本と映画の森 (書籍編) No.6

更新日:2015/2/15 

奈良貴史著『ネアンデルタール人類のなぞ』
2004/08/01



  現在サルには多くの種類が地上に生息しているにもかかわらず、どうしてヒトは我々ホモサピエンスだけなのかという疑問が、前回のエッセィ(読書三昧V(『ネアンデルタールと現代人』)以降もなお、私の中で解決できていないのです。何気なく書店の新書版コーナを見ていたとき、吸い込まれるように『ネアンデルタール人類のなぞ』(奈良貴史:岩波ジュニア新書2003/10/21 740円)が目に入り、発行日が前回の『ネアンデルタールと現代人』(以降『前回』と表記します)より4年も新しいことを確認して、躊躇無く購入しました。

 

 岩波ジュニア新書は以前から親しみ深いシリーズで、読みやすく、若者向け書物に共通の曖昧な立場を廃し、解明されていること、結論が出ていない部分を明白に示されていること、これからの課題も提示されていることの3点が、私はとても気に入っています。


 仲間の死を埋葬する動物として、地上に始めて登場したネアンデルタール人のなぞについて、『前回』より解明されている点が増えています。そして何よりも、現在判明していると結論付けている手持ちの根拠を、出来る限り多く提示している点が、著者(奈良貴史氏)に親しみと信頼性を感じました。


 しかし、どうしてネアンデルタール人は滅んだのか? ネアンデルタール人と我々のホモサピエンスとの交流はどのような状態だったのか? という根本的な疑問には、満足ゆく結論が未だに出されていないことを知らされる結果でした。

 発掘と研究が進み、もっと多くの資料が揃うまでは、結論を急がない方が良いと私は思います。そう簡単に夢に解答が得られない方がロマンが持てるという感傷的な理由ではなく、氷山の一角を解析して、海水に沈んでいる部分を推測しているような現段階の状況を、きちんと理解するならば、推測の域を出ないのがまぎれも無い現実に違いないのですから。


 推測研究よりも、きちんとした発掘と、科学的分析技術向上に努め、正確な資料をもっと多く集めることに努力をすべきだと思う。ホモサピエンスやネアンデルタール人だけでなく、18種類も存在したというヒト科の五体満足な化石がもっと発掘されなければ、推測の幅が狭められないように思います。


 発掘された化石を見る目を育てることは、研究のイロハです。機械に頼る分析は、大きく方向性を誤る可能性があります。地味で時間の掛かる基礎をきちんと身に付けた研究者を育てることが、大きな研究成果を導き出す第一歩です。先を急がず、しかし先を見続けて、一歩一歩、一片一片破片をつないでゆくように研究を進めて、一つひとつ成果を待ちたいと思っています。

 

 個人的には、ネアンデルタール人のなぞに迫ってゆくにつれて、私たち人間の骨格構造やサルからヒトへの仕組みの違いや生活様式の変化を、一つの生き物の原点に戻って知る思いで一杯です。これは、私にとって新しい視点でした。人間は何処から、どのようにして、現在に至ったのかを、機会があるごとに学んでゆきたいと思います。


岩波ジュニア新書2003/10/21 740円


お薦め度 ★★★

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