本と映画の森 (書籍編) No.9

更新日:2015/2/15 

牛村圭著『勝者の裁きに向き合って・東京裁判をよみなおす』
2004/10/24



   毎年夏にはアジア太平洋戦争に関する本を読むようにしているが、今年(2004年)は結果として、牛村圭著『「勝者の裁き」に向きあって』の一冊だけになった。ちょっと反省し、田原総一朗著『日本の戦争』を読み始めている。

 『「勝者の裁き」に向きあって』は、外務大臣重光葵を通して、東京裁判を検証した作品だ。戦場を法定に替えて、連合軍と戦犯の戦いを重光の獄中日記を中心に、巣鴨獄中での戦犯たちの人間模様にも触れ、興味深いものに仕上がっている。しかし、東京裁判についても、人間重光葵について、もう一つ踏み込みや息遣いが足らないように感じ残念だった。そして、もっと踏み込んで言うならば、戦後半世紀以上、約60年近く経過して、勝者による裁きという視点から東京裁判を検証することで、建設的で画期的な提言が生まれることは、ちょっと難しいように感じた。様々な問題があった東京裁判から、今後の世界にとっての教訓を引き出すには、人間・重光葵の生き様と眼を通した点に見るべきものがなくはないが、勝者、敗者という視点ではなく、もっとグローバルな新しい感覚で切り込むべきではなかったと思う。例えば、大きな世界の流れの中で、歴史的な視点で、東京裁判という事件と重光葵という人間に、冷静な評価を試みてどうだろうか。

 私個人にとって収穫だったことのひとつは、重光葵の外交官としての仕事のあり方や強(したた)かさに、教えられることが多くあった。当時は政治かも外交官も自分の責務をしっかり認識し、きちんと仕事に対峙していた。現在の政治家や外交官の自覚と展望の無さ、堕落した姿勢、そして何よりも日本人としての誇りの無さには言葉もない。そのような人たちが日本を舵取りしていることの不幸を強く実感させられた。東条英機の方が、小泉純一郎氏より、数段日本の将来を考えていたと、あらためて実感させられた。もしかすれば現在の日本には、政治家と言える人物は存在しないのではないかと、考えさせられた。重光葵についての書物に関しては、数年前に読んだ『重光葵』(渡邊行男著:中公新書:1996/8/15)の方が、私にとっては情報量が多く、政治家として魅力的に紹介され、刺激的であった。

2004/10/24 脱稿  2008/5/13改稿


2004/03/10 ちくま新書


お薦め度 ★★ 

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