本と映画の森 (書籍編) No.28

更新日:2015/2/15 

松岡修造著『挫折を愛する』を読んで
2013/07/15




 体を動かすと、考えが前向きになる。


 たとえ部屋の掃除や片付けでも散歩でも、体を動かし、それに熱中になると、抱えている問題は何も解決しないけれど、なんとなく気分が変わり、目先も変わり、考え方が前向きになっていることが、しばしばある。「何も考えない」状態を持つことは、なかなか難しいことだが、運動しているときは、無意識に何も考えておらず、ただひたすら夢中になっている場合が多い。そういう意味で、運動は素晴らしい行為だと思う。


 一部の人を除くと、学生時代を過ぎると、定期的に運動をする習慣はなくなり、年齢と共に体力の衰えを感じるようになると、一週間に数時間の体育の授業のありがたさ、体を動かす大切さを実感する。


 短い期間だったが、中学・高校時代、私は剣道に少し携わった経験がある。礼に始まり、礼に終わる形が、今になって、凄く良いことだったと感じる。スポーツはいろいろな種類があり、競う方法もさまざまである。徒競走やスピードスケートなどは個人記録を競い、体操やフィギァースケートは評価点を競う。野球、サッカー、ラグビーや剣道、テニスなどは、相手を倒さなければ次に進めない競技である。団体競技もあれば個人競技もある。剣道に携わったからかもしれないが、私は相手を倒して進む個人競技のポーツに好感を持つ傾向がある。


 大学時代に体育の授業で、岡仁詩先生の指導を受け、さまざまなことを学んだ。相手を倒すためには、どうすればよいのか。それを考え、体を鍛えるのが、練習である。最近は、食事や健康管理まで目を光らせるようだが、練習は質と量で決まる。どのように練習をするか。それを考え実行するのだから、スポーツは頭と体を鍛える行為である。複雑なことを細分化する。そして、それらを一つひとつ単純化して、それぞれを一つの動きに集約する。それを連続化する。それを繰り返して、形を作ってゆく。だから、スポーツを仕事にしている人々は、物事を単純化して考察することに優れた人種だと思う。


 日本一、世界一を目指すスポーツマン(最近はアスリートと表現されるようになったが、どうも私には馴染めないので、以降スポーツマンと表記する)は、どのような練習をして、日々どのように過ごしているのか、私には想像の域を超えた存在である。


 日本一、世界一になったスポーツマンを、テレビなどで見る限り、爽やかな印象を受ける人が、他の業種のナンバーワンの人より多いように感じる。それは、どうしてなのだろうか。特に、爽やかな印象を受けるスポーツマンは、テニスの松岡修造さんだ。いつも前向きで、苦しい顔つらい顔を見せず、困難を乗り越えて、人々に元気を与える印象を私は抱いていた。


 しかし、今回、松岡さんの著作『挫折を愛する』(角川oneテーマ21新書)を読んで、栄光で輝くあの笑顔の下に、どれだけ悩み苦しみ涙を流されたのかを知った。そして、ページをめくり読み進むごとに、どれだけ勇気を頂いたのか。松岡修造さんの言葉一つひとつに、流した汗と涙の思いの意味が伝わってくるよう感じた。若い人に、ぜひ読んで欲しい一冊である。コーヒ二杯分を辛抱して、読んで欲しい。


 以下、松岡さんの言葉のいくつかを紹介します。


・ 『悩みに悩んで自分をとことん追い詰めてゆけば、「これだ!」という答えが必ず見つかり、元の自分に戻れます。そして、つまずきや失敗を反省することで、以前よりひとまわりもふたまわりも成長することができます。つまり、挫折や崖っぷちは、新しい自分に出会えるチャンスでもあるわけです。』


・ 『諦めというのは、自分で作った限界なのです。限界さえつくらなければ、夢や希望をかなえるための方法をいろいろと模索し、工夫できるはずです。』


・ 『性格というは、人それぞれが持って生まれた感情や意思の傾向なので、変えることはできないと僕は思っています。宿命のようなものなので、自分の性格が嫌いでも受け入れるしかありません。けれど、心は変えることができます。心というのは、知識、知恵、感情、意思などの総体なので、知的刺激を自分に与えたり、経験をつんだり、感情をコントロールしたり、なりたい自分や達成したい目標を明確にすることによって、どんどん変わっていくものです。一言で言えば、ものごとの捉え方によって変えることができるのです。よく、性格と心を混同して「私はすぐに諦めてしまう性格です」という人がいますが、すぐに諦めてしまうのは、その人の性格ではなく、心です』


・ 『暗礁に乗り上げたときの三つの心得』@最終的に自分の遣りたいことは何かを俯瞰(ふかん)して見ること。A傾聴力で交渉を乗り切ること。相手の話に耳を傾けて、相手の意見を知れば、何か参考になり、そのあと説得する方法が見えてくる。B自分に何が足りないかは、行動して初めて分かる。自分の見方や考え方に固執すると周りの世界が見えなくなる。ともかく、相手の意見に従って一度は行動してみようと、気持ちを切り替えて遣ってみると、納得できる点と出来ない点が解り、具体的なアイデアを出すことが出来る可能性が生まれる』


・ 『人と気持ちよく話す十のポイント』@どんなときでも笑顔になれば自分も周りも楽しくなれる。A合いの手やオウム返しで相手に安心感を与える。B同じことを言われても毎回新鮮な気持ちで聞く。C会議で頷(うなず)いてくれる人に向かって話す。Dイヤなことを言われても「はい」と返事する。E感情的になりそうなときは深く息を吐く。Fイライラしたときは鈍感力で乗り切れ。G消極的な気持ちを打ち消すために演技をする。H断るときは全力で断る。I「ありがとう」はネガティブ思考を消すミラクルワード


・ 『自分の心の強い部分も弱い部分もきちんと見つめ、自分の力で伸びていこうという気持ちがあるから、褒められるとことが刺激となって伸びるのです。自分の弱さを直視できない人が「誰かに褒められれば俺だって・・・・」と依存的な考えのまま褒め言葉をもらっても、折れやすい心を根本的に変えることはできません。ただ気分が良くなっておしまい、ということになってしまうような気がします。』


・ 「人の意見や評価ほど曖昧なものはないから」というイチローさんのこの言葉が好きです。自分の想いを貫き通す大切さを教えてくれるだけでなく、周りの評価をつい気にしてしまう僕の不安を取り除いてくれるからです。「人というのは勝手なことを言う生き物だ。人から何を言われたとしても、あてにならないことはたくさんある。だから、総て受け入れる必要はないんだ」と、イチローさんから言ってもらっているようで安心します。


・ 『人を取り巻く状況が良くも悪くもさまざまに変わる中、そのときそのとき、何をどこまでやれば納得できるのか---。その答えは、自分の中にしかないのです。人生には、予想もできないことが起こります。10代20代の頃に思いを描いていた人生を、そのまま生きてゆける人はほとんどいないでしょう。僕自身、現役を退いてからの人生は予想もしなかった展開です。予想できる人生なんて、それほど面白いものじゃないだろうな。予想外の人生になっても、今が幸せならそれでいいんじゃないかと。他人はまったく関係ない。あなた自身が幸せだと思えるかどうか。それが総てではないでしょうか。そうなるために重要なのは、「自分はこの世で唯一無二の存在なんだ」と認識することです。そして、自分のことを好きになり、自分で自分を応援することです。そうして、一度しかない人生を自分自身で輝かせていきましょう!』



 2013/7/15脱稿


お薦め度★★★

松岡修造著『挫折を愛する』 角川oneテーマ21(2012/12/10)


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