理科系の人間である私には『ふしぎの植物学』は、大変興味深い内容でした。動かない植物の生きる戦略は、いたってシンプルですが、凄く合理的で巧妙であることに驚かされました。食糧を自ら作り、そして消化します。必要な材料は水と二酸化炭素と光のエネルギーだけで、排出するのは水蒸気と酸素だけです。つまり光合成のことですが、これほど完璧な自然を汚さない凄くクリーンな方法に、改めて感心させられました。
体温調整と光合成に必要な水を確保する為に、植物の根の全長(小さな根毛まで加えると)は、ライムギの場合、11200Kmになり、地球の4分の1周以上の長さになるようです。ちなみに人間の血管全長は、毛細血管まで含めると約9万Kmになり地球2周以上の長さです。これだけの長い根から吸い上げる水量は、1本のトウモロコシの場合1日に約2リットル以上とのことです。体重60Kgの大人が一日に摂取する水量とほぼ同じ値です。 大気中の二酸化炭素の濃度は、北半球では春から夏に下降し、冬に上昇しています。これは春から夏に、植物達による光合成が盛んに行われ、二酸化炭素が多く吸収されるお陰なのです。路傍の雑草も二酸化酸素を吸収して酸素を出しているのだと思うと、今までと違った思いがします。
植物は子孫繁栄のために、花粉や種子を昆虫や動物に運んでもらいます。そのために、食べられることを前提として、生き残る戦略をしているようです。その一つが茎の先端にある頂芽(ちょうが)、葉の付け根の側芽(そくが)を持ていることです。茎や葉が食べられても、それらの頂芽や側芽から新しい茎や葉が生えてからだを再生してゆく。このようなからだを再生する能力を駆使して、食べられる宿命に対抗していのです。
植物も動物同様に、病原体から身を守るための驚くべき戦略を持っています。それは病原体の進入を受けた細胞は、すぐ自から死ぬことで病原体を自分のからだの中に封じ込めます。それと同時に病原体の進入を知らせ、病原体をやっつける言わば抗生物質(ファイトアレキシン)を作り始めよという合図を送ります。病原体に抵抗性をもつタンパク質が作られ、さらに揮発性物質を気化発散させて、近辺の仲間の植物に吸収させて知らせ、病原体の進入に備えさせるのです。その他、季節を先取りする戦略や、生殖の工夫など、驚くべき仕組みに圧倒させます。
私たち人間は、植物のお陰で温暖化を防いでもらい、食糧を確保していることに感謝し、植物の前にもっと謙虚になり、多くのものを植物たちから学ばなければならないことを認識させられました。中学生高校生には、ぜひ読んで頂きたい書籍の一冊です。
2003年7月 中公新書
お薦め度 ★★★★★ |