警察連隊について

 占領地域での治安維持などを目的に、治安警察所属の警察官(簡単に言えば制服警官)によって警察大隊が編成され占領地域に出動していました。これらの警察部隊は通常の警察任務としての治安維持やパルチザン掃討任務の他に、戦線後方での予備兵力としての任務も持っており、戦線が危機の際には陸軍部隊とともに前線での通常戦闘にも投入されました。


ベーメン・メーレン保護領(チェコ)の警察連隊
 1938年3月、オーストリア併合に伴い警察中隊は大隊規模から連隊規模の5個行軍集団(Marschgruppen)としてまとめられ、オーストリアの各都市へと送り込まれました。ドイツ警察の総数は1938年の時点で63,345名でしたが、1939年3月のチェコ併合の時点までにはドイツ警察は163,000名まで拡大されていました。
 併合により「ベーメン・メーレン保護領」となったチェコには5月の時点で全警察官の30%以上にあたる約70,000名が派遣されて治安の維持にあたらなければなりませんでした。その後10個警察大隊をまとめて2個警察連隊が編成され、各大隊は治安維持部隊としてベーメン・メーレン保護領の主要都市に駐屯しました。

・警察連隊「ベーメン」
・警察連隊「メーレン」


ポーランド戦時の警察連隊
 ダンチヒは国際連盟管理下の自由都市として地域内への軍の配備が禁止されていました。このため、ダンチヒ市議会を押さえていたドイツ側は「ドイツ系住民保護」を名目として警察部隊を送り込み、開戦に備えた「隠し戦力」の増強を進めました。

・第1州警察連隊(ダンチヒ)
・第2州警察連隊(ダンチヒ)

 1939年9月1日、開戦とともに2個連隊はオストプロイセンの第3軍に配属され、警察旅団「エーベルハルト」としてダンチヒ市内と周辺地域及びグディニア港の制圧任務に出動しました。ポーランド戦後の1939年10月18日、この2個連隊は第243歩兵連隊及び第244歩兵連隊に改編され、第60歩兵師団に編入されており、警察部隊とは名ばかりの陸軍部隊であったことがわかります。ダンチヒにはこのほか、1個警察大隊(アイマン大隊)とSS髑髏大隊を母体としたダンチヒ郷土防衛軍(SS-Heimwehr Danzig)が送り込まれており、開戦と共にダンチヒ市内と周辺地域及びグディニア港の制圧任務に投入されました。

ポーランドでの警察部隊の戦い


 1939年9月1日の対ポーランド開戦に伴い17個の警察大隊が編成され、ポーランドへと派遣されました。警察部隊は連隊規模の警察集団として陸軍の各軍司令部の指揮下に編入されており、その任務は戦線後方でのポーランド兵の捜索、捕虜の移送、放棄された兵器や装備類の回収、後方地域での治安維持など多岐にわたりました。

・第1警察集団(警察連隊):5個警察大隊 第14軍に配属
・第2警察集団(警察連隊):5個警察大隊 第10軍に配属
・第3警察集団(警察連隊):1個警察大隊 第8軍に配属
・第4特別編成警察集団(警察連隊):1個警察大隊 ポーゼン軍司令部に配属
・第5警察集団(警察連隊):1個警察大隊 第4軍に配属
・第6警察集団(警察連隊):4個警察大隊


ポーランド占領後の警察連隊
 1939年11月、新編成の警察大隊13個大隊により4個警察連隊が編成され、ポーランド占領部隊としてポーランド総督府管内の主要都市に駐屯しました。

警察連隊「ワルシャワ」2009.5.17
警察連隊「ラドム」2009.5.17
警察連隊「クラカウ」2009.5.17
警察連隊「ルブリン」2009.5.17


警察師団配属の警察連隊
 1939年10月1日、警察師団の編成に伴い3個警察連隊が新たに編成されました。この3個連隊は武装SSの戦闘部隊の強化策として、親衛隊が自由に利用できる警察の人的資源からいわば「裏技」的に編成されたもので、警察連隊としては例外的な存在でした。国防軍と親衛隊との取り決めにより、武装SSの戦闘部隊拡大のために募集できる人員には限りがありましたが、警察官の補充をする名目なら制限は適用されなかったわけです。

・第1警察狙撃兵連隊
・第2警察狙撃兵連隊
・第3警察狙撃兵連隊


ノルウェー占領後の警察連隊
 1940年4月、占領後のノルウェーには占領部隊として7個警察大隊が順次派遣され、1941年2月にはこれらの警察大隊を統合して2個警察連隊が編成されましたが、各警察大隊は各地の都市に分散して駐屯して占領任務に従事しました。

警察連隊「北ノルウェー」2010.12.18
警察連隊「南ノルウェー」2009.5.10


1941年編成の警察連隊
 1941年6月、バルバロッサ作戦開始に備えて後方地域での治安維持部隊として4個警察連隊が編成され、北方、中央、南方の各軍集団の後方地域に配属されて活動しました。
 各警察連隊は3個警察大隊から編成され、1941年7月の時点で連隊本部には2個対戦車砲小隊、2個警察装甲車小隊、1個通信中隊及び1個TeNo (Technische Nothilfe=緊急技術援助隊)中隊が配属されていました。
 連隊の各警察大隊は実際には独立運用される場合が多く、連隊本部は部隊管理上の上位機関としての役割が主であったようです。

警察連隊「ノルト」2023.11.24 改訂版一部追記
警察連隊「ミッテ」2023.11.24 改訂2版一部追記
警察連隊「ジュート」2023.11.24 改訂版一部追記
特別編成警察連隊(Polizei Regiment z.b.V.)2002.3.2

警察連隊「中央ロシア−2」2008.11.30

警察装甲車/戦車部隊(1936年〜1942年)


1942年〜1944年編成の警察連隊
 1941年6月のバルバロッサ作戦開始後、4個警察連隊が北方、中央、南方の各軍集団の後方地域に派遣されるとともに、個別の警察大隊も派遣されて広い占領地域で独立運用されていました。
 これらの警察部隊は必要により戦闘団にまとめられてパルチザン掃討作戦や前線での防衛戦に投入されましたが、パルチザン掃討作戦にしても前線での戦闘にしてもより強力な部隊が常に求められており、1942年7月付けの通達により既存の警察連隊は警察大隊と予備警察大隊を統合して28個の新しい「警察連隊」(Polizei Regiment)として再編成されました。

 各警察連隊は4個中隊編成の警察大隊3個を中心に、支援部隊として通信中隊、工兵小隊、装甲車中隊、戦車猟兵中隊及び砲兵中隊が配属される計画でしたが、警察部隊向けの装備は慢性的に不足しており、装甲車中隊、戦車猟兵中隊及び砲兵中隊は全連隊に配属できるまでの部隊が編成できず主要な警察連隊にのみ重点的に配属された他、独立部隊として運用されました。
 また各警察連隊は1943年2月24日からは名称のみが一斉に「SS警察連隊」(SS Polizei Regiment)と改称されました。


警察連隊の標準編成(1942年)

連隊本部 22名
  自動車化通信中隊 57名
  オートバイ中隊 124名
  工兵中隊 35名
第1大隊(700名):第1中隊〜第4中隊
第2大隊(700名):第5中隊〜第8中隊
第3大隊(700名):第9中隊〜第12中隊
第13(歩兵砲)中隊 163名
第14(対戦車砲)中隊 82名
第15(装甲車)中隊 194名
修理工場中隊 13名


第1SS警察連隊2021.12.7 改訂3版一部追記
第2SS警察連隊2023.10.19 改訂5版一部修正
第3SS警察連隊2020.6.29 改訂5版一部修正
第4SS警察連隊2023.10.19 改訂3版一部修正
第5SS警察連隊2023.11.20 改訂5版
第6SS警察連隊2023.11.20 改訂5版一部修正
第7SS警察連隊2018.6.29 改訂2版一部修正
第8SS警察連隊2020.7.4 改訂3版
第9SS警察連隊2023.11.16 改訂2版一部追記
第10SS警察連隊2023.11.16 改訂2版一部追記

第11SS警察連隊2023.8.22 改訂3版一部修正
第12SS警察連隊2023.8.22 改訂5版一部修正
第13SS警察連隊2023.8.22 改訂3版
第14SS警察連隊2023.11.20 改訂5版
第15SS警察連隊2023.11.16 改訂2版
第16SS警察連隊2023.11.20 改訂版一部追記
第17SS警察連隊2023.11.16 改訂4版
第18SS警察山岳猟兵連隊2023.11.20 大幅改訂版一部追記
第19SS警察連隊2023.11.23 改訂版一部追記
第20SS警察連隊2023.11.24 改訂2版一部追記

第21SS警察連隊2023.9.2 改訂2版
第22SS警察連隊2023.9.3 改訂2版
第23SS警察連隊2023.11.22 改訂版一部追記
第24SS警察連隊2023.11.21 改訂版一部追記
第25SS警察連隊2023.9.2 改訂版
第26SS警察連隊2023.9.7 改訂版
第27SS警察連隊2023.9.7 改訂版
第28SS警察連隊「トート」2023.11.16 改訂2版一部修正・追記

SS警察連隊「グリーゼ」2010.1.20 改訂版

警察装甲車/戦車部隊(1942年〜1945年)


第35SS警察擲弾兵師団に配属された警察連隊
 1945年1月31日、オランダで編成された第1特別編成警察連隊及び第2特別編成警察連隊をそれぞれ第29SS警察連隊及び第30SS警察連隊へと改編・改称し、この2個連隊によりSS警察旅団「ヴィアト」が編成されました。その後、第29SS警察連隊は第89SS警察擲弾兵連隊に、第30SS警察連隊は第90SS警察擲弾兵連隊に改称され、第35SS警察擲弾兵師団に編入されました。

第29SS警察連隊(第89SS警察擲弾兵連隊)2023.9.9 一部修正
第30SS警察連隊(第90SS警察擲弾兵連隊)2023.9.9 一部修正


1943年編成の警察狙撃兵連隊
 1943年4月以降、ドイツ人警察官による警察大隊とウクライナ人のシューマ大隊等の混成により8個警察狙撃兵連隊が編成され、占領地区での治安維持任務や対パルチザン作戦に出動しました。

第31警察狙撃兵連隊2023.11.25 改訂2版一部追記
第32警察狙撃兵連隊2023.11.22 改訂版一部追記
第33警察狙撃兵連隊2020.9.30 改訂版一部訂正
第34警察狙撃兵連隊2023.11.25 改訂版一部修正
第35警察狙撃兵連隊2023.11.25 改訂版一部追記
第36警察狙撃兵連隊2023.11.25 改訂2版一部追記
第37警察狙撃兵連隊2020.9.20 一部修正
第38警察狙撃兵連隊2020.9.20 改訂版一部訂正


北部イタリア・南チロル地方の警察連隊
 北部イタリアのトレンティーノ=アルト・アディジェ州(南チロル地方)はもともとオーストリア・ハンガリー帝国の一部でしたが、第1次世界大戦の敗戦によりこの地域は戦勝国であるイタリアに割譲されました。その後イタリア政府はこの地のイタリア化政策を急速に推進し、イタリア人となることを拒否するドイツ系住民を南イタリアに強制移住させたり、イタリア人の入植政策により強引にイタリア化を推進しドイツ系住民は少数民族として迫害されました。
 この状況はドイツでヒトラーが政権を獲得してからも続き、各地で強引な領土回復活動を行ったヒトラー・ドイツもムッソリーニに遠慮してか領土回復要求をするでもなく、1939年にはベルリン条約によってイタリア人になりたくない南チロルのドイツ系住民はドイツ本国へ移住させることが合意されました。このことは南チロルのドイツ系住民にとってはどちらを選択するにしても故郷を追われることを意味していました。
 このような状況下で1943年9月のイタリアの降伏に伴いトレンティーノ=アルト・アディジェ州にもドイツ軍が進駐し、さらに「南チロル」としてドイツ本土領に編入され、ドイツ系住民からさっそく義勇兵と徴募兵が集められました。しかし、これまでの経緯があるだけに南チロルのドイツ系住民の中にはヒトラー・ドイツに不信感を持つ住人も存在していました。

SS警察連隊「ボーゼン」2009.4.12 改訂版
SS警察連隊「ブリクゼン」2009.5.9 改訂版
SS警察連隊「シュランダース」2009.5.8 改訂版
SS警察連隊「アルペンフォーラント」2009.4.29 改訂版


1945年の警察連隊と警察旅団

第50SS警察連隊 2017.5.20 修正・追記
SS警察旅団「ヴィアト」 2023.9.9 一部修正
第1SS警察猟兵旅団 2017.5.20 修正・追記


その他の警察関係部隊と警察連隊

第49SS機甲擲弾兵旅団 2002.8.22
・警察騎兵連隊
・警察訓練連隊「オラニエンブルク」

第4軍の警察戦闘団と警察旅団 2018.6.12


2001.5.19 新規作成
2001.8.16 「ポーランド戦時の警察連隊」を追加
2001.11.4 「1943年編成の警察狙撃兵連隊」と「その他の警察連隊と警察旅団」を追加
2002.1.23 「1941年編成の警察連隊」を追加
2002.3.6 部隊史の内容を14件追加
2002.9.19 部隊史に6件追加
2003.6.13 構成を一部変更、部隊史に9件追加
2003.6.17 部隊史に1件追加
2004.10.1 15個連隊を更新
2007.7.1 第14SS警察連隊を更新
2007.10.26 第13SS警察連隊を更新
2008.8.15 7個連隊を更新
2008.8.31 3個連隊を更新
2009.3.1 第3SS警察連隊を改訂版に更新
2009.5.10 「ノルウェーの警察連隊」に2個連隊を追加
2009.5.17 「ポーランドの警察連隊」に4個連隊を追加(2008.12.2作成)
2009.7.20 警察連隊「ロシア中央第2」を追加、ポーランド戦時の警察連隊を修正
2010.1.20 第5SS警察連隊を一部修正。警察連隊「グリーゼ」を改訂版に更新
2010.11.7 第18警察山岳猟兵連隊を大幅改訂版に更新
2011.5.22 第1SS警察猟兵旅団を更新
2016.4.17 第19SS警察連隊を改訂版に更新
2016.4.22 第16SS警察連隊を改訂版に更新
2016.4.24 第28SS警察連隊「トート」を改訂2版に更新
2016.4.25 第29、第30SS警察連隊を追加、SS警察旅団「ヴィアト」を改訂版に更新
2016.4.28 第2SS警察連隊を改訂2版に更新
2016.5.5 第33SS警察狙撃兵連隊を改訂版に更新
2016.5.8 第34、第35、第36、第38SS警察狙撃兵連隊を改訂版に更新
2016.5.14 第31、第32SS警察狙撃兵連隊を改訂版に更新
2017.5.20 第8、第50SS警察連隊、第1SS警察旅団を修正・追記
2018.6.24 第1SS警察連隊、第2SS警察連隊を改訂3版に更新
2019.11.27 一部修正
2023.11.25 1942年の番号付き警察連隊をまとめて更新

泡沫戦史研究所http://www.eonet.ne.jp/~noricks/