本と映画の森 (書籍編) No.3

更新日:2015/2/15 

玄侑宗久著『禅的生活』
2004/05/16



 私は宗教について、ほとんど無関心なまま暮らしています。

 少し早く起床し毎日近郊をウォーキングをしていますが、そのとき鎮守を訪ね、昨日過ごせた感謝と今日一日の家内安全を祈願をします。夜、仕事を終えると仏壇に今日を過ごせた感謝と明日の家内安全をお願いして、般若心経を三度唱えることを日課として続けています。

 食事をとり排尿排便をすることと同じように、ごく日常的なこととして、鎮守と仏壇に手を合わせており、日本人としてごく当たり前のことと思っています。ここ数年前から、このような日々を過ごしていますが、宗教的という認識は私にはありません。信仰には興味はありませんが、京都奈良が近いことなどから幼い頃から神社仏閣に抵抗感はなく、最近になって歴史上の僧侶の生き様に関心を持つようになりました。それは、もうすぐ五十歳になるという年齢が、どこか影響しているのかもしれません。

 著者は芥川賞作家であり、臨済宗の僧侶で、大変な博識であることに驚かされました。私の能力では、10%も理解できなかったのですが、乱暴にまとめると、元気で楽に生きるヒントを、古今東西の宗教、思想、哲学等の枠にとらわれず、多くの理屈を駆使して、述べた書物です。たくさんの格言や著者の人生観が随所に散りばめられ、生きる示唆や知恵(智慧をいうべきかもしれません)を頂きました。

 禅の視点や考え方は、大変興味深いものを感じました。仏教についての知識があれば、もっと深くそして豊かに理解できたに違いなく、ちょっと禅や仏教を学んでみたい気持ちにさせられました。

 本書にエントロピーの法則(熱力学第二法則)が登場したことには、正直なところ驚かされ、個人的には親しみを覚えました。学生時代(約30年前)出会った『物理学的人生論』(猪木正文:講談社現代新書)を思い出しました。時代が進むにつれて、思想哲学が科学的な思考の影響を受けざるを得ないように、宗教の考え方や解釈も、そう例外では無くなっている(のかもしれない)一端を、垣間見たように思いました。

 宗教の知識を得てから、時間をおいて、もう一度読み返したいと思います。同じ著者の他作品も、いつか挑戦してみたい気持ちにさせられました。それほど、私個人には、刺激を受けた書物です。


ちくま新書2003年12月)


お薦め度 ★★★

ページ先頭へ 前へ 次へ ページ末尾へ