速報でテレビジャックの総選挙
応えれぬ過ぎた熱意に潰される
建前に少しの本音が響く
便利さが警戒心を煙巻く
知らぬ間に言葉を奪う権力者
国と民 小さな嘘が増える危機
満月を大きく見せる大気層
ほころびは身の丈合わぬ暮らしから
空高く一羽の鳥が西へ行く
都合良く変換重ね記憶する
崩れゆく自分を嘆く 母米寿
平成31年1月『ささやき』から 9句
のめり込む喜ぶ脳にあやつられ
背負うもの少し降ろせるクラス会
幸せに距離を感じて 寒椿
大気有ればこそ闇を消す太陽(ひ)
ひとときを荷物降ろさす友集う
あと何度会えるか数え無理をする
穏やかな昨日のように暮らせたら
振り向いたそのまなざしに恋をした
平成31年年2月『更年期』から 8句
ルール増えまともが揺れる孤独感
吾にある誠を強いる生きづらさ
たくさんの孤独と夢の帰り道
受粉なく散る花に撒く明日の水
散るを知り命をつなぎ夢託す
カタツムリ言わぬ苦しみ皆背負う
雨だれに小さな記憶よみがえる
この道で生命の風に諭される
やすらぎをかたちにしない曖昧さ
吠えられぬ盲導犬に教えられ
糸口が糸口の中でもだえてる
うららかな腰を伸ばして見る桜
青春を待ち合わせた紀伊国屋
あの頃はのどかな時間ふりそそぐ
空白を埋めてつないだ物語
誇らずに背筋伸ばした枯れ姿
不具合を起こす頻度に吾を知る
悩んでる風の便りが届く春
知人逝く優しいはずの春の雨
平成31年3月『春の雨』から 19句
祈りには少し煩悩潜んでる
ふれあいの踏みこむ度合い模索する
いにしえの光を浴びるログハウス
文明を少し拝借カラスの巣
風そよぎ花びら五枚会釈する
奪われた心知らせる風が吹く
ふるさとに別れを告げて終の旅
生きるのは喜びなのか悲しみか
幾何学にちょっと個性みせ花咲かす
葉を傘に頭を重ね藤の花
花が散り雌蕊(めしべ)膨らむ春の雨
脇役に徹して咲かす光合成
棲み分けは知恵と力の接触面
濃淡を微妙に変えた自己主張
ついばまれピンクの翼舞う桜
枝離れ着地も華になる桜
花びらが波状を刻んだ風模様
さまざまな人待ちわびた桜散る
要らぬもの削ぎ落としたら厭な奴
明日のない消えぬ恨みを皆が秘め
百人に百の顔する総て僕
情報は情報過多で雲隠れ
開発の経費喰われるセキュリティ-
能力は自己責任の過競争
国民が決断重ね今がある
風強く雑木連なる春の道
馬酔木咲くゆっくり登る高見山
不注意に苦しむことが増えてくる
葉桜や母の人生思い馳せ
少しだけわざと不自由にしておく
流行に迎合せずに呑まれずに
長時間睡眠できる若さなく
地名聞きあの日のことがよみがえる
のんびりと過ごせぬ性格(たち)の雨あがり
歴史もの人生をノックする
如来像悟り極めたエロチィズム
歩き込みぼんやり見える道の声
喜びは創造的な知恵湧かす
平成31年4月『桜散る』から38句
生きるとは誰もがみな橋渡し
言葉には歴史を背負う誇りあり
曖昧に潜む光に栓をする
病院で意思伝わらず心病む
健康な反応誘うシルエット
静けさも拝観料に含まれる
何もかもビジネスからめる貧しさ
嶺極め下山の道が難しい
繰り返す反射閉じ込め闇を消す
地層から生き物たちの声拾う
何気ない形に秘めた知恵を知る
綿帽子スクラム解いて空に舞う
南天が雪舞うごとく白い花
意識せず曖昧にしている文化
落着いて仕事が出来ぬ成果主義
世界一危険な傘を抜け出せず
金融を経済にした守銭奴国
棲み分けの境界揉める意地を張り
処理済みをことあるごとに蒸し返す
曖昧を検証させず単純化
情熱を詰め込み過ぎて逆効果
善求め乗り換え重ね迷走す
暴走を始めた正義感悪意超え
秒針の動き見つめる朝の床
息を止め片目腕伸ばし構図みる
いにしえの涙沁み入る堀の苔
苛立ちは己自身の不甲斐なさ
人見つめ言葉紡いで謳う愛
逆境に弾力の愛夢に見る
別れ際その優しさが不憫増す
孫帰り余韻引きずり指を折る
円熟を超える若さがときにあり
社会との拡がるズレに意識持つ
深層に事実を超えて迫る悪
令和元年5月『元号・令和』から 34句
欠陥を埋める誰かに互いなる
補助線を最後に消して光り出す
行間も可視化してると勘違い
単純化消されたものに意図がある
文明は人のフィルター濾して来た
便利さで総てを盗まれゴミに化す
虐待のニュースに慣れる恐ろしさ
こんなにも無垢な瞳を濁らせる
神の罪人間だけが持つ狂気
絶滅で遣り直して来た地球
綿帽子スクラム解いて嗣なぐ旅
色香り変える合図を花と蝶
さまざまな華にデザイン技(わざ)進む
新種増え原木の味心打つ
民には申告させ国は引き落とす
暴走で警告している高齢化
黒茶碗つわものたちの別れ抱く
イメージを剥(は)がして光る素顔見る
歴史とは埋もれた意図を探る旅
古典には写本重ねた歴史味
謎を掛け主旨隠して形にする
若さゆえ老いの苦しみ歌に出来
火花散る知識と足の交差点
行く先を描けず走る地球号
努力して築いた社会人悩む
たどり着き自分の陰に背かれる
あの頃の時代の空気夏椿
詰め込まず薄くもならぬとろみ味
孫の世にどんな朝日が昇るのか
伸び代の体とセンスズレが増す
通学の笑顔の少女風を切る
朝顔も咲く時を知り妻の笑み
針落としあの衝撃を忘れない
出来ること並びたてて否定する
老い備え自分の為に花を植え
逆らわぬ生きる知恵棄て苦い旅
何もかもあなたにたどる道の上
掛け声を自分に掛けて動き出す
生きていた証が一つあれば良い
令和元年6月『平凡』から 39句
六度目は世界沈没温暖化
昭和には圏外という逃げ場有り
知識得てきちんと恐れ不安消す
人間のテンポで生きる日曜日
削ぎ落とす際を誤り頬に風
決別は見えないものが見えたとき
不条理を笑って暮らす民強し
子供から大人になれずいま老人
自己を知る宇宙が産んだ脳細胞
空想に跳ねて転がり脳遊ぶ
生命とは奇蹟が産んだややこしさ
光は未来を照らす過去の声
凡人が慣わし繋ぎ生き残る
アナログは誇りデジタルは自慢
電気帯び厚みで違う雲の色
梅雨明けに波打つ雑草丈比べ
蝉時雨命をつなぐ恋に燃え
宇宙は己知るため脳を生む
神話から歴史を起こす国の知恵
写すごと洗練されたかぐや姫
滑稽に庶民を描くおおらかさ
泡沫(うたかた)に人生重ね読み継がれ
夏草や芭蕉を超える句を知らず
姿なくすべてに宿り見つめてる
血圧に内緒は出来ず妻笑う
煩悩が巡る血液僕の旅
採血で僕の煩悩にごってる
検尿に疲れた愛が沈殿す
心電図聞こえぬ声を形にす
隙間なく輪切りで写す探し物
バランスは背中合わせに手をつなぐ
この箱は空っぽじゃないかとクラクション
苦いまで背中合わせに通い合う
こだわりが終わりを消して擦り減らす
有志以降何も変わらぬ無常感
逢うだけで消えて生まれて転びだす
パスワード偽札よりも短時間
寄ってたかって住み難い世をなぜ築く
戻れない傷みを殖やし生きている
根源は吾と認めぬことにあり
気付かずに多くのことを無駄にする
救えない苦しみ抱えみな生きる
挨拶で思わず笑顔雨宿り
美しい日本語に触れ耳笑顔
空振りを羽音高らか蚊が嗤う
思い出の戻れぬ景色ネガの写真
鬼籍後の続きが見たい友の旅
愚痴一つ言わぬ優しさ喉の削げ
戦中派好んで諭す平和ボケ
辛酸をかわした果てに己無く
夢本音貫く人に託したい
過ちを気付かせるため脳がある
令和元年7月『背中合わせ』から 52句
被害者と加害者思う終戦日
この暑さ適度に加勢室外機
アルミ缶回収二者の天と地
子の余生守る介護に外国人
いいものは居心地の良い顔してる
遅れ来て差別の波に晒される
勝ち続け地獄の釜に引き込まれ
立ち止まる勇気を奪うボピュリズム
熱烈が夢追い過ぎて踏み外す
天才も努力家も居て梶取れず
両軍部戦略よりも予算取り
地位よりも先輩風が幅利かす
雄弁で決断迫り身を守る
欲しいもの集めて消える客観性
一丸になれぬ不信を皆が抱き
耳持たぬ幹部の末路すがる藁
庇(かば)い合い追い詰められて民を切る
英霊と美談で飾り押さえ込む
国体に遺書の行間届くのか
命懸け打電情報活かされず
責任を誰もとらず庇い合う
言い出せぬうかがう顔は同じ色
決められぬ会議重ねて和に逃げる
総括を勝者に委ね禊(みそぎ)とす
金魚売り風鈴鳴らし遠い夏
適切にエアコン使い温暖化
何ごともなく日が暮れる安堵感
勘違いしないで欲しい過半数
知らぬ間に皆で線を引いている
カタカナの情報過多で不便過多
和服出し眠っていた色香にじみ出す
ふくよかな熟女の笑みに潜む魔性
拝謁記本音言い訳人間味
死について吾に置きかえ花を見る
波かぶり行きつく果てがまだ見えぬ
色褪せぬ仕掛けは何か 空の色
検証を出来る記録が明日救う
令和元年8月『大東亜戦争』から 37句
ひと粒を宇宙に変えたビッグバン
朝露に手足伸ばして曼珠紗華
風に揺れ若葉の下の老いた花
ものさしと当てる光で万華鏡
稜線があざやかな朝かぜ涼し
杉木立風のソナタを頬が聴く
スピードで石も沈まず波を切る
この地下に埋まる歴史をまだ開けぬ
袖を振る恋に見立てた笑芝居 ≪額田王≫
尼となり武士の矜持を振るいたせ ≪北条正子≫
夢なみだすべて乾いた堀の底
騒ぐ血が川面に弾く時の音
残り香を障子の影に移し去る ≪京・吉原≫
遠き旅障子の影に別れ告げ
いにしえの涙の重さいたましい
苔の路息をひそめて風を待つ
仕上がりのにわか普請国が酔い
世の中を難しくして老いてゆく
人命を兵器に変える神も在り
負け知らず踏みこみ過ぎて掬(すく)われる
許せぬが怒り虚しく穏やかに
言い訳はいくらも浮かぶこの弱さ
バックミラーに映らぬ過去に追い越され
諦めと悟りの合わせ鏡見る
雑草も生えぬ世界で語る夢
善悪の輪廻の旅は終わらない
風吹くが空気のような飽和から
青春の雲より白い水着跡
ドロドロのさなぎの中の僕と君
重陽に月を眺め亡友(とも)想う
返らぬ日あなたの心青インク
亡き友の旅の続きのバトン受け
令和元年9月『飽和まで』から 32句
日本海あおり運転させる国
人間に出来ないことを何故させる
気が付けば繋がっているのはスマホだけ
いいこともほどほど過ぎりゃ煩わしい
前に出て後ろにつなぎ前進す
せせらぎの木霊吸込む杉木立
棲み分けの摩擦激しき接触面
昆虫は寿命知らず生きている
桜から枯葉が始まる遊歩道
棲み分けの摩擦激しき接触面
栂ノ尾に女がひとり明恵追う
ストレスを皆で食べた頃があり
繋がればガイダンステープ聞かされる
忘れてた若き汚点に吾を知る
待合所事情抱えた顔並ぶ
ドキドキと一緒に消えた黒電話
何もかも便利になった忘れもの
曖昧にあえて据え置く知恵もある
令和元年10月『堂々巡り』から 18句
あの日から進歩と調和半世紀
埋もれてる無名のままの誠実さ
輝いて平凡を消す反射光
笑いは知性 怒りは本気
夕焼けに切り絵となって君がいる
繁栄の面影偲ぶ木の屋号
知らぬ間に変わってしまった町の相
始まりも終わりも同じ茜色
会釈して枯葉重なる遊歩道
北風に身を寄せ合った吹き溜まり
独奏もオーケストラも一つの波形
宇宙には辻褄合わぬこと溢れ
生命嗣ぐ大地の声を誰が消す
制御なき進化の先は癌化する
プラゴミとミサイル汚染日本海
ポイントに予算つぎ込む砂上アベ
流れ行く泡沫(うたかた)のよう流行語
吾ひとり巡る季節に残される
古い友居心地の良い距離空間
オーボエの溜息響く長い影
印象が理性を超えて誤解する
嘘ひとつ塗れば塗るほど迷い込む
令和元年11月『日々点描』から 21句
何処かきっと必要とする縁(えにし)有る
満月が鎮守の杜に沈む朝
夜が明け一日老いて深呼吸
壮年のわれらが地球不整脈
感情が記憶引きずり人を見る
星のない空にざわめく海の音
森閑の生駒稜線朝陽待つ
散歩道老いとは何か自問する
錦過ぎささやく風に身を任せ
境内を黄色に染める冬銀杏
進歩ごと宇宙の果てが塗り替わる
進化とは完成できぬ模索路
死と未完組み込む命生かされる
進化捨て永久生命得た単細胞
不順さえ規律を通し咲かす花
別れ際痛みは無いか落葉樹
脳内のミトコンドリア減ってきた
チャレンジのハードル上げて動けない
思い出をそっと偲ばす風景画
眠ってた記憶の底に音響く
童謡が心に響く未来たれ
令和元年12月『日々点描U』から 21句
§§§§§§
少し早く起床して、排尿排便洗顔歯磨きを済ませて、40〜50分程度の朝の
ウォーキングを二十年近くしている。体力だけでなく、気力を維持するための努
力である。この程度の無理は、日々必要なことだと思っている。
冬の朝は暗く寒いけれど、生駒山系の稜線が紅に染まる風景は、美しい。空
が少しずつ明るくなってゆく姿に接すると、自然の雄大な懐を感じる。その中を
歩いてゆくと、理屈なく、幸せを感じる。川を埋めて細長い公園に整備された
『楠根川緑地公園』は、四季折々の花が咲き、特に春になると、散歩をする人
が増え、挨拶を交わす程度の顔見知りが出来て、良いひとときを過ごしてい
る。
植物は良い。緑も花も穏やかな気持ちにしてくれる。木々が成長する春は特
に良い。夏を過ぎ秋になり冬を迎える。そして、月日を重ね木々草花も老いて
ゆく。めぐる季節に、花びらを落とし、命をつなぎ、冬を越すために葉を落と
す。さまざまな植物の変化を見ながら、一年の移り変わりを知ることも、幸せなこ
とである。
人間の営みよりも、私は植物の営みに愛しさと親しみを感じる。そして憩うの
である。それにもかかわらず、人間を掘り下げる歴史や文学が好きな自分は、
何なのかと、答えのない自問自答することがある。自然科学にも人文科学にも
興味は尽きない深さを感じる。
その延長線上に、この五七五、つまり娯秘稚語が位置しているように、自分
自身は考えている。インプットだけでなく、この娯秘稚語を詠むことは、私にと
ってアウトプットである。創作には、体力気力が必要であり、少しの負荷が掛
る。それは、朝のウォーキング同様に、日々必要な無理の一つだと思う。還暦
を過ぎた私には、この程度の『無理』は、健康を維持するためにも、悪くないは
ずだ。
二年余り、詠み続けられたことは、正直、自分でもちょっと驚いている。ここま
で来たのだから、石の上にも三年という。あと一年は詠み続けたいと思う。出来
れば、納得できる句が一日一句詠めれば夢のようだが、そのような高い目標
は、まだまだ先のことで、一日でも長く続けることに精進したい。
2019年(平成31年)4月30日 平成最後の日
福井正敏
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