仏塔のお話-5 

金剛三昧院多宝塔 

 「金剛三昧院(こんごうさんまいいん)」
は「金剛峯寺」と近接しております。金剛
峯寺は人出が多く賑わっているのに対し
霊山の雰囲気が充満している別天地で、
まるで時間の流れが止まったような感じ
でした。
 「多宝塔」は上品な美しさで秀作の評判
の高い塔です。
 多宝塔の特徴である亀腹の白漆喰が際
立っておりました。
 「慈眼院」の多宝塔とは逆で下層の軸部
が低いのが特徴です。それと、裳階の柱
は慣例に従い面取の角柱です。 
 「蟇股」は簡素で初期の形式です。
 軒が深く、下重の軸部が低いだけに安
定感があり見栄えは抜群です。高野山を
訪ねられたら是非お寄りください。


     多宝塔(金剛三昧院)

 

長保寺多宝塔


       多宝塔(長保寺) 

 
         蟇 股

 「長保寺(ちょうほうじ)」は密教寺院
の三種の神器とも言える「多宝塔」
「本堂」「大門」の3棟が国宝指定となっ
ている希少な寺院ですが余り世間の方
には知られていないのは残念至極です。
 四季の自然が楽しめる樹木に囲まれ
た寺院です。
 多宝塔は上層が締まり過ぎの感もあ
りますが上層にくらべて下層が大きく
安定感のある優美な塔でした。 

 「裳階」の柱は丸柱で前述の「慈眼院」と同様です。「相輪」は「当麻寺塔」と同じく八輪
と珍しいものです。 
 余談ですが寺名の場合「保」は「ほ」でなく「ほう」と呼称することが多いようです。 

 

明王院五重塔

 「明王院」は栄光と威厳をとどめる寺院で国宝指
定の「五重塔」と「金堂」とが、法隆寺伽藍と同じ形
式で金堂を東側、五重塔が西側に並んで建立され
ております。
 五重塔は多くの費用を要するので三重塔が多く
なる室町時代の建立で、室町時代を代表する五重
塔です。ということは、当時は活気に満ちた寺院
だったことでしょう。
 初重の軸部は高いですが二層以上は低いです。  
 五重塔は非常に均整が取れた壮麗な姿で訪れる
人に束の間の幸せを与えていることでしょう。 
 中備は蟇股ではなく間斗束ですが四層目の両脇
間、五層目の柱間に間斗束はありません。木鼻も
台輪もない保守的で古風な塔です。
 基壇ではなく高欄付き縁となっております。


   五重塔(明王院)
  右に見える軒は「本堂」です。

 

 「水煙」の文様は火焔そのも
のであり、その昔水煙は火焔
のデザインが大半であったた
め火焔と呼ばれておりました
が火を嫌って水煙と呼称変更
になりました。

 

向上寺三重塔


    三重塔(向上寺)(東側)


   三重塔(向上寺)(裏側)

 「向上寺」は西瀬戸自動車道で因島市を抜けた生口島(いくちじま)北ICから近距離
にあります。車では便利ですが交通の便は悪そうでした。
 今、境内には「三重塔」を残すのみとなっておりますが訪れる価値は充分あります。
 階段を登り極彩色に彩られた三重塔を最初に見た時、息が詰まる思いでした。
 三重塔は瀬戸内海を見渡す潮音山の山腹に塔の底面積より一回り広い空間に建築
されておりました。それゆえ、撮影には悪戦苦闘しましたが、細部の装飾彫刻の種
類の賑やかさは見事でただ驚くばかりでした。
 装飾彫刻の集合体の観があり異国情緒あふれるものでした。これほどの独創性に
富んだ意匠を考え、造ることの出来た優れた工匠が居たことに感激いたしました。
他に比を見ない装飾彫刻だけを見るのも一興でしょう。
 禅宗様を基調に和様の様式を一部組み入れた塔です。


          初重は扇垂木


   二重、最上層は平行垂木 

 三重塔の場合初重、二重が平行垂木で最上層が扇垂木が通則ですが初重が扇垂木で
二重、三重が平行垂木という珍しい形式です。


            二重、最上層

 和様の跳高欄に禅宗様の逆蓮柱、和様の連子窓、禅宗様の花頭型出入口(窓?)、和様の支輪が見えます。


 二手先目に出る肘木を文様化し、
肘木の先端に若葉彫刻をつけるのは
珍しいことです。 


    肘木の先に若葉の彫刻


             初重部分

 禅宗様の繊細優美の花頭窓、禅宗様の桟唐戸、禅宗様の柱の粽が見えます。中備は
蓑束で禅宗様の詰組ではありません。
 礎盤ではなく基壇上に地長押となります。自然石の上に立つ土間床ですので縁は設
けないのが禅宗様式です。

 

浄土寺多宝塔  

 


       多宝塔(浄土寺)

 「浄土寺」は聖徳太子の創建とい
う名刹寺院です。寺院のある「尾
道」とは尾道水道と山との狭隘平
地に住宅が密集しているところで
す。迫りくる山の階段を上がって
行くと正面に「本堂」があり同じ南
向きに「多宝塔」が建っております。
本堂、多宝塔の2棟が国宝指定で
す。
 「多宝塔」は雄大にして優美な姿
でした。黒ずんだ風腐した建物ば
かりを眺めてきたので少し違和感
を覚えましたが創建当初の姿を見
るようで感激もいたしました。
 本堂の古さと多宝塔の新しさが
調和している境内ですが鳩の多い
ことには驚きました。
 多宝塔の左の建物は「阿弥陀堂」
です。

 

瑠璃光寺五重塔

      五重塔(瑠璃光寺)              美しい林池と優雅な塔 

 「五重塔」は日本三名塔の一つと言われるだけに気品ある落ち着いた風情の塔で、公
園風の林池を控えて展開する景観の素晴らしい眺めは日本広しといえども見当たらな
いでしょう。微妙に移り変わる四季折々に優雅な塔がいつでも見れるとは山口の人が
妬ましくなりました。三名塔の二つは本瓦葺ですが当塔は桧皮葺でありそれがまた周
りの木々としっとりとして何とも言えない優美な、雅やかさが漂っておりました。   
 屋根の出が大きいのに比べて塔身がスリムで不安定な感じがいたしますがスリムな
塔が建築出来るようになったのはそれだけ建築技術が向上した証でしょう。軒反りは
穏やかですが五重目の屋根勾配が少しきつくなっていますのは雨漏り防止を考えた結
果で建築の保存上止む得ないことでしょう。
 初重の脇間は通例の盲連子窓ではなく連子窓という珍しいものです。
 背景の緑が桜、紅葉に変われば塔の眺めも美しく変わり違った風景となっているこ
とでしょう。
 縁は初重にも設けられておりますが高欄付きの縁は二重目のみです。高欄は平安以
降、中央で開いているのが普通ですがそのように設計されていないのはこの縁高欄が
装飾的なもので意に介されなかったためでしょう。

  

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