あなたの身近に痴呆症の方がおられますか? 私の身近に今は痴呆症の人々はいませんが、「実は父が痴呆症で...」等の話を三名の知人から、亡くなってから聞かされました。プライバシーや偏見や世間体等のさまざまな事情によって、病気であるにもかかわらず、その実態は多くの場合プライベートに包まれているのが現実だと思います。高齢化が進む日本では、今後三人に一人は痴呆症の可能性が指摘されています。
本著『安楽病棟』は、痴呆症患者30名の病棟を舞台に、若い看護婦の目を通して、看護とケアと医療、安楽死、尊厳死の問題まで含めた医療現場の実態を問うヒューマニティードラマです。ミステリー小説としての評価は、分かれると思いますが、ノンフィクションでなく小説だから迫れる真実もあり、しかもミステリー仕立てだから問題点に踏込むことが許されるように、
作者は現役の精神科医であり、精神病患者を題材にした『閉鎖病棟』で山本周五郎賞を受賞され、医療問題の小説を多く執筆されています。現場の生の声が、本著の描写と問題意識にも色濃く反映されているように感じます。どのような重度の痴呆症になっても、人間は、何処までも個性的であり、人間性を失わないことに、私は深い感動を受けました。
お薦め度 ★★★
1999/04 新潮社 定価 2200円
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