速報でテレビジャックの総選挙
岩盤を砕く力で封じ込め
いつの世も持たぬ者から吸い上げる
景気良く 倒産増えるアベノミクス
壁なくし グローバルという経済津波
赤信号みんなで走ってあわててる
人材を求める社長人材か
薄氷の平和続ける核の下
気圧の差 一緒になりたく風が吹く
無理をせず怠けもせずに花は咲く
無防備な脳に落雷ひとめ惚れ
抱きしめて温度差埋める愛の熱
太陽のあなたに見えない影の色
周波数ときどき合わせて真珠婚
単純を積み重ね解く物理学
09十文字で総てまかなえる
直筆の推敲跡に魂見る
幸せを置き忘れてるその治療
忘れたら無かったことになる老後
終わりの見えないことが苦しめる
押しつける無言の期待が厄介だ
亡き友をふと想い出す終電車
熱が冷め自分の姿も見えてくる
切り札を使わぬまま暮らしたい
拒否できぬ愛が私を苦しめる
忍耐が苦から空へと変わる歳
豊かさは過ぎれば腐敗の種になり
究極の善悪たぶん同じ色
平成29年11月 28句
煩悩の弱点衝いて 特殊詐欺
職のない博士あふれて なぜ無償
無償化は 高学歴 低学力
若い血を無益に潰す国減らず
究極のクリーンエネルギー光合成
欠陥をおぎなうから まわる生命(いのち)
進化させ乗り捨ててゆく DNA
チャーチルが祝杯挙げた12月8日
奉還の ひとり芝居後 初登城 ≪徳川慶喜≫
あすなろにザイルを掛けて西域描く ≪井上靖≫
悲しくてイムジン河にヨッパライ ≪加藤和彦≫
花嫁が振返って聴く子守唄 ≪はしだのりひこ≫
つじつまが合い過ぎるから要注意
都合よく組み立て直す 老いの過去
出来ること ひとつ一つを なぞる母
壊れゆき残る記憶に語りかけ
亡き人の違った顔を知る通夜
静かな目 海の深さを祖母は知る
簡単に無常だとはゆずれない
タイミング心得てこぼす愚痴二つ
かばわれて ざわめき起こり意地が出る
古代より知恵絞りだし住みにくい
砂漠化は土地と経済 人までも
ここだけの優しい電話 還付詐欺
一年は各駅停車の超特急
左ヨクでも右ヨクでもなくみな仲ヨク
平成29年12月 27句
遺伝子 複写した 孫悟空の国
受けて立つ風格磨け 最高位
裾野刈り 肥えた企業の株が売れ
景気良く 生活保護が増え続け
古傷の かさぶたはがし病める国
振り向けば背中を風が通り去る
ひっそりと秋を手放す帰り道
欲望を映す鏡をそっと伏せ
価値観を少し抑えて風通す
悲しいが記憶の風化で生きられる
澄んだ瞳(め)で生まれる人間信じたい
ヌードから哀しみ消えて昭和去る
凛として色気忘れぬ女優減り
成人式 徴兵検査と言った頃
雲の中 氷塊乱舞 稲妻はしる
雨上がり日光の正体見せた虹
水撒きで虹の欠片の昼下がり
浮いているプレートの上で夢見てる
人間のまごころ愛し歴史織る ≪司馬遼太郎≫
セリフなく幽鬼妖艶存在感 ≪島崎雪子≫
彗星が音楽界に穴明ける ≪ブルーコメッツ≫
神様も生まれてきたのは女から
大和路に鎮魂句碑 残照染め
降りかかる どれもこれもが たどる道
踏み込まず でも離れず伴走す
距離感が気になり始め間合いおく
歳月が隙間こじ開け消してゆく
謎を解く補助線に まだ気がつかず
瀬戸際で 妙に静かな己知る
雨が降り 私にもどる時間得る
琴線に触れず居座る孤独感
リルケ読み 青春の夢 疼(うず)きだす
激辛を ときどき持ち込む娘いる
初恋の化学反応もう起きぬ
作り手も 便利に潜む罠見えず
平成30年1月 35句
一呼吸ずらす余裕が まだ持てぬ
一言を呑み込んで冬 終わらせる
悩みごと その浅さでおのれ知る
熱狂は危険な麻薬痛み消す
責任を曖昧にして群れたがる
カネ余り『仮想』に膨らみ盗まれる
不都合な警告までも風刺止まり
個人なら生活保護の債務国
落着いて取り組む仕事しているか
あばかれて表裏さらせど見せぬ腹
大半眠ってる脳だから活性する
結晶の幾何構造の美の不思議
太陽に見えない影を月は知る
悲しみをいっぱい吸って日が沈む
繁栄の面影偲ぶ門構え
教義なく仏の教えも諸行無常
ガス燈の夜景を見たか海援隊
誠実徹し藩破れて人残す ≪会津の非劇≫
どん底を思い出させる鉾を持つ
モノクロの女優の肌が匂いたつ
如来像 煩悩起こす腰の線
進む老い ゆっくり過去を塗り替える
微笑んで何も語らぬ祖母の夢
寝ころんで空を見上げること忘れ
タイトルであの日に還る古書並ぶ
無口だが若き日の罪 風化せず
こだわりは全体像をゆがめてる
平成30年2月 27句
煩悩こそ苦の深層にタッチでき
卒業式 一人になった帰り道
素数歳月満喫し地上出る
蝉しぐれ みな恋人へ歌ってる
種にして生命繋ぎ春を待つ
引き裂かれ戻る想いが万有引力
空の底 海の天井 光跳ね
愚かさと愛同居して結露する
音が消え時間止まり魂描く
平成30年3月 9句
冠(かんむり)を正すどころか李を偸む
世の中を摩擦する力 育たない
雨だれが ゆっくり消えて春が来た
進化は戸惑う個体カギ握り
触れ合って姿を見せるプラスマイナス
休日の家内の寝息 静かなり
想い出をまた呼び起こし桜散る
埋もれている破片一つが古代窓
真実を神話のロマンでベールする
尊敬をされる分野が減る老人
じたばたのひととき過ぎて諦める
バクハツが風景になる半世紀 ≪太陽の塔≫
行く先が分からぬまま加速する
成り金は名を成すまでが光ってた
環境は人が作り人を造る
平成30年4月 15句
経済は損する人居て廻ってる
軸足がぶれぬ本音の芸術品
完璧が嫌味に変わるその視線
強くても生き残れない進化の妙
暗黒の歪みの中を回転す
宇宙から生まれた脳が宇宙探る
究極のルーツたどれば無に還る
その幸は招いてないか難民層
ラフプレー忖度させる権力者
匿名のツブヤキ 武器を凌駕する
記憶を正す記録まで塗り替える
振り向いたあの日の友が最後の日
夏休み胸騒ぎした懐かしさ
読み返し書き込みに若き吾に遇う
不便だが散らばる方が生き残る
隙見つけ つけ込むときに隙ができ
抜け道はいくつかあるが壁消えず
平成30年5月 17句
知るために直視を避けることもあり
不安とは大けがしない自己防衛
下山には きわめた峰の汗が要る
人間は何をしているかと花が咲く
少しだけあなたの歴史持ち帰る
ストレスは断層以上に吾もある
ゴミ屋敷エントルピーのモデルハウス
エネルギー行きつく果ては熱に消え
偶然に潜む必然カギ握る
青い星水の変態熱呼吸
神経に絡(から)む血管締め付ける
学問は交差重ねて深化する
災害はさまざまなツケあぶり出す
究極のエゴイズム貫く苦悩 ≪映画ゴットファーザー』≫
アイドルも同じ長さの時間経た
小説に始まり戻る吾が読書
揉めるごと波長修正まだ出来る
逢うたびに出来ること増え孫一歳
誰にでも埃のかぶった歴史あり
平成30年6月 19句
無事を知る小さな旅の回覧板
やさしさが哀しくなった帰り道
腿(もも)お尻磨き続けたすべり台
引き出しに内緒話がかくれんぼ
口元のゆがむ本音を見逃さぬ
マイナスを自慢したがる高齢者
生命は眠りなくして生きられぬ
葉を守る気化熱のため水を撒く
雑草の生命つなぐ処世術
生命を恐怖で守る本能
独裁者一方通行の風が吹く
政治屋を遊ばせている平和国家
逃げ水に消えた景色を思い出す
人だけが再生できぬ ゴミを出す
あと2Km 動いて消えた八甲田山 ≪橋本忍≫
官能を文学にして知に遊ぶ ≪倉橋由美子≫
怖かった大人と消えた商店街
安売りに外車が並ぶ駐車場
歯を磨く鏡の自分三度見る
逢いたくて埃を払って開く本
平成30年7月 20句
登校日 6日9日15日
英雄を作り続けて国敗れ
嘘のない君の笑顔に癒される
逆境で子どもの笑顔 神勝る
公僕が揃ってみせた虚偽手口
みな悩む暮らしてるのが惑う星
価値観の寛容範囲 狭くなり
真相を迷路に仕立て雲隠れ
官僚の引継ぐ誉(ほまれ)かばい合い
この国は かの国の台風防波堤
加害者と被害者になる夏が来た
世界史で振り返ってみる敗戦日
戦争を父は熱弁母無口
兵隊は一銭五厘で補充利く
満洲を何も語らず母米寿
きっかけは誤解と熱気と無責任
複眼で生きる世界を人知らず
海水を吸上げ溜める高い雲
シーソーの支点の機嫌 吾忘れ
小雪舞うゴンドラの唄聞こえそう ≪映画・生きる≫
シャボン玉あなたに運ぶ僕の息
いつまでも手を振るあの日 君が消え
元気です 薬と散歩欠かせません
感覚のズレゆく速さ気付いてる
方円に従う域にまだ成れぬ
あのことを鬼籍叩いて尋ねたい
神ほとけ今日も便りがありません
平成30年8月 27句
つながりを可視化して苦しめる
限界を教えぬ神の温かさ
嫌味なく直球投げ込む おおらかさ
扁平なドロップ缶は魔法入り
お手本に贋作並べ忖度させ
体質に自動ブレーキ働かず
災害は追い打ち掛けて来る時代
手引書に手引書がいるスマートホン
設定で私を試し値踏みする
慣れるまで何度も忘れ繰り返す
ゆうゆうと低空飛行 鬼ヤンマ
生き残る長い波長があかね空
温暖化 気化した海が陸襲う
雨足が風の輪郭あぶり出す
災害で炙(あぶ)りだされた仕事ぶり
知らぬ間に便利をエサに操(あやつ)られ
失わぬ自分を通す強い人 ≪樹木希林≫
岩陰に浮気な夏を返す波
孫が来る塵一つなく大掃除
過去の人 大事にするが頼らない
スマホ買い走る老化にタックル掛け
いつからか 姿を見せぬ鬼が棲む
眠ってる脳まで動けばフレーズし
平成30年9月 23句
巻き込まず己の中で座禅する
群れ嫌い孤立を避けて花咲かす
ポイントが付かないお札消えてゆく
経済をいじり続けてまだデフレ
砂上から空中店舗オフィス街
思い出し記憶の加工 繰り返す
その笑い いじめの匂いしませんか
母からの今もつぶやく おまじない
煩悩を呑み込む毒を母は持つ
改ざんに防振装置利きません
進歩とは死ぬことによるバトンタッチ
早朝の白い満月バトンタッチ
寒と暖 触れ合う面が恋前線
限界を勝手に決めてすぐ飽きる
苦行から逃げられぬから おもしろい
生臭さ突き抜けた果て何を説く
引き際を長寿社会どう描く
書き込みを恐れる上司脅す部下
思わぬこと普通に起こり明け暮れる
消えたもの姿を変えて今どこに
邪魔になる記憶は消えず ふと笑う
忘れて無かった記録に怒りだす
娘流やさしさ示し明日嫁ぐ
努力家の夢語る目は未来見る
魂は腐るが命は腐らない
平成30年10月 25句
万能は大きなリスクを背負ってる
人を切り己も切って何残す
ソロバンの指の感覚 誤らず
店始末 備品一つが語り出す
ささやかな土地にも家族の歴史あり
検証を出来ぬ仕組みで人支配
足る知らず贖罪もなく寄付競う
今になり切られた人を思い遣る
英雄を支えた金は何処からか
進化とは どこかに潜む遊び心
苦しみに寄り添う煩悩を持つ
寂しさにそっと寄り添う人がいる
警告は響く心に届くもの
入口と出口を固め時を待つ
平成30年11月 14句
忘れない でも思い出さず日々暮らす
許せたら違った花に見えてくる
暴走は自己陶酔の蜜の味
郷に入り郷の裁きに不服立て
自転する限り世界に朝が来る
重力が遠心力を引きとめる
予兆なく痛みが走る冬の朝
自己責める老いの悲しみ母にみる
母親の優しさまでが蝕まれ
迷惑を掛けまいとして世話増やす
年一度ワクワクさせる友と逢う
平成30年12月 11句
§§§§§
私が40歳になったとき、今まで生きて来た以上の時間を、もう生きられないかも
しれないと思った。いつまで生きられるのかと、そのときまで考えることもなく暮らし
ていたので、人生に限りがあることを突き付けられたような強い衝撃を感じた。何か
しなければ、という脅迫感のようなものが私を襲った。
そこから私のジタバタが始まった。新聞やテレビに投稿を始め、ホームページ
を開設して、自分の思いの発信を始めた。自分に出来そうなことは、挑戦するよう
になった。しかし、自分が考えているようには、何ごとも大きく変わることはなかっ
た。ほとんど自己満足の範囲に過ぎなかったが、そのようなジタバタが無駄とは思
わない。それらを含んで、総てが私の人生に彩りを添え、今の私につながってい
る。
それから20数年、還暦を過ぎ、2年前に病気をして、それ以降、身体のあちら
こちらが傷みだした。人生の限りが現実のものだという意識が、少しずつ明白にな
ってきた。
『私の人生は何だったのだろうか』から、『残りの人生を如何に生きるべきか』と
いうことを、最近考えるようになった。4人の親を抱え、生涯働かなければいけない
からこそ、家族や自分のために、もっと時間を確保すべきだと気付いた。互いに老
いてゆく夫婦の時間を大切にすることだとも思う。
そして、自分のしたいことは何なのかと、自問自答して得たひとつが、自己表現
である。40歳のときのジタバタの延長が、ひとつの私自身であるように思う。10代
半ばから10年近く、今から思うと私は文学青年だった。多くの時間を、詩や小説や
随筆をノートや原稿用紙に書きなぐって過ごした。意識したことはないが、その種
火が、今も私の中でくすぶっているのかもしれない。
1年半ほど前の朝寝床で、突然、五七五が浮かんで来た。一過性のことだろうと
思っていたが、翌日もその翌日も、苦しむことなく、次々に五七五が頭をよぎり始め
た。それが、私流の五七五、つまり娯秘稚語の出発である。
当初は、数日か数週間、長くて三ヶ月程度だろうと思っていたが、詠めなくなっ
た時期もあったが、何とか一年が過ぎ、今に至る。いつまで続くか分からないが、
今日で平成が終わるので、一つの区切りとして、昨年末までの1年2ヶ月間に詠ん
だ句をまとめることにした。
私は過去の作品に固守する気持ちは無く、読み返すこともない。完成した時点
で忘れてしまい、次作へ没頭する。プロとアマの違いだろうが、作品を出版するご
とに加筆訂正を繰り返す著名作家がいる。自作を大切に育てている半面、いつも
未完成ということになる。結果として、毎回次作が代表作になるわけでもないのだ
から、過去の作品にこだわらず、新しい作品に私は挑戦してゆきたい。もともと未熟
な私だから、たいそうなことでもないが。
今回、初めて自作を読み返して、懐かしんでいる自分に気付いた。すっかり忘
れていた旧友に、再会したような気分になった作品がいくつかあった。そして、初
期の作品に親しみを感じた。詠んでやろうと云う邪心が無かったからだろうか。俳
句や川柳のセンスとは違った私流が、どのような脈に辿り着くのか。この旅のプロセ
スを、これからの私の人生で、ひとつの楽しみになればと願っています。それが、
この旅の始まりであり、目的なのですから。
2019年(平成31年)4月30日 平成最後の日
福井正敏
|