」

「ハァ?万年遅刻ギリギリ組の間違いだろ?」

「馬鹿何言ってんだよ。朝のギリギリはだな・・コイツのせい・・・っておい!越前!」



馬鹿らしい・・・何意識し合ってんだよ・・・

俺は言い合う二人を置いて、先に部室の中に入った。

制服を脱いで、ポロシャツに着替えてると、遅れて入って来た桃先輩が俺の横に来る。



「おいっ越前!何先に行ってんだよ」

「一緒に行く約束なんかしてましたっけ?」

「別にそんな約束はだな・・・してなくてもあの場合待ってるのが常識だろ?」

「そんな常識、俺は知らないっス」



桃先輩を軽く牽制して、帽子を被ってラケットを握って、外に出ようと一歩を踏み出した時に桃先輩に腕を掴まれた。



「越前・・・お前。ひょっとして・・何か怒ってんのか?」



真剣な顔で俺の顔を覗きこむ桃先輩。

だっ誰が怒ってるって・・・?なんで俺が怒らなきゃいけないんだよ。



「ハァ?別に・・・それより腕離してもらえません?」

「あっ悪ぃ。でも本当に怒ってないのかよ?」

「・・・桃先輩。俺に怒られるような事でもした覚えあるんっスか?」

「イヤ・・別にねぇけどよ・・・でもお前・・・」

「じゃあ別に気にする必要ないじゃないっスか・・・んじゃ俺。先に行きますんで」



俺はまた桃先輩を置いて先にコートに向った。

『何が本当に怒ってないのか?』だ・・・なんで俺が怒らなきゃいけないんだよ。

確かに、海堂先輩とのやり取りを見てから、イライラはしてるけど・・・


イライラしてる・・か・・・やっぱ俺・・・怒ってんのかな?






悩める王子・・・書きながら私も悩みました(笑)


だって色々繋げたいんです☆

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